天体放射論II

平成24年度 集中講義特論 IB
京都産業大学 理学研究科
アルマ時代の
ミリ波サブミリ波天文学
河野孝太郎
・ 天文学教育研究センター
・ ビッグバン宇宙国際研究センター
[email protected]
第2講
星間物質(分子)からの放射
放射の輸送と励起
分子線 Molecular lines
分子が持つエネルギーの取り扱い
 水素原子の場合でも、シュレーディンガー方程式は充
分にややこしかったわけであるが、核子が複数になれ
ば、さらにとんでもないことになるのは容易に想像され
る。
 電子群が受ける力の場は、もはや中心力ではなくなる!
 核同士の相対距離変化は振動。
 核配置全体の回転運動も。
 このような複雑かつ厄介な系を、どう扱うか?
 一つの鍵:核子は重く、電子は軽い。→それぞれの速
度は全く異なる。電子のほうが圧倒的に大きい速度で
走り回っているはず。(核子がわずかに位置を変えるだ
けの時間の間に、電子は何周期も軌道運動しているで
あろう)→「断熱近似」が使える。
断熱近似とは?
 複数の自由度を持つ力学系
 ある自由度の運動が、他の自由度の運動に比べて格段に速
いまず他の自由度を固定して、速い運動の自由度だけ解く
。次に、速い運動について平均した力の場の中で、残りの
自由度の運動を解く。
 すなわち、速い運動と遅い運動の間のエネルギー移動を無視
していることに相当。断熱近似と呼ぶ。
 原子分子物理では広く用いられる。
 例:強磁場中の電子の振る舞いにも。原子内クーロン力よりも強い
磁場がかかっているような状況下(105 テスラ or 109 Gaussの磁
場に、1ボーア磁子 μBの磁石を置くと、相互作用のエネルギーは
5.8eV!~~>外殻電子の束縛エネルギーと同じオーダーに達して
いる)の振る舞い(中性子星ではこれ以上の磁場!):磁場方向と磁
場に直行する方向との運動に分けて断熱近似。
分子が持つ全エネルギー
 核子(質量M)と電子(質量m)の運動がdecoupleしてい
るという断熱近似(Born – Oppenheimer近似)のもと
で、order estimationをしてみる。
 分子が持つ全エネルギー Etotは、
Etot = Erot + Evib + Eel(re)
m m
: 1
それぞれのエネルギー比はおよそ 
:
M  M
 Erot:分子の回転エネルギー
 Evib:分子の振動エネルギー
ただし、m/M
 Eel:電子の束縛(電子励起)エネルギー
~ 10-4 – 10-5
(equilibrium separation reの関数となる)
問:このようなエネルギー比になることを示せ。
参考: Rybicki & Lightman著 “Radiative Processes in
Astrophysics”, chapter 11 (Molecular structure)の冒頭を参照
2原子分子の回転スペクトル
 2原子分子の場合を考える。多原子分子でも、直線状
分子(linear molecules)なら同様。
 分子の回転は、2つの原子を結ぶ分子の軸と直行する
軸のまわりの剛体回転(rigid rotator)で近似できると
する。
 このときの回転エネルギー Erotは
 Erot = hBJ(J+1)
 J:回転量子数(J=0, 1, 2, …) 2
 B:回転定数、B = h/(8π2I) or
2I
Iは分子の回転軸のまわりの慣性モーメント。
 通常の2原子分子だと、B ~ 10 - 100 GHz になる。
遠心力の効果
 現実には、分子は完全には剛体ではなく、回転
が速くなる(Jが大きくなる)と、遠心力の効果に
より慣性モーメントが増大する。通常、その効果
を遠心力定数Dで表す。このとき、
 Erot = hBJ(J+1) – hDJ2(J+1)2
 ただし、DはBと比較して小さい(D = 100 ~ 1
kHz)ため、第一次近似としては、遠心力定数
の効果は無視してよいことが多い。
Linear moleculesの分子定数
分子
CO (Carbon monoxide/一
回転定数
B (GHz)
遠心力定数
D (MHz)
永久双極子能率
μ (Debye =
10-18 e.s.u)
57.8975
0.189
0.10
CS
(Carbon monosulfide/
一硫化炭素)
24.58435
0.040
2.0
HCN (hydrogen cyanide/
44.31597
0.1
3.00
6.08149
0.00131
0.709
酸化炭素)
シアン化水素)
OCS (Carbonyl sulfide/酸
化硫化炭素)
HC3N
(Cyanoacetylene/
シアノアセチレン)
4.54907
3.6
Townes & Schawlow, “Microwave spectroscopy” (1955)
選択則
 選択則:⊿J = ±1
 (electric dipole transitions:すなわちpermanent
or rotationally induced electric dipole moment
を持つ場合)
 したがって、回転遷移により現れるスペクトルの周波数は
⊿Erot = 2B(J+1) or 2BJ
(J→J+1 or J→J-1の場合に対応)
 例:CO分子の回転遷移
 H2についで存在量の多い分子、H2との衝突により励起される
→ H2分子の定量に用いられる、非常に重要な分子線。
CO分子の回転遷移
http://www.strw.leidenuniv.nl/~moldata/datafiles/co.dat
Erot
エネルギー
= hBJ(J+1)
νJ=4→3=461.0407682GHz
20hB
νJ=4→3=8B
12hB
裳華房 「宇宙スペクトル博物館」
http://www.shokabo.co.jp/sp_radio/labo/r_line/r_line.htm
J=6
E=116.2K
J=5
E=83.0K
J=4
E=55.3K
J=3
E=33.2K
J=2
J=1
J=0
E=16.6K
E=5.3K
星間分子・原子の周波数表・定数表
 観測された(静止)周波数のデータベース
http://www.nist.gov/pml/data/micro/index.
cfm
 分子・原子の定数等のデータベース
http://www.strw.leidenuniv.nl/~moldata/
 Toyama Microwave Atlas
http://www.sci.utoyama.ac.jp/phys/4ken/atlas/
 CH3OH, acetamide (CH3CONH2), methyl formate
(HCOOCH3), and t-ethyl methyl ether
(CH3CH2OCH3) , 他、特徴的なアトラス
CO回転遷移輝線の例:
スペクトルと速度チャンネル・マップ
 NGC 986(爆発的星形成銀河)の中心部
Kohno et al., 2008, PASJ, 60, 457
3D data cube ⇒ Moment maps
 0th moment ⇒ integrated intensity map
I  i Si
 1st moment
⇒ intensity-weighted mean velocity map
 i v i Si
v 
 i Si
 2nd moment
⇒ intensity-weighted velocity dispersion map
v 
i  v i  v
 i Si

2
Si
CO回転遷移輝線の強度・速度分布
 NGC 986(爆発
的星形成銀河)
の中心部
 Integrated
Intensity
Map
 Intensityweighted
mean radial
velocity map
Kohno et al., 2008,
PASJ, 60, 457
放射の輸送と励起
熱力学平衡 Thermodynamic equilibrium
 radiation が、その周囲の媒質(放射が通過していく物質)
と、完全に熱平衡状態にある場合:Thermodynamic
equilibrium あるいは熱力学平衡と呼ぶ。
 この時、brightness distributionはPlank関数で表され
る。(i.e., 出てくる放射は黒体放射)
2h 3
B T   2
c
1
 h 
exp
 1
 kT 
 このとき、輻射強度は、平衡状態にある周囲の温度のみで
決まる(黒体放射)。
局所熱力学平衡(LTE)
 このような完全な平衡状態(Iν=Bν(T)という状態;放射と、放
射が通過する媒質とが、熱力学的に平衡状態にあると考え
ればよい。dI/dℓ=0)は、現実には、かなり限定された状況
でしか観察されない。
 しかし、局所的にTEであるとみなせるとき、local
thermodynamic equilibrium (LTE; 局所熱力学平衡)
にあるという。この状態では、放射と吸収はKirchhoff則:
εν/κν=Bν(T)で関係付けられている。すなわち、
 LTEとは:
「Iν≠Bν(T)であるが、Kirchhoff則が成り立っている状態」と
定義される。
 放射が、「熱力学平衡とみなせる媒質」を通過する状況を考えれば
よい。dI/dℓ≠0。
復習その0;輻射輸送 radiative transfer
 輻射 I   が、ある微小長さ d なる体積要素
を通過して I   d  になるとする。
I (0)
d
微小要素
  0
  0
  0
星間媒質   0
0
 0


(問:完全熱平衡なら?)
I ()

 B T 

LTEなら
dI
  I  
d
  I  B T 
 0 光学的厚みを導入 d   d


dI
0 d  I  B T 

問:この解は?I    I  0   I 0  e
 0 

  0 
 '




B
T

'

e
d '
 
0
復習その1:体積放射率と吸収係数
 微小体積要素の中での放射の「湧き出し」と「減衰」を記
述する
ε [erg s-1 cm-3 Hz-1 str-1]
absorption coefficient κ [1/m]
 volume emissivity

 これらは、マクロな(巨視的な)物理量。
 放射や吸収を実際に?担っているのは、ミクロな(微視
的な)原子・分子の性質。
 すなわち、Einstein’s A係数 and/or B係数、および、各エネ
ルギー準位にある粒子の数(数密度)。
h
 
   nu Aul
4
h
 
  n Bu  nu Bu 
4
gu 
c2
 h  

  n Au 1  exp  
2
8
g 
 kT  
復習その2:吸収係数と光学的厚み
 マクロな物理量⇔実際の観測量
 吸収係数は、実際には視線方向の積分量とし
て観測にかかる。
z
     dz
0
 
z
c 2  
0
8 2
 
z
c 2  
0
8 2
gu
nl Aul
gl
 nu gl
1 
 nl gu

 dz

gu
nl Aul
gl

 h  
1  exp   kT   dz



復習その3:源泉関数と励起温度(Tex)
 源泉関数(source function)
=体積放射率と吸収係数の比
1
1
nu gu
 h  
 2h  gu nl 
 h 
2h 

exp
 
 2 
 1  2 exp 
 
  1 ← n
gl

c  gl nu 
c 
 kT 
l
 kTex  
3
3
 ある物質(体積要素)が、どのくらい放射を吸収した
り放射したりするか、を示す重要な物理量。
 上の準位にある粒子数と下の準位にある粒子数(
およびそれらの準位の統計的重み)で決まる。
  準位間の粒子数はボルツマン分布で(実際にボ
ツルマン分布になっているかどうかはともかく、無理
矢理)記述できる。「励起温度」
放射輸送方程式の解とその意味
 ある空間を占める星間雲の放射を考える。
 そこでの源泉関数と励起温度が場所によらず
一定とみなせるとき、放射輸送方程式の空間方
向の積分がただちに解けて以下のような式に。
I (observed)  I (background)  exp      1  exp   
背景から来た放射が
星間雲内で減衰を受ける
星間雲内で付加
される放射
 星間雲がLTEとみなせるならΣν=Bν(T)
重要
放射強度の温度(輝度温度)表現
 Rayleigh-Jeans近似が有効な波長・温度領
域では、放射強度を温度して表現することも多
問:具体的に近似が
い。
使える波長・温度は?
 熱的な放射を考察する際に特に有効。
 h
2h 
I  2 exp 
c 
 kTB
3
1
2
 
2k
  1  2 TB
c
 
hν/kT <<1なら
h
 h 
exp 
 1
kT
 kT 
 Iνのかわりに、次式のような関係でTbを使う。
c2
同じ輝度温度でも、周波数が
TB 
I
2 
異なると、放射強度としては
2k
ν2の依存で異なることに注意。
RJ近似の有効範囲
h/k = 4.79927×10-11 [K/Hz]
Line
λ

[Hz]
h / k
[K]
Hα
0.656 μm
[CI]3P2-3P1
371 μm
CO(1-0)
2.6 mm
HI
21 cm
4.57×1014
8.09×1011
1.15×1011
1.42×109
2.2×104
問. 空欄を埋めよ。
サブミリ波~さらに短波長側では RJ近似ではなく
Plank関数に戻って計算すべき。
6.8×10-2
再び、放射輸送方程式の解の具体例
 背景に連続波源
 (放射強度IBGまたは輝度温度TBG)
 観測者からみてその手前に星間雲(そこでの源
泉関数はΣ(Tex))があり、そこから周波数ν0で
輝線放射がある場合
I line  I (observed)  I B
   Tex   I BG  1  exp   
Tline  Tex  TBG  1  exp    
重要
問.
 中心天体は温度TCで黒体
放射。その周囲に、温度TS
で球殻状に熱放射する物質
がとりまいている(上図)。
 この球殻をなす物質では、
周波数ν0で細い吸収が起き
る(下図)。
TC
 視線Aおよび視線B上で観測する。吸収係
数が最大となる周波数ν0と、吸収係数が0
になる周波数ν1とで、観測したときの
brightnessはどちらの周波数のほうが大
きいか?(スペクトル概形を図示せよ)
TS
問.
 温度T = 2.73Kで熱平衡状態にある、一様に
広がったHIガスは、どのように観測されるか?
Tline  Tex  TBG  1  exp    
 このような、背景放射と熱平衡になってしまっている
ガスの存在(の尻尾?)を、観測的に捉える方法?
 なお、「空間的に分解できていない天体」の観測で
は、観測ビームに対して放射源が占める面積の割
合(area filling factor)も考慮する必要がある。
Tline
BEAM
  lineTex   BGTBG   1  exp   
BEAM
衝突励起の表現
 これまでにみてきたような輝線の励起には、分
子・原子同士の衝突(イオンの場合には、電子
との衝突も重要)によるエネルギーの授受が重
要な役割を果たす。
 多くの星間分子の場合、衝突の相手(collision
partner)は水素分子である。
衝突も含めたレベル分布について考察
再び単純2準位系
 これまでに扱ってきたA係数、B係数に加え、
Collisionによるu→lあるいはl→uという遷移の
確率を表すC係数を導入。
 それぞれCulあるいはCluと書く。
 単位はA係数と同様に[1/sec]である。
 衝突励起も考慮した2準位間のレベル分布のつ
りあいの式:
nu Aul  nuCul  nu Bul I  nl Blu I  nlClu
(自然放射+衝突による叩き下げ+誘導放射=吸収+衝突による叩き上げ)
放射温度と運動温度
 放射温度 TR
 (放射強度を温度表示)
 運動温度 Tkin
2h 3
I  2
c
1
 h 
exp 
1

 kTR 
 h 
Clu gu
 exp  

Cul gl
 kTkin 
 (衝突の頻度=熱力学的運動を表現)
 熱平衡⇔ボツルマン分布を達成
 2準位間の粒子密度分布の比は以下のように記述できる
 h 
nu gu
 exp  

nl gl
kT
ex 

問:実際に計算して示せ。
励起温度


 
 h  


   exp 


 h    
g
Aul
 kTR   A  C 
 u
 Cul exp  
 ・ 
ul
ul


gl 
kT
 h 


h

kin 

 1

 exp 
   exp 
 1

kT
kT
 R  
 ex 

  

1
・・・式*
放射優勢の励起と衝突優勢の励起
 放射励起優勢:A係数>>C係数  Tex~TR
 衝突励起優勢:A係数<<C係数  Tex~Tkin
 問:前ページの式*を使って確かめよ。
 衝突励起が優勢で、系の励起温度が運動学的温度
に等しい状態にあるラインを、thermalize(熱化)さ
れている、という。
 観測される輝線強度は、温度を反映。(filling factor
~1なら) (問:filling factor <1の場合は?)
 一方、Tex < Tkinの場合はsub-thermalであると
いう。ガス密度が上昇すれば、輝線が強くなる。
 観測される輝線強度は、ガス密度に関係。
 一般には TR < Tex < Tkin となる。
EinsteinのA係数の性質と具体的な値
 A係数とC係数(衝突頻度)の関係で、星間物質の
状態が大きく変わる。
 A係数やC係数の具体的な意味や「性質」は?
 A係数は、
 振動数に対して3乗の依存性を、また、
 dipole momentに対して2乗の依存性を、
それぞれ持っている。
64 3 2
Aul 
 ul ul
3
3hc
4
問:これを導け。
問:CO分子のA10を求めよ。
衝突係数Cの性質と具体的数値
 衝突遷移確率係数:単位時間、単位分子/原子あたりに、
u → lへの衝突による遷移が起こる頻度 [1/s]
 これは、さらに次式のような項に分けて理解することがで
きる。
Cul  nH2 v  ul  nH2 ul
Overall collisional
rate coefficient
vは速度、σulはu→l遷移における衝突断面積。
 γは、速度分布を与えて/仮定して(Maxwell-Boltzmann分布
など)積分することで計算可能。
 中性-中性衝突の場合は典型的に
γ~10-11から10-10 [cm3/sec]程度。
 中性-イオン衝突だともう少し高くなり、
たとえばγ~10-9 [cm3/sec]程度。
輝線の励起臨界密度 critical density
A
A
 Aul~Culとなるような密度、すなわち、 n ~   v  
となる密度(ここではn*と表記する)をcritical density
(臨界密度)という。
 あるライン放射が、どのくらいの個数密度で(衝突により)充分励
起されるようになるか、を表す重要な物理指標。
 以下の例ではγは10-10 [cm3/sec]として計算してみる。
 例1:CO(J=1-0):A10=7.4×10-8 [1/sec]
→ n*~7.4×102 [1/cm3] ←星間分子雲外縁部
 例2:CS(J=1-0):A10=1.8×10-6 [1/sec]
→ n*~1.8×104 [1/cm3] ←星間分子雲の濃い領域
 dipole momentの違いによるcritical densityの違い。
 同じ分子でも、Jが異なればcritical densityは異なる。
問:
 分子雲は、いろいろな密度領域を持つ複合的な
構造を持つ。
 エンベロープ(外縁部):
水素分子ガス密度~10-100 [個/cm3]
 高密度コア:
水素分子ガス密度~105-6 [個/cm3]
 これらをCO分子の回転遷移輝線で観測する場合、
どのような量子数変化の遷移を用いるのが適切と
思われるか。励起臨界密度の観点から考察せよ。
 HCN分子(μ~3.0 Debye)を使う場合は、どのよう
な遷移の輝線を観測すればよいか。
より正確なcollisional rate coefficient
 正確なcollisional rate coefficient  ul は、量子力学的
効果を考慮した計算が必要。
 これまでに、いろいろな分子や原子で、いろいろな場合の
rate coefficientが計算されている(表)。
 ただし、水素分子をcollision partnerとする計算は非常に
複雑で容易でないため、しばしば、Heをcollision partner
として計算を行い、その後で質量比から換算する( 1/ 2 ;
HeからH2に換算する場合は、各々のrate coefficientに
×1.37する)こともある(が、H2は4重極モーメントがあり、
potentialの形状はHeと結構違う)。
 精度としてはfactor以上の誤差がある量であることに注意
する必要がある。(その影響に)
Leiden Atomic and Molecular Database

ここらへんの情報については、最近、ライデン大のグループがデータベース化し、ウェ
ブ上で公開をはじめている。LAMDA(Leiden Atomic and Molecular
Database)。原子はC、C+、Oの3種類、分子はCO、HCN、HCO+ほか23
種類。Collision partnerも、H2だけでなくて場合によってeもあるし、また、
Heだけの計算しかない場合も、統一的にH2への場合へ換算済み、など、い
ろいろ扱いやすい。

http://www.strw.leidenuniv.nl/~moldata/
光学的厚み opacity
 Opacity: 吸収係数の視線方向の積分。
z
     dz
0
c 2  
 nu gl 
 
1 
 dz
0 8 2
 nl gu 
2
z c   
 h  
gu 
 
nl Aul
1  exp  
  dz
0 8 2
gl 
 kTex  
z
g
nl Aul u
gl
原子・分子のミクロ
(微視的)な性質で
決まる量
マクロ(巨視的)な
物理量
 当該積分範囲で励起温度が空間的に一様なら:
 ul 
c 2  
8 ul 2
gu
Nl Aul
gl

 h ul  
1  exp  
 
 kTex  

実際に
観測できる量
lower state(l)にあるparticleの
ただし、 Nl  0 nl dz column density(柱密度[cm-2])
z
NlからNtotへ(すべての準位にある物の量)
 ある一つのエネルギー準位に滞在している物の
量はわかった。
 これを全エネルギー準位にある物の量(総量)に
焼き直したい。
 分配関数 partition function を知る必要。
gu
 Eu 
Nu  N tot
exp  

Q(T )
 kT 
 Ei 
ここで Q(T )  i gi exp  
 :全ての準位における状態数
 kT  E が一つの状態のエネルギー
i
分配関数 Q(T) について
 Einstein係数の議論から、opacityは

 
2
ul
Aul

3
ul
に依存。
 レベル分布と密接に関係。
 レベル分布を記述するもの  分配関数
例1:CO分子の回転遷移におけるQ(T)
 2原子(直線多原子)分子の回転遷移
 hBJ ( J  1) 
Q Trot    (2 J  1) exp  

kT
統計的重み
J 0
rot



1


2
x

1
exp

x
x

1





 dx
0
kT 


hB
2
4  kTrot 
 kTrot  1 1  kTrot 
  


~




315  hB 
 hB  3 15  hB 
kTrot
kTrot
<< 1
, if
~
B:回転定数
hB
hB
Trot:回転温度
問:CO分子の回転遷移輝線の場合について、
第2式の近似式の「近似のよさ」を評価せよ。
(例)温度1Kの場合/温度10Kの場合/温度100Kの場合
各エネルギー準位にある粒子数と温度の関係
 問:CO分子がある温度Tで熱平衡にある時、ど
の回転遷移エネルギー準位Jで粒子数 nJ が最
大になるか。温度が10K、100K、および
1000Kの場合について調べよ。
 ヒント:
nJ
が最大になる準位 Jmax を計算。
ntot

J
T
J max
10 [K]
100 [K]
1000 [K]
 nJ 

 =0
n
 tot 
複数の輝線の強度比
 物の「量」による影響をキャンセルして、星間物質
の温度や密度、存在量(abundance)などの「性
質」に関する情報を抽出する際に極めて重要。
 具体例:中性炭素微細構造線の励起状態を解く
 準位は3つ:3P2、3P1、3P0 遷移は2つ:[CI]
3P →3P 、3P →3P
1
0
2
1
 LTEおよび背景放射の温度(Tbg)を仮定すると、2本
の遷移の輝線強度を観測すれば、励起が完全に解
ける(Texとopacityが一意に決まる)ことになる。
※ 励起が解ければ、あとは観測された輝線強度(⊿T)を、柱密度(物の量)に
焼きなおすことは容易→励起をしっかり解くことは、正確な定量の第一歩。
[CI]輝線の励起を解く(その2)
T3P23P1   J Tex   J TBG   1  exp   3P23P1  
T3P13P0   J Tex   J TBG   1  exp   3P13P0  
 ただし J T  
h / k
← submm/FIRの輝線なのでRJ近似は使わない
exp  h / kT   1
 また、LTEを仮定しているので、(1) 励起温度Texは2-1と1-0
で共通。さらに、(2) 2-1のtauと1-0のtauは独立ではなく、励
起温度の関数として決まる。すなわち、
c 2  
 h ul  
gu 
 ul 
N l Aul
 1  exp  
 
2
gl 
8 ul
 kTex  
 ここでは、Nlの式になっていることに注意
[CI]輝線の励起を解く(その3)
 なので、2-1と1-0のtauの比は、以下のように書き下せる。
 ここでは、ラインプロファイル関数はφ(ν)=1/νと表わせるとする。

 h 21  
1  exp  
 
3
kT
 21
ex  



 h 10  
g1 
1
N 0 A10
1  exp  


3
g0 
 10
 kTex  
1
 21
10
g
N1 A21 2
g1
 h 21 
N1 g1
 exp  


N0 g0
kT
ex 


 h 21  
 10 A21 g 2 1  exp  


 h 10 
 kTex  


exp  

kT


 h 
ex 

 213 A10 g1 1  exp   10  
 kTex  

3
[CI]輝線の励起を解く(その4)
 具体的な各物理量(A係数、各遷移の周波数、 な
ど)を入れてopacityの比を励起温度の関数として
プロットしたものを次図に示す。
図:[CI] 3P2-3P1および3P13P 輝線のopacityの比を、
0
LTEの場合について、励起温
度の関数として示したもの。
問:励起温度→∞の極限では?
103 A21 g 2  21 10 2 A21 g 2


~ 2.08
3
2
 21 A10 g1 10  21 A10 g1
Zmuidzinas et al.
1988, ApJ, 335, 774
観測例1:星形成領域NGC 1333でのCI輝線
 これらの式と、観測された輝線強度を
用いて、励起温度とopacityが決定で
きる。
 銀河系内の大質量星形成領域である
NGC 1333において、実際に[CI]
3P -3P および3P -3P 輝線の観測を
2
1
1
0
行い、速度成分ごとに励起温度および
opacityを決定した例(図)
大質量星形成領域NGC 1333の中の、ある領域
(HH12方向)における、[CI] 3P2-3P1および3P1-3P0輝線
のスペクトル(a)、LTEを仮定して解いた各速度成分での
励起温度Tex (b)、および3P1-3P0輝線のopacity (c)。
ここで得られた励起温度と前ページの図をあわせると、
3P -3P 輝線だけでなく、 3P -3P 輝線も光学的に薄いこ
1
0
2
1
とが分かる。
Oka et al. 2004, ApJ, 602, 803
観測例2: CI in high redshift galaxies
 17個のhigh-z quasars/SMGs(2.2<z<6.4)
1
 観測+文献のデータから
  2.11 

Tex  38.8  ln '
 励起温度:
  LCI 21/ CI 10 
 炭素原子ガス質量:
分配関数:
Walter et al. 2011,
ApJ, 730, 18
 CI(2-1)/CI(1-0)~0.55±0.15 in Tb or L’
 mean Tex ~ 29±6 K 近傍銀河と同程度
 LCI(1-0)/L(FIR)~(7.7±4.6)×10-6
 not a major cooling line (cf. CII)
 Optically thin lines  direct C0 mass
 X[CI]/X[H2]~ (8.4±3.5)×10-5 近傍銀河と同程度
問.
 CO分子の回転遷移輝線、J=3→2輝線
@345GHzとJ=1→0輝線@115GHzの強度
の比を考える。
 この比が物理的に取り得る最大値を求めよ。
 光学的に厚い場合、光学的に薄い場合、それぞれ
について考察すること。
若干?のヒント
 それぞれの輝線の強度は、以下のように書き下
すことができる。
T21  Tex  TBG  1 exp   21 
T10  Tex  TBG  1  exp  10  
 この「比」をごしごし計算すればよい。
 結局は、τの比に帰着(光学的に薄い場合)
異なるJのCO輝線比の観測例
 原始星からの分子ガス・ジェット
 超新星残骸の衝撃波で加熱された分子ガス
 活動銀河中心核の中心核領域にある分子ガス
SiO輝線でみた
原始星からのジェット
SiO J=5-4
SMA obs.

原始星HH211にみられるジェット構造。左上は近赤外線(2.2μm)で観測されたアウトフ
ローで、空洞構造を伴う広がった流れを示唆する。一方、右下には、等高線でSiO J=54輝線の分布をH2輝線と比較した図を示してある。SiO分子でみたジェットは、細くコリメ
ートされていて、プライマリー・ジェット自体をトレースしている可能性がある。一方、その
外側は、プライマリー・ジェットにより引きずられた物質の流れをみているものと解釈され
る。ジェットの中心には、「クラス0」と呼ばれる若い低質量星が存在する。
SiO分子輝線
 回転量子数の
高い準位にある
輝線ほど、ジェ
ットの根元で強
くなっている。
  非常に高温
(250K ~
300K)であるこ
とを反映。
超新星残骸と相互作用する分子雲
 Ambient成分と比較して、劇的なCO(J=3-2)
輝線のenhancement
1999, PASJ, 51, L7
NRO 45m & JCMT 15m
超新星残骸W28と相互作用するガス
 ショックを受けたCO(J=3-2)輝線分布とOHメ
ーザーの分布とのよい一致
W28 327 MHz Continuum
Frail et al. 1993
OH (1720 MHz) Masers in W28
CO (3-2) Emission; Arikawa et al. 1999
活動銀河NGC 1097の中心核付近
CO(1-0) NMA
 CO(2-1)/CO(1-0)
=1.8±0.2
CO(2-1) SMA
1kpc
VLT MELIPAL +
VIMOS
1 kpc
P.-Y. Hsieh et al.,
2008, ApJ, 683, 70
Kohno et al.
2003 PASJ,
55, L1
観測された輝線強度比
 (a) NGC 1097のCO(2-1)輝線およびCO(1-0)輝線分布を、方位角
方向に平均し、中心からの距離の関数としてプロットしたもの。
 (b)はその比をとったもの。CO(2-1)輝線は、中心で相対的により強く
なっており、CO(2-1)/CO(1-0)輝線強度比が有意に1を超えている。
High resolution multi-J
CO images of NGC 5194
CO(1-0)
NMA
CO(3-2) SMA
810 pc
Sakamoto et al.
1999, ApJS, 124, 403
CO(2-1) SMA
Matsushita et al.
ApJL, 616, L55
 CO(3-2)/CO(1-0) ratio
= 1.9±0.2 !!
2004,
1 kpc
Such elevated CO(2-1)/CO(1-0) ratios are not
observed among nuclear starburst galaxies
NMA
CO(1-0)
Kuno et al., 2008,
PASJ, 60, 475
NMA CO(2-1)
 CO(2-1)/CO(1-0) ratio ~ 0.9
 @starburst region of Maffei 2
Radio-dim SMGs @COSMOS
detected by AzTEC/JCMT+SMA
 0.15 deg2、1 σ ~ 1.3 mJy
@1.1mm
 44 sources > 3.5 σ

Scott et al., 2008, MNRAS,
385, 2225
 SMA: 7 brightest sources
 Only two radio-bright!
Remaining radio-dim
SMGs show
 Systematically high
submm/radio flux
ratios
 Systematically low
IRAC 3-8um fluxes
 Unseen in MIPS 24um
 clearly, they are higher
redshift SMGs !
Younger et al. 2007
ApJ, 671, 1531
The highest redshift SMG to date: z=5.3
COSMOS-AzTEC3: uncovered by 1.1 mm deep surveys !
EVLA
36.6 GHz
PdBI
91.5GHz
4.4 hr, 0.52 mJy (1σ)
13 min for 50 ant.
 2.2 hr for 16 ant.
of ALMA
PdBI
109.8GHz
Riechers et al. 2010,
ApJL, 720, 131
 Velocity width: 487±58 km/s (FWHM)
 Mdyn = 1.4×1011 Mo ÷ (sin i)2
CO(Jupper – Jupper-1)/CO(J=1-0) flux ratio
CO excitation of a dusty starburst
Riechers et al. 2010,
galaxy at z=5.3
ApJL, 720, 131
Estimated CO(1-0) flux:
35% from MW like
65% from ULIRG like
ULIRG like:
Tkin=45K
n = 104.5 cm-3
Weiss et al. 2005, A&A, 440, L45
MW like:
2 components
explain well !
Tkin=30K
n = 102.5 cm-3
CO SED vs gas density &
temperature
Multi-wavelengths view of Arp 220
L(FIR) ~ 2×1012 L
Scoville et al. 1998,
ApJ, 492, L107
See also Sakamoto+
For double nuclei
Downes & Solomon
1998, ApJ, 507, 615
Genzel & Tacconi, 1998, Nature, 395, 859
⇒ Numerous SNe ?
SPIRE-FTS spectrum of Arp 220 (1)
 Emission lines from mid-J
Rangwala et al. 2011,
CO, HCN, water related
ApJ, 743, 94
molecules
 Absorption: CH+, OH+
SPIRE-FTS spectrum of Arp 220 (2)
 High-J CO; numerous water & water
related lines; absorption in high-J HCN,
water, etc..
Rangwala et al. 2011,
ApJ, 743, 94
Arp 220 CO ladder
Rangwala et al. 2011,
ApJ, 743, 94
Brightness (= const if thermalized)
∝ Flux (∝J2 if thermalized)
※CO(10-9) is blended with a water line.
第2講 まとめ
 分子線
 断熱近似/回転遷移
 放射輸送
 局所熱力学平衡(LTE)/体積放射率/吸収係数/光学的
厚み/源泉関数/励起温度/放射(輻射)輸送方程式/輝度
温度
 励起
 衝突励起/放射励起/運動温度/放射温度
 EinsteinのA係数/衝突係数(C係数)
 分配関数/柱密度
 観測例:輝線強度比
 原始星ジェット・超新星残骸・活動銀河核・high-z銀河
問.
 星間物質の温度は、加熱過程と冷却過程のバラン
スで決まる。特に、星間物質の加熱する物理過程と
してはどのようなものがあるか、2つ、具体例を取り
上げて、説明せよ。
 たとえば、「ダストは、若い星(OB型星)からの強い紫外
線によって暖められる」というときの、具体的な物理過程
は何?