低針入度の改質アスファルト発生材に対する 再生用添加剤の性状回復

D-5
低針入度の改質アスファルト発生材に対する
再生用添加剤の性状回復効果に関する基礎的研究
長岡技術科学大学
工学研究科 ○小林 岳史
長岡技術科学大学 環境・建設系
高橋 修
1. はじめに
アスファルトコンクリート再生骨材(以下,再生骨材)の品質は,従来の「舗装再生便覧」にて,旧
アスファルト(以下,旧アス)の針入度が 20(1/10mm)以上と規定されてきた.しかし,その規格値はス
トレートアスファルト(以下,ストアス)からなる舗装発生材を対象としたものであり,改質アスファル
トを含む発生材については,この規格値に適合しなくても利用価値があるとされてきた.
そのような中,発生材に含まれる旧アスの針入度が,近年,低下傾向にある.その要因には,再生ア
スファルトの繰返し使用だけでなく,年々増加している改質アスファルトを含む再生骨材の混入が挙げ
られる.
このような状況を踏まえ,旧アスの針入度だけで再生利用の可否を判断することは困難であるとし,
平成 22 年に「舗装再生便覧」が改訂された.改訂版では,使用する再生骨材に含まれる旧アスの針入
度が 20(1/10mm)以上,もしくは圧裂係数が 1.70(MPa/mm)以下であることとし,どちらかが満足すれば
使用可能であるとされている.
既往の研究では,針入度試験にかわるバインダ評価試験として荷重測定型伸度試験を用い,そこから
得られるエネルギー値で改質アスファルトを含む発生材のバインダ性状を評価した.また,特に再生混
合物において,性状の低下が懸念される混合物の疲労破壊抵抗性に焦点を置き,混合物評価を行った.
その結果,バインダのエネルギー値と混合物の疲労破壊抵抗性は高い相関を示し,エネルギー値はバイ
ンダ種にとらわれずにバインダ性状から混合物性状への推測が可能であることが確認できた.また,エ
ネルギー値 800(N・mm)以上を有するバインダを用いた混合物であれば,新規ストアス混合物以上の疲
労破壊抵抗性を有する混合物の作製が可能であるという新たな指標を提案した.
しかし既往の研究では,発生材に残存する改質効果を検証し,その有用性を確認するため,再生用添
加剤を混入せずに試験を実施してきた.そのためワーカビリティに関する検討はされておらず,実利用
にあたっては,従来通りに再生用添加剤等を用いた調整が必須と考えられる.また一方で,新たに導入
された圧裂係数を用いた評価に関しても未検討で,エネルギー値による評価と圧裂係数による評価の双
方が両立するか検証する必要がある.
それらを踏まえ,本研究での目的を以下に示す.
(1) 改質アスファルトを含む発生材の再生利用を念頭に置き,再生用添加剤を用いた場合のバインダお
よび再生混合物の物理性状の検証.
(2) 既往の研究で提案したエネルギー値による評価と新たに導入された圧裂係数による評価の双方が両
立するかの検証.
(1)は調整の必要性が生じる針入度 20(1/10mm)未満の改質アスファルトを含む再生骨材を検討材料とし,
バインダのエネルギー値,再生混合物の疲労破壊抵抗性,塑性変形抵抗性を評価項目とした.また(2)
は針入度 20(1/10mm)程度,
エネルギー値 800(N・mm)以上の劣化した改質アスファルトを検討材料とし,
バインダのエネルギー値,再生混合物の圧裂係数を評価項目とし,検証を行った
2. 荷重測定型伸度試験
16 日間促進劣化を行い,作製した発生材よりバインダを抽出し,荷重測定型伸度試験でエネルギー値
を評価した.図 1 に回収したアスファルトの荷重測定型伸度試験の結果を示す.
12000
エネルギー値(N・mm)
10000
8000
6000
4000
2000
800
0
ストアス
改質Ⅱ型
無添加
15.3%添加
図 1 荷重測定型伸度試験結果
抽出したバインダは再生用添加剤の有無に関わらず,エネルギー値 800(N・mm)以上を有している.
また,再生用添加剤添加のバインダは,無添加のバインダと比べ,エネルギー値が低下している.この
ことより,再生用添加剤にはバインダのエネルギー値を回復させる効果はないと考えられる.
3. 再生混合物の物理性状
1000000
疲労破壊に至る破壊回数(回)
100000
10000
1000
100
10
1
ストアス
改質Ⅱ型
20%(無添加) 40%(無添加) 60%(無添加)
図 2 曲げ疲労試験結果
20%(添加)
40%(添加)
60%(添加)
8
7
わだち掘れ量(mm)
6
5
4
3
2
1
0
ストアス
改質Ⅱ型
20%(無添加)
40%(無添加)
60%(無添加)
20%(添加)
40%(添加)
60%(添加)
図 3 APA 試験結果
再生混合物の物理性状は,再生用添加剤添加の混合物と無添加の再生混合物の 2 種類に分け,さらに
これらを再生骨材配合率 20%,40%,60%に分けた計 6 種類の混合物で評価した.
図 2 に曲げ疲労試験の結果を示す.再生用混合物は
以上の疲労破壊抵抗性を有する.また,再生用添加剤添加の混合物は添加剤無添加の混合物に比べ,
疲労破壊抵抗性が向上しており,性状回復が確認できた.
次に疲労破壊抵抗性の回復に伴い塑性変形抵抗性の低下が懸念されたため,APA 試験により確認を行
った.図 3 に APA 試験の結果を示す.こちらも再生混合物は再生用添加剤の有無に関わらず,新規ス
トアス混合物以上の塑性変形抵抗性を有している.
4. 圧裂係数
4
3.5
圧裂係数(MPa/mm)
3
2.5
2
1.7
1.5
1
0.5
0
ストアス
改質Ⅱ型
図 4 圧裂試験結果
劣化アスファルト
図 4 に圧裂試験によって得られた圧裂係数の結果を示す.図に記載されている劣化アスファルトは,
96 時間促進劣化を行い,エネルギー値 5700(N・mm),針入度 20(1/10mm)まで性能を低下させた改質ア
スファルトである.この結果から,既往の研究で提案したエネルギー値が 800(N・mm)以上のバインダ
を用いたとしても,圧裂係数 1.70(MPa/mm)以下を満足させることはできなかった.
5. まとめ
再生時に再生用添加剤を加えることで,疲労破壊抵抗性の回復に伴い塑性変形抵抗性の低下が懸念さ
れたが,エネルギー値 800(N・mm)以上のバインダを用いていれば,両項目において新規ストレートア
スファルト混合物以上の性能を有することが確認できた.また, エネルギー値 800(N・mm)以上,かつ
針入度 20(1/10mm)程度の改質アスファルト発生材を対象に実施した圧裂試験では,新たな規格値である
圧裂係数 1.70(MPa/mm)以下を満足することができなかった.このことから,圧裂試験だけでは再生骨材
の性能を正しく評価することは困難であることが考えられる.
6. 今後の課題
本研究より得られた結果をもとに今後の検討課題を以下にまとめる.
・今回用いた促進劣化方法は,恒温槽による熱劣化を施したものである.舗装の劣化因子として,
熱劣化の他に紫外線劣化や酸化劣化などがある.実舗装では,紫外線劣化がアスファルトの性状
変化に強く影響すると言われている.今後は,熱劣化だけでなく,実際の経年劣化を再現するた
めには,他の促進劣化方法を考慮していかなければならない.
・本研究では,改質アスファルトを含む再生骨材を使用して再生混合物を評価したが,現在の指針
であるストアス再生骨材を使用した再生混合物の評価をさらに行い,比較検証をする必要がある.
・本研究では,荷重測定型伸度試験をアスファルトの評価試験として用いた.しかし,荷重測定型
伸度試験は,日本においては舗装試験法便覧に記載されておらず,正式な試験として認められて
いない.そのため荷重測定型伸度試験の評価手法を確立していく必要性がある.
・再生用添加剤の添加量を変化させずに再生混合物の物性評価を行ったため,再生用添加剤の添加
量の違いによる混合物性状への影響を把握することができなかった.また,改質材を含む舗装発
生材の劣化日数を変化させずに,再生混合物の評価を行ったため,劣化日数の違いによる再生用
添加剤の性状回復効果を把握できていない.
・本研究では,改質アスファルトを含む再生骨材を使用して再生混合物を評価したが,促進劣化を
施した再生混合物,それを使用して再々生混合物を作製することで,混合物性状を検証する必要
性がある.また,促進劣化を施した再生混合物,それを使用して再々生混合物に対して,再生用
添加剤を添加し,性状回復効果を検証していく必要性がある.