CT灌流画像による脳血流測定に ついて

Multi-Modality Symposium:シンポジウム
テーマ 1『脳血流評価』
シンポジウム
2
CT 灌流画像による脳血流測定に
ついて
秋田県立脳血管研究センター
大村 知己
インでは 3∼5mL/secを推奨しており,当施設ではボー
はじめに
ラス性向上と総スキャン時間の短縮を考慮し,5mL/sec
CT灌流画像
(CT-perfusion; CTP)
は,血液脳関門を通
固定で造影剤注入を行っている.
過しないヨード造影剤を静注し,脳の初回循環中に連
脳血 流量
(CBF)
,脳血液 量
(CBV)
,平均通過時間
続的撮影を行い,脳組織毛細血管床レベルの灌流評価
(MTT)
,ピーク到 達 時 間
(TTP)の 灌 流 マップ が 得ら
を行う検査である.
れ,急性期脳梗塞症例ではマップ比較による可逆的虚
利点として,① CT,インジェクター,解析ソフトが
血域の同定といった病態把握が可能という報告 がな
あれば,比較的簡便に検査が可能,② 撮像,画像再構
されている.解析方法はいくつかあるが,CT画像から
成,解析の時間が10∼20分程度であり,結果の即時性
得られる健側入力関数
(AIF)および脳組織時間濃度曲
に優れている,③ 64列CTでは,基底核領域∼側脳室体
線
(TDC)を用いたdeconvolution法 が 一 般 的である.
部レベル,さらにステッピングスキャンでは皮質枝領
Deconvolution法により得られた伝達関数曲線からMTT,
域までの複数断面の灌流評価が可能,④ CTP後のCTA
CBVを求め,CBFはcentral volume principle
(CBF = CBV/
(CT during arteriography)
施行により,閉塞血管同定と
(図 1)
.
MTT)
に基づいて算出する方法 が一般的である
いった形態評価が容易であることなどが挙げられ,主
Deconvolution法にはノイズに強いとされる特異値分解
に急性期脳梗塞症例で広く施行されている検査であ
(SVD)法が用いられており,この方法は急性期脳梗塞
2)
3)
る.
におけるCT,MRI検査の標準化に関する研究グループ
CTPの撮影,解析,評価法については,CT/MR灌流
であるASIST-Japanからも推奨されている.造影剤到達
画像実践ガイドライン に,エビデンスに基づいた具体
遅延効果に対して補正を行う方法としてblock circulant
1)
的内容が明記されている.このガイドラインは施設間
SVD
(b-SVD)法がよく用いられるが,その他に補正なし
格差縮小を図り,患者予後向上に貢献することを目的
のstandard SVD
(s-SVD)
法,補正ありのdelay-compen-
としており,CTP検査を行ううえで参考にされたい.
sated
(d-SVD)
法がある .
3)
造影剤到達遅延効果とは,健側,患側の脳組織通過
CTPの概要
時間が同じであっても,AIFに対して患側で造影剤到達
撮影方法は,造影剤到達前からスキャンを開始し,
時間の遅れがあった場合,到達の遅れが通過時間に加
初回循環が終了する間,ダイナミックスキャンを行う.
味される効果であり,MTTの延長およびCBFの低下が
ガイドラインでは,スキャン間隔は 1 秒スキャン,1 秒
過大評価される
間欠とすることが推奨されている.Deconvolution法で
め,解析結果を評価する際には解析方法の特徴を把握
解析する場合の造影剤注入レートについて,ガイドラ
することが重要と考える
(図 2)
.
脳組織TDC
4)
,5)
.解析方法の違いで結果が異なるた
伝達関数 R
(t)
AIF
central volume principle
⊗
=
TTP
CBF = CBV/MTT
重畳
積分
CBF
CBV =∫R(t)dt
CBF = Max[R(t)]
CBV
MTT =
時間
時間
時間
MTT
図 1 脳血流量の算出方法
14
∫R(t)dt
Max[R(t)]
CBF
CBV
MTT
0.77
1.06
1.11
b-SVD
CL ratio
s-SVD
CL ratio
0.45
1.19
1.96
図 2 Block circulant
SVD
(b-SVD)
法とstandard SVD
(s-SVD)法に
よる解析結果の違い
遅れが生じる場合が多く,到達後も造影剤循環動態の
当施設における取り組み
遅延が見られる.この点を考慮したプロトコールによっ
当施設で稼働している320列面検出器CT
(area detector
て,精度よく病態を捉えることができる.
CT; ADCT)
は,① 全脳 1 スキャンによる全脳の灌流評
動脈相のスキャン間隔は,ダイナミックデータによる
価が可能であり,また,② CTPダイナミックデータを用
血流動態評価も併せて行うため,1 秒連続スキャンで
いた血流動態評価
(CT-DSA)
により,閉塞血管の同定お
ある.mAs値は血管形態の担保を考慮しているため,X
よび側副血行路の評価が可能である.
線CT撮影における標準化ガイドライン を上回ってい
撮影プロトコールは,急性期虚血用と慢性期虚血用
るが,一般的に行われるCTP後のCTAは必要なく,結
6)
を作成しており,急性期用は主に心原性脳塞栓症例を
果的にはCTAを施行した場合とほぼ同等であると考え
対象としている.心原性脳塞栓症例では造影剤到達に
る.CTDI vol
(volume computed tomography dose index)
CT
CBF
CBV
MTT
DWI
CTA
図 3 血 流 動 態 評 価
(CT-DSA)
による側副
血行路の評価
15
連続スキャン VS 1 秒間欠
y = 0.84x + 0.18
r=0.85
p<0.001
1.1
0.9
0.8
0.9
1.0
Continuous
1.1
0.8
0.9
1.0
Continuous
1.1
1.2
連続スキャン VS 3 秒間欠
1.4
y = 0.88x + 0.13
r=0.90
p<0.001
1.3
Intermittent 3sec
1.3
Intermittent 1sec
0.9
MTT
1.4
1.2
1.1
1.0
0.9
0.8
1.0
0.8
1.2
連続スキャン VS 1 秒間欠
MTT
y = 0.55x + 0.36
r=0.55
p<0.001
1.1
1.0
0.8
連続スキャン VS 3 秒間欠
CBF
1.2
Intermittent 3sec
Intermittent 1sec
CBF
1.2
y = 0.71x + 0.31
r=0.68
p<0.001
1.2
1.1
1.0
0.9
0.8
0.9
1.0
1.2
1.1
Continuous
1.3
1.4
0.8
0.8
0.9
1.0
1.1
1.2
Continuous
1.3
1.4
図 4 スキャン間隔と解析結果との関係
は装置表示値で約200mGyとしている.
で,定量値の精度に影響する問題について考察する.
上記プロトコールでは,頭蓋底部から頭頂部までの
1.スキャン間隔
広範囲で灌流評価ができ,主幹動脈閉塞による急性期
CTPは連続的に撮影を行うダイナミックスキャンであ
虚血症例において,皮質枝領域の灌流状態の把握と,
り,ダイナミックスキャンの間隔は血流動態を捉える時
CT-DSAによる側副血行路の評価が可能である
(図 3)
.
間分解能に相当すると考えられる.より高い時間分解
また,治療方針の選択に有用な情報が提供でき,撮影
能によって精度向上が期待できるが,一方では被ばく
範囲の拡大とともに画像データは増大するものの,撮
が問題となる.ガイドラインでは,
「装置によっては間
影から解析結果の表示に要する時間は20∼30分程度で
欠撮影を用いることで被ばくを低減することができる.
ある.
現時点では
“ 1 秒回転,1 秒間欠”が定量性の維持とい
CTPの今後の可能性
CTPは臨床で広く施行される灌流評価法であり,撮
う観点からもコンセンサスが得られている.
」
とされてい
る.また,CTPのダイナミックスキャンの間隔について
7)∼9)
はこれまでいくつかの報告がなされている
.
像,解析,評価,いずれもが推奨される方法がありな
スキャン間隔と解析結果との関係を調べるため,連
がら,一方では装置依存の撮影方法,解析ソフトの違
続スキャンデータを用いて仮想間欠スキャンデータを
いなどを,標準化することについて課題が残されてい
作成し,解析結果を比較した.仮想 1 秒間欠スキャン
る.方法を標準化することができれば,結果の統一性
のCBF,MTTの健側患側比は連続スキャンデータと比
が図れ,ガイドラインで比較的有用とされている半定
較して,良好な相関であったが,スキャン間隔をひろ
量
(健側患側比)評価が可能になると考える.健側患側
げた仮想 3 秒間欠スキャンでは相関が悪くなる傾向で
比は定量値の比であることから,標準化を目指すうえ
あった
(図 4)
.
16
Multi-Modality Symposium:シンポジウム
CBF
MTT
TTP
CL ratio
0.84
1.25
1.30
CL ratio
0.97
1.10
1.29
CL ratio
0.78
1.36
1.38
連続スキャン
3 秒間欠スキャン A
3 秒間欠スキャン B
図 5 連続スキャンと仮想 3 秒間スキャンの解析結果の比較
健側,患側の個別評価では,患側に比して高灌流で
を大まかに捉えてしまい,AIFおよび脳組織TDCの精
ある健側の相関が悪い傾向にあることから,スキャン
度,解 析結果に影 響を与えたと考えられる.実際に
間隔=時間分解能とした場合,健側を精度よく評価す
は,AIFおよび脳組織TDCはフィッティングされ,ある
るためには連続スキャンが理想的といえる.しかし,
程度の精度を保てると考えるが,上記影響については
血流動態評価を伴わないCTPのみを検査目的とした場
根本的な問題点として理解しておくことが必要である.
合,現状では被ばくと解析精度の両面を考慮した 1 秒
2.画像ノイズ
回転,1 秒間欠が妥当な条件であると考える.なお,連
被ばく低減を図るには,低線量によるダイナミックス
続スキャンの導入には後述する逐次近似によるノイズ
キャンが有効であると考えられるが,一方でトレードオ
低減技術が必須であろう.
フの関係にある画像ノイズが増加するといったマイナ
また,仮想間欠スキャンの間隔が大きい場合,造影
ス面が生ずる.CTPの各パラメータは,AIFと脳組織
剤到達時間が大まかに捉えられてしまい,CTP解析の
TDCを用いたdeconvolution処理によって得られるが,
精度低下の要因になりうる.間欠スキャンによる間隔の
脳組織TDCの変化量は概ね10HU程度となり,AIFと比
影響を調べるため,同一患者データを用い,連続スキ
較しても相対的にわずかな変化ですむ.前処理とし
ャンと仮想 3 秒間欠スキャンとの解析結果を比較した.
て,スムージングによるノイズ低減が行われるが,過
ここで仮想 3 秒間欠スキャンとは,① 連続スキャン
度な低線量化によって脳組織TDCへのノイズの影響が
と開始点が同一の 3 秒間欠,② として① の間欠時間と
過大な場合には,解析結果に誤差を生むことも考えら
交互する 3 秒間欠,とした.連続スキャンと比較した
れる.ガイドラインでは,
「むやみに線量を下げすぎる
仮想 3 秒間欠スキャンの健側患側比は,① の 3 秒間欠
と画像ノイズの増加や定量値の変動を招くため,装置
でCBF,MTT,TTPの健側患側比を過小評価し,② の
ごとに適切な撮影条件を検討する必要がある.
」
とされ
3 秒間欠では過大評価する傾向であった
(図 5)
.この場
ている.
合の仮想 3 秒間欠スキャンは,造影剤到達時間と動態
ノイズと解析結果の関係を調べるため,同一患者デー
17
CBF
CBV
MTT
0.71
1.07
1.25
0.86
1.19
1.10
デフォルト
SD 20
CL ratio
ノイズ付加
SD 70
CL ratio
図 6 ノイズと解
析結果との関係
タからオリジナル画像と画像処理ソフトで作成したノイ
CBV,CBFの値は低下する.しかし,側副血行路の働
ズ付加画像を用いて,比較を行った.その結果,オリ
きにより灌流圧がある程度維持されるケースでは,側
ジナル画像と比較したノイズ付加画像の健側患側比
副血行路を反映したCBVの上昇が見られることがあ
は,MTTが過小評価され,CBFにも影響する結果を示
る.ガイドラインは
「CBVの上昇は側副血行路や自己調
した
(図 6)
.これは,脳組織TDCのわずかな濃度変化
節能を反映し,低下はこれらが不良であることを意味
で表される健側と患側の通過時間差がノイズにより捉
する.
」
としている.この場合,CBVの上昇とMTTの延
えづらくなったために起きると考えられる.
長が打ち消し合い,計算式で求められるCBFの大幅な
現在,各メーカのCT装置には逐次近似法を応用した
低下を過小評価してしまうことが考えられる.急性期
ノイズ低減機能が搭載されており,生データであるサ
症例における脳血流SPECTでは,不可逆的領域の閾値
イノグラム上でノイズの抽出,低減を行う手法もある
評価 および血栓溶解療法適応後の出血性梗塞の発生
ことから,十分な精度を保ったノイズ低減が可能と考
予測 に,健側患側比が用いられているが,これは,
10)
11)
える.CTPのダイナミックスキャンでは大幅な低線量化
CTPでは 注 意を要 する点 であり,ガ イドラインでも
が可能となり,連続スキャンの採用により,間欠スキャ
「CTPによる血栓溶解療法の適応基準は確立されていな
ンと同程度の被ばくで解析精度の向上が見込める.し
い.
」
としている.
かし,この方法はノイズ低減による描出改善が目的で
慢性期では,脳循環予備能が著しく低下し,代謝予
あり,過度の低線量化による信号自体の検出低下を保
(OEF)
備能の働きによる脳循環代謝PETの酸素摂取率
証する方法ではない.低線量化には解析精度に影響を
が亢進する貧困灌流のケースでは,自己調節能による
与えない程度に,脳組織コントラストを担保すること
皮質枝の拡張および軟髄膜吻合血管を介した側副血行
が重要であり,逐次近似法によるノイズ低減をCTPへ
路の発達を反映した患側CBVの上昇が見られることが
応用するにあたっては今後の更なる検討が必要と考え
あ る.同 様 にCBFの 低 下 を 過 小 評 価し,PETおよび
る.
SPECTのCBFと比較して,虚血を過小評価するケース
造影剤トレーサーの問題
CTPでは血管外へ移行しない非拡散トレーサーであ
るヨード造影剤を使用する.一方で,脳血流SPECTや
脳循環代謝PETでは,血管外にも移行する拡散トレー
も見られる
(図 7)
.そのため,CTPによる灌流評価は
CBFのみではなく,CBV,MTTも含めた相補的な評価
が重要である.
CTP解析
サーである放射性薬剤を用いる.灌流情報という点で
CTPが不得手とする点として,循環予備能の評価,
は同じであるが,トレーサーの違いにより観察対象が
穿通枝領域梗塞の検出などが挙げられるが,それらに
異なることへの認識が必要である.
加えてトレーサー,評価方法が異なるために起こる解
急性期症例において主幹動脈が完全閉塞し,灌流が
析結果の相違についても今後の課題であると考える.
な い 状 態 で は,一 般 的 に 不 可 逆 的 領 域 を 反 映 し た
解析方法,トレーサーの進歩により今後が期待される
18
Multi-Modality Symposium:シンポジウム
面もあるが,現時点では他のモダリティと併せてCTPの
さいごに
特性を理解した評価が必要であろう.
また,CTPの解析前処理の画像スムージング,解析
CTPの現状について,当施設の取り組みも併せて説明
に関わるパラメータ,血管除去などには解析装置ごと
した.またCTPの今後の可能性について,標準化という
に異なる点が多々あり,解 析結果に影 響を与えてい
点から考えられる問題点をいくつか挙げた.標準化,被
る.ASIST-Japanよりリリースされている標準的解析ソ
ばくなどの課題はあるが,簡便さと結果の即時性は他の
フト
(perfusion mismatch analyzer; PMA)
では,解析方
モダリティと比較して同等以上であり,さらに,装置の多
法の選択,複数パラメータの調整が可能で,解析に関
列化,新しい画像再構成法および解析法の進歩による精
わるパラメータについての理解および結果比較による
度の向上が期待され,今後も広く臨床で施行される灌流
自施設の解析装置の特徴把握に適している.ユーザー
評価法と思われる.CTPに携わる放射線技師は,検査の
登録が必要であるが,簡便に使用可能であり,CTP解
特性をよく理解することが重要であり,このことが良好
析についてより深い理解が得られる.
な精度を担保した検査および解析につながると考える.
CBF
CBV
MTT
PET-CBF
PET-OEF
(酸素代謝摂取率)
図 7 虚血を過小評価したケース
参考文献
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19