当日配布資料(1.85MB)

筋萎縮を抑制する
ユビキチンリガーゼ阻害剤の開発
徳島大学
医学部
教授
医科栄養学科
二川 健
(※発表当日には、配付資料に載せていないデータとスライドが
あります。)
1
本研究の目的
廃用性筋萎縮の治療薬の開発
寝たきり
増加する寝たきり患者数
百万人
2
・動けることによるQOLの改善
・介護者の負担軽減
・社会保障費の削減
1
1993
2000
2010
2025
(厚生白書1999))
2
なぜ効果的な筋萎縮治療薬が開発されなかったか?
癌のように筋萎縮は直接命にかかわる病気ではなかった。
筋蛋白質合成を高める薬が効かなかった。
= IGF-1 (筋栄養因子)に対する感受性の低下
= IGF-1抵抗性
従来の筋肉増強剤
IGF-1製剤
蛋白質同化ホルモン
高蛋白質食
効かないぞ!!
寝たきり患者の萎縮筋
3
MyoLab
Molecular mechanism of microgravityinduced skeletal muscle atrophy
Muscle reinforcement agents
IGF-1 (Growth hormone)
Anabolic hormone
High protein diet
No effect?
L6 cells
Skeletal muscle
atrophied by microgravity
Degradation enzyme (Cbl-b?)
= muscle atrophy responsible enzyme
In future
Cbl-b inhibitor (Cblin)
Change!
Yes, we can!!
4
MyoLab
(A)
Molecular mechanism of microgravityinduced skeletal muscle atrophy
(B)
infusion
In future
discharge
Degradation enzyme (Cbl-b)
= muscle atrophy responsible enzyme
Change!
Yes, we can!!
5
ユビキチン化酵素Cbl-bは筋肉細胞のIGF-1抵抗性をおこす原因酵素である。
寝たきり、宇宙フライトでは
宇宙またはUnloading環境
IGF-1受容体
筋蛋白質分解
筋蛋白質合成
p
p
p
p
Cbl-b
IRS-1
PI3K
IGF-1 抵抗性
分解
Ub
Ub
Ub
Ub
Ub
Ub
筋萎縮
Akt
mTOR
S6K
GSK3
FOXO
核
Atrogin-1
筋蛋白質合成
筋萎縮 (筋量
ユビキチン化酵素Cbl-bは廃用性筋萎縮の
原因酵素の一つである。
Suzue et al. J Bone Miner Res 2006 21(5): 722-34.
Nikawa et al. FASEB J 2004 18(3): 522-4.
Nakao et al. Mol Cell Biol 2009 (29(17): 4798-811.
筋蛋白質分解
, 筋力
)
6
本提案の独創性
ユビキチン化酵素阻害ペプチド(Cblin: Cbl-b inhibitor)の発見
(特願2006-145944)
Cblinは、筋萎縮原因酵素の一つであるCbl-bユビキチン化酵素と
その基質(IRS-1, 筋栄養因子IGF-1の重要なシグナル分子)との結合を阻害する。
Ub Ub
Ub Ub
ユビキチン化酵素
Ub
Ub
Ub
Ub Ub
Ub
Ub
Ub
E2
IRS-1
Cblinのユビキチン化酵素阻害作用
Ub
Ub
Ub
坐骨神経切除マウスにペプチドを筋注
E2
IRS-1
IRS-1
Cblin
IGF-1による増殖
シグナル伝播
プロテアソーム
による分解
筋萎縮
Cblin :
萎縮遺伝子の
発現低下
筋蛋白質合成の
増大
-
-
+
-
+
筋注なし コントロール 坐骨神経切除
Ogawa T et al. Muscle Nerve 200634(4): 463-9.
Nikawa et al. FASEB J 2004 18(3): 522-4.
Nakao et al. Mol Cell Biol 2009 (29(17): 4798-811.
7
本提案の革新性(1)
Cbl-bとCblin (Cbl-b inhibitor)ペプチドの相互作用を明らかにした。
CblinがCbl-bユビキチン化酵素のどの部位に、またどのような形で結合するかを明らかにした。Cblbユビキチン化阻害剤でここまで詳細に検討されているものは他になく、同分野の開発を行っている
他の研究室よりはるかに先んじている。
ユビキチン化酵素阻害ペプチド‘Cblin’ 特許取得(特許第5113348号)
Asp-Gly-pTyr-Met-Pro
リン酸化チロシン
Cbl-b
ユビキチン化酵素阻害ペプチドCblinの
構造を基に低分子化合物を作成できる
可能性が高まった。
8
本提案の革新性(2)
ハイスループットスクリーニングシステムが確立され
ている。
ハイスループットスクリーニングシステムを用い、既
にCbl-b阻害活性を有する化合物の基本骨格を同定
している。
Cblと阻害ペプチド (Cblin, ZAP-70など)複合体構造をテンプレートに使用
ファーマコフォアモデル
化合物ライブラリ-(1)
化合物ライブラリー(2)
ハイスループット
スクリーニングシステム
170個
合計
268個
98個
5個 =化合物の基本骨格
の同定
9
本提案の新規性(1)
表1 ユビキチン化酵素阻害剤とIGF-1製剤・蛋白質同化ホルモンとの比較
蛋白質同化ホルモン
Cbl-bユビキチン化酵素阻害剤
IGF-1製剤
筋細胞への
作用点
IRS-1のユビキチン化と分解を
阻害する。その結果、筋細胞
のIGF-1抵抗性が改善される。
筋細胞に直接作用し、 筋蛋白質合成を亢進
筋蛋白質の合成を高め、 する。
分解を抑制する。
効果
筋蛋白質分解が抑制され、
筋蛋白質合成が高まる。
寝たきり状態の筋細胞 原因は不明だが、寝
はIGF-1に対する感受 たきり状態の筋細胞
性が低下しており(IGF- は蛋白質同化ホルモ
1抵抗性)のため、廃用 ンが効きにくいとされ
性筋萎縮には効かない。 ている。
副作用
通常はCbl-bは免疫細胞に多く
発現している。筋肉では、寝た
きり状態で強く発現が誘導され
る。寝たきり状態の筋肉に特異
的に作用するため、副作用は
非常に少ないと考えられる。
IGF-1が作用する細胞
は、全身にある。末端
肥大症のような重篤な
副作用がある。
非常に大きな副作用
がある。ドーピング薬
でもあり、心停止など
突然死の報告も多い。
実用性
有望
×
×
10
本提案の新規性(2)
表2 ユビキチン化酵素阻害剤とプロテアソーム阻害剤との比較
ユビキチン化酵素阻害剤
プロテアソーム阻害剤
作用点
分解すべき基質と結合する ユビキチン化された蛋白質
ユビキチン化酵素の阻害
を認識して分解するプロテ
アソームの阻害
阻害効果の特異性
基質特異性が高いユビキ
チン化酵素のみ阻害する
ので、分解阻害すべきター
ゲット蛋白質を限定するこ
とができる。
ユビキチン化された蛋白質
の分解を全て阻害する。
副作用
少ない
多い
実用性
ユビキチン化酵素阻害剤と
して報告されているものは
Cblin以外はNutlin(抗癌剤
として開発中)が報告されて
いる。
すでに骨髄腫の治療薬とし
て実用化されている。但し、
副作用が大きいため、他の
疾患には応用が難しいとさ
れている。
11
目標:筋萎縮治療薬の開発を目指して
研究期間内の達成目標
前臨床試験に供しうる薬品候補(プロトタイプ)として、動物レベルで
も有効なユビキチン化阻害剤を最低でも2種類以上選定する。
判定基準:ユビキチン化酵素阻害係数(IC50)が10 µM以下,Cblinの10分の1
最終目標
ユビキチン化酵素阻害剤を筋萎縮治療剤として世界で最初に実用化する。
類似課題の有無:
なし
コロンビア号の宇宙実験で
Cbl-b遺伝子を発見(1998)
ユビキチン化阻害剤は、
世界初の宇宙製剤でもある。
徳島大学・栄養科学研究科から
12
医薬品候補化合物(プロトタイプ)同定への
動物レベルでも有効なユビキチン化酵素阻害剤を最低でも2種類以上選定する
道筋
スクリーニングの進め方
化合物のファーマコフォアモデルによ
る選択(268候補化合物)は終了
細胞培養系によりユビキチン化酵素阻害活性の高い
化合物を選別 (IC50が10µM以下,Cblinの1/10)
ヒット化合物が見つかった場合
ヒット化合物を大量合成し、
筋萎縮モデル動物での効果を検討
(PK試験→im, sc, po)
筋萎縮阻害効果あり
=リード化合物
筋萎縮阻害効果なし
化合物がヒットしない場合
大規模化合物ライブラリーから探索
中規模化合物ライブラリーから探索
小規模化合物ライブラリーから探索
構造解析による最適化
医薬品候補化合物
前臨床試験へ
13
実用化への道筋
約17年
2020
2026
日本の高齢者人口が
最大となる時期
私の退職
2015
2010
治療薬開発
③第 Ⅲ
相試験
②第 Ⅱ
相試験
臨床試験
①第 Ⅰ
相試験
前臨床試験
②毒性試験
4年間
①薬物動態試験
医薬品候補化合物の同定
3年間
今なら間に合う!!
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経済効果と市場規模
A
経済効果
・寝たきりで一般病棟に1年間入院すると約400万円の医療費
10万円(一ヶ月の本人負担額)÷0.3×12ヶ月=400万円
寝たきり高齢者の将来推計
・寝たきり患者の4分の3は1年以上の寝たきりである
200万人
100万人
寝たきりを治療できれば大きな医療費節約効果がある
1993
2000
2010
2025
(厚生白書平成11年版より)
B
市場規模
・最新の降圧剤(経口薬)では、朝1錠の服用で一ヶ月あたり約15,000円かかる。
・患者のコンプライアンスを高めるため、廃用性筋萎縮の治療薬では、1日1回
服用の経口薬を目指している。
・開発費を含め1ヶ月あたり20,000円にしたいと考えている。
・仮に2010年の推定患者数(175万人)の1割が、1ヶ月間服用したとすると
1ヶ月あたり約35億円(2万円×17万5千人)の売り上げが期待される。
15
将来への展望
今回のユビキチン化酵素阻害剤の開発は、ユビキチン化が関わるあらゆる疾患に
対する治療に大きなインパクトを与える。なぜなら、生体内にユビキチン化酵素は
1,000種以上の存在が確認されており、しかもその多くが疾患の原因酵素になって
いると推測されているからである。
世界発の廃用性
筋萎縮治療薬
新しい宇宙薬
寝たきりによる
筋萎縮
筋萎縮が進む宇宙飛行
痴呆防止薬
神経変性疾患
(特に記憶)
ユビキチン化酵素阻害剤
増殖シグナル
が亢進した癌
新規抗癌剤
Cbl-bの遺伝子欠損がT細胞の抗腫瘍
作用を活性化することが報告された。
つまり、我々の開発したCbl-bユビキ
チン化酵素阻害剤はT細胞の癌免疫能
を亢進する可能性が大である。
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実用化に向けた課題
• 現在、in vitroでユビキチン化酵素Cbl-bを阻
害できる候補化合物は特定できている。
• 今後、筋萎縮モデルを用いた動物実験データ
を取得し、ヒトに適用していく場合の条件設定
を行っていく。
• 実用化に向けて、in vivoのデータの取得と化
合物の安全性を確立する必要もあり。
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企業への期待
• ユビキチン-プロテアソーム蛋白質分解系は次世代の創薬
ターゲットといわれています。
• 我々が発見した低分子Cbl-b阻害剤は、現時点で特許フリー
です。動物実験で筋萎縮抑制効果が認められた時点で、特許
申請する予定です。共同研究していただいた企業に特許申請
権をお譲りします。
• 今後医薬品として開発するためには、低分子Cbl-b阻害剤の
基本骨格を修飾して、体内動態や薬効を最適化すること
(Editing)が必要です。その基本骨格化合物(既に実用化して
いる医薬品です)の合成技術や誘導体を有する、製薬企業と
の共同研究を希望します。
• 直接の共同研究が難しければ、JSTなどの競争的研究資金
に共同提案していただける企業を希望しております。
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お問い合わせ先
徳島大学 医学部 医科栄養学科 生体栄養学分野
教授 二川 健
TEL 088-633 -9248
FAX 088-633-7086
e-mail nikawa@tokushima-u.ac.jp
独立行政法人 宇宙航空研究開発機構(JAXA)
きぼう利用プロモーション室
[email protected]
〒305-8505
茨城県つくば市千現2-1-1 筑波宇宙センター
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