KSSニュース 得する損・損する損 Ⅰ.損益通算の仕組みとその一定の

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得する損・損する損
… 損 益 通 算 で き るもの ・で き な いもの
はじめに
平成16年度税制改正で土地、建物等の譲渡損失の損益通算が規制されたが、平成4年分以降の不動
産所得に係る損益通算の特例をはじめとして、平成16年の居住用財産の譲渡損失の損益通算の改正に
至るまで、近年、損益通算についてのさまざまな改正がされている。また、組合を利用した船舶リースや航
空機リースの所得区分に関する争いも表面化している。
一方、投資家の投資リスクを軽減し、起業を活発化させるための仕組みとして、LLCやLLPでパスス
ルーを実現させ、初期損失を他の所得と損益通算できるようにしようという動きもあり、早ければ平成18年
にはスタートする可能性もある。
そこで、本稿では、損益通算の仕組みとルール、その考え方を整理するとともに、損益通算の否認傾
向、曖昧な損益通算事例、勘違いしがちな損益通算事例を整理し、併せて実務留意点をまとめることとす
る。
Ⅰ.損益通算の仕組みとその一定のルール
1.損益通算の概要
各種所得の金額をそれぞれ計算し、その各種所得の金額に損失がある場合には、一定の
ルールによって、黒字の各種所得の金額と損益を通算することになり、これを損益通算とい
う。
図表1にその概要図を掲げたが、一時所得の金額・総合長期譲渡所得の金額は損益通算さ
れた後に、2分の1の適用を受けて総所得金額を計算する。
図表1 損益通算等の概要
図表2 損益通算の仕組み
2.損益通算できる損失
各種所得の計算上、損失が生じたとしても、他の所得と損益通算できないものや、できる場
合でも一部損益通算の対象から外されているものもある。
次の所得の金額は、原則として「損益通算できない損失」を除いて、他の所得の金額と損益
通算することができる。
1.
2.
3.
4.
不動産所得
事業所得
いわゆる総合譲渡所得
山林所得
3.不動産所得に係る損益通算の特例
平成4年分以後の不動産所得の計算上生じた損失のうち、必要経費に算入した業務用土地
等の取得に要した負債の利子の額については、損益通算の計算上なかったものとされる。負
債の利子の額が損失の金額を超える場合には損失の金額が、負債の利子の額が損失の金
額以下の場合には負債の利子の額が損益通算の対象外となる。(措法41の4、措令26の6)
4.損益通算できない損失
いうまでもなく利子所得、給与所得、退職所得については損失が発生しないが、次の所得の
計算上生じた損失の金額は他の所得との通算ができない。
1.
2.
3.
4.
配当所得
一時所得
雑所得
個人に対する資産の低額譲渡により生じた損失
そこで、とりわけ問題になるのが、不動産所得、事業所得、総合譲渡所得なのか、一時所
得、雑所得なのかという所得の区分である。この点については後ほど詳しく取り上げる。
また、次のような特殊な損失についても損益通算の対象から除外されている。
1. 事業用を除く競走馬、別荘、書画、骨董、貴金属などの生活に通常必要でない資産につ
いての所得の計算上生じた損失
2. 非課税所得の金額の計算上生じた損失
3. いわゆる分離譲渡所得の金額の計算上生じた損失
4. 株式等に係る譲渡所得の金額の計算上生じた損失
5. 先物取引に係る雑所得等の金額の計算上生じた損失
なお、同一所得内の損益を相殺すること、例えば貸店舗の所得金額と賃貸住宅の損失とを
通算するような場合には、損益通算とはいわない。同じ所得内で利益と損失を相殺したにすぎ
ないからである。
5.損益通算の順序
損益通算は次の図表3のように一定のルールに従って通算することになる。
図表3 損益通算の順序
(1)経常所得グループ
利子所得、配当所得、不動産所得、事業所得、給与所得、及び雑所得を経常所
得といい、不動産所得や事業所得の損失があればまずこのグループで損益通算
を行う。これらの損失のうちに、①変動所得の損失の金額、②被災事業用資産の
損失の金額、③その他の損失の金額のうち2以上あるときには、その引き切れな
い金額を③→②→①の順に差し引く。
(2)譲渡・一時グループ
次に、いわゆる総合譲渡所得の損失を一時所得と通算する。これらは特別控除
後、2分の1適用前に行う。(1)、(2)を第一次通算という。
(3)第二次通算
イ.経常所得グループの赤字
(1)で引き切れない損失の金額は、次の各所得の金額から順次差し引く。
1. 総合短期譲渡所得の金額(特別控除後)
2. 総合長期譲渡所得の金額(特別控除後)
3. 一時所得の金額(特別控除後、2分の1適用前)
ロ.譲渡・一次グループの赤字
(1)で引き切れない損失の金額は、経常所得の金額から順次差し引く。
(4)第三次通算
イ.総所得金額の赤字
(2)で引き切れない損失の金額があるときは、次の各所得の金額から順次差し引
く。
1. 山林所得の金額(特別控除後)
2. 退職所得の金額(2分の1後)
ロ.山林所得の赤字
山林所得の金額の計算上生じた損失の金額は、次の各所得の金額から差し引
く。
1.
2.
3.
4.
5.
経常所得の金額
総合短期譲渡所得の金額(特別控除後)
総合長期譲渡所得の金額(特別控除後、2分の1適用前)
一時所得の金額(特別控除後、2分の1適用前)
退職所得の金額(2分の1適用後)
山林所得の金額の計算上生じた損失の金額に、①被災事業用資産の損失の金
額、②その他の損失の金額があるときは、その引き切れない金額を、②→①の順
序で差し引く。
Ⅱ.規制された損益通算・規制されがちな損益通算
・否認される損益通算
1.分離譲渡所得の計算上生じた損失
平成16年1月1日以後に行う土地、建物等の譲渡により譲渡所得の金額の計算上生じた損
失の金額は、土地、建物等の譲渡による譲渡所得以外の所得の金額との損益通算及び翌年
以降の純損失の繰越控除が認められないことになった。
与党税制調査会の税制改正大綱が発表された平成15年12月17日以後大変な話題になった
が、実務に与える影響は非常に大きなものがあった。(措法31、32、平成16年改正法附則27)
(1)土地、建物等の譲渡損益の相殺
土地、建物等の譲渡を複数行い、そのいずれかが譲渡益、いずれかが譲渡損で
ある場合に、これを相殺することは従来通り適用される。しかし、他の譲渡損益、
例えばゴルフ会員権の譲渡損益などの総合譲渡所得や株式等譲渡損益と通算
することはできない。
(2)土地、建物等以外の所得の金額の計算上生じた損失
土地、建物等以外の所得の計算上生じた損失の額がある場合に、これを土地、建
物等の譲渡による所得の金額から差し引くこともできないこととされた。
(3)適用除外
次に掲げる者については、損益通算の停止による経過措置が設けられている。
1. 平成16年3月31日以前に死亡した人
2. 平成16年3月31日以前に平成16年分の所得税について、所得税法127条
<年の途中で出国する場合の確定申告>の規定による申告書を提出した
人
3. 平成16年3月31日以前に平成16年分の所得税につき、国税通則法25条の
規定による決定を受けた人
2.居住用財産の譲渡損失
土地、建物等の譲渡損失の損益通算が廃止されたが、居住用財産を譲渡したことによる損
失については、一定の条件の下に他の所得と損益通算できる制度が従来から存在し、平成16
年度改正でこの制度が拡充された。平成16年以降、原則として土地、建物等の譲渡損失の損
益通算ができなくなったが、居住用財産の譲渡損失については損益通算が可能な場合もある
ので留意する必要がある。
(1)居住用財産の買換え等の場合の譲渡損失の損益通算及び繰越控除
平成10年に創設された特定居住用財産の買換え等の場合の譲渡損失の繰越控
除(措法41の5)では、損益通算と翌年以降3年間の繰越控除が認められている。
譲渡資産について住宅借入金等の残高を有していることが条件であったが、平成
16年改正でこの条件が廃止された。もっとも、買換資産については従来通り、一
定の条件を満たす住宅借入金等を有していることが必要である。
(2)特定居住用財産の譲渡損失の損益通算及び繰越控除
平成16年からは居住用財産の買換えをしなくとも居住用財産の譲渡損失の損益
通算及び繰越控除ができる「特定居住用財産の譲渡損失の損益通算及び繰越
控除」(措法41の5の2)が創設された。いわゆるオーバーローン状態になっている
居住用財産を譲渡して、譲渡損失が発生したときに、譲渡損失の金額とオーバー
ローン金額とのいずれか少ない金額が損益通算と繰越控除の対象となる。買換
資産がない場合にも適用されるため、親と同居するためや賃貸住宅に住み替える
場合などにも譲渡損失の損益通算と繰越控除が可能になった。
図表4
特定居住用財産の譲渡損失の損益通算・繰越控除
A.買換えの場合(ローンによる買換取得)
(措法41の5)
その年の他の所得
との損益通算
譲渡損失全額を通算
繰越控除
上の引き切れなかった金額を翌年以降3年間
所得制限
損益通算
なし
繰越控除
所得金額が3,000万円超の年は適用できない
繰越控除に
面積制限
譲渡資産
敷地500㎡超の部分は対象外
(損益通算は全額可能)
B.特定居住用財産
(ローンによらない買換取得・
買換取得しない)
(措法41の5の2)
譲渡損失とオーバーローン部分と
のいずれか少ない方を通算
面積制限なし
譲渡日
平成16年1月1日から平成18年12月31日まで
所有期間
譲渡した日の属する年の1月1日現在5年超の所有
居住用財産 居住用の家屋又は土地等
住宅
借入金等
残高の有無は問わない
譲渡先
配偶者、直系血族、生計同一親族以外の者
取得制限
譲渡年の前年1月1日から翌年12月31日まで
床面積
居住部分が50㎡以上
買換資産 居住要件
住宅
借入金等
取得日からその翌年12月31日までに
居住又は居住見込み
適用年の年末に買換取得資産の住宅ローン
残高がある
譲渡した日の前日に譲渡価額を
上回る借入金残高あり
面積制限なし