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ミクロ経済学
(3) インセンティブと市場経済
丹野忠晋
跡見学園女子大学マネジメント学部
2012年4月23日
復習

機会費用は真の費用

ある選択の機会費用とはそれをすることに
よって諦めなければならないもの

サンクコスとはもう既に支出してしまった
金額であり現在のどんな選択によっても取
り戻すことができない支出

ある活動を増やしたときに追加的にかかる
費用を限界費用という

ある活動を増やしたときに追加的に発生す
る便益を限界便益という
2012/4/23
ミクロ経済学 3
2
復習/2

現在の利益を我慢して将来の利益を獲得す
る活動を投資という
将来何が起こるか分からないことをリスク
があるという
 将来起こるリスクは出来るだけ避けたい
 トレードオフは他人との交換を促す
 経済学の4つの問題
1.何をどれだけ作る,2.どうやって作るか,
3.誰に与えるか,4.誰が決めるのか

2012/4/23
ミクロ経済学 3
3
今日学ぶ事
1.
2.
3.
4.
5.
インセンティブ
競争
完全競争市場,プライステイカー
三つの主要な市場
政府の役割
2012/4/23
ミクロ経済学 3
4
人を動かす

親から成績が上がったらお小遣いをあげると言
われたことない?

テストで良い点を取ったらディズニーランド

トレードオフは他人との分業を促す

他の人々の行動を変えるにはどうすればよいの
か?

人々は皆それぞれ利己的である

ガソリン価格の上昇で人々の行動は?
2012/4/23
ミクロ経済学 3
5
インセンティブ

人々は利益や費用に反応する

インセンティブとは
報酬を与えて人々の行動を変化させる要因

この報酬には費用の減少も含まれる

人々に特定の行動を引き起こす原因

インセンティブを英語で incentive

インセンティブは日本語では誘因,動機付け
2012/4/23
ミクロ経済学 3
6
インセンティブを大辞林で引くと



誘因.目標を達成するための刺激.
売り上げ報奨金.
クルマの営業マンが月の売り上げが10台超え
ると特別ボーナスを貰える

2番目の売り上げ報奨金とは会社の目標利益
をクリアした人に特別の報奨金を与えること
2012/4/23
ミクロ経済学 3
7
一番大きな誘因は価格

自由な社会では偉い人が命令しても人は動か
ない

他人の行動を変える適切なインセンティブを
与える必要

人は価格を見て購買行動を大いに変える

ガソリン価格の上昇

MP3プレイヤーの価格の下落

大卒者の所得が高卒に比べて高くなる
2012/4/23
ミクロ経済学 3
8
もっと複雑なインセンティブ

シートベルトやエアバックの装着は交通事
故を減らすか?
少々事故を起こしても死なないので,運転手
はスピードを出してしまう
米国では交通事故が増えた.死亡者数は減少
 大相撲の八百長
 経済学者は八百長を指摘していた
 千秋楽で7勝7敗の力士は8勝6敗力士よりも強い
 映画『ヤバい経済学』
2012/4/23
ミクロ経済学 3
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インセンティブと制度設計
両親は苦労して勉強させようとした
 目先のことよりも長い目で見ている
 意思決定者はインセンティブに反応する


選択や行動を理解するためにはインセンティ
ブが重要である
制度を設計する上で正しく経済主体のインセ
ンティブを考慮しないと思わぬ結果
 社会主義経済の失敗
慢性的な物不足,行列,地下経済,特権階級

2012/4/23
ミクロ経済学 3
10
競争の役割

駆けっこの競争で勝った者が速い

競争の結果で優れた者が判明する

日本は豊かで健康で人々は様々な財やサー
ビスを享受できる理由は競争があるから

企業は消費者を獲得するためにできる限り
品質が良く低価格の財を供給する

人々が集まり企業の利益が上がる

自由で公正な競争がなれければ誰かに指令
されて経済を運営→社会主義経済,統制経済
2012/4/23
ミクロ経済学 3
11
競争(Competition)

能力があって努力家の労働者は高い賃金雇
われる

アンパイヤである顧客は優れた者を発見

Competitionを競争と翻訳した人
福沢諭吉

徳川政府の勘定方に頼まれて経済書の目録
を翻訳

競争に関する和語がなかったので「競い争
う」から案出
2012/4/23
ミクロ経済学 3
12
『福翁自伝』

幕府役人「イヤここに争という字がある、ドウ
もこれが穏やかでない、ドンナことであるか」

福沢「どんなことッて、これは何も珍しいこと
はない、日本の商人のしている通り、隣で物を
安く売ると言えば此方の店ではソレよりも安く
しよう、また甲の商人が品物を宜くすると言え
ば、乙はそれよりも一層宜くして客を呼ぼうと
こういうのでetc」

幕府役人「なるほど,そうか西洋の流儀はキツ
イものだね」
2012/4/23
ミクロ経済学 3
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完全競争市場

もっとも理想的な競争

消費者と企業が出会う場=市場の仮定

完全競争
個々の経済主体は市場で成立する
価格に影響を及ぼすことができない.

市場価格を与えられた(所与)のものとして行
動する

プライステイカーあるいは価格受容者と呼ぶ
2012/4/23
ミクロ経済学 3
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完全競争市場/2

例えばお米を作っている農家を想像

ある農家の取引量と日本全体の消費量を比較
するとその農家のお米の生産量は小さい

一年間のお米の消費量も日本全体から比べる
とほんの小さな部分

個々の取引は米の価格に直接的な影響を及ぼ
せない

このような経済を考えていく
2012/4/23
ミクロ経済学 3
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一物一価の法則

完全競争市場では同一の財には同一の価格
が付けられている

通常価格は単一の価格に近づく

市場で付く価格でどんな人も自由に売買が
できる

競争は自由で民主的な制度

競争の機能を理解するために最初は完全競
争を主に考えていく
2012/4/23
ミクロ経済学 3
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数学のけいこ
y座標(縦座標)
-3
x座標(横座標)
-2 -1 0 1
y
4
3
2
1
0
-1
2012/4/23
数のペアを
平面に表示
-3
3
2
(1,2)=(x座標が1, y座標が2)
4
3
2
1
-2 -1
(3,4)
0 1
ミクロ経済学 3
2
x
3
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数学のけいこ2
直線は2つの数量の関係を表す
y
4
3
2
(3,3)
1
x
-3
2012/4/23
-2
-1 0
1
2
3
ミクロ経済学 3
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数学のけいこ3
直線1
y
直線1の方が
直線2より急だ
直線2
4
3
2
1
x
-3
2012/4/23
-2
-1 0
1
2
3
ミクロ経済学 3
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数学のけいこ4
直線の傾斜の度合いを傾きという
傾き=タテの変化÷ヨコの変化
(0,0)から(1,1)に変化したときの傾き
y
直線2
ヨコの変化=1-0=1
タテの変化=1-0=1
4
3
2
傾き
=タテの変化÷ヨコの変化
=1/1=1
1
x
-3
-2
-1 0
2012/4/23
1
2
3
ミクロ経済学 3
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交換が行われる場が市場

競争によって交換が行われる状況を市場(し
じょう)という

魚,青果等の具体的な財が取引される市場(い
ちば)だけではない

様々な経済主体が直接的または間接的に様々
な形態で行われる取引の場所全体

市場を英語で
Market
2012/4/23
ミクロ経済学 3
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様々な市場

築地の魚市場,青果市場

フリーマーケット,ネットオークション

コンビニやデパート

生産者から卸売業,卸売業者から小売

東京証券取引所

東京外国為替市場
すべて市場という概念で捉える
2012/4/23
ミクロ経済学 3
22
多様な財とサービス

財(goods)
 形あるもの,在庫可,クルマ,バック
 悪い財(bads),ゴミ,産業廃棄物

サービス(service)=用役
 合意の下に顧客に変化をもたらせること,無形
 美容院,教育,運輸,通信

サービス産業(第3次産業)

労働
 働くことも一つの取引されるサービス,賃金が対価
2012/4/23
ミクロ経済学 3
23
見えざる手
市場経済に組み込まれているインセンティ
ブによって希少な資源は有効に活用される
 アダム・スミス の見えざる手 (『国富論』
日経)

生産物の価値が最も高くなるように労働を振り向けるのは,自分の
利益を増やすことを意図しているからにすぎない.だがそれによって,そ
の他の多くの場合と同じように,見えざる手に導かれて,自分がまったく
意図していなかった目的を達成する動きを促進することになる.そして,
この目的を各人がまったく意図していないのは,社会にとって悪いことだ
とはかぎらない.自分の利益を追求する方が,実際にそう意図している
場合よりも効率的に,社会の利益をたかめられることが多いからだ.
2012/4/23
ミクロ経済学 3
24
人・モノ・カネが重要

3つの主要な市場:
1.生産物市場

1.
2.
3.


2.労働市場
3.資本市場
経済主体
個人(家計)
企業
政府
家計とは1つの家族.所得を得て消費をす
るまとまった生活単位を表す
最初は簡単な個人と企業のみを考える
2012/4/23
ミクロ経済学 3
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生産物市場
タイ焼き,ケーキ,教育,医療
企業の作った生産物を家計に販売
企業-売り手
個人-買い手




労働市場




アルバイト,サラリーマン,プロ野球
労働を取引する市場
企業が買い手-雇う人,雇用者
個人が売り手- 労働者,被雇用者
2012/4/23
ミクロ経済学 3
26
資本市場

銀行は皆さんから預かった金をどうして
いるか?
資金を他に貸し出している.金利を取っ
て預金金利との差額が銀行の利益

企業がお金を借りる,クルマ・住宅のロ
ーン,消費者金融

企業が投入物を購入するための資金を調
達する市場

金融サービス

企業-買い手,借り手
個人-売り手,貸し手

2012/4/23
ミクロ経済学 3
27
資本

資本市場
資金を調達するための市場.資金調達に
関わる制度すべてを含む広い概念

資本の2つの意味
資金と設備
1.
資金調達-借り貸し,資本市場
2.
資本財-機械や建物,資本財市場

どちらを用いているかは状況で判断

個人・家計もお金を借りる

住宅投資

クルマのローン
2012/4/23
ミクロ経済学 3
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三つの市場の図解
財の販売
財の購入
生産物市場
価格を支払う
企
業
労働者の雇用
労働供給
労働市場
家
計
賃金を支払う
資金の借り入れ
資金の貸し付け
資本市場
利子を支払う
2012/4/23
ミクロ経済学 3
29
問い
1.
2.
3.
4.
5.
三つの市場のうちどちら?
大学で経済学の講義を受ける 生産物
お年玉を貯金する
資本
通学で武蔵野線に乗る
生産物
カフェでアルバイトをする
労働
ディズニーランドで楽しむ
生産物
2012/4/23
ミクロ経済学 3
30
市場の効率性と政府の役割

「市場は効率的に機能する」は大体正しい

政府が行政サービスを行っている例
国防,警察,司法,上下水道,道路,
灯台,福祉

東日本大震災で自衛隊や消防士が活躍して
復興を目指している

自由で競争的な市場がうまく働かない(市場
の失敗) → 政府の存在の理由

公共財の供給
2012/4/23
ミクロ経済学 3
31
アルバイト代は自分のモノ

親が自分のアルバイト代を盗ったら怒る

雇い主がアルバイト代を支払わなかったら
やる気がなくなる

自分の活動の正当な報酬は自分のモノは当
たり前?

市場経済では利己的な個人が価格情報に反
応して自発的に取引を行っている

司法制度,警察,軍隊は人々の所有権を保
障
2012/4/23
ミクロ経済学 3
32
利己主義,価格情報,所有権

所有権 は所有者が自分の好きなように財産を使
う権利とそれを売る権利

企業は消費者の望む物を作り出す
→ 消費者のニーズを捉えれば儲かる,
競争は粗悪品を作る企業を破綻へ

労働者は真面目に働く
→ 働けば給料が上がる,サボるとクビ

しかし,自分の利益が保障されていなければ真
面目に働こうとは思わないだろう
2012/4/23
ミクロ経済学 3
33
まさかのために

リスクを避けるために貯蓄や貯金
1.
死 -生命保険
2.
病気 ー 医療保険
3.
事故 ー 自動車保険
4.
火事 - 火災保険

株はギャンブルと同じという意見あり

お父さんが生命保険に契約
保険会社がお父さんが長生きする方に,
お父さんは自分が早死にする方に賭ける
2012/4/23
ミクロ経済学 3
34
保険

政府は個人が負えない様々なリスクを負担
1.
年金
2.
健康保険
3.
介護保険
4.
失業保険

日本人の寿命の長さ世界一,長生きリスク

政府財政の中で社会保障費が一番大きい

日本人の一生と社会保障はどうなっている?
2012/4/23
ミクロ経済学 3
35
社会保障給付のイメージ
金額
(万円)
老齢年
金
出産関
係,児
童手当, 幼稚園,小
育児休 学校,中学
業
校,高校,
大学補助金
雇用保険
医療
子供
2012/4/23
介護
青年
壮年
ミクロ経済学 3
年齢
老年
36
市場の効率性と政府の役割

どんなときに市場がうまく働くか

どんなときに機能しないか

その時に適切な政府の政策は何か

政府が上手く機能しないときはどのように
市場の良さを生かしていくか
2012/4/23
ミクロ経済学 3
37
今日学んだ事
1.
2.
3.
4.
5.
インセンティブ
競争
完全競争市場,プライステイカー
三つの主要な市場
政府の役割
2012/4/23
ミクロ経済学 3
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復習1






インセンティブは人々の行動を変化させる
日本で豊富な財があるのは競争があるから
完全競争市場では経済主体は価格を操作す
る事ができない
多くの人々が交換を行う場を市場と呼ぶ
市場に組み込まれたインセンティブによっ
て希少な資源は有効活用される
3つの主要な市場:生産物市場,労働市場,
資本市場
2012/4/23
ミクロ経済学 3
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復習2





市場がうまくいかない場合に政府が機能
国防,警察,司法が所有権を保護する
政府は個人が負担しきれないリスクも負担
する
政府財政の中で社会保障費が一番大きい
政府が上手く機能しないときは市場の良さ
を見直す事が必要
2012/4/23
ミクロ経済学 3
40
宿題
テキストp.9~p.23をもう一回読む
 テキストp.24 問題1を解く
 あなたの身近にあるインセンティブを考える

2012/4/23
ミクロ経済学 3
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