Shinshu University Institutional Repository SOAR-IR Title MRSA感染患者の個室管理の検討 : 消毒薬散布マットの 効果について Author(s) 上条, 薫; 鰐川, 洋子; 樋口, いち子; 高野, 佐江子; 滝沢, 圭 恵; 降旗, 賢子; 坂井, 和代; 二木, 朗江 Citation 信州大学医学部附属病院看護研究集録 1992: 66-69(1992) Issue Date URL Rights 1992-09-26 http://hdl.handle.net/10091/14782 MRSA感染患者 の個室管理 の検討 ―消毒薬散布マットの効果について― 集中治療部 ・救急部 ○上条薫 鰐川洋子 樋口いち子 高野佐江子 滝沢圭恵 降旗賢子 坂井和代 二木朗江 1.はじめに ここ数年来,メチシリン耐性黄色ブ ドウ球菌 ( 以下MRSAと略す)は,院内感染の起炎菌のひ 9 8 8 年1 2 月より,MRSAの交差感染が問題 となり, とつ として,最 も注目されている。当部でも,1 翌年,院内感染対策委員会が設置され,年一回の ICU閉鎖消毒が行われるようになった。それに ともない,当部の感染防止マニュアルの検討 を重ね,MRSA発生時には,感染患者は,個室に収 容 してきた。しかし,交差感染が疑われる症例を数例経験 している。 今回,一例ではあるが,MRSAの浮遊を抑え,交差感染を予防する目的で個室管理に,消毒薬 散布マット ( 以下マットと略す)を使用 した。その管理方法 と効果について述べる。 2.日 的 MRSA感染患者の個室管理に,マットを使用 し,その効果を評価する。 3.研究方法 1)マ ットの使岡方法 1 3 M2の個室内の,ベ ット直下を除 くベ ット周囲と,個室の入口に,クリーンマ ット (リース キン社 ・8 4×72皿)を,1 4 枚敷 きつめた。そのマットが,常に湿った状態を保てるように,0. 2% 塩化ベンザルコニユウム液 ( オスバン㊥) を一回に 6e,一日3臥 9時,1 7時,2 4時に散布 し た ( 図 1)。また,病棟の入口,病室の入口のマットにも同様に散布を行った。マットは,一週 間に一回,新 しいマットと交換 した。 2)期間と患者紹介 期間 平成 3年 5月 2日-2 3日の2 2日間マットを使用 した。 対象患者 7 0才男性で,冠動脈バイパス術後,呼吸不全にて,レスピレーター管理が続 き,気管切開施 行。その後,縦隔炎を併発。縦隔内デブリー トメント, ドレナージ施行,持続洗浄 しながら I CU入室。入室時,CRP3 6. 6 0と高値で,3 9 ℃台の発熱があ り,演,膿,血液等からMRS Aが検出されていた。イソジン ・バンコマイシンの持続縦隔洗浄と,抗生剤の併用により, C RP5. 6 6と下降 し発熱もなくなった。ドレーン抜去 し,退室となるが,退室時まで,濃からは, MRSAが検出されていた。 3)細菌検査 細菌検査は,綿棒拭 き取 り法により,朝の清掃前に採取 し,エッグ ・ヨーク寒天培地3 2 ℃で, - 66- 72時間培養後,判定 した.採取場所は,個室の中 5ヶ所,個室の外 4ヶ所の一定部位 について, 図 2) また,エアース リットサ ンプラーによる,個室内,病室内の浮遊細菌 計 5回施行 した。 ( 医師 4名 ・看護婦 2 0名)の鼻塵の細菌検査 を行 った。 検査 (1回) と, ICUス タッフ ( 4)個室の一 日の,入室延べ人数 と, ドアの開閉回数を一週 間,調査 した. 5)期 間中, ICUに入室 した患者の,MRSA検出状況 を調査 した。 4.結 果 細菌検査 の結果,個室内では,マ ット上か らはM RSAは検出されなかった。 しか し,マ ッ トを 敷かなかったベ ッド直下の床 と,ベ ッドの棚,桟で MRSAが検出された。個室外では,ベ ッドの 間,処置台の上か らはM RSAは検出されなか ったが,検査室 より検出 された。 しか し,同定検査 の結果, この患者由来のM RSAではなかった ( 表 1)。スタッフの鼻肱の細菌検査で もM RSA は検出されなかった。 一週 間,個室への人の出入 りを調査 したところ,一 日の延べ人数は,最高71人,最低5 0人で,辛 均6 4人であ り, ドアの開閉回数は,最高 1 4 0回,最低9 8回で,平均 1 3 4回であった ( 図 3)。 この患者が入室中,1 9名の患者が入室 したが,入室中 も,病棟へ転棟後 もこの患者由来のMRS Aは検 出されなかった。 5.考 察 MRSAは,消毒薬 による床の清掃で も除菌 されるが,これは,一時的な効果であ り,診療,看 護処置 によ り,常 に床 などに散乱する。それが人の出入 り等 により浮遊 し,履物,衣類 に付着 し持 ち運ばれる。当院では,感染対策委員会 を中心 に,MRSA感染対策のひとつ として,マ ッ ト使用 について検討 され実施 している。太 田ら1'の実験結果によると,常時マ ットが塩化ベ ンザルコニュ ウムで,湿 っている状態において,MRSAは, 5分以内で殺菌 された と報告 されている。 今臥 院内感染対策委員会の助言 もあ り,「 感染経路」 とい う点 に着 日し,ベ ッ ド周囲にマ ット を敷 きつめてみた。個室への人の出入 り, ドアの開閉の調査では 「なるべ くドアの開閉を少 な くし て下 さい」の声がけにもかかわらず私達が想像 していた以上に多かった。このような状況の中では, M RSAが外に持ち運ばれる危険性 は高かった と思われる。 また,MRSA感染患者の入室が長期 になると,感染の危険は増大 される。今回,2 2日間 とい う長期入室 にもかかわ らず,この患者由来 のM RSAは個室外か ら検出されなかった。また,個室 と隣接 し,1 7日間入室 していた患者 も含め, 1 9名の入室患者 にもM RSAは検出されなかった。 この ことか ら,マ ッ トの上 に落下 した菌 は,常 時殺菌 され,浮遊は くい止め られ,個室外に持 ち運ばれる菌は最小限 とな り,交差感染予防 につな がった と思われる。しか し,今回のような結果が得 られたのは,当部の感染防止マニュアル に従い, 手洗い ・ガウンテクニ ック等,一人一人の,基本的な行為の励行があったことを忘 れてはな らない。 6.結 語 消毒薬散布マ ットの使用は,今回のM RSA感染患者の個室管理において,有効であった。 -6 7- く 引用 ・参考文献) 1)太田 伸 :NEW マ ッ トのメチシリン耐性黄色ブ ドウ球菌 ( MRSA) に対す る消毒効果 に ついて,病院医学 ,1 7 ( 4):2 2 92 35, 1 9 9 1 3 4 1 ) :1 6 7 31 6 81 ,1 9 8 9 2) 品川 長夫 :MRSA感染症,救急医学 ,1 3)丸橋 民子 :多剤耐性黄色 ブ ドウ球菌 の院内感染対策 ,Eme r g e n c yn u r s i n g ,1 2 ( 1 ):81 9 0, 1 9 8 9 動 :M RSA病院感染防止対策,感染症,1 8 ( 4):2 428 ,1 9 8 8 4)永井 雅克 :M RSA感染 と消毒,医薬 ジャーナル,2 4 ( 9):1 9 4 7-1 9 5 1 ,1 9 8 8 5) 渡 6)青木 泰子 :M RSAの予防 と対策,外科 ,5 1 0 1 ):1 2 41 1 1 2 4 7,1 9 8 9 7)根岸 昌功 :M RSA, ICUと CCU,1 4 如):1 01 71 0 2 3,1 9 9 0 r g e n c yn u r s i n g , 5( 5 ):3 33 9,1 9 9 0 8)尾家 重治 :院内感染 を防止す るための消毒,Eme ( 2): 9)書付正一郎 :M SSRとM RSAに対する消毒剤の殺菌効果の比較,医薬 ジャーナル,25 31 73 2 2,1 9 8 9 1 0 )柴田 達彦 :M RSA,臨床麻酔 ,1 4 ( 7 ):9 9 39 9 6,1 99 0 表 1 細菌検査結果 No 採 取 場 所 1 個室ベ ッドの下 2 個室 の桟 、 3 個室ベ ッ ドの棚 .桟 4 個室入口 5 検査室 6 汚物処理室 7 個室 ドア取手 ■ 8 個室 内マ ッ ト 9 処置台上 7 1 0 1 4 1 7 2 1 + - + - - - + + - 1 0 個室内空気 l l 病室内空気 - 68- 患 者 出入 口 敬 員 出入 口 I ∵ ∴ 三 ㌧ U ベ ッ ド 洗 辛 い \ 図1 図2 個室内マ ッ ト配置図 5/7 図3 8 9 10 11 12 検体採取場所 13 ( 局/日) - 日の ドアの開閉回数 と入室延べ人数 - 69-
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