筋の厚さ(量)と硬さ(質) - 明治安田厚生事業団

第 >D 回健康医科学研究助成論文集
平成 ?G 年度 JJ:?>F∼?<<(>==G:<)
筋の厚さ(量)と硬さ(質)から筋力を推定する方法の開発
村 木 里 志* 福 田 修** 福 元 清 剛*
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緒 言
発揮を要する。そのため、身体機能が低下してい
る運動不足者や中高齢者においては、筋力測定に
筋力およびその評価は、体力維持ならびに介護
より筋肉や関節を痛めるケースが少なくなく、危
予防において重要である。筋力の測定にはさまざ
険性を伴う場合がある。このような問題から安全
まな方法があるが、そのほとんどが最大限の筋力
に筋力を評価できる方法が求められている。ま
九州大学大学院芸術工学研究院 %62)4K/5'"()*'1/ )"%!!"L0':
産業技術総合研究所生産計測技術研究センター / /$/'2',// 6M/'/ "N'2A'/4+&1'6/&A'& 26/'6/'&./6'2;
5)"5"L0':
* ** (?>C)
た、筋力維持・向上が必要な運動不足者ほど筋力
から評価する手法がよく用いられている F"?<)。し
評価が重要である。運動施設だけでなく、職場や
かし、得られる反力は皮下脂肪ならびに筋の硬度
地域などのフィールドに容易に運べて、手軽に評
を総合的に反映したものであり、筋のみの硬度を
価できることも大切となる。
区別できないという大きな問題を抱えている。そ
筋力の発揮を伴わずに筋力を評価する手段に筋
のような背景から、共同研究者の福田は個々の組
肉の量(筋量)の測定などがある。筋量を表す筋
織(皮下脂肪,筋)の厚さと硬度を同時に計測で
、筋力の推定
。
きる超音波弾性計測装置を開発した >"?D)(図 ?)
には有用である。筋横断面画像を得るためには
本装置は小型でもあることからフィールド測定に
,A($5'/6 /''6/$5'5)や M.(6$;
も対応する。もし、当装置にて筋厚と筋硬度によ
0/&$5 0))などの大型装置が必要となる。
る筋力の推測がある程度可能であれば、筋力の有
しかし、これらの装置には可搬性がなく、また大
効な評価方法になると期待できる。
勢を短時間で計ることが難しいなどの短所が多
以上のことから本研究は、超音波弾性計測装置
く、フィールドでの測定には不向きである。一
により得られる筋厚および筋硬度により、どの程
方、筋横断面積は二次元の量であり、その一次元
度、筋力を推定できるかを検討した。本研究で
の量である筋の厚さ(筋厚)は筋横断面積と相関
は、若年者の肘関節屈曲(以下,肘屈曲)の主動
横断面積は筋力との相関が高く
?"<"H"G)
<"?="??)
。それゆえ、筋厚は筋力を推定す
筋である上腕前部の筋(上腕二頭筋)と膝関節伸
る有用な指標となると考えられる。筋厚は超音波
展(以下,膝伸展)の主動筋である大腿前部の筋
法により容易に計測が可能である。超音波装置自
(大腿直筋および中間広筋)を対象にして検証し
関係をもつ
体 も 小型化 が 進 ん で 持 ち 運 び が 容易 に な り、
フィールド測定も可能になっている。
しかしながら、筋厚は筋量の一次元の量であ
た。
超音波弾性計測装置の仕組み
り、二次元の量を表す筋横断面積より情報量が劣
表 ? に超音波弾性計測装置の仕様を示した。当
り、筋力の推定能力は低下すると考えられる。そ
装置はメインユニットとセンサユニットからな
こで我々は、筋の量的な面に加え、質的な面、す
なわち筋の硬度(筋硬度)も推定要因に加えるこ
とにより、筋力の推定能力が高まるのではないか
と考えた。高い筋力を発揮する筋とそうでない筋
との間に組成や密度に違いがあれば、筋の硬度が
異なる可能性がある。筋硬度の計測は、皮膚表面
よりある一定の圧を筋肉に向けて与え、その反力
表 ? .超音波弾性計測装置の仕様
.72/?:0/646'4//26)$/ '5' $/'
'52 '&5'2(9*):
'*'
PQ2/ /0//&4 /R/'6)I<!BS
P6'&/0I?==$$
P$02'54 /R/'6)I>DBS
PM$$'6'/&I*T?:?U?>70V
PK$/''IH=UWV
X?C=UKVX?<=UBV$$
PW/5I+00 8:>!5
PQ3/ 002)I+M?==Y"H=ZF=BS
PQ3/ 6'$0'I<=W
/' *'
図 ? .超音波弾性計測装置の外観
%5:?:./00/ '6/49*(/26)$/ '5' $/'
'5'2 '&5'2):
P*0 7/4 /R/'6)I<BS
PK$// 4/*/2/$/'I?D$$
PK$// 4/6'6 46/ID=$$
PM'60 / /I?=N
PM$0 /'$/6'$IM20 '5U !/?=$$V
P. 55/ IB5;0 /6'0;'/ 0/
PK$/''ID?UK$// V
X?D=U[/'5V
$$
PW/5I+00 8:?@=5
P+6/&672/I>$
(?>@)
る。センサを対象とする筋肉の表面上にある皮膚
る。それゆえ、筋の変位量を比較する場合は、そ
に当てる。その向きは対象とする筋肉に垂直と
れらの要因を除去する必要がある。
し、その延長上には骨が位置するように調整す
方 法
る。センサからは超音波が発射され、そのエコー
(反射波)が記録される。エコーにより皮下脂肪
と筋、筋と骨の境界、筋が複層ある場合はその境
A.被験者
?@∼>@ 歳の健康な男性 <= 名(年齢:>>:H±?:G
界の深さが計測できる。またセンサを筋肉に向け
歳,身 長:?C?:G±F:G6$,体 重:F>:@±?=:=!5)
て 垂直 に 押 す と、一定 の 圧(?=N)が 加圧(押
お よ び 女 性 >> 名(年 齢:>?:D±>:D 歳,身 長:
圧)される仕組みになっており、同時に押圧中の
?H@:C±<:G6$,体 重:DG:C±H:?!5)の 計 H> 名 を
エコーが記録できる(図 >,<)
。その結果、押圧
被験者とした。被験者のなかには、上肢および下
前および押圧中のエコーから、押圧による皮下脂
肢に整形外科的な症状や痛みがある者は含まれて
肪および筋の厚みの変化、すなわち変位量(式
いない。被験者には事前に研究の趣旨、内容を説
(?))が計測できる。変位量が大きいほど柔らか
明し、同意書を得た。なお、当研究は九州大学大
い、小さいほど硬いことになる。
学院芸術工学研究院・実験倫理委員会の承認を受
変位量
($$)=押圧前 の 組織厚
($$)−押圧後
けている。
の組織厚
($$)…式(?)
B.実験手順
ただし、押圧は皮膚表面より与えられるため
超音波弾性計測装置により上腕前部と大腿前部
に、筋の変位量は、筋自身の厚みならびに皮下脂
の皮下脂肪および筋の厚みおよび変位量を計測し
肪の厚みや硬度の影響を受けることが考えられ
た。両部位ともベッド上で仰臥位姿勢にて計測し
た。上腕前部は、肘を完全に伸展した状態にし、
肘窩が真上を向いた姿勢にて計測した(図 D)。
計測位置は上腕骨長の肩峰点から FH%の位置と
した。大腿前部は、膝を完全に伸展した状態に
し、膝が真上を向いた姿勢にて計測した(図 D)。
計測位置は大腿骨の H=%の位置とした。計測時
には全身をリラックスするように指示した。計測
図 > .超音波弾性計測装置による各組織の硬度計測の仕組
み
%5:>:/6'$4 $/ '5 &'/4'&1&2/
'59*:
+'/ 00/ $
+'/ 5
図 < .超音波弾性計測装置による計測画像の例
%5:<:+'$5/7'/&7)/9*:
図 D .筋硬度の測定姿勢
%5:D:Q /4 $/ '5$62/ &'/:
(?>G)
は対象とする皮膚上に超音波用ジェルを塗布し、
を行うように指示した。肘屈曲および膝伸展とも
筋肉に対してプローブを垂直に当て、パソコン画
それぞれ > 回実施し、高いほうの数値を用いた。
面にて超音波エコーから各境界が観察されている
C.筋硬度指標値の算出
ことを確認した後、プローブを垂直に押し込ん
筋の変位量は筋厚ならびに上部組織である皮下
だ。
脂肪の変位量および厚みに影響を受けることが予
両部位とも、超音波エコーから皮下脂肪と筋お
想される。そのため、超音波弾性計測装置による
よび筋と骨の境界を識別し、それぞれの押圧前お
筋の変位量と他の計測値との相関係数を調べた
よび押圧後の変位量を算出した。上腕前部は上腕
(表 >)
。有意な相関関係が認められた項目は、筋
二頭筋が対象となる。大腿前部においては、大腿
厚のみであった。それゆえ、本研究では筋厚のみ
直筋と中間広筋を ? つの筋とみなして扱った。各
により補正を行うことにした。筋厚と変位量との
部位の計測回数は H 回とし、最大および最小値を
関係を図 H に示した。回帰式は、
はずした平均値を算出した。
上腕前部 )==:?GD8+<:H>…式(>)
計測時間帯を決めるに当たっては事前に予備実
大腿前部 )==:><F8+?:GG…式(<)
験を実施した。@ 名の被験者(男性)を対象に G
8:筋厚
($$)
、):筋の変位量
($$)
時から ?@ 時の間、座業的な生活において筋硬度
である。この回帰式の上部に位置する場合は、同
関連値を < 時間ごとに計測した。分散分析の結
じ筋厚の者と比べ、筋の変位が大きい(柔らか
果、いずれの計測値においても時間の有意な主効
い)といえる。逆に下部に位置する場合は、筋の
果は認められなかったため、日内変動はないと考
変位が小さい(硬い)といえる。本研究では次
え、計測時間帯は特に定めなかった。また、被験
の式により筋厚の影響を取り除いた筋硬度指数
者には実験前に激しい運動を行わないように指示
('&/84$62/ &'/\AB)を 算出 し た。当
した。
指数が大きいほど筋が硬い、小さいほど柔らかい
筋硬度の計測後、右肘屈曲および右膝伸展の最
ことになるように式を作成した。
大等尺性筋力を測定した。測定にはデジタル力量
上腕前部 AB=?−[/(=:?GD7]<:H>)
]
計および張力用アタッチメント(.((?>FG,竹
井機器工業)ならびに多用途筋パワー測定装置
…式(D)
大腿前部 AB=?−[/(=:><F7]?:GG)
]
(竹井機器工業)を用いた。椅子に座った被験者
…式(H)
の体幹をベルトで固定した。肘屈曲では、右肘を
AB:筋硬度指数、:筋の変位量
($$)
、7:
G= 度に屈曲させて右上腕をアームレスト上にの
筋厚
($$)
せる姿勢をとり、ベルトを右手首に装着させた。
この式により各被験者の AB を算出した。そ
膝伸展では両膝を G= 度に屈曲させ、右足首部に
の結果、上腕前部および大腿前部のレンジはそれ
ベルトを装着させた。上肢は胸部の前で前腕を交
ぞ れ−=:D?∼=:<G(標準偏差 =:?H)お よ び−=:>F
差させた。そして、最大限の肘屈曲および膝伸展
∼=:>D(標準偏差 =:?>)となった。なお、AB と
を数秒間維持させた。また肘屈曲では上腕前部、
筋厚には相関関係は認められず(上腕前部: =
膝伸展では大腿前部の筋のみを用いて所定の動作
−=:==@,大腿前部: =−=:=>D)、AB は筋厚と
表 > .超音波弾性計測装置による筋の変位量と他の計測値との相関係数
.72/>:M /2'6/446/'46'5/'6!'/4/$62/(M.)/ $/ /&1 72/7)/9*:
Y 72/
M /2'6/446/'M.
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.5U'_H?V
.6!'/476'/4
`=:>D<
`=:?HD
M'5/'6!'/476'/4
.6!'/4$62/
`=:>@?
P=:FC=^^
`=:>DH
P=:C@@^^
^^E<=:=?:
Change in thickness
of muscle [mm]
(?<=)
12
Upper arm
は独立した指数となっている。
D.統計処理
筋力と筋厚、筋変位量ならびに AB との相関
9
係数はピアソンの積率相関係数を用いた。また、
独立変数を筋厚および AB、従属変数を筋力と
した重回帰分析を行った。有意水準は H%未満と
6
y = 0.194x + 3.52
r = 0.670, <0.01
3
10
15
20
25
30
Thickness of muscle [mm]
した。
結 果
35
表 < に超音波弾性計測装置によって得られた主
Change in thickness
of muscle [mm]
要数値および最大等尺性筋力値を男女別に示し
16
た。一部の被験者において、組織間の境界が明確
Thigh
でないケースがあり、分析から省いた。なお、こ
れ以降の分析は男性および女性の計測値を合わせ
12
て扱った。
筋厚と筋力との関係、ならびに A と筋力と
の 関係 を そ れ ぞ れ 図 F(上腕前部)お よ び 図 C
8
(大腿前部)に示した。肘屈曲筋力は上腕前部の
y = 0.236x + 1.99
r = 0.788, <0.01
4
20
30
40
50
Thickness of muscle [mm]
筋厚のみ有意な正の相関関係が認められた( =
=:CD<,E<=:=?)
。一方、膝伸展筋力 は 大腿前部
60
の 筋厚( ==:F>>,E<=:=?)と AB( ==:<H@,
図 H .筋厚と筋変位量との関係(上図:上腕前部,下図:
大腿前部)
%5:H:./ /2'07/3//'6!'/4/$62/'&
6'5/'/6!'/4/$62/'/'/ 00/ $(05 0)'&'/ 5(7$5 0):
E<=:=H)の両者に有意な正の相関関係が認めら
れた。
筋厚と AB を独立変数、筋力を従属変数とし
た重回帰分析を行った。その結果、下記の式が得
られ、筋力の推定式とした。
表 < .超音波弾性計測装置による主要計測値および筋力値
.72/<:Y2/4$'$/ /&1 72/7)9*'&$8$2$/ 6 /'5'$2/'&4/$2/
7a/6:
Y 72/
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.6!'/4%U$$V
M'5/'6!'/4%U$$V
.6!'/4$62/U$$V
M'5/'6!'/4$62/U$$V
A4/27342/8'U!54V
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.6!'/4%U$$V
M'5/'6!'/4%U$$V
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2/
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(?<?)
40
40
40
30
30
30
20
20
20
10
10
10
0
10
15
20
25
30
0
−0.3 −0.2 −0.1 0
35
ns
0
0.1 0.2 0.3
5
15
25
35
55
40
25
r = 0.622
< 0.01
10
20
30
40
50
60
70
Measured strength [kgf]
70
Measured strength [kgf]
Measured strength [kgf]
図 F .上腕前部の筋厚、A. および > 変数による推定値と肘屈曲筋力の実測値との関係
%5:F:,/2'04/6!'/4$62/"''&/84$62/ &'/(AB)'&0 /&6/&$8$$$/ 6(A)
/'5'5//346 '/0/ 00/ $$/ /&A4/27342/8':
r = 0.358
< 0.05
55
40
25
10
−0.3 −0.2−0.1 0
Thickness of muscle [mm]
IMH
0.1 0.2 0.3
70
55
40
25
10
10
r = 0.726
< 0.01
25
40
55
70
Estimated strength [kgf]
図 C .大腿前部の筋厚、AB および > 変数による推定値と膝伸展筋力の実測値との関係
%5:C:,/2'04/6!'/4$62/"''&/84$62/ &'/(AB)'&/$/&$8$2$/ 6(A) /'5
'5//346 '/'/ 5$/ /&A4!'///8/'':
肘屈曲筋力(上腕前部)
せずリスクを伴わない。また、今回は計測精度を
==:GH7+<:<@AB−>:FG …式(F)
高めるために ? 部位に対して H 回の計測を繰り返
膝伸展筋力(大腿前部)
したが、その時間は D 分程度であった。しかし、
=?:>G7+<@:DAB−@:>? …式(C)
その多くはパーソナルコンピュータ上の情報処理
:筋力推定値(!54)、7:筋厚
($$)
、AB:
に要する時間が大半であり、プログラムの改善を
筋硬度指数
行い、計測の繰り返し数を少なくすれば、準備も
これらの推定式によって得られた値と実測値と
含めて > 分程度で計測が終了できる見込みであ
の関係を図 F(肘屈曲)および図 C(膝伸展)に
る。更に、装置そのものも小型・軽量であり持ち
示した。重相関係数は肘屈曲筋力では ==:CDF、
運びが容易である。もし、当装置による筋厚およ
膝伸展筋力で ==:C>F となった。膝伸展筋力に
び筋硬度から筋力がある程度推定可能であれば、
おいては、筋厚のみよりも、筋厚と AB を組み
フィールドでの評価に有効であると考えられる。
合わせた推定式のほうが、相関係数が高くなり、
超音波弾性計測装置によって得られた筋の変位
決定係数 が =:<@C から =:H>@ に上昇した。
量には筋厚と正の相関関係が認められた。著者ら
>
考 察
は人工材料(人肌ゲル,エクシールコーポレー
ション)を用い、硬度が同じで異なる厚みの試料
超音波弾性計測装置による筋厚および筋硬度の
を作成し、超音波弾性計測装置により変位量を計
計測は、センサを計測部位に垂直に当て、押し込
測した。その結果、変位量は厚みと正の比例関係
むだけで可能となる。計測には筋力発揮を必要と
が認められ、筋変位量を筋厚で補正した本研究の
(?<>)
方法は妥当だといえる。一方、筋の変位量には皮
膝伸展筋力の推定能力をみると、筋厚のみの変数
下脂肪の厚みや硬さとの有意な相関は認められな
では決定係数 > が =:<@C であったのに対し、筋硬
かった。今回対象となった皮下脂肪の厚さは、筋
度指数という新たな変数を加えると決定係数 > が
の変位量への影響が無視できる範囲であるかもし
=:H>@ に上昇した。このことは大腿前部の筋厚と
れない。しかし、異なる厚さおよび硬度の人工材
筋硬度指数の組み合わせが膝伸展筋力の推定に有
料を > 層重ね合わせ、超音波弾性計測装置により
効であることを示している。今後はこの有効性
それぞれの変位量を計測した結果、上部組織の厚
が、今回の分析対象となった筋力、筋厚および
さや硬度が下部組織の変位量に影響することが確
A の範囲を超えても当てはまるか、性別や年
認された。このように筋の硬度を正しく評価する
齢に関係なく当てはまるか、また他の筋の部位で
ためには、皮下脂肪の影響を取り除くことも必要
当てはまるかを検討する必要があろう。更に今回
だと考えられ、今後の課題としたい。
は、筋力を筋厚と筋硬度指数のみで推定した。
肘屈曲および膝伸展の最大等尺性筋力は筋厚と
性、年齢、体型(身長,体重)
、周囲径、皮下脂
有意な正の相関関係が認められ、その相関係数
肪厚など他の指標を追加し、推定能力を高める工
は そ れ ぞ れ =:CD< お よ び =:F>> で あ っ た。M. や
夫の検討も必要であろう。
,A を用いて肘屈曲および膝伸展の筋力とその
一方、肘屈曲筋力の推定において、上腕前部の
主動筋群の筋横断面積との関係をみた多くの先行
筋硬度指数は有用でないことが示された。その理
研究 が、対象(年齢,性,運動状況)の 違 い に
由としては主に > つの点が考えられる。第 ? に、
よって幅があるものの =:H 以上の相関係数を報告
上肢と下肢の筋の特性の違いである。上肢と下肢
している ?"<"H"@"G)。本研究は男女の計測値を合わせ
の筋は筋組成が異なるといわれている D"?>)。第 >
て分析したが、筋横断面積に相当する相関係数を
に、筋硬度の計測時の筋の状態が、上腕前部では
示し、筋厚は筋力推定の有用な指標になることを
伸張した状態、大腿前部では短縮した状態と異な
支持した。
る。伸張した状態では受動的張力が発生し、筋厚
一方、筋変位量を筋厚で補正した AB(筋硬
が小さくなる。これらの因子により筋組織そのも
度指数)は膝伸展筋力に限り、有意な相関が認め
のの硬度が反映されなかった可能性がある。これ
られた。このことは筋力が優れた筋はそうでない
らの問題を解決するためには、肘関節を屈曲した
筋より硬い傾向にあることを示している。一般的
状態で得られた筋硬度指数と肘屈曲筋力との相関
に、優れたスポーツ選手は筋肉が柔らかいといわ
を確かめる必要があろう。
れる C)。膝伸展筋力に限られるが本研究の結果は
本研究は大腿前部において、筋力が高い者は筋
この説を否定した。一般的な説と異なる結果が得
硬度も高いという事象が存在することが示され
られた理由としては次の点が考えられる。第 ? に
た。筋硬度は、筋力推定の新しい手法の ? つにな
硬度を評価する際に筋を押す圧の違いである。超
りうることが期待できる。しかしながら、なぜそ
音波弾性計測装置は筋硬度を定量化するために完
のような関係が生じるかは本結果からは推測でき
全に押しつぶさない ?=N の圧を用いており、そ
ない。今後は筋硬度が筋力の推定になぜ有用なの
の圧は筋の厚さを約 < 割縮める程度である。一
か、その根拠を検討していく必要がある。
方、人間が筋の硬さを触診する場合は、筋の厚さ
がこれ以上縮まらない程度まで押し、その感触に
結 論
より評価することが多いと思われる。第 > に、筋
膝伸展の最大等尺性筋力が高い者は大腿前部の
硬度と正の相関が認められる体力要素は筋力のみ
筋厚が大きいのみならず筋硬度も大きく(硬く)
、
であることである。優れたスポーツ選手は、筋力
> つの組み合わせにより筋力の推定能力が高まる
だけでなく筋の収縮速度や持久性などの他の体力
ことが示された。しかしながら、肘屈曲の筋力に
要素も要求される。筋力以外の体力要素と筋硬度
おいては筋硬度との関係は認められず、筋硬度の
には異なった関係性があるのかもしれない。
有用性は限定されることが示唆された。
筋硬度指数の有用性を示した大腿前部について
(?<<)
謝 辞
C)紺野義雄(?G@>):スポーツマンのトレーニング―柔
らかい筋肉をつくろう―.実業之日本社,東京.
本研究に対して助成を賜りました財団法人明治安田厚生
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事業団に深く感謝申し上げます。本研究を進めるにあたり
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多大なるご協力をいただきました産業技術総合研究所の椿
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井正義氏、九州大学大学院芸術工学府の大沼誠氏、黒岩光
香氏に深く感謝いたします。
参 考 文 献
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F)北 田 耕 司,田 巻 弘 之,芝 山 秀 太 郎,倉 田 博
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?<)高 梨 晃,烏 野 大,塩 田 琴 美,藤 原 孝 之,小 沼 亮,阿部康次,小駒喜郎(>==@):> 種類の軟部組織
硬度計における再現性,信頼性の検討.理学療法科
学,he,>GC;<==.
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