公共経済学

公共経済学
21. 労働所得税
1
21. 1 (普通の)労働供給曲線
21. 2 比例労働所得税と超過負担
2
<個人所得課税の計算例>
個人所得課税=所得税(国税)+個人住民税(地方税)
給与収入=500(万円)、社会保険料支払額=50(万円)で、夫婦のうち 1 人のみに収入があり、
2 人の子供(うち 1 人は特定扶養親族)がいるケースについて計算する。
所得税=所得税の課税所得より計算
個人住民税=個人住民税の課税所得より計算
① 所得税の課税所得=給与所得-所得税の所得控除
② 個人住民税の課税所得=給与所得-個人住民税の所得控除
給与所得=給与収入-給与所得控除
① 所得税の所得控除=社会保険料控除+所得税の人的控除
② 個人住民税の所得控除=社会保険料控除+個人住民税の人的控除
3
(1) 給与所得控除と給与所得
給与所得控除≒給与所得者にとっての必要経費
給与等の収入金額
(万円)
給与所得控除額
(65万円以上の場合)
180以下
40%
180~360
30%
360~660
20%
660~1000
10%
1000超
5%
給与収入が 500 万円のときは、給与所得控除は次のように求められる。
給与所得控除=0.4×180+0.3×(360-180)+0.2×(500-360)=72+54+28=154
給与所得=給与収入-給与所得控除=500-154=346(万円)
4
(2) 社会保険料控除=社会保険料支払額(=50 万円)
(3) 人的控除
夫婦のうち 1 人のみに給与収入があり、2 人の子供うち 1 人は特定扶養親族なので、人的控除
は次のようになる。
所得税
個人住民税
人的控除額の差
基礎控除
38
33
5
配偶者控除
38
33
5
(一般)扶養控除
38
33
5
特定扶養控除(16 歳から 22 歳まで)
63
45
18
合計
177
144
33
(単位=万円)
5
(4) 課税所得
給与収入 Y=500 かつ社会保険料控除=50 なので、所得税と個人住民税の課税所得は
次のように定まる。
所得税の課税所得=給与所得-社会保険料控除-所得税の人的控除
=346-50-177=119
個人住民税の課税所得=給与所得-社会保険料控除-個人住民税の人的控除
=346-50-144=152
6
(5) 個人所得課税
○所得税
所得税=0.05×119=5.95
課税所得(万円)
税率(%)
195
330
695
900
1800
∞
5
10
20
23
33
40
(←課税所得が 195 万円までは(限界)税率が 5%)
○個人住民税
個人住民税=0.1×個人住民税の課税所得-(個人住民税の)調整控除
調整控除=国から地方への税源移譲にともなう調整措置
このケースの調整控除=1.65(注)
個人住民税=0.1×152-調整控除=15.2-1.65=13.55
○個人所得課税
年収に対する個人所得課税の割合
=19.5/500=3.9%
個人所得税=所得税+個人住民税=5.95+13.55=19.5
(注)「人的控除額の差の合計(33)≦個人住民税の課税所得(144)≦200」が成り立つときは、
調整控除=0.05×人的控除額の差の合計=0.05×33=1.65 と計算される。
7
21.労働所得税
21. 1 (普通の)労働供給曲線
L =労働時間
w =賃金率(=時給)
wL =労働所得
m =非労働所得(利子所得など)
wL  m =所得
c =消費量(=消費額);消費財の価格は1に標準化
c  w L  m :予算制約式
(21-1)
8
L0 ,c0  =賃金率 w 0 が与えられたもとでの最適な労働時間と消費量の組合せ
=労働供給(量)と消費需要(量)の組合せ
L0 ,c0  は予算制約線とそれに接する無差別曲線との接点として求められる。
すなわち、その無差別曲線を c  I 0 ( L) と置けば、
I 0 ( L0 )  w0
c0  w0 L0  m
から L0 ,c0  が求められる。
(21-2)
(21-3)
なお、無差別曲線 c  I 0 ( L) を I 0 と表すこともある。
9
(問題 21-1)予算制約線を L c 平面に描きなさい。また、その予算制約線に接する
無差別曲線 c  I 0 ( L) を描き加えることにより L0 ,c0  と I 0 ( L0 ) を図示し
なさい。
c
L
10
c  I 0 ( L)
c
c  w0 L  m
I 0 ( L0 )
c0
I 0 ( L0 )  w0
m
w0
L0
L
11
労働供給関数(曲線)とは、所与の賃金率 w のもとで定まる予算制約線と接
する無差別曲線の接点として求められる労働供給量 L を対応させる関数であ
る。
I ( L)  w を L について解いた関数が労働供給関数であり、その関数を
L  LS (w)
(21-4)
と表す。
賃金率 w に消費需要量 c を対応させる関数が消費需要関数であり、その関数を
c  c D (w)
と表すことにする。そして、(21-1)より cD (w)  wLS (w)  m が成立する。
12
(問題 21-2)予算制約式が c  w L  m 、無差別曲線群が c  aL  u で与えられている
2
とする( u は実数のパラメータ)
。このとき、労働供給関数と消費需要関数を
求めなさい。
I ( L)  aL2  u
I ( L)  2aL
2aL  w
w
 LS ( w)
L
2a
cD (w)  wLS (w)  m
w
c  w   m
 2a 
w2
c
 m  cD ( w)
2a
L
w
w
[ LS ( w)]
2a
or w  2aL
2a
L
13
(問題 21-3) L c 平面の図の下に L w 平面を置き、労働供給曲線が右下がりの部分を持つ可能性
i
が存在することを示そう。そのために、賃金率 w の下での労働供給量を Li とおいて
( i  1, 2 )、 w  w かつ L1  L2 となるケースを描きなさい( Li  LS (wi ) )
。
1
2
c
L
w
w1
w2
14
L
c  I1 ( L )
c
c  w1L  m
c  I 2 ( L)
c  w2 L  m
c1
c2
2
w
w
1
m
L1 L2
L
15
w
「労働者(=消費者)余剰」の増分
=労働供給曲線、変化前と変化後の価格線、縦軸
で囲まれた部分の面積にマイナスを付けた値
労働者(=消費者)余剰の減少分
w1
w2
・
・
L  LS (w)
L1 L2
L
16
21. 2 比例労働所得税と超過負担(死重損失)
労働需要曲線は水平とし、比例労働所得税が導入されたときの効果について検討する。
超過負担は等価変分で測ることにする。
17
<無差別曲線と税収>
労働需要曲線が水平なので比例労働所得税が課されたときに税引き前賃金率は
変化しない。
w1 =労働所得税が課されていないときの賃金率
t =比例労働(賃金)所得税率
w 2 =労働所得税が課された後の税引き後賃金率
⇒
w1 =労働所得税が課されたときの税引き前賃金率
w2  (1  t )w1 となる。
c  w1 L  m :労働所得税が課されていないときの予算制約式
c  w 2 L  m :労働所得税が課されたときの予算制約式
18
Li =「予算制約式 c  wi L  m が与えられたもとでの労働供給量」
c i =「予算制約式 c  wi L  m が与えられたもとでの消費需要量」
( Li , ci ) を通る無差別曲線 c  I i (L) を単に I i と表すこともある。
税率 t の比例税率のもとでの税収 TP は
TP  tw1 L2
(21-5)
と求めることができる( L2  LS (w2 ) )
。
19
(問題 21-4)比例労働所得税率 t のもとでの労働供給量 L2 、消費需要量 c2 、
税収 TP を L c 平面に図示しなさい。
c  I 2 ( L)
c
c  w1L  m
c  w2 L  m
=
(w1  w2 ) L2
=
tw1 L2
Tp
Tp
w1L2  m
w2 L2  m  c2
m
L2
L
20
<補償労働供給関数と補償非労働所得>
E =労働所得控除後支出額
E  c  wL
無差別曲線 I と賃金率 w が与えられたもとで、 E を最小にする労働時間
を補償労働供給量、消費量を補償消費需要量と呼ぶことにする。
L  LCS (w, I ) :補償労働供給関数
c  c DC (w, I ) :補償消費需要関数
賃金率 w と無差別曲線 c  I (L) が与えられたもとでの補償労働供給量
LCS (w, I ) は
w  I (L)
(21-6)
を L について解くことにより求められる。
cDC (w, I )  I ( LCS (w, I ))
21
(問題 21-5)賃金率 w と無差別曲線 c  aL  u [ I ( L)]が与えられているとする( u は
2
定数)
。そのとき、補償労働供給関数と補償消費需要関数を求めなさい。
I ( L)  aL2  u
I ( L)  2aL
2aL  w
w
L
 LCS ( w)
2a


L

w
w
[  LCS ( w)]
2a
or w  2aL

2
c  a LCS ( w)  u
2
w
c  a   u
 2a 
w2
c
 u  cDC ( w)
4a

2a

L
22
賃金率 w のもとで無差別曲線 I に対応する効用水準を実現するために
必要な非労働所得を「補償非労働所得」と呼び、 E (w, I ) と表すことに
する。
すなわち、
E (w, I ) = c DC (w, I ) - w LCS (w, I )
(21-7)
である。
23
<税収と超過負担>
予算制約式 c  wi L  m に接する無差別曲線 I i を用いて、税引き後賃金率
1
2
が w から w に変化したときの等価変分 EV は、
EV  E(w1 , I 2 ) - E(w1 , I1 )
(21-8)
と定義される。そして、労働所得税による実質的租税負担額は  EV である。
税率 t の比例労働所得税を課すことで生じる「超過負担 EB 」は、「実質的租
税負担額  EV 」が「租税負担額 TP 」を上回る大きさであるので、
EB  EV  Tp
(21-9)
である。
24
(問題 21-6)問題 21-4 の図に E(w1 , I 2 ) 、 E(w1 , I1 ) 、 EV 、 EB を描き
加えなさい。また、
E(w1 , I1 )  m  E(w2 , I 2 )
(21-10)
が成立することを確認しなさい。
c
L
25
I1
c
I2
c  w1L  m
c  w2 L  m
Tp
w1L2  m
w2 L2  m  c2
EB  EV  Tp
E(w1 , I1 )  E(w2 , I 2 )  m
 EV  E(w1 , I1 )  E(w1 , I 2 )
1
E(w , I 2 )
L2
L
26
EV  E(w1 , I 2 ) - E(w1 , I1 )
E(w1 , I1 )  m  E(w2 , I 2 )
(21-8)
(21-10)
(21-8)と(21-10)より、等価変分 EV は次のように求めることもできる。
EV  E(w1 , I 2 )  E(w2 , I 2 )
(21-11)
27
I1
c
I2
c  w1L  m
c  w2 L  m
Tp
w1L2  m
w2 L2  m  c2
EB  EV  Tp
E(w1 , I1 )  E(w2 , I 2 )  m
 EV  E(w1 , I1 )  E(w1 , I 2 )  E(w2 , I 2 )  E(w1 , I 2 )
1
E(w , I 2 )
L2
L
EV  E(w1 , I 2 )  E(w2 , I 2 )
28
<補償労働供給曲線と超過負担>
i
i
賃金率 w と無差別曲線 I 2 が与えられたもとでの補償労働供給量を L2 とおく。
すなわち、L2  LS (w , I 2 ) である。なお、L2  L2 が成り立つ( L2  LS (w ) )。
i
C
i
2
2
29
(問題 21-7)問題 21-4 で求められた無差別曲線 I (あるいは c  I 2 ( L) )が与えられたもとで
2
の補償労働供給曲線 L  LS (w, I 2 ) が図示されている L w 平面に、 L2 と L2 を図示しな
1
C
2
1
さい。また、EV   (Ⅰ+Ⅱ)であることと、比例労働所得税により税引き後賃金率が w
2
から w に低下したときに生じる超過負担 EB は EB  Ⅱで求められることを示しなさ
い。
(ヒント)8.2 と同様にして導かれる I 2 ( L2 )  I 2 ( L2 )  Ⅲ+Ⅳの関係を用いる。
1
2
c
c  I 2 ( L)
L
L  LCS (w, I 2 )
w
or
w  I 2 ( L)
w1
Ⅱ
Ⅰ
w2
Ⅲ
Ⅳ
L
30
c  w1L  m
c
c  I 2 ( L)
c  w2 L  m
I 2 ( L12 )
Ⅲ+Ⅳ
I 2 ( L22 )
(注)
(←8.2節)
L
L  LCS (w, I 2 )
w
or
w  I 2 ( L)
w1
Ⅱ
Ⅰ
Ⅲ
w2
Ⅳ
L22
L12
L
31
(注)無差別曲線が2次曲線のケース
c  w1L  m
c
c  aL2  u
c  w2 L  m
2
 w1 
a   u
 2a 
2
2
w 
a   u
 2a 
2
2

2
2
 w1 
 w2 
1

w1   w2 
a   a  
 2a 
 2a  4 a

L
(問題21-5)
L
w
w
2a
or
w  2aL
w1

Ⅱ
Ⅰ
Ⅲ
w2
2
2
w1  w2  w1 w2  1
 
 

w1   w2 
2  2a 2a  4 a
Ⅳ
w2
2a
w1
2a
L
32

c  w1L  m
c
c  I 2 ( L)
c  w2 L  m
=
w1L12  w2 L22
Ⅰ+Ⅱ+Ⅲ+Ⅳ
I 2 ( L12 )
Ⅲ+Ⅳ
w2 L22  m  I 2 ( L22 )
(注)
(←8.2節)
Ⅰ+Ⅱ
=
w1L12  m
 EV ←(問題21-6)
L
L  LCS (w, I 2 )
w
or
w  I 2 ( L)
w1
Ⅱ
Ⅰ
Ⅲ
w2
Ⅳ
L22
L12
L
33
c  w1L  m
c
c  I 2 ( L)
w L m
1 2
2
c  w2 L  m
w1L12  m
  EV
Ⅰ+Ⅱ
1
2
I 2 (L )
 Tp  (w1  w2 ) L22 =Ⅰ
w L  m  I 2 (L )
2 2
2
2
2
(問題21-4)
L
Ⅱ=
EB  EV  Tp
L  LCS (w, I 2 )
w
or
w  I 2 ( L)
w1
Ⅱ
Ⅰ
Ⅲ
w2
Ⅳ
L22
L12
L
34
(問題 21-8)等価変分の代わりに労働者余剰を用いて求めた超過負担 EB は、
問題 21-3 のケースのように(普通の)労働供給曲線が右下がりの部
分を持つときは、マイナスになる可能性があることを確認しなさい。
35
EB  労働者余剰の減少分 Tp
w
 EB
労働所得税の超過負担が
マイナスになっている。
労働者余剰の減少分
Tp
w1
w2
・
・
労働市場における効率性の分析を
する際には(普通の)労働供給関数
から導かれる労働者余剰の概念を
用いることには注意が必要である。
L  LS (w)
(普通の)労働供給曲線
L1 L2
L
36
21. 1 (普通の)労働供給曲線
21. 2 比例労働所得税と超過負担
37