2001年度 経済統計処理講義内容

第9章 国民経済計算
ー 経済統計 ー
この章の内容
Ⅰ 国民経済計算とは
a) 国民経済計算の沿革
b) 国民経済計算の要素
Ⅱ 産業連関表
a) 産業連関表の例
b) SNAの産業連関表
c) [発展] 産業連関分析
Ⅲ 国民所得勘定
Ⅳ 実質化
Ⅰ 国民経済計算とは
国民経済計算(System of National Accounts)
1国の経済と循環構造を総合的にとらえるための方式
1) 国民経済計算の沿革
国連の勧告
1953年 旧SNA
国民所得統計中心
1968年 68SNA(新SNA) 日本は1978年に移行
1993年 93SNA
日本は2000年に移行
2) 国民経済計算の要素
1. 国民貸借対照表
国全体のバランスシート
(ストック)
2. 産業連関表
各産業間の財貨・サービ
スの取引
3. 国民所得勘定
国全体の所得・支出勘定、
資本調達勘定
4. 資金循環表
資金の流れを取り扱った
もの
5. 国際収支表
輸出・輸入の取引
Ⅱ 産業連関表
a) 産業連関表の例
 農家は小麦を生産し、金額50で製粉業に売る。
 製粉業は農家から小麦を金額50で買い、小麦粉を
作り、パン屋に金額80で売る。
 パン屋は製粉業から小麦粉を金額80で買い、パン
を作り、家計に金額120で売る。
農家
製粉業
金額50
パン屋
金額80
家計
金額120
農家
農家
製粉業
産業
パン屋
総付加価値 付加価値
合計
産業
製粉業
50
パン屋
最終需要
家計消費
合計
80
120
50
50
30
80
40
120
50
80
120
120
120
GDP(生産側)
GDP(支出側)
先ほどの例を少し複雑にしてみる
 パン屋は家計に金額110の分だけ売り、金額10
の分を在庫とする。
 農家、製粉業、パン屋にそれぞれ税金を5ずつ
かける。
 製粉業、パン屋は機械を使っており、1年間に5
ずつその価値が減る。
政府
税金5
農家
税金5
税金5
製粉業
金額50
固定資本減耗5
パン屋
金額80
固定資本減耗5
家計
金額110
在庫10
農家
農家
産業
製粉業
パン屋
固定資本減耗
総付加価
税
値
純付加価値
合計
産業
製粉業
50
パン屋
最終需要
家計消費 在庫増加
80
5
5
20
80
5
45
50
5
5
30
120
(要素価格表示の)
国民所得
(市場価格表示の)
国民所得
110
10
110
10
合計
50
80
120
10
15
95
GDP(生産側)
GDP(支出側)
b) SNAの産業連関表
SNAの産業連関表は経済活動分類と財貨・サー
ビス分類の2重分類を採用している。
※ 経済活動分類とは

1つの事業所で複数の財貨・サービスを産出しているとき、
その事業所全体が最も産出額の大きい財貨・サービスの
種類に対応する経済活動に属するものとする。
(例) 不動産屋は火災保険などの代理店にもなっている。
経済活動分類では、火災保険の売上も含めた不動産屋
の売上が、不動産業に計上される。
財貨・サービス分類では、火災保険の売上は金融・保険
業に、不動産業の売上は不動産業に計上される。

SNA産業連関表の基本構造
1
財貨・
サービス
固定資本減耗
付加 税
価値 雇用者報酬
営業余剰
産出
1
2
3
:
経済活動
2
3
中間需要
1次分配
X1
X2
…
消費
資本
輸出 輸入 産出
形成
X1
X2
最終需要=支出
X3
付表1
X3
付表2
付表4(V表) この図と反対に財貨・サービスを列、経済活動を行にしたもの
付表5(U表) この図のように財貨・サービスを行、経済活動を列にしたもの
SNA産業連関表の表章


SNA産業連関表は、国民経済計算年報におい
て、付表1,2,4,5と4つに分割して表章されてい
る。
付帯統計として、行・列とも財貨・サービス分類の
産業連関表が公表されている。
c) [発展] 産業連関分析




産業連関表を用いた分析のことを産業連関分析と
いう。
産業連関分析には、産業間の経済相互依存関係、
生産誘発などについての経済構造分析と、均衡産
出高モデルなどを用いた経済波及効果の分析など
がある。
産業連関表には基本となる取引額表以外に、投入
係数表、逆行列表など数多くの表が示されているこ
とが多く、それによって分析をおこなうことができる。
産業連関表で示される表と、それらによってどのよう
なことがわかるかについて説明していく。
<取引額表>

産業間の取引を金額で表示したもの。産業連関
分析をおこなうための出発点である。

2002年のSNA産業連関表の産業について3部
門にまとめたのが下の表である。
1次
1次
産
2次
業
3次
固定資本減耗 税
純付加価値
合計
15
23
22
19
2
41
122
産業
2次
78
1397
727
209
171
968
3550
3次
14
509
1374
758
202
2606
5463
消費
33
587
3082
投資
3
1007
211
輸出
1
457
121
輸入
-22
-430
-74
合計
122
3550
5463
<投入係数表>
 投入係数表はそれぞれの原材料の投入額を産出
額の合計で割ったものである。たとえば、第1次産
業1単位生産のためには、第1次産業の中間投入
が 15÷122=0.122 必要となる。
 第2次産業で100億円の最終需要があり、そのた
めの生産をおこなうとき、原材料として第1次産業に
2億円、第2次産業に39億円、第3次産業に20億
円の生産波及効果が生じることがわかる。
取引額表
1次
産
業 2次
3次
固定資本減耗
税
純付加価値
合計
産業
2次
1次
15
23
22
19
2
41
122
78
1397
727
209
171
968
3550
3次
14
509
1379
758
202
2606
5463
投入係数表
1次
1次
0.122951
産
2次
0.188525
業
3次
0.180328
固定資本減耗 0.155738
税
0.016393
純付加価値
0.336066
合計
1
産業
2次
0.0219718
0.3935211
0.2047887
0.0588732
0.048169
0.2726761
1
3次
0.0025627
0.0931722
0.2515102
0.1387516
0.036976
0.4770273
1

生産波及効果は次々と新たな波及効果をよぶこと
になる。先ほどの例で生じた、第3次産業の原材料
費20億円の生産は、
•
•
•

第1次産業に20億円×0.0025=500万円
第2次産業に20億円×0.093=1.86億円
第3次産業に20億円×0.25=5億円
の生産波及効果をおこす。
これらが、各産業の原材料生産においておこり、連
鎖的に発生していく。
投入係数表
1次
1次
0.122951
産
2次
0.188525
業
3次
0.180328
固定資本減耗 0.155738
税
0.016393
純付加価値
0.336066
合計
1
産業
2次
0.0219718
0.3935211
0.2047887
0.0588732
0.048169
0.2726761
1
3次
0.0025627
0.0931722
0.2515102
0.1387516
0.036976
0.4770273
1
波及効果
(2段階)
波及効果
(1段階)
最終需要
第1次産業
第2次産業
第3次産業
2400万円
3800万円
3600万円
8580万円
15.21億円
7.8億円
500万円
1.86億円
5億円
2億円
39億円
20億円
100億円
<逆行列表>
 生産波及効果を合計していったものは、逆行列表の形で表
される。逆行列表の考え方をあらわすために、取引額表を下
のように単純化する。
1次
産
2次
業
3次
付加価値
合計
1次
x11
x21
x31
V1
X1
産業
2次
x12
x22
x32
V2
X2
3次
x13
x23
x33
V3
X3
最終需要
合計
F1
F2
F3
X1
X2
X3
このモデルにおいて、行の需給バランスは次のようになる。
x11  x12  x13  F1  X 1
x21  x22  x23  F2  X 2
x31  x32  x33  F3  X 3
投入係数は次のように表される
 a11  x11 / X 1

A   a21  x21 / X 1
a  x / X
31
1
 31
a12  x12 / X 2
a22  x22 / X 2
a32  x32 / X 2
a13  x13 / X 3 

a23  x23 / X 3 
a33  x33 / X 3 
投入係数を用いて、行の需給バランスをあらわすと、
a11  X 1  a12  X 2  a13  X 3  F1  X 1
a21  X 1  a22  X 2  a23  X 3  F2  X 2
a31  X 1  a32  X 2  a33  X 3  F3  X 3
となる。これを行列であらわすと次のようになる。
 a11

 a21
a
 31
a12
a22
a32
A
a13  X 1   F1   X 1 
     
a23  X 2    F2    X 2 
a33  X 3   F3   X 3 
X + F =X
これを変形すると
X  AX  F
 ( I  A) X  F
† このIは単位行列といい、1にあたる行列であり、対角要素が1で、他はす
べて0となる。
1 0 0


3行3列の行列の場合、
I  0 1 0
0 0 1


これをXについて解くと
X  ( I  A)1 F
( I  A) 1
となる。この行列
のことを逆行列係数といい、
表にまとめたものが逆行列表である。
逆行列表
(I-A )-1
1次
産
2次
業
3次
1次
1.15181
0.418253
0.391932
産業
2次
0.0449494
1.7375321
0.4862225
3次
0.0095389
0.2177206
1.3978905
次のような連立方程式があったとする。
x1  3x2  5
3x1  2 x2  4
下の式を3倍し上の式から引けば、x1=2,x2=1 という解が求まる。
このような連立方程式は行列の形であらわすことができる。
 1 3  x1   5 

    
 3  1 x2   4 
dy1  by2
ax1  bx2  y1
ad  bc
一般に、
の解は
である。
cx1  dx2  y2
 cy1  ay2
x2 
ad  bc
これを行列の形で表すと、
x1 
 a b  x1   y1 

    
 c d  x2   y2 
a b 
 の逆行列はこれである。
となる。行列 
c
d


 d

 ad  bc
 c

 ad  bc
b 

ad  bc  y1    x1 
a  y2   x2 

ad  bc 
<輸入を考慮した逆行列表>
( I  A) 1 の逆行列は輸入を考慮しない単純なモデルによるもの
である。国内生産に関する誘発分を推計するには、この輸入分
を除外する必要がある。
最終需要Fを国内最終需要(Fd)と輸出(E)に分け、輸入をMで
あらわすと、需給バランスは次のようになる。
AX  Fd  E  M  X
ここで、国内需要に占める輸入の割合を M とあらわすと、
M  M ( AX  Fd)
となるので、需給バランスの式に代入すると
AX  Fd  E  M ( AX  Fd)  X
となる。これをXについて解くと、
X  ( I  ( I  M ) A)1 ((I  M ) Fd  E)
となる。この (I  (I  M ) A)1 が輸入を考慮した逆行列である。
逆行列表
-1
(I-(I-M )A )
1次
産
2次
業
3次
列和
産業
行和
1次
2次
3次
1.182482 0.0584763 0.0128983 1.2538564
0.529861
1.915421 0.2708709 2.7161529
0.43774 0.5480213 1.4208202 2.406582
2.150083 2.5219185 1.7045894
これを見ると、第2次産業に100億円の需要が生じると、
•
•
•
第1次産業に100億×0.058=5.8億円
第2次産業に100億×1.915=191.5億円
第3次産業に100億×0.548=54.8億円
合計で252.2億円の生産誘発が生じることがわかる。
なお第2次産業の生産誘発には、直接の需要100億円が含ま
れている。
Ⅲ 国民所得勘定
国民所得勘定は所得支出勘定と資本調達勘定から
成り立っている。
 国全体および5つの制度部門別の1年間の所得支
出の流れ、資本の流れを詳細にまとめたもの。
<5つの制度部門>

非金融法人企業
金融機関
一般政府
家計
対家計民間非営利企業
5部門をまとめたものが
統合勘定

GDPの三面等価
生産面のGDP(主要系列表3)
=分配面のGDP (主要系列表2)
=支出面のGDP (主要系列表1)
日本の場合、基礎統計が一番充実している支出面のGDP†
を求め、三面等価からGDPとみなしている。
GDP(支出側) = 民間最終消費支出 + 政府最終消費支出
+ 国内総資本形成 + 財貨・サービスの純輸出
† 支出面のGDPは、以前は「国内総支出」(GDE)といわれており、平成
18年度確報から「国内総生産(支出側)」となった。

GDP四半期速報(Quarterly Estimates)
国民経済計算は1年間の財貨・サービスの動きを
記述する。しかし、景気判断などのために四半期
ごとのGDP速報が必要となる。
日本では国内総支出とその主要構成項目、および
雇用者報酬についての推計がおこなわれている。
1次速報
2次速報
確報
確々報
基準改訂
期間終了後1ヶ月と15日前後
期間終了後2ヶ月と10日前後
期間終了翌年の12月
期間終了の翌々年の12月
5年ごとの基準改訂(現在は平成12年基準)
Ⅳ 実質化
名目 - 物価の影響を考えないそのままの数値
実質 - 物価の影響をとりのぞいた数値
実質 = 名目 ÷ デフレーター
何らかの物価指数

GDP(支出側)の実質化
GDP(支出側) = 民間最終消費支出 + 政府最終消費支出
+ 国内総資本形成 + 財貨・サービスの純輸出
平成17年の民間最終消費支出をCtとおく
これを平成12年の価格で実質化したい。平成12年の各
品目の価格をp0iとおくと、実質化したCtは
Ct   ptiqti
すなわち、各品目の名目支出金額を個別価格指数でわり、
全品目について合計すればよい。
pti
Ct   p0i qti   ( pti qti 
)
p0i
ところで、実質=名目÷デフレーターなので、
デフレーター = 名目 ÷ 実質 である。
よって、
Ct  pti qti

Ct  p0 i qti
となり、デフレーターはパーシェ型の物価指数となる。
このように結果的に得られるデフレーターをインプリシット・
デフレーターといい、この方式をインプリシット・デフレー
ション方式という。

GDP(生産側)の実質化
GDP(生産側) = 総付加価値
付加価値をデフレートする物価指数を考えることは困難
→ 総付加価値 = 産出額 - 中間投入
なので、産出額と中間投入をそれぞれ実質化し、その
差を総付加価値の実質値とする。
⇒ ダブル・デフレーション方式という。

成長率
GDPの対前期比を成長率という。
成長率 
GDPt  GDPt 1
100
GDPt 1
主に用いられるのは実質GDPの対前年比である。