ミクロ経済学 (15)就業と実質賃金 丹野忠晋 跡見学園女子大学マネジメント学部 2012年7月24日 復習1 付加価値=企業収入ー中間財の費用 GDP=全企業の付加価値の合計 生産された物の売上は誰かの所得になる GDP=賃金+利子支払い+間接税+利潤+減 価償却 総生産は総所得に等しい 2012/7/24 ミクロ経済学 15 2 復習2 経済は波打ちながら成長していく 好況→後退→不況→回復→好況 消費者物価指数は家計にとって重要な物価の 動向を見るための指数 GDPデフレータは国内で生産される財の物価 指数 名目GDP 実質GDP= GDPデフレ-タ 2012/7/24 ミクロ経済学 15 3 インフレ率 上がっているか下がっているか動きが大切 今年の物価がP,来年の物価がP’とする インフレ率は物価の上昇率を表す P’ -P × 100 P 変化率のパーセント表示 マイナスだとデフレ ◆問い 去年の物価指数100で今年は98ではイ ンフレ率はいくらか 2012/7/24 ミクロ経済学 15 4 インフレと異なった時間の選択 ◆解答 98 - 100 × 100= -2 (%) 100 物価が下がれば消費者は得をする 今年100万円の所得を得るが来年は0 貯蓄しても利子は付かない 今年の価格は物価指数 P 所得100万円で1,000,000/P 個の財を購入可能 来年の価格は物価指数 P’ 2012/7/24 ミクロ経済学 15 5 来年の消費(万個) 100 P’’ 100 P’ 今年の所 得をすべ て貯蓄= 来年の最 大の消費 2012/7/24 C B 今年と来年の所得と貯蓄 デフレになった 来年の価格が 下落 P’’<P’ 傾き= = 100/P’ - 0 0 - 100/P 100/P’ -100/P P =- P’ 消費可能領 域が拡大 A ミクロ経済学 15 100 P 今年の消費(万個) 6 価格変化がある異時点間の消費 予算線の傾き: –P/P’ 今年すべて消費: 100/P 所得をすべて貯蓄した時の来年の消費: 100/P’ 今年の消費と来年の消費のトレードオフは P P’ 今年の財を1単位増加させるには P/P’ 単位の来年 の財を諦めなければならない デフレが起こったとする.来年の物価が下落 P’’<P’ → このとき消費可能領域が拡大 2012/7/24 ミクロ経済学 15 7 名目利子率と実質利子率 来年の夏に旅行しようとお金を貯めた.利子 が入り航空運賃が下がり嬉しい 貯金は将来使うためにある 将来の消費を考えるには将来の価格と利子率 の両方を考えねばならない. 両方を考慮に入れた概念が実質利子率 今まで学んできた利子率は正確に言うと名目 利子率と言う 名目利子率は今年100 円を貯蓄したら来年何円 もらえるかを意味する 2012/7/24 ミクロ経済学 15 8 実質利子率 価格が変化する世界では修正が必要 実質利子率は今年の消費を控えて貯蓄したら来 年どれだけ消費が増えるかを表す 実質利子率 real interest rateの定義 実質利子率=名目利子率-インフレ率 例:名目利子率が 0.03 (%). インフレ率が -1.4(%) の時の実質利子率は 0.03-(-1.4)=1.43 (%) 実質利子率は1.43%であり思いの外高い 2012/7/24 ミクロ経済学 15 9 実質利子率/2 例:名目利子率が 1 (%). インフレ率が 1(%)の時の 実質利子率:1-1=0 (%) 今年の物価指数は 100 ,今一万円所有していた 今年の消費量: 10,000/100=100 (個) 貯金すると来年の元利合計 10,000(1+0.01)=10,100 インフレで来年の物価指数 100*1.01=101 来年の消費量 10,100/101=100 (個) 今年の消費量と変化は無い これは実質利子率が 0% であることを意味する 2012/7/24 ミクロ経済学 15 10 実質利子率/3 日本は現在利子率が低いがデフレなので実質利子 率は他の先進国と比べ高い. 国名 政策金利 - 物価上昇率 = 実質金利 日本 0.10 - (-1.30) = + 1.40 アメリカ 0.12 2.60 = - 2.48 イギリス 0.50 3.50 = - 3.00 欧州 0.34 0.90 = - 0.56 主要国の実質利子率はマイナス 白川日銀総裁の国会答弁より,衆議院財務金融委員会 議事録 ,開催日:平成22年3 月1日 http://www.yamamotokozo.com/report20100627.htm 物価が動く時は資本市場では実質利子率が価格 2012/7/24 11 ミクロ経済学 15 資本市場の均衡 実質利子率 r 貯蓄曲線 S と投資曲線 I I の交点で実質利子率決定 S 貯蓄曲線 S =供給 名目に比べて実質利子率は高い r* 投資曲線 I =需要 I*=S* 2012/7/24 ミクロ経済学 15 資金量 12 デフレで得をする人,損する人 貯蓄は将来物を買うため 借金は今物を買うため=今買える物以上に消費 名目利子率1%でインフレ率-1%であるとする デフレにおいて貯蓄と借金どちらが有利だろうか? 実質利子率=1-(-1)=2 (%) 名目利子率1%で貯蓄している人 今の1万円を諦める 10000/100=100(個)の消費を諦める 来年102(個)の消費ができる 102個消費できるのは実質利子率が2%であるから 2012/7/24 ミクロ経済学 15 13 名目利子率1% で1万円借金している人 10000/100=100(個)の消費ができる 利子率が1%だから返済は10100(円) 10000×1.01=10100 (円) この借金によって将来のどれだけ返済するのか? デフレで100だった物価指数は99 10100 / 99=102.0 現在消費100(個)のため来年の102(個)を返済 しなければならない デフレが進むほど返済する財の量は増える 2012/7/24 ミクロ経済学 15 14 デフレで有利な人 企業に比べ労働者は有利だ.ただし,賃金が消 費者物価よりも下がらなければ. 貯蓄者(債権者)も有利だ.名目利子率は低くて も消費者物価が下落すれば有利 債務者(借金している人)は不利 現在得ている物以上の物を返済する必要がある 企業は現在よりももっと沢山の物を作る必要 家計は貯蓄主体で,企業は借り入れ主体だった 企業はデフレを望まない 2012/7/24 ミクロ経済学 15 15 働く事の経済学的な意味 イチローや真央ちゃんが家でゴロゴロはも ったいない 余暇時間と労働時間はトレードオフの関係 24時間 余暇 労働 働かざる者食うべからず! 労働して得たお金(所得)で消費ができる 2012/7/24 ミクロ経済学 15 16 余暇時間とうまい棒の選択 真央は24時間を余暇か労働に振り向ける 労働1時間当たり1000円の報酬を受け取る 所得で価格10円のうまい棒が買える 16時間を余暇,8時間を労働 所得は 8×1000 円=8000円 うまい棒は 800 本買える 8000/10=800 余暇と労働と同様に以下の関係がある 余暇と消費はトレードオフの関係にある 2012/7/24 ミクロ経済学 15 17 うまい棒の量(本) 2400 C -100は余暇を1時間増 やすにはうまい棒を100 本犠牲にしなければなら ない 24 時間働い てうまい棒を 食べる 2400-0 傾き= 0-24 =-100 B 800 労働時間 =8時間 一日をすべて余暇 A 16 2012/7/24 ミクロ経済学 15 余暇(時間) 24 18 余暇とうまい棒の選択 一日を全て余暇=消費ゼロ(A) 一日中働く場合の消費(C) 24×1000=24000 予算線の傾き: –100 その絶対値: 100 余暇一時間につき時給 1000 円諦める →余暇の価格は 1000 円 うまい棒の価格は 10 円 予算線の傾 余暇の価格 1000 きの絶対値 = = 100 は価格比を 示す うまい棒の価格 10 2012/7/24 ミクロ経済学 15 19 労働市場 みなさんは労働サービスを供給 アルバイトの時給が価格 (生産物価格一定) 賃金率は時間や一日当たりの労働時間で測った 賃金 賃金は英語で wage 価格は賃金率 w 労働は英語で labor 数量(何時間あるいは何日働く)は L 賃金=賃金率×労働時間= wL 2012/7/24 ミクロ経済学 15 20 労働市場の均衡 w 賃金率 D 均衡賃金率と均衡 労働量が決まる S 労働供給曲線 w* 労働需要曲線 労働量 L L* 2012/7/24 ミクロ経済学 15 21 実質賃金 アルバイト代は物を買うために使われる アルバイトの時給 1000 = うまい棒の価格 = 100 (個) 10 デフレーションでうまい棒の価格が5円になった 1時間の労働で買えるうまい棒の個数 w 1000 = =200 (個) p 5 うまい棒 100 個から 200 個へ消費増加 時給が不変ならば価格下落で消費者は有利に 2012/7/24 ミクロ経済学 15 22 実質賃金 1時間当たり何単位の財が買えるかが重要 生産物価格 p も労働供給にとって重要 1時間働いて購入できる財の数量を実質賃金率 と呼ぶ w p =労働単位時間当たり購入できる財の量 金額で考えた時給 w は名目賃金率と言う 利子率,GDPと並んで賃金率も実質が重要 2012/7/24 ミクロ経済学 15 23 消費財の量 24w p’ 24w p D C •予算線の傾きの絶対値=実質賃金率 デフレーションが起こった p’ < p •消費可能領域が広くなる •賃金率変化せず物価下落で得をする 傾き=- =- A 24w p w p ÷ 24 余暇(時間) 24 2012/7/24 ミクロ経済学 15 24 実質賃金 単位時間働いて得られる賃金を名目賃金率 一方,単位時間働いて購入できる財の数量を実 質賃金率 名目賃金率 実質賃金率= 物価水準 名目賃金率が変わらず,物価が下落すると労働 者は得をする(前の図) しかし,物価と名目賃金率が同じだけ下落すると 状態は変わらない.賃金と物価が半分へ. 0.5w w 実質賃金率 = 0.5p p は変化なし 2012/7/24 ミクロ経済学 15 25 労働市場の均衡 w 実質賃金率 p D 本当は実質賃金率 が労働の価格 S 労働供給曲線 w* p* 労働需要曲線 労働量 L L* 2012/7/24 ミクロ経済学 15 26 所得 平成 22 年 の給与所得者数は5,415万人 1年を通じて勤務した給与所得者数は 4, 552 万人 平均給与は412 万円 (対前年比1.5%増) 最も高い給与:電気・ガス・熱供給・水道業の 696 万円,次いで金融業,保険業の 589万円 最も低いのは宿泊業,飲食サービス業 247万円, 農林水産・鉱業,サービス業と続く 給与800万円超の給与所得者は365万人で全体の給 与所得者の8.0%.その税額は合計4兆3,639億円で 全体の60.2% 標本調査結果|統計情報|国税庁 民 間 給 与 実 態 統 計 調 査 http://www.nta.go.jp/kohyo/tokei/kokuzeicho/minkan2010/pdf/001.pdf 2012/7/24 ミクロ経済学 15 27 実質的な給与,日本の労働市場 2009年から2010年にかけて平均給与は 1.5% 増 加した. 同時期に消費者物価指数は 0.3% 下落 実質で測った平均給与は 1.5-(-0.3)=1.8 (%) 上昇 乳幼児・学生→ 就業者→引退 日本の女性は子供を産み育てるため一旦労働市 場から退出する.労働参加率が低くなる 子育てが終わるとまた労働市場へ再参入する. 非正規が多い.労働参加率がM字型 2012/7/24 ミクロ経済学 15 28 失業 職がないと給与が貰えない 失業とは,就業する意思と能力がある人が生産活動 に従事していない状態 経済的困窮,生活水準の低下,自尊心を傷つける 若者の失業:人的資源の喪失,将来の労働生産性 の低下 中高年の失業:病気や怪我をしやすい,家族への影 響 2012/7/24 ミクロ経済学 15 29 万人 12000 就業状態別15歳以上人口 - 全国 2011年 働く意志のある人 10000 働く意志がない:老人,学生 8000 6000 10552 4000 6261 4287 2000 0 15歳以上人口 労働力人口 出所:労働力調査 2012/7/24 ミクロ経済学 15 非労働力人口 30 万人 2011年 日本の就業者と完全失業者 7000 284 6000 働きたいけど 働き口がない 5000 4000 5977 3000 完全失業者 就業者 2000 1000 0 出所:労働力調査 2012/7/24 ミクロ経済学 15 31 労働市場での失業 w 名目賃金率 D 財の価格は一定とし て名目賃金率を採用 S 失業 w** w* 労働供給曲線 労働需要曲線 労働量 L L* 2012/7/24 ミクロ経済学 15 32 失業率 失業の状態も率で測る 失業率(unemployment rate)とは就業しておらず求 職活動をしている人数の労働力人口に対する比率 労働力人口=就業者数+失業者数 失業者数 失業率= × 100 労働力人口 2012年5月の日本の就業者数が6297万人,失業者 数が297万人 http://www.stat.go.jp/data/roudou/sokuhou/tsuki/pdf/05400.pdf 出典(総務省「労働力調査」) 2012/7/24 ミクロ経済学 15 33 2012年5月分日本の失業率 失業者数 失業率= × 100 労働力人口 失業者数 = × 100 就業者数+失業者数 297 = × 100 6297+ 297 297 = × 100 6594 29700 = ≒ 4.50 6594 2012年5月の失業率は4.5% 2012/7/24 ミクロ経済学 15 34 6.0 % 5.0 4.0 完全失業率 5.0 5.4 5.3 4.7 5.1 4.4 4.1 3.0 3.9 5.1 4.0 4.5 2.0 1.0 0.0 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 出所:労働力調査,2011年は5月のデータ 2012/7/24 ミクロ経済学 15 35 労働力人 口に対す る失業者 の割合 10 9 8 7 6 パーセント(%) 5 4 3 2 1 0 5大国の失業率 9.39 9.28 7.46 7.44 イギリス ドイツ 5.08 日本 アメリカ フランス 出典:IMF-World Economic Outlook (2010年4月版) 2012/7/24 ミクロ経済学 15 36 労働環境 労働市場で賃金が高いのが失業の一要因 日本は先進国の中で最も失業率が低い なぜフランスは失業率が高いのか 労働規制により硬直的な労働環境で雇用が 増えない 失業によるコスト 失業率を低める政策は? 2012/7/24 ミクロ経済学 15 37 2011年5月の有効求人倍率0.61倍 有効求人倍率はハローワークで仕事を探す人1 人に何件の求人があるかを示す 5月有効求人倍率は0.61倍で横ばい、東北地 方は改善傾向 有効求人倍率は景気の動きに伴い07年 から低下、09年をボトムに緩やかに改善 が続いてきたが、東日本大震災の影響で今 年4月にやや低下した 2009年度は 0.45 倍で過去最悪 http://jp.reuters.com/article/topNews/idJPJAPAN-21987420110630 2012/7/24 ミクロ経済学 15 38 職種によって求人倍率が違う 【東京】職種別有効求人・求職状況(一般常用) 2010年4月 (単位:人、倍) http://www.tokyohellowork.go.jp/chingin_toukei/tokyo1.html 職業計 0.60 • 専門的・技術的職業 1.23 • 事務的職業 0.20 • 接客・給仕の職業 1.78 • I T関連の職業 1.53 • 福祉関連の職業 2.06 2012/7/24 ミクロ経済学 15 39 就職ランキング2005文系 1. 2. 3. 4. 5. 日本航空 → 経営破綻 電通 → 赤字 全日本空輸 → 原油高で利益が圧迫 JTB → 旅行代理店 サントリー → 酒を作って売って 就職ランキングに出ている企業が良いと思う人 は自分自身を良く考えた方が良い 2012/7/24 ミクロ経済学 15 40 失業の形態 1年以上失業している長期的失業は深刻 夏の北海道の牧場で働くような季節性のある労働 季節によって変化する失業は季節的失業という 世の中には成長する産業と衰退産業がある ある職業から他の職業へ移るときに起きる失業を 摩擦的失業という 2012/7/24 ミクロ経済学 15 41 構造的失業 失業者がどれくらいの期間失業するのか? 失業期間をみると2001年には全体で4.3か月、男 性5.6か月,女性3.1か月となっている 長期的失業は構造的要因 構造的失業とは労働需要と供給の間で労働者 の質や地域にミスマッチがあるために起こる失業 景気後退期に増加して,好況期に減少する失業 は循環的失業という 2012/7/24 ミクロ経済学 15 42 非正規雇用 非正規雇用と期間を定めた短期契約で職員 を雇う.パート,アルバイト,派遣社員 正規雇用は期間を定めない=終身雇用 2012/7/24 ミクロ経済学 15 43 非正規雇用と失業率 日本の景気回復と非正規労働 In countries that implemented large short-time work programs (Germany, Italy, Japan, Netherlands), the rise in unemployment was less than predicted by these factors. http://www.imf.org/external/pubs/ft/weo/2010/01/pdf/text.pdf WORLD ECONOMIC OUTLOOK IMF 柔軟な雇用調整が失業率を低めている 短期的な雇用があるために企業の労働需要は高い 非正規雇用にも日本全体としてメリット有り 2012/7/24 ミクロ経済学 15 44 経済学の考え方と我々の将来 自分の時間やお金は貴重だ 機会費用と限界概念で選択を考える 豊かな将来のためには自分に投資する 日本経済はG8の一員として世界有数の規模 貯蓄や借金で購買力を時間的に移動可能 デフレではあるが我々貯蓄をしている者には有利 経済が深刻な不況に陥らないために短期的な雇用 は重要である 明るい将来のために経済の知識を増やし経済学の 先進的な考え方を学んでいこう! 2012/7/24 ミクロ経済学 15 45 復習1 将来の消費を考えるには将来の物価と 利子率の両方を考えねばならない. 実質利子率は今年の消費を控えて貯蓄 したら来年どれだけ消費が増えるかを 表す 日本は現在利子率が低いがデフレなの で実質利子率は他の先進国と比べ高い 2012/7/24 ミクロ経済学 15 46 復習2 働く事は労働サービスを供給 単位時間当たりで測った賃金である賃金率が 労働の価格 有効求人倍率はハローワークで仕事を探す人1 人に何件の求人があるかを示す。 就業する意思と能力がある人が生産活動に 従事していない状態を失業という 失業率=失業者数/労働力人口 構造的失業とは労働需要と供給の間で労働者 の質や地域にミスマッチがあるために起こる 2012/7/24 ミクロ経済学 15 47
© Copyright 2024 ExpyDoc