RNA干渉を利用したヒト腎癌細胞の糖鎖リモデリングによる - 東北大学

東北医誌 116: 62-65,2004
第 91 回日本泌尿器科学会 会 : 日本泌尿器科学会
会賞(腎腫瘍部門)
RNA 干渉を利用したヒト腎癌細胞の糖鎖リモデリングによる
ガングリオシドの機能解析
Inhibition of motilityand invasiveness of renal cell carcinoma induced byganglioside remodeling
青木 大志,佐藤
信,荒井 陽一
東北大学大学院医学系研究科 泌尿器科学
Abstract
Human renal cell carcinoma (RCC) has been
characterized by remarkable changes in ganglioside
composition. TOS1 cells,
typical of metastatic RCC,
are characterized by predominance of GM 2. In
order to observe functional role of gangliosides in
RCC malignancy,TOS1 cells were transfected with
short interfering RNA (siRNA) based on open
reading frame sequence of β1,4 GalNAc transferase (β1,4GalNAc T), and its disordered sequence
of siRNA (dsiRNA) as control. In siRNA transfectant, β1,4GalNAc T mRNA level and GM 2
expression were greatly reduced, whereby GM 3
expression appeared. Concomitant with reduction
of GM 2 and appearance of GM 3, siRNA transfectant showed greatly reduced motility and
invasiveness, although growth rate was unaltered.
These findings suggest that β1,4GalNAc T is
closely related to the malignant potential such as
invasion and motility of renal cell carcinoma. We
assume tentatively that β1,4GalNAc T may present a novel target of therapeutic modality for RCC.
我々は腎癌における糖鎖に関連する遺伝子発現を進
野
transferase を siRNA でノックダウンすること で 制
御することを試みた.RT PCR で糖転移酵素を定量す
るとともに,フローサイトメトリー,レーザー顕微鏡
にて GM2 の発現を調べ,浸潤能および運動能に及ぼ
す影響を検討したところ,siRNA により GM2 の発現
は著明に抑制され,GM 2 がノックダウンされた TOS
1 細胞は,コントロールに比して明らかな浸潤能運動
能の低下を認めた.siRNA による GM 2 遺伝子発現の
制御は,腎癌における糖鎖リモデリングの有力な手段
になりうると示唆された.
Key word : short interfering RNA (siRNA), β1,4
N Acetylgalactosaminyl transferase (β1,4 GalNAc T), GM 3, renal cell carcinoma
はじめに
腎癌は初診時にすでに 30% に遠隔転移を認め,外科
的に原発巣を摘出しえた後も 30∼50% に転移が出現
する予後不良な疾患 であり,治療法としては手術療
法以外,有効な治療法がないのが現状である.これま
でに当教室で,ヒト腎癌細胞における糖脂質の発現に
ついて検討したところ,転移巣では長鎖のガングリオ
シド(酸性糖脂質)が増加し,転移巣と同様な糖脂質
発現パターンを示す原発巣の症例では術後早期に転移
が出現していた .そこで今回,この長鎖のガングリオ
シドを腎癌の悪性度の指標と考え,悪性度の高い腎癌
に多く発現する長鎖ガングリオシド GM 2 を多く発現
するヒト腎癌培養細胞 TOS 1 について,糖転移酵素
展および予後の観点から追求しており,これまで腎癌
(GM2 合成酵素)を short interfering RNA (siRNA ;
では,長鎖 ganglioside の発現が多く認められる症例
RNA 干渉)を用いて糖鎖構造をリモデリングし GM 2
で予後不良であると報告してきた.今回,長鎖 gang- の発現を制御,
それに伴う糖鎖発現の変化と浸潤能,増
殖能,転移能など悪性化の指標に及ぼす影響を検討し
lioside を多く発現するヒト腎細胞癌 TOS 1 を用い,
た.
ganglioside GM 2 の発現を糖転移酵素 β1,4 GalNAc
青木ら−RNA 干渉を利用したヒト腎癌細胞の糖鎖リモデリングによるガングリオシドの機能解析
63
Table 1. Synthesis of Glycolipids
方
法
当教室で樹立した長鎖ガングリオシド GM2 を強発
現するヒト腎癌培養細胞 TOS 1 を用いた.GM 2 は
Table 1 に 示 す と お り 前 駆 物 質 で あ る GM 3 に N
Acetylgalactosaminyltransferase (β1,4 GalNAc
T ; GM2 合成酵素)が触媒し,糖を付加して合成され
たものである.そこでこの GM 2 合成酵素遺伝子に対
する二本鎖 RNA を Oligofectamine を用いて遺伝子
導入し,GM 2 合成酵素の発現制御を試みるとともに
GM 2 の 抑 制 を 試 み た.GM2 合 成 酵 素 を siRNA で
knock down した細胞と,いかなる遺伝子にも影響し
ない disordered siRNA を遺伝子導入した細胞につき
quantative real time PCR で糖 転 移 酵 素 を 定 量,
siRNA transfectants で GM2 合成酵素が十 に抑制
されていることを確認した後,これらの細胞を用い薄
層クロマトグラフィー
(TLC),フローサイトメトリー
(FACS)
,共焦点レーザー顕微鏡などで GM2 および
関連糖鎖(主に GM 3)の発現様式の変化を調べた.
に,浸潤能の変化を Transwell Chamber にて検討し,
増殖能の変化を Cell counting kit を用いて検討し
た .
結
果
1. RT PCR による糖転移酵素の定量化測定
GAPDH (glyceraldehydes 6 phosphate dehydrogenase)を internal control としてそれぞれの細胞に
Figure 1. TLC profile
Lane C : Reference glycosphingolipids, GM 3, GM 2
(上から)
Lane 1: Total ganglioside fraction of TOS1 dsiRNA transfectants
Lane 2: Total ganglioside fraction of TOS1 β1,4
GalNAc T siRNA transfectant
ついて GM 2 合成酵 素 の mRNA を RT PCR で 測 定
したところ,GM2 合成酵素に対する siRNA を導入し
た 細 胞 は GM2 合 成 酵 素 の mRNA の 発 現 が 約 50%
64
青木ら−RNA 干渉を利用したヒト腎癌細胞の糖鎖リモデリングによるガングリオシドの機能解析
Figure 2. Confocal laser scanning microscopy of TOS1 cell siRNA transfectant and control dsiRNA
transfectant
Figure 3. Invasiveness of TOS1β1,4 GalNAc T siRNA transfectant compared to control dsiRNA
transfectant
p<0.001 (Student s t test)
青木ら−RNA 干渉を利用したヒト腎癌細胞の糖鎖リモデリングによるガングリオシドの機能解析
に抑制されていた.
2. siRNA transfectant TOS 1 cells における糖
鎖発現の変化
(Decrease of GM2 expression and concomitant increase of GM 3 in siRNA transfectant
TOS 1 cells)
65
今回,GM3 から GM 2 へ糖を付加する糖転移酵素の
mRNA を制御することで,GM3 の発現の増加ととも
に GM 2 発現を低下させ,それにより悪性度が低下す
るか調べる目的で本研究を行い,浸潤能の低下を認め
た.siRNA による遺伝子ノックダウン法は非常に簡
,かつ効果的に特定の遺伝子をノックダウンできる
それぞれの細胞から糖脂質を抽出して展開,TLC 施
行,siRNA を導入した細胞は GM2 の発現低下を認め
る一方で,GM 2 の前駆物質である GM 3 を高発現して
ことから,ヒト腎癌細胞の糖鎖リモデリングの有効な
手段になりうることが示唆された.また今後,他の泌
尿器系癌に対しても糖鎖リモデリングおよび糖鎖の機
能解析の有効な手段となることが期待される.
いた(Fig.1).また,FACS では GM3 はそれ程発現し
ていなかったが,GM 2 の発現低下を認め,共焦点レー
ザー顕微鏡でも GM2 の発現低下と GM3 の高発現を
なお,本稿は Aoki, H., Satoh, M., Mitsuzuka, K.,
et al. (2004) FEBS Letters, 567, 203 208 に掲載さ
れた原著論文 の一部の要約を含むものである.
認めた(Fig.2).
3. Disordered siRNA transfectant TOS 1 cells
に 対 す る 1,4 GalNAc T siRNA transfectant の浸潤能の変化
β1,4 GalNAc T siRNA transfectant と disordered siRNA transfectant に つ き 8μm Transwell
Chamber に high concentration Matrigel を敷き,走
化 因 子 に fibronectin を 用 い て,4 時 間,8 時 間 の
Invaded Cells の個数を比較検討したところ β1,4 GalNAc T siRNA transfectant の著明な浸潤能の低下
を認めた (Fig.3).
増殖能に関しては 2 つの間に差は認めなかった.
察
RNAi は,double strand RNA によってその配列特
異的に mRNA が 解され,その結果遺伝子の発現が
抑制される現象である .dsRNA による遺伝子のサイ
レンシングは最初線虫でのアンチセンスを用いた研究
からであったが,ターゲットの mRNA に 21∼23 塩基
の RNA を用いた iRNA (short interfering RNA)
を 用することにより,哺乳動物にも広く用いられる
ようになったといわれている.
以前から当教室では,糖鎖の発現が腫瘍の悪性度と
密接に関連しており,特に膀胱癌で GM2 を高発現し
ていて GM 3 の発現が殆ど認められないものは細胞の
運動能と浸潤能が高く,逆に GM3 は膀胱癌の浸潤抑
制に関わっている ことをこれまで報告してきた.ま
た他の癌種では,GM3 と CD9 (motility regulatory
protein)との共調作用によって浸潤能が低下する と
報告されている.
文
献
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Inhibition of motility and invasiveness of renal
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東北医誌 116: 66-67,2004
第 8 回高血圧と動脈
化研究会優秀賞
レチノイドによる血管内皮細胞 eNOS 活性化/NO
産生亢進の
菅
原
東北大学病院
はじめに
全トランス型レチノイン酸
(ATRA) は天然に存在する
レチノイドのひと つ で あ る
が,ビタミン A 誘導体として
子機構
明
合診療部
生量およびアセチルコリン反応性の NO 放出量は著
明 に 増 加 し た.タ イ ム コース を 検 討 し た と こ ろ,
ATRA 添加後 24 時間までは NO 産生増加は認めら
れず,48 時間後にて増加が認められた.レチノイン酸
受容体(RAR)のアンタゴニストである LE540(東京
大学の影近博士より御供与頂いた)を同時添加したと
生体内で生理活性を持つこと
が知られている.血管系にお
いて ATRA は,中膜におい
て血管平滑筋細胞(VSM C)
のアポトーシス,増殖抑制や 化促進を誘導し,その
結果として抗動脈 化作用を示すことが知られてい
ころ,ATRA による NO 産生増加が消失したことか
ら,ATRA は RAR を介して NO 産生を増加したもの
と考えられた.eNOS の発現量は,タンパクおよび
mRNA ともに ATRA 添加による変化は認められな
かった.近年,PI3 キナーゼ
(K) Akt 系による eNOS
の 1177 番(ヒト)
(ウシでは 1179 番)セリンのリン酸
る.さらにモデル動物においては,ATRA によるバ
ルーン傷害血管の新生内膜形成抑制作用や再狭窄抑制
化により eNOS が活性化されるという報告がなされ
ていることから,本系における PI3K の関与を検討す
作用が報告されている.その一方で,ATRA の血管内
皮細胞(EC)に対する影響に関しては,いまだ不明の
点が多い.今回我々は,ATRA の EC における一酸化
る目的で PI3K 阻害剤である wortmannin を投与した
ところ,ATRA 誘導性の NO 産生増加は完全に抑制
された.以上から,PI3K Akt 系が ATRA 誘導性の
窒素(NO)産生調節におよぼす影響に関して新しい知
見を得たので報告する.
NO 産生増加に関与しているものと推定された.そこ
で ATRA 処理により eNOS が実際にリン酸化を受け
る か 否 か を 検 討 し た と こ ろ,ATRA に よ る eNOS
(1177 番セリン)の著明なリン酸化の増加が認められ
た.次に ATRA の Akt リン酸化に対する影響を検討
方
法
EC 細 胞 内 NO は,ヒ ト 臍 帯 静 脈 内 皮 細 胞
(HUVEC)とラット肺血管内皮細胞 (TRLEC 03)を
カバー・グラス上で培養し,NO 感受性蛍光色素である
DAF 2DA を用いて蛍光顕微鏡下においてリアルタ
イムで測定した(本学 合診療部の金塚助教授の御指
導を頂いた)
.内皮型 NO 合成酵素(eNOS)のタンパ
ク発現量は抗 eNOS 抗体にて,
リン酸化 eNOS および
Akt は抗リン酸化 eNOS および Akt 抗体にて,Western blot 法を用いてそれぞれ検討した.
結
果
HUVEC と TRLEC 03 のいずれの内皮細胞におい
ても,ATRA 処理(1μM ,48 時間)にて基礎 NO 産
した.ATRA は添加後 48 時間で,Akt タンパク量に
は影響をおよぼすことなく Akt の 473 番セリンのリ
ン酸化を著明に増加させた.そのリン酸化は wortmannin 投与により完全に抑制されたことから,PI3K
依存性であると考えられた.次に,ATRA の PI3K に
対する影響を検討したところ,ATRA は添加後 48 時
間で PI3K の catalytic サブユニットである p110βの
タンパク発現を著明に増加させた.その増加は RAR
のアンタゴニストである LE540 の同時添加により抑
制されたことから,ATRA による RAR の活性化を介
したものであると考えられた.以 上 か ら ATRA が
RAR を活性化した結果,PI3K の p110βサブユニット
の産生が増加し,それに伴う PI3K 活性上昇による
Akt のリン酸化亢進の結果,eNOS のリン酸化および
菅原−レチノイドによる血管内皮細胞 eNOS 活性化/NO 産生亢進の
子機構
67
図 1. ATRA による NO 産生亢進機構
図 2. ATRA による抗動脈
活性亢進が生じて NO 産生が上昇したものと考えら
れた(図 1)
.本研究により ATRA が NO 産生を増加
させることにより血管内皮機能の改善効果を有する可
能性が強く示唆されたことから,ATRA が高血圧や
糖尿病をはじめとした血管内皮機能障害を伴うと考え
られる病態に非常に有用である可能性が推定された.
結
語
今回の研究により,ATRA が血管中膜のみならず,
血管内膜に対しても抗動脈 化作用を有する可能性が
強く示唆された(図 2).今後は,より副作用の少ない
レチノイド誘導体の開発と,それらを用いた心血管病
変に対する臨床応用が期待される.
化作用
謝
辞
本研究における実験の大部 は,本学腎・高血圧・
内 泌科の宇留野晃博士が大学院( 子血管病態学
野)在学中に遂行されたものであります.本研究を遂
行するにあたりまして御指導を頂きました本学大学院
子血管病態学 野の伊藤貞嘉教授に厚く御礼申し上
げます.
文
献
1) Uruno, A., Sugawara, A., Kudo, M. et al.
(2003) Transcription suppression of thromboxane receptor gene expression byretinoids in
vascular smooth muscle cells. Hypertens. Res.,
26, 815 821.
2) 宇留野晃,菅原 明,工藤正孝ほか (2004) レチ
ノイン酸の血管系におよぼす影響.ホルモンと臨
床,52, 207 211.
東北医誌 116: 68-70,2004
第8回日本核医学会機関誌 Annals of Nuclear Medicine 最優秀論文賞
神経機能抑制時の脳循環代謝
Crossed cerebellar diaschisis における測定
伊
東北大学
藤
加齢医学研究所
はじめに
脳神経機能賦活時の脳循環
代謝についてはポジトロン断
層装 置(positron emission
tomography,PET)を用いて
調べられており ,賦活部位
に相当する脳局所の脳血流量
(CBF),脳血液量(CBV)お
よび脳酸素消費量(CMRO )
の 増 加 が 知 ら れ て い る.ま た,CBF の 増 加 率 は
CM RO の増加率よりも大きく,結果として CM RO
と CBF の比に相当する脳酸素摂取率(OEF)は低下す
ることも知られており,これは血液中の酸化ヘモグロ
ビン濃度の上昇をもたらす.この酸化ヘモグロビン濃
度の上昇は機能的磁気共鳴断層撮影法(functional
magnetic resonance imaging,fMRI)により血液酸素
浩
機能画像医学研究
野
歳)を対象に,PET による脳循環代謝の測定を施行し
た.トレーサーとして,H O,C O, O を 用し,安
静時 CBF, CBV, OEF, CM RO , CO 吸入負荷時
CBF, acetazolamide 静注負荷時 CBF を測定した.
CO 吸入負荷時および acetazolamide 静注負荷時は
脳血管を拡張させ CBF を増加させる作用を持つ.す
べての PET 画像上,両側小脳半球に関心領域を設定
し,CCD 側/ 常(unaffected)側小脳半球比を計算し
た.脳血管平均通過時間
(M TT)
は M TT=CBV/CBF
で,また,脳血管反応率は反応率=負荷時 CBF/安静時
これらについても CCD 側/ 常側小
CBF 1 で計算し,
脳半球比を計算した.
結
果
濃度依存性(blood oxygenation level dependent,
BOLD)信号の変化としても測定でき,近年では M RI
を用いた脳賦活部位測定による大脳生理学的・心理学
的研究が盛んに行われている.一方,脳神経機能抑制
時の脳循環代謝については,生理的条件下での脳神経
CCD 側の安静時 CBF および CBV は 常側に比べ
80% 程度に有意に低下していたが,CBV と CBF の比
に 相 当 す る M TT に は 両 側 間 で 有 意 差 は み ら れ な
かった.CCD 側の CMRO も 常側に比べ有意に低下
していたが低下の程度は安静時 CBF ほど大きくはな
く,結果として CCD 側の OEF は 常側に比べ有意に
上昇していた.
(図 1)
機能抑制の実現が困難であるためヒトにおける生理的
条件下での研究はあまりなされていない.しかし,脳
神経疾患の臨床においては,一側の大脳半球に脳梗塞
等の病変が存在する場合に反対側の小脳半球に機能抑
脳血管反応率については,安静時 CBF,CO 吸入負
荷時 CBF, acetazolamide 静注負荷時 CBF のいずれ
も CCD 側で 常側に比べ 80% 程度に有意に低下し
ていた.結果として,脳血管反応率は CO 吸入負荷時,
制(crossed cerebellar diaschisis, CCD)がおこるこ
とが広く知られており,これを脳神経機能抑制時のモ
デルとして脳循環代謝の測定が可能である .本研究
では CCD を有する脳血管障害患者で PET による脳
循環代謝の測定を施行し,脳神経機能抑制時における
acetazolamide 静注負荷時共に両側間で有意差はみら
れなかった.
(図 2)
脳循環動態および酸素代謝について調べた.
脳神経機能抑制部位の CBF と CM RO は共に低下
していたが,CBF の低下の程度は CMRO の低下の程
度よりも大きく,結果として OEF は上昇していた.こ
れは脳神経機能賦活時の循環代謝の変化 と正反対の
方向の変化であり,脳神経機能抑制部位においては負
方
法
CCD を有する閉塞性脳血管障害患者 20 名(60±12
察
伊藤―神経機能抑制時の脳循環代謝
69
図 1. 安静時脳血流量(CBF),脳血液量(CBV),脳酸素摂取率(OEF),脳酸素消費量(CM RO )および
脳血管平均通過時間(MTT)の CCD 側/ 常(unaffected)側小脳半球比.
図 2. 安静時脳血流量(CBF)
,CO 吸入負荷時 CBF,acetazolamide(ACZ)静注負荷時 CBF,CO 吸入負
荷時脳血管反応率および acetazolamide 静注負荷時脳血管反応率の CCD 側/ 常(unaffected)側小脳半球
比.
の BOLD 信号変化がみられるとする報告 を説明で
きる知見である.OEF の上昇は脳虚血においてしばし
は観察され,この場合には CBV の増加を伴うが,脳神
経機能抑制部位においては脳虚血と異なり CBV は低
常側とで差はみられなかった.CO 吸入負荷および
acetazolamide 静注負荷は細動脈レベルの血管平滑筋
周囲の pH 変化によりこれを弛緩させて CBF を増加
させるとされているが,今回の結果は,脳神経機能抑
下していた.これは脳神経機能抑制部位においては
CM RO の低下で示されるエネルギー代謝の低下より
も優位に CBF の低下が起こっていることを示すもの
であり,脳神経機能賦活部位の循環代謝の変化(CBF
の増加率は CM RO の増加率よりも大きい) と合わ
制時の CBF 低下は血管平滑筋周囲の pH 変化による
CBF 増加とは独立に起こることを示唆する.脳神経機
能賦活時の CBF 増加は PaCO の変化すなわち血管
平滑筋周囲の pH 変化による CBF の変化とは独立し
て観察されることがすでに報告されているが ,本研
せて えると,脳神経活動に伴う CBF の調節はエネ
ルギー需要による調節とは独立したメカニズムにより
なされている可能性が示唆される.
CO 吸入負荷および acetazolamide 静注負荷によ
る脳血管反応率は CCD 側(脳神経機能抑制部位)と
究の結果と合わせて えると,脳神経活動に伴う CBF
の調節は血管平滑筋周囲の pH 変化による CBF 調節
とは独立したメカニズムであることが示唆される.
70
伊藤―神経機能抑制時の脳循環代謝
文
献
1) Fox, P.T. and Raichle, M.E. (1986) Focal
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114.
東北医誌 116: 71-73,2004
RSNA 2003 info RAD 部門 Certificate of Merit
肝癌に対するリアルタイムバーチャルソノグラフィー
(Real time Virtual Sonography: RVS)
岩崎 隆雄,三上恵美子,下瀬川 徹,荒井
東北大学医学部
修 ,三竹
毅
消化器病態学, 日立メディコ技術研究所
1. は じ め に
超 音 波 検 査 の 長 所 は,1)
プローブを当てさえすれば画
像が出てくるリアルタイム性
と簡 性,2) 無被爆,3) 装
算し,残存腫瘍が超音波断層面上ではどの位置にどの
ように描出されてくるかを予想し,それに対応すると
思うところを狙って穿刺治療することになる.
しかし,
これにはかなりの熟練と集中力を要する.
この問題の解決を第一の目的として筆者が発案し,
(株)
日立メディコの協力を得て,世界に先駆けて共同
置がコンパクトで移動可能,
等である.このような特性を
生かして,肝癌に対するラジ
オ波焼 療法(RFA) のよ
うな経皮的低侵襲治療の多くは超音波ガイド下に施行
されている.しかし,超音波検査は CT や MRI に較べ
開発したのがリアルタイムバーチャルソノグラフィー
(RVS)である.
て客観性において劣っているというという批判も常に
存在する.我々は,超音波のリアルタイム性を損なう
やゲームやアニメの作成等,幅広い 野に用いられて
いるバーチャルリアリティーの技術は,現代科学文明
ことなく,超音波検査の客観性を確保しうる方法とし
て Real time Virtual Sonography (RVS)システム
を世界で初めて開発した.
社会を支える必須の技術のひとつと言える.そのなか
に,磁気センサーを用いた位置追跡システムも含まれ
る.この技術は,医療 野においては既に三次元超音
3. RVS の背景
飛行機操縦等の技能習得のためのシミュレーション
RFA のような経皮的低侵襲治療の根治性を確保す
る上で重要なのが治療効果判定である.
波診断装置に臨床応用されている.一方,マルチスラ
イス CT (M DCT)の登場によって,我々は初めて肝
臓を面の重なりとしてではなく,立体として把握可能
となり,そのボリュームデータをもとに,横断像だけ
ではなく,臨床的評価に耐えうる冠状断像や矢状断像
治療前後のダイナミック CT の比較検討が現時点で
は最も有用である.全周性に腫瘍より一回り大きな血
流欠損領域,いわゆる safety margin が形成されてい
るかどうかがポイントとなる.
といった任意の断層像(Multi Planar Reconstruction : MPR)をワークステーション上で作成可能と
なった.
RVS はこの二つの技術を土台として開発された装
safety margin が十 確保されていれば治療完了と
なるが,不十 な場合や腫瘍の残存が見られる場合に
は再治療が必要となる.再治療は,超音波のリアルタ
イム性と簡 性を生かして,再度超音波下に施行され
ることになる.しかし,CT では検出可能だが,超音波
置であり,超音波画像と同一の MPR 像
(バーチャル画
像)をワークステーション上に常にリアルタイム表示
することを世界で初めて可能にした画期的な画像診断
装置である.我々は明確なビジョンと臨床サイド・技
術サイドの密接な連携により開発着手からわずか 1 年
では識別困難な治療後の残存腫瘍は少なくない.
また,
肋骨が邪魔をするので,CT と同じ横断面を超音波で
描出することは困難である.そこで,術者は CT の画
像をもとに自らの頭脳中に患者の肝臓の三次元画像を
再構築し,走査中の超音波プローブの位置と角度を計
あまりで市販可能な RVS システムを完成しえた.
2. RFA の治療効果判定と RVS の必要性
4. RVS 開発時の目標
RVS 開発時の目標は以下のとおりである.
72
岩崎ら−肝癌に対するリアルタイムバーチャルソノグラフィー
1) リアルタイムと感じられる画像であること.
2) CT 撮影時にマーキング等の特別な準備を必要
ションに接続すると,磁気センサーはプローブの位置
や向きといった空間情報を常にワークステーションに
とせず,これまで通りの撮影法でよいこと.
3) まず 80% 合えばよい(徐々に 100% へ).
臨床的に有用な,真に実用的なシステムを作り上げ
るために上記の目標設定をした.そして,いずれも達
送り続ける.ワークステーションの中には,あらかじ
め撮影してあるその患者の MDCT のボリュームデー
タが読み込まれてあるので,送られてきたプローブの
位置情報に対応する M PR 画像(バーチャル画像)を常
成された.
にリアルタイム(フレイムレイトは 10/sec 以上)表示
することが可能となる.
5. RVS の機器構成
6. RVS の検討結果
RVS は図 1 のように超音波診断装置,ワークステー
ション(RVS ソフトや患者の画像データを内蔵したパ
ソコン)
,磁気位置センサーユニットから構成される.
剣状突起をメルクマールとして位置合わせを施行
し,周囲の金属による磁場の乱れや呼吸性変動に起因
超音波プローブに磁気センサーを装着しワークステー
する画像のずれは,Adjust 機能にて調整した.42 例の
a
c
d
b
図 1. RVS システム
a : 右から,超音波プローブ,磁気センサー,磁気センサー装着のためのアタッチメント
b : 磁気センサーの装着完了.特に違和感なく検査施行可能.
c: 超音波装置(EUB 8500)とワークステーション(RVS ソフトや患者のボリュームデータ等を内蔵してい
るパソコン)
d : 磁気発生器
図 2. 横隔膜直下の肝細胞癌.マイクロコンベックス型プローブ(10R)で描出し,穿刺ルートを表示してあ
る.この後,動脈塞栓下経皮的ラジオ波焼 療法を施行した.
岩崎ら−肝癌に対するリアルタイムバーチャルソノグラフィー
a
73
b
図 3. 図 2 の症例の動脈塞栓下経皮的ラジオ波焼 療法施行前後の造影 CT
a : 治療前 : 腫瘍濃染を認める.
b : 治療後 : 腫瘍濃染より全周性に一回り大きく血流欠損領域が形成されており,十
確保されていると判定できる.
な safety margin が
肝癌症例に RVS を施行した.いずれの症例において
も 1 回から 3 回の位置合わせによって,目的とした腫
瘍をほぼ同一の断層面として描出可能であった.超音
波単独では認識困難な RFA 後の残存腫瘍等が明瞭か
に統合された,真に客観的な,理想的な画像診断シス
テムといえる.
2) RVS によって二つの画像診断体系のリアルタ
イム統合が世界で初めて可能となった.
つ客観的に描出可能であり,
RFA のナビゲーターとし
て有用であった.
3) RVS は Evidence Based Diagnostic Imaging
つまり客観的画像診断学の起点となる装置であり,方
症例を図 2,3 に呈示する.動画像でお見せできない
のが残念である.静止画では RVS の最も優れたとこ
ろが伝わらない.ぜひ実際に ってみていただきたい.
法論である.
4) RVS は治療,診断,教育すべての面において,あ
らゆる臓器において有用となる可能性を持っている.
その良さが実感できるはずである.
文
7. 最 後 に
1) RVS は,安全かつ確実な穿刺治療に大きな威力
を発揮するだけでなく,超音波と CT がリアルタイム
献
1) 岩崎隆雄ほか (2002) 当科における肝癌局所治
療方針.消化器科,35, 573 579.
東北医誌 116: 74-77,2004
2003 American Society of Hematology Travel Award
急性骨髄性白血病における Flt3 変異
高
橋
伸 一 郎
東北大学病院
検査部
近 年,急 性 骨 髄 性 白 血 病
(AML)の病因として,Gil-
転座( 化異常に関与)の二つ(以上)の要因が白血
病発症に不可欠であるという説である.つまり,染色
liland ら に よ り,two hit モ
デルが提唱されている .す
なわち,1) Flt3 を始めとす
体転座のみならずシグナル伝達系の異常活性化による
他の腫瘍 子への影響が,白血病化機序に重要である
ことが示されている.
る growth factor レセプター
や Ras 変異による シ グ ナ ル
活性型変異(白血病細胞異常
Flt3 は type III のレセプターチロシンキナーゼであ
り,未 化な造血細胞表面に特異的に発現する.その
変異は AML のなかで最も高頻度に(約 30%)認めら
増 殖 に 関 与), 2) AM L1/
ETO 等を代表とした染色体
れ,多くの変異は,juxtamembrane 領域の変異である
internal tandem duplication (ITD)型である .この
図 1. PLZF や ETO と SM RT に対する Flt3 ITD の影響
A : 正常細胞.PLZF と ETO は SMRT と相互作用し,転写抑制能を持つ.
との相互作用を増
B : 白血病細胞では,Flt3 ITD が,SM RT と核 細胞質をシャトルする NFkB p65(p65)
強し,SMRT の核外移行を導く.さらに,p65 SM RT 相互作用,SM RT 核外移行には SM RT RID(receptor
interaction domain)が重要であることが判明した.このような機序により,SMRT と転写抑制因子間相互
作用が減弱することで,異常遺伝子発現制御,異常細胞増殖が引き起こされることが明らかになった.
高橋−急性骨髄性白血病における Flt3 変異
75
ような変異は下流の STAT5 のリン酸化または Ras/
M AP (mitogen activated protein) kinase 経路等を
活性化し,白血病細胞の異常増殖, 化異常を引き起
こす可能性が示唆されている .さらに,Flt3 ITD は
AM L における予後不良因子である .このような様々
な事実から,Flt3 経路の活性化は白血病化機序に非常
に重要な役割を果たしていることが考えられる.
PLZF (promyelocytic leukemia zinc finger)は未
化な骨髄球系造血細胞に高発現する Zn フィンガー
型の転写抑制因子で ,SMRT (silencing mediator of
retinoic and thyroid hormone receptors)などの転写
のコリプレッサーと相互作用し,白血病細胞における
強力な細胞増 殖 抑 制 因 子 と し て 働 く .SMRT と
PLZF との相互作用及び PLZF の転写抑制能は Ras/
M AP kinase 経路の活性化などで阻害されることが
報告されている .
まず始めに,筆者らは,白血病細胞において,Flt3 変
異により下流のシグナル伝達系が活性化され,転写抑
制因子の機能が阻害され,異常遺伝子発現,異常細胞
増殖が引き起こされるのではないかという仮説を持
ち,検討を行った.その結果,Flt3 ITD 過剰発現細胞
において,転写のコリプレッサーである SMRT が核
図 2. 内在性 p21 の各種 Flt3 ITD 一過性過剰発現細
胞株における発現.定量 PCR の結果を示す.
から細胞質に移行し,PLZF,ETO などの転写抑制因
子との相互作用が阻害されることが判明した.それに
ころ,p21 遺伝子プロモーター活性の上昇を認め,そ
の上昇に 692/ 684 STAT site が重要であることが判
より,PLZF の転写抑制能,及び細胞増殖抑制能までも
が阻害されて,Flt3 ITD 細胞の異常増殖に結びつい
ていることが明らかになった.さらに Flt3 ITD によ
明した.ゲルシフトアッセイの結果,Flt3 ITD 過剰発
現下で 692/ 684 STAT site に結合する蛋白質の結合
活性が著明に増加し,その蛋白質は STAT5a である
る SMRT 核外移行メカニズムには核 細胞質をシャ
トルする転写因子 NFkB p65 (p65)が関与している
ことが示された(図 1) .
興味深いことに,Espinosa らは,p65 を細胞質に留
める因子である IkBa を stabilize すると,SMRT も
ことが明らかになった.さらに様々な造血系細胞株を
用いて解析を行ったところ,内在性の p21 の発現が
Flt3 ITD の強制発現で上昇していることが判明した
(図 2) .
次に実際の AM L 検体で Flt3 変異の影響を解析し
同時に細胞質に局在し,GCSF による骨髄球系細胞
(32D 細胞) 化が阻害されることを報告している .
す な わ ち,筆 者 ら が 見 い だ し た Flt3 ITD に よ る
SM RT 核外移行が,骨髄球系 化阻害に重要な役割を
た.
当科における 19 例の AM L 検体を用いて検討した
ところ,2 例の Flt3
検体(Flt3 ITD 型の変異と
野生型の allele 双方を持つ)と 1 例の Flt3
検体
(Flt3 ITD 型の変異のみで野生型の allele を欠く)を
果たしていることが推察される.この機序の発見は,
Flt3 変異白血病の新たな 子標的療法開発へ向けて,
有用な知見になるかもしれない.
次に筆者らは,Flt3 ITD による細胞増殖異常のメ
カニズムに関して,p21
(p21)に注目した.p21
認めた.これらの検体を用いて p21 の発現を検討した
結果,Flt3
検体において最も高い p21 の発現を認
め た(投 稿 準 備 中)
.Flt3
は,Flt3
および
と比較して,AM L における際だった予後不
Flt3
良因子であることから,その下流への特異的な影響が
は cyclin dependent kinase inhibitor であるが,同時
に細胞周期を正に制御することも知られており,白血
病細胞増殖に関与している可能性が示唆されている.
筆者らが,p21 遺伝子プロモーターを BaF3 細胞に遺
伝子導入し,同細胞に Flt3 ITD 過剰発現を行ったと
予想されている .AM L 検体においても,Flt3
型
の変異が,p21 の発現異常に関与している可能性が示
唆された.
このような事実から,p21 は Flt3 ITD の影響を受
け,同変異による白血病細胞異常増殖に結びついてい
76
高橋−急性骨髄性白血病における Flt3 変異
る可能性が伺える.筆者らが見いだした,Flt3 ITD に
よ る p21 発 現 上 昇 に 重 要 で あ る STAT5a は,他 の
STAT ファミリー転写因子の中で唯一 Flt3 シグナル
の影響を受け,異常細胞増殖に結びついていることが
示されている ことも興味深い.さらに,p21 は histone deacetylase 阻害剤で特異的にその発現が上昇
されることからも ,筆者らが明らかにした,Flt3
ITD に よ る histone deacetylase 作 用 を 持 つ コ リ プ
レッサー(SM RT)の機能阻害 が,p21 の発現上昇に
関与している可能性が考えられる.
5)
6)
p21 は抗アポトーシス作用による薬物耐性 や,そ
の高発現が AM L における予後不良因子として報告さ
れている .今回筆者らが見いだした Flt3 ITD と
p21 の関連の発見は,Flt3 変異を持つ AML の病態の
理解の一助になると考えられる.
最近,一部の AM L において,野生型 Flt3 の非常に
高い発現が認められ,それが Flt3 経路の活性化,予後
不良に関与していることが報告された .今後,筆者は
Flt3 変異型のみならず,Flt3 野生型の過剰発現がどの
ように白血病の病態に関わっているかを解析していき
たいと考えている.AML における Flt3 経路の役割を
さらに解析していくことで,新たな 子標的療法の発
展に繋がる事に期待したい.
謝
8)
9)
辞
本研究に御支援を頂きましたマウントサイナイ大学
医学部血液腫瘍科 Jonathan Licht 先生,東北大学医学
部 子診断学 野,賀来満夫先生,張替秀郎先生,同
免疫血液病制御学 野佐々木毅先生に深謝いたしま
す.
文
7)
献
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3) Takahashi, S. and Licht, J.D. (2002) The
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4) Melnick,A.,Ahmad,K.F.,Arai,S.et al. (2000)
10)
11)
12)
13)
14)
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77
Biologic and clinical significance of the FLT3
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東北医誌 116: 78-80,2004
薬学会東北支部学術奨励賞
体液量維持を目的とした腎尿細管機能の解明と
その異常に基づく病態の検討
原
東北大学医学部
光
伸
創生応用医学研究センター 遺伝子医療開発
Abstract
野
counter current multiplication, urinary concentration, BSC1, thick ascending limb of Henle
Recent advances in
molecular biology have led
to the identification of kidney specific sodium tran-
ヒトを含め,陸上に生息する哺乳動物にとって体液
sporters in the renal tubule,
thereby supplying vast
information for renal physiologyas well as systemic
physiology. Among them, Na K 2Cl co transporter (BSC1) in thick ascending limb of Henle
(TAL) is considered to be responsible for the
の保持は最も重要な生理機能であり,経口からの摂取
が不十 な時は尿を濃縮して尿量を減らし,体液の喪
失を防ぐ必要がある。つまり,我々は主に経口摂取と
のバランスにおいて,尿を種々の程度に濃縮すること
により,一定の体液量を維持している。1993 年,抗利
尿ホルモン(AVP)依存性に腎尿細管の集合管におい
sodium transport leading to renal urinary concentration. We have demonstrated that renal urinary
concentration is regulated in part by the expression
て発現する腎特異的水チャンネル(AQP2)の同定さ
れ,この体液量維持を目的とした尿濃縮機構の多くが
of BSC1, by showing two mechanisms of BSC1
expression : pitressin vasopressin (AVP) dependent and AVP independent mechanisms (dehydrated condition). Reduction in nephron number (unilateral nephrectomy) induced the compensatory
increase in BSC1 expression,confirming the association between expressed level of BSC1 and regulation of urine volume for the maintenance of body
fluid. Two additional findings, namely, a lack of
the ability to increase BSC1 expression leads to
urinary concentrating defect (chronic renal failure)
and an enhanced BSC1 expression underlies the
edema forming condition (congestive heart failure), confirm the close association between sodium
handling in TAL and bodyfluid accumulation. The
unveiling of detailed mechanisms for BSC1 expression may lead to a better understanding of physiology of body fluid accumulation, as well as to the
development of novel therapy for body fluid disorders.
key words: sodium transport in renal tubule,
背
景
判明した 。しかし,水は電気的に中性のため,電解質
のように電位差を利用した再吸収ができず,水の再吸
収には腎髄質における高浸透圧の形成が必要となる。
1994 年 Hebert らにより,この高浸透圧形成に最も重
要な腎特異的ナトリウムトランスポーター(bumetanide sensitive sodium cotranporter 1: BSC1)が同定
された 。このトランス ポーターの 機 能 を 抑 制 す る
ループ利尿剤が薬理学的に最も強力で,臨床効果の高
い利尿効果をあげることからも BSC1 の影響は明ら
かである。また,膜蛋白として機能する BSC1 はその
機能の調節において,AQP2 と同様に発現量の調節が
重要である可能性がある。そこで我々はこの BSC1 の
発現調節が髄質の浸透圧勾配の状態を変化させ,尿濃
縮を制御している可能性を追求した。その結果,より
詳細な尿濃縮機構が明らかになるとともに,体液異常
をきたす疾患においてはこの BSC1 発現に変化が認
められ,特に浮腫の成因に重要な知見も得られた。
BSC1 発現と機能
まず,単純な水制限による脱水状態で尿を最大に濃
縮したラットの BSC1 発現を検討した。BSC1 はヘン
原−体液量維持を目的とした腎尿細管機能の解明とその異常に基づく病態の検討
79
Figure 1. 脱水時の BSC1 発現
レループ上行脚の太部(TAL)に存在するが,脱水状
態では,図 1 のごとく腎深部における TAL の始まり
で発現量が非常に増加していた。逆に,腎の表層の
TAL においては発現の変化がほぼ消失していた 。こ
の BSC1 発現の局在性により,BSC1 による NaCl の
髄質間質への移行が AQP2 の存在する集合間におけ
る水再吸収のみでなく,ヘンレループ下行脚における
水再吸収にも強い影響を与えることが判明した。腎深
部における特異的な NaCl 再吸収はヘンレループ下行
脚からの水の再吸収に有効的と考えられるからであ
る。このような BSC1 発現の局在性は心不全のように
病的に BSC1 発現が増加する時には認められないこ
とからも,生理的な反応と考えられた 。この研究で
ラットに外因性の AVP を与えることで,BSC1 発現
は,BSC1 の発現における RNA 量と蛋白量の相関,産
生量と膜発現の相関についても証明した 。
次に,BSC1 発現とそれに伴う NaCl 移動が尿濃縮
に結びつくことをより直接的に証明することを試み
が増加することも確認し,BSC1 発現が大きく AVP
依存性と非依存性との 2 つの異なった機序で制御され
ていることも証明した 。逆に,BSC1 発現が障害され
る移植腎や慢性腎不全のモデルラットの解析により,
た。そこで,先天的に AVP の 泌が欠損した Brattlebolo ラット(BB ラット)を再び水制限で脱水状態と
し て,BSC1 発 現 と 尿 の 変 化 を 観 察 し た。つ ま り,
AQP2 の膜発現は AVP に強くコントロールされてい
ることを利用し,AQP2 発現に変化がない状態での
BSC1 発現が障害されると尿濃縮力が低下することも
証明した 。
我々の研究結果をこれまでの知見と 合すると,尿
濃縮機構は図 2 のごとく構成されていることがわか
る。① 最初にヘンレループ上行脚太部から腎特異的
BSC1 の単独発現増加を誘発し,それに伴う生理変化
を検討した。その結果,BSC1 の単独発現増加,髄質の
浸透圧勾配の形成(髄質における Na イオンと尿素の
蓄積),尿濃縮を認め,BSC1 の発現変化が尿濃縮の機
序の1つであることを証明した 。この研究では BB
Na トランスポーター(BSC1: bumetanide sensitive
sodium cotransporter 1) により髄質に NaCl が供給
され浸透圧が上がる。② この浸透圧勾配にしたがい,
ヘンレループ下行脚と集合管から水の再吸収が始ま
る。③ 次に,
集合間では水の移動により尿素の濃度が
Figure 2. 尿濃縮機構
80
原−体液量維持を目的とした腎尿細管機能の解明とその異常に基づく病態の検討
上がり,尿素トランスポーターを介して尿素も腎髄質
の間質に移動し,NaCl 同様に浸透圧形成に加わる。
④ そこで,2 段階目の水の再吸収がヘンレループ下行
脚と集合管で行われる。⑤⑥ この間,ヘンレループ下
行脚では NaCl の透過性が低いため,管腔内の NaCl
濃度は上昇し,ループ反転後は急に NaCl の透過性が
高くなるため太部に至るまでの細部から NaCl が髄質
に供給され,
これが再び,②④ の水の再吸収とその後
の展開へと循環し,尿量の調節を含めた尿濃縮が完成
する(counter current multiplier)
。
この全体像からも明らかなように,集合管に限局し
て AVP 依存性に発現する AQP2 は尿浸透圧を決定
するが,尿量はヘンレループから集合管にかけて 合
的に調節される。従って,BSC1 による最初の NaCl 移
動が尿量に強く影響することがわかる。
BSC1 の発現異常
心不全,肝 変,ネフローゼなどの浮腫性疾患にお
いて BSC1 機能を抑制するループ利尿剤が臨床的に
有効である。この臨床知見に基づき,浮腫の原因に
BSC1 の発現異常が関与している可能性を検討した。
心筋梗塞モデルラットを作成し,体液が蓄積した心不
全ラットを解析したところ,本来障害されていない腎
臓の尿細管において BSC1 の異常な発現増加が認め
られた 。この増加反応は,脱水状態における生理的反
応では認められなかった部位(腎の浅層 TAL)におい
ても生じていた 。さらにこの心疾患における変化は
AQP2 サイドにほとんどなく,BSC1 サイドに生じる
特異的反応であることも判明し ,BSC1 発現の増加が
異常な体液の蓄積に結びつくと考えられた。近年,
Jonassen らにより,肝 変モデルラットでも同様に
BSC1 の特異的増加が生じ,浮腫に結びついている事
が報告されており ,浮腫の成因としての BSC1 発現
が注目されるようになっている。しかし,AQP2 と異
なり,BSC1 発現機序は複雑であるため ,浮腫に結び
つく BSC1 発現機序は現在も不明であり,今後の研究
課題として残されている。
文
献
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東北医誌 116: 81-83,2004
日本ストーマリハビリテーション学会ハイライト賞
コロストメイトとウロストメイトの
片
岡
東北大学大学院医学系研究科
康関連 QOL について
ひ と み
内部障害学 野,博士後期課程
1. は じ め に
た.さらに,コロ群,ウロ群の QOL に影響する因子を
明らかにするため,性別,配偶者,年齢,術後経過年
が腹部から排出され,結腸に
造設されたストーマを保有するオ
ストメイトをコロストメイト,尿
数,過去 1ヶ月の皮膚障害,患者会の加入,ストーマセ
ルフケア,ストーマ外来受診の因子について検討し
た .
が排出される尿路ストーマを造設
された患者をウロストメイトと言
う .オストメイトは,不随意に排
出される排泄物を溜めるため,体
外装着型の蓄 袋または蓄尿袋で
ある「ストーマ装具」の装着が不可欠となる.近年ス
トーマ装具の目覚しい発達により,ストーマ装具粘着
剤や排泄物の付着による皮膚障害や,ストーマ装具装
着部からの排泄物の漏れは減少した ものの,依然と
してオストメイトはストーマ造設に伴うボディーイ
メージの変化など様々な障害と共に社会生活を送るこ
ととなる.
本研究では,コロストメイト(以下コロ群)及びウ
ロストメイト(以下ウロ群)の主観的な 康関連 QOL
が低下しているか否かを明らかにし,さらに,コロ群
とウロ群それぞれの 康関連 QOL に影響する因子に
ついて検討した.
2. 対象と方法
<調査内容>
1) ストーマ造設に関する質問票(自作)
患者の年齢,手術の時期,ストーマ外来受診経験,患
者会入会の有無,セルフケアの有無,過去 1ヶ月の皮膚
障害の有無についての質問票で研究者が作成した.
2) SF 36 SF 36 は 36 項目からなる包括的 康
概念を測定する QOL 質問票 であり,身体機能(PF),
日常役割機能の身体(RP)と精神(RE),体の 痛 み
(BP),全体的 康感(GH),社会生活機能(SF),活
力(VT),心の 康(MH)という 8 つの 康概念を測
定する尺度である.尺度得点は数値が高いほど QOL
が高いことを示す.
<データの
析方法>
SF 36 尺度得点の国民標準値との比較にt検定を,
SF 36 尺度得点と背景因子との関係に,ピアソンの相
関係数,重回帰 析(ステップワイズ法)
を Statistical
(
Package for the Social Science SPSS) 11.0 for
Windows 用い 析した.
<対象>
C 県のストーマ装具販売店にて,ストーマ装具を購
入しているストーマ保有者 800 例に対し,購入依頼の
あったストーマ装具発送時に,研究趣旨及び調査票を
同封した.対象は同意の得られたオストメイト 218 例
中,コロ群 131 例,ウロ群 49 例である.
<方法>
調査内容は,以下に示すように自作のストーマ造設
に関する質問票,M OS 36 Item Short Form Health
Survey(以下 SF 36)である.そして,コロ群,ウロ
群それぞれの SF 36 尺度得点を国民標準値と比較し
3. 結
果
1) 対象者の概要
コロ群 131 例
(男性 91 例,女性 34 例,無回答 6 例)
,
ウロ群 49 例(男性 40 例,女性 7 例,無回答 2 例)で,
平 均 年 齢±SD は コ ロ 群 66.6±11.0 歳,ウ ロ 群 で は
72.7±8.4 歳であった.
2) SF 36 尺度得点の国民標準値との比較(図 1)
国民標準値 50 点から離れている程度について有意
差検定を行った結果,コロ群,ウロ群共に
「体の痛み」
82
片岡−コロストメイトとウロストメイトの
康関連 QOL について
図 1. SF 36 国民標準値との比較
SF 36 ver.1.2 国民標準値を基準とした得点算出のためのプログラムを用いて算出した変換得点コロ群
(□),ウロ群(■)が,標準値 50 点から離れている程度を示す.1 サンプルのt検定( : p<0.01)
の項目以外の全ての項目において国民標準値より低い
結果であった.
3) SF 36 と背景因子との関係
SF 36 の項目と背景因子との関係についてピアソ
ンの相関係数を求めた結果,幾つか有意な相関関係を
認めた.例えば,コロ群では「皮膚障害有り」と「体
4.
察
本研究により,コロ群,ウロ群を対象にした
康関
連 QOL は,
「体の痛み」の項目以外の全てにおいて国
民標準値と比較し低下していることが明らかになっ
た.
また,QOL に影響する因子として,
「皮膚障害有り」
の痛み」
,
「 康感」
,「活力」
,「配偶者無し」と「身体
機能」,
「体の痛み」
,「日常役割機能の精神」で有意差
を認めたが,
その関係はいずれも弱い関係であった.ウ
で QOL がさらに低下している可能性があることが明
らかとなった.
Hedrick は ET ナースや WOC ナースといった ス
ロ群においても,幾つか有意差を認めたものの,その
関係は弱かった.例えば,
「皮膚障害有り」と「身体機
能」,
「体の痛み」,
「活力」
,「年齢」と「社会生活機能」
で弱い関係を認めた.
次に SF 36 の項目を基準変数に置き,性別,配偶者
トーマケアを熟知した看護師が,オストメイトの入院
中にセルフケア指導,ストーマ装具についての説明,日
常生活指導などの看護介入を行ったほうが,術後 2,
3ヵ月後のオストメイトの社会生活への適応は良かっ
たと報告している.本研究ではストーマケアに熟知し
の有無,年齢,術後経過年数,過去 1ヶ月のストーマ周
囲皮膚障害の有無,患者会加入の有無,ストーマセル
フケアの有無,ストーマ外来受診経験の有無を説明変
数(一部ダミー変数を用いた)とした重回帰 析(ス
た看護師による入院中の介入については不明である
が,今後コロ群,ウロ群の QOL 改善には入院中の指導
から皮膚障害の対策により力点をおくことが示唆され
る.また,WOC 看護認定看護師による入院中からのケ
テップワイズ法)を実施した.
コロ群では,調整済み R2 乗が 20% 以上の因子は
「身体機能」の項目で,
「身体機能」の変動の 36% は性
別,年齢,セルフケアの有無,皮膚障害の有無によっ
て説明されていた.
ア介入は,
ストーマ造設に伴う障害の特徴を理解し,き
め細かい援助を行うことで,オストメイトの QOL を
高められる可能性があると考えられる.
本研究に関しては郵送法によるアンケート調査のた
め,QOL に関する調査に対し比較的関心が高く,調査
ウロ群では「身体機能」の変動の 21% は年齢,患者
会加入の有無と過去 1ヶ月の皮膚障害の有無で説明さ
れ,
「体の痛み」
の変動の 25% は患者会加入の有無,過
去 1ヶ月の皮膚障害の有無で説明されていた.
に積極的であったオストメイトによる回答であったか
もしれず,また,原疾患の影響や再発有無などが不明
であり,今後,縦断的調査結果との比較検討が必要と
考えられる.
片岡−コロストメイトとウロストメイトの
5. ま と め
コロ群,ウロ群の 康関連 QOL は「体の痛み」の項
目以外全て国民標準値より低いことが明らかとなっ
た.また,QOL の改善には皮膚障害の対策によりいっ
そう力点をおくことが示唆された.
なお,本稿は「日本創傷・オストミー・失禁ケア研
究会誌」第 7 巻 2 号(2003 年)及び「QualityofLife
Journal」第 4 巻 1 号(2003 年)に掲載された原著論文
の要約である.
謝
辞
本研究の実施にあたって貴重なご指導・ご協力を
賜った,生体調節外科学 野の佐々木巌教授,舟山裕
士講師,内部障害学 野の上月正博教授に厚く御礼申
し上げます.
康関連 QOL について
文
83
献
1) 日 本 ス トーマ リ ハ ビ リ テーション 学 会 (1997)
日本ストーマリハビリテーション用語集,金原出
版,東京,p.43,55.
2) 田澤賢次,跡見 裕 (2002) ストーマリハビリ
テーションについて.日医雑誌,127, 531 537.
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創傷・オストミー・失禁ケア研究会誌,7,5 11.
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5) 福 原 俊 一,鈴 鴨 よ し み,尾 藤 誠 司 ほ か (2001)
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239.
東北医誌 116: 84-92,2004
Scholar in Training Award for the AACR 95 Annual Meeting
Estrogen inhibits the proliferation of thymic epithelial cells and
In situ production of estrogens in human thymoma
石橋 洋則
,鈴木
貴 ,鈴木
,森谷 卓也 ,金子 智香 ,砂盛
中田 泰介 ,近藤
東北大学
加齢医学研究所
呼吸器再
研究
東京医科歯科大学大学院
丘 ,笹野
野, 東北大学医学部
誠
伸
病理診断学, 東北大学病院
病理部
心肺機能外科学, 協和発酵株式会社
近年,エストロゲンなどの
ase (EST)は estrone を estrone sulfate に変換する
(Fig.1).
我々はこれまでにヒト胸腺腫においてエストロゲン
性ステロイドは,乳癌などの
性ステロイド依存性腫瘍以外
でもその増殖や退縮に関与す
ることが明らかにされつつあ
り,さらに乳癌において,エ
ストロゲンは血中以外に乳癌
受容体 α(ERα)
の発現が独立した予後因子になり,エ
ストロゲンが ERαを介して腫瘍増殖抑制をする可能
性を報告した .しかし,ヒト胸腺腫に対するエストロ
ゲン作用,エストロゲン局所合成に関しては今までに
検討されていない.
今回,我々はヒト胸腺腫上皮初期培養細胞にてエス
組織で産生され腫瘍増殖に関
与することが知られている(Endocrinologyに対して
Intracrinology) .局所におけるエストロゲン合成で
は,活性型エストロゲンである estradiol は estrone か
ら 17β hydroxysteroid dehydrogenase type1 (17β
トロゲンの腫瘍増殖抑制効果を検討し,エストロゲン
局所合成酵素発現(EST, STS, 17β HSD type 1)に
緒
言
関してホルマリン固定パラフィン標本(132 症例)を
用し免疫組織染色にて評価,新鮮凍結標本(20 例)で
それらの mRNA の定量 RT PCR を行い検討した.
HSD)により合成される.estrone 合成には血中に多く
存 在 す る androstendione か ら aromatase を 介 す る
経路と,
estrone sulfate を estrone に変換する Steroid
sulfatase (STS)があり,逆に Estrone sulfotransfer-
Fig.1 年齢,性差に関係なく存在する E1 S,Androstendione からのエストロゲン局所合成カスケード.
石橋ら−Estrogen inhibits the proliferation of thymic epithelial cells and In situ production of estrogens in human thymoma
方
85
Table 1. The summary of clinical data in 132
patients and 20 patients with thymoma
examined in this study
法
Cell proliferation assay
手術により摘出された新鮮標本を細切,胸腺腫上皮
細胞の初期培養を作製した.
Patients age (yr)
5×10 /ml の細胞を 5% チャコールフィルター処理
済 Fetal bovine serum (FBS)添加 DMEM にて培養,
各濃度(control, 0.1 nM,1 nM,10 nM,100 nM,1,000
nM )の活性型エストロゲンである estradiol を添加し
72 時間後の細胞数を control との比で示した.また
ERαのブロッカーである ICI 182,780 (100 nM )を添
加後,同様に estradiol 添加試験を行った.
M ale
Female
Premenopausal
Postmenopausal
(−)
Tumor size (mm)
1987 年から 2001 年の 15 年間で,仙台厚生病院で手
術された 101 例と東京医科歯科大学胸部外科で手術さ
れた 31 例を対象とした(Table 1).平均年齢は 54 歳,
男 性 58 例,女 性 74 例,重 症 筋 無 力 症 合 併 が 24 例
(18%)
,腫瘍径は平均 60 mm,臨床病期は stage I 67
(51%),II 28 (21%),III 21 (16%),IV 16 (12%),
WHO 類では A 28 (21%),AB 23 (17%),B1 29
n=20
54.0±15.1
54.4±13.2
58 (43%)
74 (57%)
10 (50%)
10 (50%)
38 (29%)
36 (28%)
6 (30%)
4 (20%)
24 (18%)
108 (82%)
3 (15%)
17 (85%)
60.0±25.5
61.3±17.0
67 (51%)
28 (21%)
10 (50%)
4 (20%)
21 (16%)
16 (12%)
3 (15%)
3 (15%)
28 (21%)
23 (17%)
4 (20%)
4 (20%)
Sex
M yasthenia gravis
(+)
患者母集団
n=132
Clinical stage
I
II
III
IV
WHO classification
A
(22%),B2 39 (30%),B3 13 (10%)であった.
新鮮凍結標本を 用した RT PCR 法には仙台厚生
AB
病院で手術された 15 例と東京医科歯科大学胸部外科
で手術された 5 例を対象とした(Table 1).平均年齢
は 54.4 歳,男性 10 例,女性 10 例,重症筋無力症合併
B2
29 (22%)
39 (30%)
4 (20%)
5 (25%)
B3
13 (10%)
3 (15%)
B1
が 3 例(15%),腫瘍径は平均 61.3 mm,臨床病期は
stage I 10 (50%),II 4 (20%),III 3 (15%),IV 3
(15%),WHO 類では A 4 (20%),AB 4 (20%),B1
4 (20%),B2 5 (25%),B3 3 (15%)であった.
; Values represent mean±S.D. Other values
represent the number of cases and percentages
Table 2. Characteristics of primary antibodies employed in immunohistochemistry
Antibody
Source
EST
: PV P2237 (Polyclonal)
STS
: KM1049 (M onoclonal)
17β HSD : (Polyclonal)
type 1
ERα
PR B
Ki 67
Medical Biological Laboratory
(Nagoya, Japan)
Optimal
dilution
1:750
1:3,000
Dr.Van Luu The
1:600
: NCLER 6F11 (M onoclonal) Novocastra Lab.
(Newcastle, UK)
: hPRa2 (M onoclonal)
NeoM arkers Co. Ltd.
(Fremont, CA)
1:50
: MIB 1 (Monoclonal)
1:50
Immunotech
(M arseilles, France)
1:200
86
石橋ら−Estrogen inhibits the proliferation of thymic epithelial cells and In situ production of estrogens in human thymoma
Table 3. Oligonucleotide primer sequences used for RT PCR
mRNA
Sequence
bp
Source/Gen Bank
accession No
EST
FWD 5′AGAGGAGCTTGTGGACAGGA 3′
REV 5′GGCGACAATTTCTGGTTCAT 3′
114
Aksoy et al.
STS
FWD 5′AGGGTCTGGGTGTGTCTGTC 3′
REV 5′ACTGCAACGCCTACTTAAATG 3′
290
Utsumi et al.
17β HSD
Type 1
FWD 5′AGGGCCGCGTGGACGTGCTGGTGTGTAAC 3′
REV 5′CCATCAATCCTCCCACGCTCCCGG 3′
201
GenBank, XM 012644
Aromatase FWD 5′GTGAAAAAGGGGACAAACAT 3′
REV 5′TGGAATCGTCTCAGAAGTGT 3′
215
GenBank, X 13589
GAPDH
307
GenBank, M 33197
FWD 5′TGA ACG GGA AGC TCA CTG G 3′
REV 5′TCC ACC ACC CTG TTG CTG TA 3′
た ICI 182,780 を添加することによって細胞増殖抑制
作用は阻害された(Fig.2B).
免疫組織染色法
ニチレイヒストファインキットにて Streptavidin
biotin amplification method (SAB 法)を 用した.
標本は 24 時間 10% ホルマリンで固定後,パラフィン
包埋された標本を 3μm の厚さに薄切し,脱パラフィ
ン後 10 mM クエン酸で 120 度 5 間オートクレーブ
をかけ,抗原賦活化処理をした.各抗体の詳細,一次
抗 体 希 釈 率 は Table 2 に 示 し た.発 色 は 3, 3
diaminobenzidine solution (DAB)にて行った.
免疫染色の評価
EST,STS,17β HSD type 1 の評価は++ (50%
以上の細胞に染色)
,+ (1 50% の細胞に染色),
−の 3
段階評価とした.性ステロイド受容体
(ERα,PR)
は,
H score (100 個 の 細 胞 核 に お い て 核 染 色 性 を 1 3
(弱,中,強)の 3 段階に評価し 0 300 で評価)を 用
し,H score 50 以上を陽性とした.Ki 67 は Labeling
Index (LI ; 100 個の核のうち,核陽性細胞率)で評価
した.
RT PCR and real time PCR
新鮮凍結標本 20 例から total RNA を抽出し,逆転
写酵素にて cDNA を合成,Roche 社の Light Cycler
にて酵素の mRNA の定量 PCR を行った.プライマー
は Table 3 に示した.
結
果
Cell proliferation assay
Estradiol にて胸腺腫上皮細胞の増殖抑制を認めた
(10 nM ,100 nM ,1,000 nM ; p<0.001) (Fig.2A).ま
EST,STS,17
因子
HSD type 1 の発現と臨床病理学的
いずれの酵素も胸腺腫上皮細胞の細胞質に発現を認
めた(Fig.3).
EST の 発 現 は,++が 22 例(16.6%),+が 55 例
(41.7%),
−が 55 例 (41.7%)
であった.また,EST 発
現は腫瘍径(p=0.0022; + vs. ++, p=0.0003; −
vs. ++),臨床病期 (p<0.0001),WHO 類(p<
0.0001),Ki 67 LI (p=0.0287; − vs. ++)におい
て正の相関関係が認められた.また,ERα H score
(p=0.0006; − vs. ++), PR B H score (p=
で逆相
0.0041; − vs. ++), STS 発現 (p=0.0200)
関が認められた(Table 4A).
(15.2%), +が 57 例
STS の発現は, ++が 20 例
(43.2%),
−が 55 例(41.6%)であった.また,Ki 67
LI (p=0.0077; − vs. +, p=0.0082; − vs. ++),
臨床病期(p=0.0357),WHO 類(p<0.0001)と逆相
関,ERα H score (p=0.0004; − vs. ++, p=
0.0027; − vs. +),PR B H score (p=0.0028; −
vs.++),17β HSD type 1 発現(p=0.0002)と正の
相関を認めた(Table 4B).
17β HSD type 1 の発現は++が 27 例 (20.5%),+
が 46 例 (34.8%),
−が 59 例
(44.7%)
であった.また,
Ki 67 LI (p=0.0012; − vs. +, p=0.0088; −
vs. ++),臨床病期(p=0.008)と正の相関,ERa H
score (p<0.0001 ; − vs. ++ , p= 0.0004 ; −
vs. +),PR B H score (p<0.0001; − vs. ++,p=
0.0003; − vs. +), EST 発現(p=0.0138)逆相関が
認められた(Table 4C).
石橋ら−Estrogen inhibits the proliferation of thymic epithelial cells and In situ production of estrogens in human thymoma
87
Fig.2. A : 胸腺上皮細胞の初期培養細胞は E2 濃度依存性に増殖抑制をきたしている.
B : ICI 182,780(100nM )を添加後,増殖抑制効果は認められない.
EST,STS,17
多変量解析
HSD type 1 の発現と生存曲線,単
EST 陽 性 症 例 は 優 位 に 生 存 率 が よ かった(p=
0.0001) (Fig.4A)が,STS or 17β HSD type 1 では
有意差までは認められなかった
(Fig.4B,4C).単変量
解析では臨床病期(p=0.0017),ERα陽性症例(p=
,EST 発現(p=0.0023),腫瘍径(p=0.0024)
0.0021)
が有意な予後因子となったがさらに多変量解析を行う
と臨床病期(p=00.024),ERα陽性症例(p=0.036),
EST 発現(p=0.0436)が独立した予後因子であった
(Table 5).
討
論
我々はこれまでにヒト胸腺腫において ERαの発現
と Ki 67 LI,腫瘍径が逆相関し,ERα陽性胸腺腫は臨
床病期が早期で,細胞異型度が軽度なものに多く,
ERα陰性胸腺腫に比べ予後がよく,さらに,ERαは独
立した予後因子であることを示した .このことより
エストロゲンはヒト胸腺腫においてその増殖抑制効果
があると考え,
ヒト胸腺腫上皮細胞の初期培養を作成,
estradiol により抑制されることを示した.現在,ヒト
胸腺腫の治療は腫瘍切除を目的として胸腺・胸腺腫摘
出術が基本とされている.
周囲臓器への浸潤症例や,切
除不能症例,播種または転移症例に対しては放射線治
療を中心とした補助療法が行われているが,化学療法
88
石橋ら−Estrogen inhibits the proliferation of thymic epithelial cells and In situ production of estrogens in human thymoma
Fig.3 A,C,E は WHO 類 Type A,B,D,F は Type B3 の胸腺腫.A,B は EST,C,D は STS,E,F は 17β
HSD type 1.いずれも細胞質に発現が認められる.
などの薬物療法は明らかなプロトコールは確立してい
ない.今後,エストロゲンまたはタモキシフェン,ラ
ロキシフェンなどといったエストロゲン受容体を介し
た治療薬がヒト胸腺腫への補助療法の一選択肢となり
うる可能性があると考えられる.
さらに乳癌同様,
エストロゲン依存性の腫瘍として,
局所合成を行っている可能性もあり,エストロゲン局
所合成酵素と臨床病理学的因子の関係について検討し
初めて明らかにした .局所のエストロゲン産生を促
す酵素である STS,17β HSD type 1 は臨床病期が早
期,細胞異型の弱いものほど発現し,逆に局所のエス
トロゲンを 解する EST は臨床病期が進行し,細胞
異型の強いものほど発現していたことより,臨床病期
が早期である胸腺腫では局所でエストロゲンを産生
し,腫瘍増殖を抑えている可能性があると考えられ,エ
ストロゲンを中心とした性ステロイドがヒト胸腺腫の
発生やその増殖に深く関与することが示唆された.
文
献
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石橋ら−Estrogen inhibits the proliferation of thymic epithelial cells and In situ production of estrogens in human thymoma
Table 4A. Correlation between EST immunoreactivity and pathological parameters
in 132 human thymomas
EST immunoreactivity
++ (n=22)
p value
+ (n=55) − (n=55)
50.0±3.7
57.2±1.8
51.4±2.0
0.290
7 (31.8%)
32 (58.2%)
23 (41.8%)
19 (34.5%)
36 (65.5%)
0.405
11 (20.0%)
12 (21.8%)
22 (40.0%)
14 (25.5%)
0.138
13 (23.6%)
42 (76.4%)
10 (18.2%)
45 (81.8%)
0.333
20 (90.9%)
78.0±6.5
58.7±3.3
54.8±3.0
2 ( 9.1%)
2 ( 9.1%)
17 (30.9%)
21 (38.2%)
4 (18.2%)
14 (63.6%)
16 (29.1%)
1 ( 1.8%)
2 ( 9.1%)
1 ( 4.5%)
14 (25.5%)
12 (21.8%)
10 (18.2%) <0.0001
12 (21.8%)
1 ( 4.5%)
7 (31.8%)
8 (14.5%)
17 (30.9%)
20 (36.4%)
12 (21.8%)
11 (50.0%)
3.2±0.2
4 ( 7.3%)
1.6±0.1
1 ( 1.8%)
1.3±0.1
Aromatase mRNA level
(%)
5.12±0.21
3.56±0.11
1.24±0.24
0.0287 ; − vs. ++
0.0087 ; − vs. ++
0.0157 ; − vs. +
ERα H score
46.3±10.4
22.3±11.0
71.5±7.9
46.3±9.6
93.3±4.2
68.4±6.2
0.0006 ; − vs. ++
0.0041 ; − vs. ++
+
3 (13.6%)
8 (36.4%)
13 (23.6%)
27 (49.1%)
−
11 (50.0%)
15 (27.3%)
Patients age
Sex
M ale
Female
15 (68.2%)
Female
Premenopausal
5 (22.7%)
Postmenopausal
10 (45.5%)
M yasthenia gravis
(+)
(−)
Tumor size (mm)
2 ( 9.1%)
0.0022 ; + vs. ++
0.0003 ; − vs. +
Clinical stage
I
II
III
IV
44 (80.0%) <0.0001
9 (16.4%)
1 ( 1.8%)
1 ( 1.8%)
WHO classification
A
AB
B1
B2
B3
Ki67 LI
PR B H score
STS immunoreactivity
++
4 ( 7.3%)
0.0200
22 (40.0%)
29 (52.7%)
; Data are presented as mean±95% confidence interval (95% CI).
All other values represent mean±SEM. p<0.05 was considered significant.
; n=20
89
90
石橋ら−Estrogen inhibits the proliferation of thymic epithelial cells and In situ production of estrogens in human thymoma
Table 4B. Correlation between STS immunoreactivity and pathological parameters
in 132 human thymomas
STS immunoreactivity
++ (n=20)
Patients age
53.6±3.6
p value
+ (n=57) − (n=55)
54.0±1.9
51.6±2.1
0.697
Sex
M ale
Female
12 (60.0%)
8 (40.0%)
24 (42.1%)
33 (57.9%)
22 (40.0%)
33 (60.0%)
0.286
5 (25.0%)
3 (15.0%)
16 (28.1%)
17 (29.8%)
17 (30.9%)
16 (29.1%)
0.572
Female
Premenopausal
Postmenopausal
M yasthenia gravis
(+)
8 (40.0%)
9 (15.8%)
8 (14.5%)
0.053
12 (60.0%)
50.6±3.5
48 (84.2%)
62.2±3.6
47 (85.5%)
61.8±3.6
0.185
12 (60.0%)
5 (25.0%)
33 (57.9%)
14 (24.6%)
18 (32.7%)
13 (23.6%)
2 (10.0%)
1 ( 5.0%)
4 ( 7.0%)
6 (10.5%)
15 (27.3%)
9 (16.4%)
11 (55.0%)
3 (15.0%)
14 (24.6%)
14 (24.6%)
2 (10.0%)
3 (15.0%)
15 (26.3%)
10 (17.5%)
12 (21.8%)
23 (41.8%)
1 ( 5.0%)
1.42±0.13
4 ( 7.0%)
1.58±0.11
11 (20.0%)
2.11±0.13
Aromatase mRNA level
(%)
1.99 ±0.51
3.32±1.42
2.43±0.96
ERα H score
105.3±1.8
83.6±4.9
54.4±7.7
0.0004 ; − vs. ++
0.0027 ; − vs. +
PR B H score
83.0±1.2
56.4±7.6
31.1±8.4
0.0028 ; − vs. ++
(−)
Tumor size (mm)
Clinical stage
I
II
III
IV
0.0357
WHO classification
A
AB
B1
B2
B3
Ki67 LI
17β HSD type 1
Immunoreactivity
++
+
11 (40.8%)
8 (29.6%)
−
8 (29.6%)
1 ( 1.8%) <0.0001
8 (14.5%)
5 (10.9%)
4 ( 6.7%)
26 (56.5%)
15 (32.6%)
23 (39.0%)
32 (54.2%)
0.0077 ; − vs. +
0.0082 ; − vs. ++
0.539
0.0002
; Data are presented as mean±95% confidence interval (95% CI).
All other values represent mean±SEM. p<0.05 was considered significant.
; n=20
石橋ら−Estrogen inhibits the proliferation of thymic epithelial cells and In situ production of estrogens in human thymoma
Table 4C. Correlation between STS 17β HSD type 1 immunoreactivity and pathological parameters in 132 human thymomas
17β HSD type 1 immunoreactivity
++ (n=27)
p value
+ (n=46) − (n=59 )
56.8±2.8
53.7±2.0
50.6±2.1
0.191
10 (37.0%)
17 (63.0%)
21 (45.7%)
25 (54.3%)
27 (45.8%)
32 (54.2%)
0.720
Premenopausal
7 (25.9%)
10 (37.1%)
13 (28.3%)
12 (26.0%)
18 (30.5%)
14 (23.7%)
0.138
Postmenopausal
11 (23.9%)
35 (76.1%)
15 (25.4%)
44 (74.6%)
0.141
18 (67.7%)
56.9 ±4.6
53.3±3.0
60.3±3.7
0.076
14 (51.9%)
9 (33.3%)
28 (60.9%)
12 (26.1%)
21 (35.6%)
11 (18.6%)
0.008
2 ( 7.4%)
2 ( 7.4%)
3 ( 6.5%)
3 ( 6.5%)
16 (27.1%)
11 (18.6%)
11 (40.8%)
3 (11.1%)
8 (17.4%)
11 (23.9%)
7 (11.9%)
11 (18.6%)
B2
4 (14.8%)
6 (22.2%)
11 (23.9%)
14 (30.4%)
14 (23.7%)
16 (27.2%)
B3
3 (11.1%)
2 ( 4.4%)
11 (18.6%)
Ki67 LI
1.50±0.13
1.47±0.11
2.07±0.14
0.0012 ; − vs. +
0.0088 ; − vs. ++
Aromatase mRNA
level (%)
3.11±0.82
2.58±1.21
1.88±1.02
0.053
ERα H score
103.3±2.2
86.4±3.6
53.9 ±6.6 <0.0001 ; − vs. ++
0.0004 ; − vs. +
PR B H score
78.5±3.8
64.9 ±6.4
26.4±6.4 <0.0001 ; − vs. ++
0.0003 ; − vs. +
Patients age
Sex
M ale
Female
Female
M yasthenia gravis
(+)
(−)
Tumor size (mm)
9 (33.3%)
Clinical stage
I
II
III
IV
WHO classification
A
AB
B1
EST immunoreactivity
++
+
−
3 (11.1%)
4 ( 8.7%)
14 (51.9%)
10 (37.0%)
17 (37.0%)
25 (54.3%)
15 (25.4%)
24 (40.7%)
0.057
0.0138
20 (33.9%)
; Data are presented as mean±95% confidence interval (95% CI).
All other values represent mean±SEM. p<0.05 was considered significant.
; n=20
91
92
石橋ら−Estrogen inhibits the proliferation of thymic epithelial cells and In situ production of estrogens in human thymoma
Fig.4 それぞれの酵素発現と予後.EST が発現している胸腺腫ほど有意に予後が悪い.
Table 5. Univariate and multivariate analyses of overall survival in 132
thymoma patients
Univariate
Multivariate
Variable
Relative risk (95% CI)
p
p
Clinical Stage
(II, III, IV/I)
ERα(−/+)
0.0017
0.0239
5.783 (1.709 47.196)
0.0021
0.0355
EST(++, +/−)
0.0023
0.0436
4.786 (1.143 21.959 )
2.509 (1.126 5.263)
Tumor size
(>60 mm/≦60 mm)
0.0024
Female
0.0620
(Premenoposal/Postmenoposal)
PR B (−/+)
0.4694
Sex (male/female)
0.7033
東北医誌 116: 93-96,2004
第 77 回日本薬理学会年会優秀発表賞
脳アミロイド斑を生体画像化する新規 PET トレーサーの開発
岡
村
信
東北大学大学院医学系研究科
Abstract
The pathological hallmark ofAlzheimers disease
(AD) is the deposition of
amyloid plaques (APs) and
neurofibrillary tangles.
The deposition of APs is
regarded as a critical event
for the pathogenesis of AD.
Previous pathological studies indicated that the
earliest deposition of APs is suspected to occur
before any detectable cognitive decline. Therefore, noninvasive imaging of brain APs is considered to be ideal diagnostic method for preclinical
detection of AD. For in vivo detection of APs in
the brain, a radiotracer that can permeate the
blood brain barrier and selectively bind APs is
indispensable to the examination using positron
emission tomography or single photon emission
computed tomography. We have developed a
series of promising compounds for in vivo imaging
amyloid deposits. One of these compounds, BF
168, achieves high binding affinity for amyloid β
fibrils. To investigate in vivo binding property of
BF 168 to APs, F labeled BF 168 was intravenously administered to APP transgenic mice. Brain
slices at 180 min post injection demonstrated
specific binding of BF 168 to amyloid plaques in the
brain. These data emphasize the potential usefulness of this compound and its derivatives as in vivo
imaging tracer for early diagnosis of AD.
key words: Alzheimers disease, amyloid, plaque,
imaging, positron emission tomography (PET)
行
細胞・病態薬理学
野
1. は じ め に
痴 呆 の 最 大 の 原 因 疾 患 で あ る ア ル ツ ハ イ マー病
(Alzheimers disease: AD)は高齢化社会の進展とと
もに増加の一途をたどっており,30 年後には患者数が
倍増すると推定されている.AD の進行抑制に一定の
効果がある塩酸ドネペジルが発売されて以降,AD は
なるべく早期に診断し,治療を開始すべき疾患として
広く認識されつつある.しかしながら現在の AD 診断
プロセスは神経心理学的評価に大きく依存しているた
め,臨床症状が顕著な中等度∼重度の痴呆患者を診断
することは容易であっても,認知障害が顕著ではない
早期の症例をスクリーニングする診断精度は必ずしも
十 とはいえないのが現状である.したがって,病初
期の AD 患者を高精度かつ非侵襲的に見出すことの
できる客観的な診断法の開発が強く望まれている.
2. アミロイドイメージングとは
AD に特徴的な脳病理所見は,神経細胞の脱落,およ
びアミロイド β蛋白(Aβ)
,タウ蛋白のそれぞれが β
シート構造を形成してできた凝集物であるアミロイド
斑
(老人斑)
,神経原線維変化の脳内蓄積である.この
アミロイド斑と神経原線維変化は,物忘れ症状が出現
する 20∼30 年前の段階から脳内への蓄積が始まると
考 え ら れ て い る .臨 床 的 に は ご く 早 期 の Mild
cognitive impairment(MCI)に相当する段階におい
てでさえも,神経細胞の脱落およびアミロイド斑の脳
内蓄積は既にかなり進行しているといわれている .
近年,このアミロイド斑を生体画像化する アミロイ
ドイメージング と呼ばれる画像診断技術が注目を浴
びている.本技術を実用化する上で最も有力と考えら
れている手法は,アミロイド斑と選択的に結合し脳移
行性の高い放射性薬剤をトレーサーとして静脈内投与
し,Positron emission tomography(PET)や Single
photon emission computed tomography(SPECT)を
用いてその脳内 布を計測する方法である.PET や
94
岡村−脳アミロイド斑を生体画像化する新規 PET トレーサーの開発
SPECT の空間 解能を考慮すると,個々のアミロイ
ド斑(直径 60μm 前後)を 別できるレベルで画像化
そのままトレーサーとして 用することはできない.
そこでこれらの誘導体の中から,
BBB 通過性の高い化
することは困難である .しかしながら,AD 患者の脳
内には神経受容体の数倍∼数百倍の高濃度の Aβが存
在すると考えられるため,PET の感度をもってすれ
ば,脳組織内のアミロイド斑の密度を計測することは,
合物を探索することにより,アミロイドイメージング
用トレーサーの開発が進められてきた.初期の研究に
おいて,Congo red の誘導体である Chrysamine G ,
BSB ,X 34 などがトレーサー候補化合物として相
原理的に十 可能とみられている .
次いで報告されたものの,いずれも BBB 透過性が不
十 な た め 実 用 化 に は 至 ら な かった.続 い て
Thioflavin T の誘導体である BTA 1(PIB) や独
自の化学構造をもつ FDDNP
,IM PY などの新
3. トレーサー開発の歴
アミロイド斑の生体画像化の成功の鍵を握るのは,
アミロイド斑を特異的に認識するトレーサーの特性で
ある.特に,(1) 標的との高い結合特異性,(2) 高い
規トレーサーが相次いで報告されており,一部の化合
物では海外での臨床試験が既に開始されている .
脳−血液関門(BBB)透過性,(3) 非標的部位からの
速やかなクリアランス,の 3 条件は,トレーサーが備
えるべき必須条件といえる.
我が国では,㈱ ビーエフ研究所と東北大学の共同研
前述のとおり,アミロイド斑は βシート構造を形成
しているため,この βシート構造を認識する化合物は
トレーサーの候補となり得る.βシート構造に選択的
に結合する化合物としては,
Congo red と Thioflavin
が古くから病理用染色剤として
用されてきた.た
T
だしこれらの化合物は BBB 透過性を有しないため,
究グループがアミロイドイメージング用トレーサーの
開発に早くから着手し,Acridine orange の誘導体で
ある BF 108 がアミロイド斑に選択的に結合し,BBB
透過性を有することを報告した
.さらに我々は,
よりもアミロイド斑との結合親和性,
BF 108
BBB 透
過性に優れた新規化合物 BF 168 を見出した .BF
4. 新規トレーサーBF 168 の開発
図 1. アルツハイマー病患者側頭葉脳切片における BF 168 の染色像(左)とその連続切片における Aβ免疫
染色像(右)
.Bar=100μm
図 2. [ F]BF 168 をマウス尾静脈より静注し 3 時間後に摘出した脳標本におけるオートラジオグラ
フィー像.
野生型(Wt)マウスの脳切片(左)では明らかな集積を認めないが,APP23 トランスジェニック(Tg)マ
ウスの脳切片(右)では,大脳皮質,海馬,嗅内皮質においてアミロイド斑の蓄積に一致したトレーサーの
集積を認めた.
岡村−脳アミロイド斑を生体画像化する新規 PET トレーサーの開発
95
168 は強い蛍光を有する化合物であり,AD 患者脳切
片における染色では,Aβ免疫染色像とほぼ一致した
福祉村病院の赤津裕康先生,山本孝之先生,APP23 ト
ランスジェニックマウスを提供していただいたノバル
染色像が観察される(図 1)
.また BF 168 をポジトロ
ン放出元素である F で標識し,マウスへの静注投与
を試みたところ,AD の疾患動物モデルである APP ト
ランスジェニックマウス脳内のアミロイド斑がオート
ティスファーマ社にも深謝いたします.
ラジオグラフィーで明瞭に描出され,アミロイド斑の
蓄積しない野生型マウスとの際立った差を認めた(図
.現在,本化合物の誘導体をトレーサーとして用い
2)
た臨床試験を実施すべく,薬剤の有効性と安全性の確
認を進めている.
4. 今後の課題
アミロイドイメージングは,AD 早期診断の精度を
高めるにとどまらず,発症前段階でのスクリーニング
をも可能にし,さらには脳内アミロイド斑蓄積量のモ
ニタリングや治療評価への応用も期待されている.今
後,本診断技術を痴呆症の臨床の場に定着させるには,
既存のトレーサーが抱える問題点を克服し,非侵襲的
で信頼性の高い定量法を確立することが重要である.
また発症前診断法を確立するためには,正常加齢と
AD との 岐点を明らかにする必要があり,正常高齢
者を含む多数の症例の蓄積と長期にわたるフォロー
アップが求められる.
6. お わ り に
我が国では,今後本格的な高齢化社会を迎えるにあ
たって,痴呆・寝たきりの患者数を減少させることが
社会的急務となっている.そのためには従来の対症療
法のみの治療体制では不十 であり,予防的治療のス
トラテジーを確立する必要がある.そのような意味に
おいて,痴呆症の最大の原因疾患である AD の発症前
診断法を確立することは,治療法の開発と並行して進
められるべき重要な課題といえる.ただし,AD の発症
前診断を行う場合,患者への告知をどうするのかとい
う問題が必ず浮上するので,この点については社会的
な議論が必要になるであろう.
謝
辞
本研究を支援していただいた東北大学先進医工学研
究機構の工藤幸司先生,㈱ビーエフ研究所の澤田徹先
生,末元隆寛氏,島津浩氏,鈴木雅子氏,塩満剛氏に
深謝いたします.また,脳標本を提供していただいた
文
献
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東北医誌 116: 97-98,2004
平成 15 年度
氏 名
野・診療科
(部)名
各
野における各種学会賞等の受賞者
受賞学会
(研究会)等名
受 賞 名
受賞年月
青木 大志
泌尿器科学 野
第 91 回日本泌尿器科 第 91 回日本泌尿器科学会
学会 会
会賞(ポスター)
2003 年 4 月
伊藤 明宏
泌尿器科学 野
第 91 回日本泌尿器科 第 91 回日本泌尿器科学会
学会 会
会賞(ビデオ)
2003 年 4 月
和田 裕子
眼科
日本眼科学会
学術奨励賞
2003 年 4 月
萩原
再生治療開発
野
日本内 泌学会
若手研究奨励賞
2003 年 5 月
若山 裕司
循環器内科
日本ペーシング学会
JASPE Original 賞
2003 年 5 月
上野 誠司
泌尿器科学 野
第 12 回日本がん転移 第 12 回日本がん転移学会
学会学術集会
学術集会優秀演題賞
2003 年 6 月
第 8 回高血圧と動脈
化研究会
2003 年 6 月
英
菅原
明
長坂
誠
合診療部
優秀賞
内部障害学 野
日本リハビリテーショ
論文賞(奨励賞)
ン医学会
加賀谷 豊
循環器内科
武田科学振興財団
平成 15 年度武田科学振興
財団報償基金研究奨励賞
2003 年 8 月
伊藤
加齢核医学科
日本核医学会
第 8 回日本核医学会機関誌
最優秀論文賞
2003 年 10 月
後藤 順一
薬剤部
クロマトグラフィー科 2003 年 度 ク ロ マ ト グ ラ
学会
フィー科学会学会賞
2003 年 11 月
和田 裕子
眼科
長寿科学振興財団
長寿研
2003 年 10 月
齋藤 久美
人間行動学 野
2004 年度 IBSClub
特別奨励賞
Tamer Hassan
神経病態制御学
野
第 19 回日本脳神経血 Gold prise as the best
2003 年 11 月
管内治療学会
poster
小児科
東北大学小児科同窓会 荒川記念賞
浩
宗形 光敏
岩崎 隆雄
高瀬
圭
消化器内科
放射線診断科
学術奨励賞
2003 年 6 月
2003 年 11 月
2003 年 11 月
RSNA2003(北米放射 infoRAD 部 門 Certificate
2003 年 12 月
線学会)
of Merit
平成 14 年度治験実施優良
者表彰
RSNA2003(北米放射
Certificate of Merit
線学会)
2003 年 12 月
2003 年 12 月
98
平成 15 年度
氏 名
野・診療科
(部)名
各
野における各種学会賞等の受賞者
受賞学会
(研究会)等名
受 賞 名
受賞年月
髙橋伸一郎
検査部
American Society of
Travel Award
Hematology
2003 年 12 月
日向野修一
放射線診断科
RSNA2003(北米放射
Certificate of Merit
線学会)
2003 年 12 月
遺伝子医療開発
野
薬学会東北支部
2003 年 12 月
加賀谷 豊
循環器内科
H15 American Heart Poster Competition Final2003 年
Association 学術集会 ist in Clinical Research
佐藤
循環器内科
H15 American Heart Poster Competition Final2003 年
Association 学術集会 ist in Basic Research
原 光伸
雄
学術奨励賞
佐藤 達也
子神経研究
野
第 11 回加齢医学研究所研
究奨励賞
白石 泰之
病態計測制御研
究 野
第 32 回人口心臓と補
若手研究者賞
助循環懇話会
2004 年 1 月
岩崎 隆雄
消化器内科
第 10 回肝血流動態イ
板井悠二賞
メージ研究会
2004 年 2 月
片岡ひとみ
内部障害学 野
日本ストーマリハビリ
ハイライト賞
テーション学会
2004 年 2 月
箕浦 貴則
小児病態学 野
第 3 回日韓ヘリコバク
ポスター賞
ター合同会議
2004 年 2 月
石橋 洋則
呼吸器再 研究
野
AACR (American S cholar in T raining
Association of Can- Award for the AACR
cer Research)
95th Annual M eeting
2004 年 3 月
岡村 信行
細胞薬理学 野
第 77 回日本薬理学会
優秀発表賞
年会
2004 年 3 月
2004 年 1 月