経営情報学概論

経営組織論
経済学博士・工学博士
広島大学大学院工学研究院
特任教授 伊藤孝夫
第8章 条件適応理論
(Contingency Theory)
Contingency:偶発、万一
条件適応理論
• 伝統的組織論の考え方:いかなる環
境においても、唯一最善の組織構造
が存在
• 50-60年代、技術の発達で、環境が注
目されるようになった。
• 技術の変化⇒組織の構造に影響?
研究の流れ
• トリストとバムフォース(E. Trist and K. W.
Bamforth)1951
⇒炭鉱の採掘技術の変化:技術の進歩と炭
鉱労働者の職場社会ならびに作業組織
• ライス(A. K. Rice)1955
⇒インドの織物会社:自動織機工場の技術
と職場集団の変化
ウッドワードの研究
• 1953-63:英国のサウス・エセックス(South
Essex)地方の製造企業100社の実態調
査を実施
• 伝統的組織構造(ライン組織、職能組織、
ラインアンドスタッフ組織をはじめ、
管理階層の数、統制の範囲、専門
部門の活用程度、工場労働者と
事務管理スタッフの比率)
ウッドワード研究の結果1
• 組織構造と企業の経営業績との間に、明白な関
係を見いだせない
• 社会―技術システム論に着目:企業の生産シス
テム
1)単品生産と小規模のバッチ生産(第一の生産
システム)
2)大規模バッチ生産と大量生産(第二の生産シ
ステム)
3)装置生産(第三の生産システム)
ウッドワード研究の結果2
• 企業における組織の構造はそれ
ぞれの生産システムによって大
きく左右されるゆえ、企業がいか
なる組織構造を採用すべきかに
ついての回答を、普遍的に導き
出すことはできない
第一の生産システム:注文生産い
• 販売担当者
→ 自社の製造技術
• 製造担当者
→ 顧客の要求
• → 販売担当者と製造担当者との密
接な不可分な関係が要求される。さら
に製品開発などの部門とも、緊密な連
結をとることが要求される。
第二の生産システム:市場生産
• 販売担当者 → 専門的見地に立って科学的
な市場調査を行い、それに基づいて販売計画を
設定するとともに、こうした専門的知識並びに技
能を駆使して、販売促進さらに市場の拡大
• 製造担当者 → 生産の標準化がなされ、いか
にして能率的に市場の要求する製品を低コスト
で製造するかが課題
• → 大量生産システムの企業では、職能部門ご
とにそれぞれの職能の効率的遂行を測ることが
重要視される
第三の装置生産システム:製造活動がオートマティック
に進められる結果、監視労働の性格を有する
• 常軌的な作業は、あらかじめ綿密に立てられた
計画のもとに、すべての装置によって自動的に
進められるため、労働者の職務はむしろ自動装
置に異常が起きるとき、これに対処することをそ
の主たる内容とする
• 労働者→ エンジニアの資格、予期しない事態に
対応しうるだけの自主的な判断力
• トップ・マネジメント → 綿密な計画の設定
• 現場の労働者
→ 現場段階の問題処理
ウッドワード研究の意味
• 第一生産システム⇒各部門の緊密
な連結が不可欠
• 第二生産システム⇒各部門の緊密
な連結の重要性もさることながら、
それぞれの機能分野ごとの能率的
遂行が特に要請される
ウッドワード研究の意味
• 第一と第三生産システム
• それぞれの活動遂行が各従業員の裁量に大きく
委ねられるため、必ずしも厳格な職務規定を必
要とせず、(規定上は緩やかな組織)⇒権限が下
部階層に大幅に委譲され、第一線の従業員自身
が相互に緊密な連結を取り合うことによって、自
ら調整を測りつつ自主的にことを処していくよう
な組織:ライン組織(数多くのライン部門に細分
化されていないほうがよい)、有機的管理システ
ムが有効
ウッドワード研究の意味
• 第二生産システム
• 各部門における専門的な活動の能率的遂行が
特に強く要請されるゆえ、職能的専門化をよりい
っそう図ることが必須⇒各部門活動の効率的遂
行並びにそれらの全社的統一を確保するために
、明確な職務規程を確立するとともに、はっきり
した権限系列の下での、上位者によるきめ細か
な指導・監督及び各部門管の調整が不可欠(ス
タッフ制度の大幅な活用):機械的管理システム
が有効
ウッドワード研究の意味
• 業績:ウッドワードは技術が生産システムを規
定し、それが組織の構造を左右することを明ら
かにした
• 問題点:技術上の差異に依拠するこれらの生
産システムの特質を唯一の要件として、直ちに
企業にとって望ましい組織構造が具体的に明ら
かにされうるかという問題点⇒組織の構造に影
響する要因は、技術の要因の他にもっと多くの
要因を考慮すべき
ローレンス&ローシュの主張
• 「分化」(differentiation):部門の分割
ではなく、授業員や担当者の態度や
行動などの違い
• 「統合」(integration)は部門間の相違
によって生じるコンフリクトを如何に解
決するか
分化
• 目標指向(the orientation toward
particular goals)
• 時間指向(the time orientation)
• 対人指向(the interpersonal
orientation)
• 構造の公式性(the formality of
structure)
目標指向と時間志向
• 販売部門:売上高の増大
• 製造部門:製造コストの低減
• 長期的利益重視
• 短期的利益重視
対人指向と構造の公式性
• 仕事中心の考えを優先する
• 好ましい人間関係の維持を重視
• 各部門組織の職務権限が厳格に規
定されているか
• 各部門組織の職務権限が比較的緩
やかに規定されているか
研究結果(プラスチック産業;比較の
対象、容器産業と食品産業)
• 研究開発部門:基礎研究部門と応用研
究部門⇒科学環境であり、不確実性が
高い(市場環境と技術・経済環境と比べ
る)
• 緩やかな職務権限規定、自由行動がで
きる組織、研究員の大幅な自主裁量権
が有効
• 部門構造の公式性は低い
研究結果(プラスチック産業;比較の
対象、容器産業と食品産業)
• 長期的観点を持つ(明確な目標指
向ではない)
• 対人指向より仕事優先指向(製造
部門(仕事優先)--研究開発--販売
部門(対人指向)
• 基礎研究部門:仕事指向VS応用研
究部門:対人指向
研究結果(プラスチック産業;比較の
対象、容器産業と食品産業)
• 製造部門:いかに低コストで能率
的に製造するかが課題⇒技術・科
学環境であり、確実性が高い(装
置生産システムのため、自動化し
ている)
研究結果(プラスチック産業;比較の
対象、容器産業と食品産業)
• 目標指向で、短期の製造成果に重
点を置く
• 職務権限の明確化
• 部門構造の公式性は高い
• 対人指向よりも仕事指向が優先
研究結果(プラスチック産業;比較の
対象、容器産業と食品産業)
• 販売部門:市場の動向を把握し、製
品を販売することがその課題⇒市場
環境、科学環境より確実性の度合
いは高いが、技術・経済環境より低
い。
• ある程度の裁量権が必要
研究結果(プラスチック産業;比較の
対象、容器産業と食品産業)
• 担当者の相互協力が特に必要
• 目標指向と時間指向について中間
的性格を持つ
• 対人指向は強い
• 構造の公式性は比較的緩やか
研究の結果
• 部門間の相違が認められる:環境要因によって
不確実性の程度に著しい差が見られるために、
分化の程度が極めて高い。
• 分化の程度
プラスチック産業(高)⇒食品産業⇒容器産業(低)
比較的低い階層
の組織
比較的高い階層
の組織
条件適応理論の問題点
• 環境の全体的な把握可能性
• 環境への影響
• 環境は時間とともに変化
• 個別の企業の理論の解明から企業
経営の普遍的理論の構築の可能性
ありがとうございました!