平成 23 年 1 月 29 日 No.207 決算時における棚卸資産の評価損の計上方法! 1.売れる見込みがないのに資産計上(棚卸資産)? 税務調査では、期末在庫(棚卸資産)の評価について必 ずチェックが入ります。これは、売上原価の計算が期末在 庫(棚卸資産)の評価により、大きく変動するからです(売 上原価=期首棚卸高 + 当期仕入高 ― 期末棚卸高) 。 ですから、当然利益操作も期末在庫(棚卸資産)の評価 をいじるケース(例えば、利益を圧縮するために期末在庫 を少なく見積もる⇒売上原価増加)が多くなるので、税務 署も目を光らせているのです。 しかし、実際に売れる見込みがない在庫が多数ある場合 など、いかに税務署のチェックが厳しいからといって、そ のまま在庫(棚卸資産)として資産計上していては、架空 の利益に対して税金がかかってしまう。経営者として、何 とか在庫(棚卸資産)を減らす(下げる)方法はないもの かと考えるのは当然のことです。 そこで、 実際に売れる見込みがない期末在庫 (棚卸資産) について、税法上のルールにのっとった評価損を計上する 方法を検討してみてはいかがでしょう。 2.税法上棚卸資産の評価損の計上ができる場合の考え方! 【法人税法施行令第 68 条 1 項 1 号(棚卸資産の評価損 の計上ができる事実) 】 1 棚卸資産にあっては次の事実が生じたことにより、当 該資産の価額がその帳簿価額を下回ることとなった場合 に評価損が計上できるとされています。 イ 当該資産が災害により著しく損傷したこと。 ロ 当該資産が著しく陳腐化したこと (⇒法基通 9-1-4) 。 ハ イ又はロに準ずる特別の事実(破損、型崩れ、たな ざらし、品質変化等) (⇒法基通 9-1-6) 【法基通 9-1-4(棚卸資産の著しい陳腐化の例示) 】 令第 68 条第 1 項第 1 号ロ《評価損の計上ができる著 しい陳腐化》に規定する「当該資産が著しく陳腐化したこ と」とは、棚卸資産そのものには物質的な欠陥がないにも かかわらず経済的な環境の変化に伴ってその価値が著しく 減少し、その価額が今後回復しないと認められる状態にあ ることをいうのであるから、例えば商品について次のよう な事実が生じた場合がこれに該当する。 (1) いわゆる季節商品で売れ残ったものについて、 今後通 常の価額では販売することができないことが既往の実績 その他の事情に照らして明らかであること。 (2) 当該商品と用途の面ではおおむね同様のものである が、型式、性能、品質等が著しく異なる新製品が発売さ れたことにより、当該商品につき今後通常の方法により 販売することができないようになったこと。 【法基通 9-1-6(棚卸資産について評価損の計上ができ ない場合) 】 棚卸資産の時価が単に物価変動、過剰生産、建値の変更 等の事情によって低下しただけでは、令第 68 条第 1 項第 1 号《棚卸資産の評価損の計上ができる事実》に掲げる事 実に該当しないことに留意する。 【東京高裁判決 平成 7 年(う)第 888 号(評価損の損 金算入が認められる資産の陳腐化の意義) 】 評価損の損金算入が認められる事由として法人税法施行 令68条1号ロに定める「資産が著しく陳腐化したこと」 について、法人税法基本通達9ー1ー4は、 「棚卸資産その ものには物質的な欠陥がないにもかかわらず経済的な環境 の変化に伴ってその価値が著しく減少し、その価額が今後 回復しないと認められる状態にあることをいう」と定めて いるところ、右にいう「経済的な環境の変化」という文言 は、物価変動が生じた原因を限定する趣旨で付されたもの であって、新製品の開発、新技術の開発、生活様式の変 化、法的規制の変化、経済政策の重点の移行など当該資産 をめぐる特殊な経済的受給環境の変化を指す趣旨で用いら れたものと理解され、バブル経済の崩壊を含め一般的に生 じた物価変動に伴う同種資産の価額の下落はその事由に該 当しない。 3.「時価の算定根拠」と「証拠資料の収集」が重要! 上記2の考え方から、実際に売れる見込みがない期末在 庫(棚卸資産)が、季節商品(きわめて流行性が強い商品) の売れ残り品である場合、過去の経験則に照らして今後通 常の価額で販売できないことが立証できさえすれば、評価 損の計上が認められます(法基通 9-1-4(1)) 。また、実 際に売れる見込みがない期末在庫(棚卸資産)が、商品の モデルチェンジにより、見切り販売をしなければならなく なったことを立証できれば、評価損の計上が認められるの です(法基通 9-1-4(2)) 。 ですから、まず、その切り下げた「時価の算定根拠」を 明確に、合理性(恣意性が入っていない)を持って説明で きる書類(書面)を作成する。そのために、その書類( 「時 価の算定根拠」 )の正当性を証明できる「証拠資料の収集」 をしておくことが必要でしょう。例えば、同様の商品を扱 った同業他社の販売資料(HP、チラシなど)や新製品な どを謳った資料(業界雑誌など) 。また、その評価損を計 上した商品についての自社の販売計画(必ず切り下げた時 価で販売)や販売し終わった場合の販売実績などの資料。 具体的に立証できればできるほど、税務署としては否認 しづらくなります。一度検討してみてはいかがでしょう。 (担当:川上 正治)
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