留学生への激励トロント大学名誉教授西里静彦（にしさとしずひこ）編海外最近は中国や韓国から北米への 1961 年，北海道大学大学院文学研究科修士課程修了。1966 。マッギル大学で研究員，ト年，Ph.D（ノースカロライナ大学）ロント大学，オンタリオ教育大学院大学で准教授，教授を歴任。（単著，培風館），など，著書は『行動科学のためのデータ解析』和書 5 冊，英書 6 冊。多くの留学生が体験することで，グ」（メジャーは秤，メィジャー留学生の数が急激に増え，日本か若い時に生活環境の違うところでは大リーグの「大」でマイナーリらの留学生の数は極端に減少して異文化に育まれた人々と生活を共ーグに対するもの）ですが，日本います。カナダ政府はカナダからにした経験の重要性をみな痛感しのマスコミに限らず，北米で野球の海外留学が学部学生の 12 パーています。苦労はあっても留学もに関係している日本人さえ「メジセントしかいない（2009 年の統悪くはなさそうだ，自分もやってャー」と発音していて，困った恥計）と心配していますが，日本のみようと決心する人がいればと願ずかしい誤りです。何とかならな場合，その数は 2.6 パーセントといつつ，私の経験をつづります。いものでしょうか？「マンション」いう近年の統計があります。この和製英語のくい違いも「アパートメント」か「コンド大きな違いは何処から出てくるの留学生活で，まず表面化するのー（コンドミニアムの略）」が正でしょうか？それはともかく，は言葉の問題でしょう。和製英語しく，これも広く使われている誤事実は，カナダでも日本でも大学には通じないものがたくさんありりです。の実験室，実験装置は完備され，ます。「マーガリン」は奇妙なこ英語の聞き取り，読解のコツ海外の文献も労せず手に入りまとに「マージョリン」と発音，しかし，これらの「くい違い」は，す。したがって，留学せず日本に「ブザー」は「バザー」，「コンセ留学生にとって大きな問題ではあとどまっていても望みどおりの勉ント」は入れられるほうは「アウりません。留学生がまず直面する強，研究ができるという主張には，トレット」，入れるほうは「プラ言葉の問題は，「講義に出てどれ反対する余地がないのではないでグ」，「ワイシャツ」は「ドレスシだけわかるか」です。「予想以上しょうか？ャーツ」，「ズボン」は「パンツ」にわからない」ことが，一般的なまたは「トラウザーズ」，「チャッ経験です。アメリカでもカナダでも，ク」は「ジッパー（ズィッーパー）」，講義中の居眠りは見かけませんこれに対し日本から外国へ留学するとなりますと，日本を離れて生活するストレスがあり，さらに「グレイドアップ」は「アップグが，たとえ居眠りをせず，授業に言葉の違いとたくさんの宿題が課レイド」，「リストアップ」は「リ熱中して耳を傾けても残念ながらせられる生活が待っています。私スト」，「ガードマン」は「ガード」，「あまり聞き取れない」というのも留学が現実となった時，正直な「マグカップ」は「マグ」など。反応は，喜びの陰に「いまさら辞また「スマート」は体型がすらっこれを克服するためには講義を退できないし困った」でした。ことしているというよりは頭が良いテープにとらせてもらって，授業の不安は一般に通ずる心境で，こという意味合いで使われます。のあとテープを何回も聴き，講義が普通で，驚くことはありません。アクセントの違いでは「アドヴを英語の文章に 1 語 1 語書き下ァイス」（アが強音）ではなくろすことです。いったん書き下ろししかし多くの留学生は，選ばれ「アドヴァイス」（何故この誤りがてから，テープを聴くと驚くなかれ，たという自信や，誇り，大きな夢日本のマスコミに広がったのでし英語が実によくわかります。一度試を持っています。そして留学が終ょうか？），「ボランティアー」でしてください。これを繰り返すと，わり，何年後かには「あの頃はよなく「ボランティアー」など。し英語を聞く耳が高速度で育ちます。くやった」という自分の努力に対かしこれらは留学生活の中で自然ほかには，「英語で読んだことして驚嘆し，自己満足を味わい，に身につき解消します。れが留学の歯止めのひとつになっているかもしれません。若き日の苦難に満ちた生活を懐かしく偲びます。このような満足のゆく達成感は 44 は頭に残らない」ということも，強く根付いたものとして「大リ留学生一般の問題です。宿題で毎ーグ」は「メジャーリーグ」では日何十ページも読まされます。クなく，正しくは「メィジャーリーイズと称して，通常の試験より小規模のテストがしばしばあり，そせず聴いていても歌詞を自然に覚フェテリアに行く途中，快活な女れが読んだことに関する時は大変えられますが，英語の歌はよほど子学生が気楽に笑顔で声をかけてです。細かいことなど全く頭に残注意して聴かなくては歌詞を覚えくれました。一人で食事をしていっていません。られません。このようなことも英ると，誰かれかが隣に来て話しか語のヒアリングの試験に取り入れけてくれました。「今日はパーテらフルブライト留学をしていた同ては，などと考えます。イがあるから」といって誘いがき期の留学生のアムノン・ラポポー英語独特の表現法を習得するためにました。これはアメリカ南部のホトが，「本を読みながら，キーワ次は英語の作文の問題です。カスピタリティであるとばかりはいードを書き残せ」と言ってくれまナダの公用語は英語とフランス語えません。多くの留学生が体験しした。本を読んだあとキーワードで，何を買っても商品には英語とています。を見ると，確かに不思議なほど本フランス語の説明文がついていまチャペルヒルでは東京の聖路加の内容が浮かび出ます。この方法す。両者を読みますと，同じこと国際病院を建てた私のホストファは大変役に立ちました。を伝えるにも英語とフランス語でミリーのリングウオルト家の皆さん英語で発表するとき，初めは心は表現の仕方がずいぶん違っていが絶えず私の学生生活に関心を持配が多いと思います。しかし書いるのをしばしば見かけます。ましってくれ，私のために大学に足をたものをそのまま読むことは避けてや，これに日本語を加えるとな運んでくれました。アメリカは留てください。パワーポイントの各ると，どういう表現が出てくるで学生をこれほど大切にしてくれるページは要点だけにして簡潔なもしょうか？のかと，驚くばかりでした。同時この話をしたら，イスラエルかのを作成し，自分のコピーにキーここに言語と表現の違いの問題に，実験心理学のキング教授は私ワードを数語書いておくと，それが浮上してきます。日本の学校でが英語の綴りを間違う度に 2 点だけで発表を流暢に進めることがは英語の文法をしっかり教えてく減点，私の答案には各所に赤インできます。話すことを逐語用意すれますが，限られた時間にどれだクの「−2」が見え，アメリカの学る必要は毛頭ありません。人間のけ英語独特の表現法を教えること生は私に同情し励ましてくれました。脳の働きにある素晴らしい統合力ができるでしょうか？一般に日このように大学の中のアメリカを駆動してください。本人留学生の書く英語は，文法的社会は親切であり，同時に厳しい日常の会話では相手の話が聞きに見ると正しくても，表現や単語ものです。たくさんの本を読ませ取れなかったら何回も聞き返すよの選択がまずいことを，これまでるリーディングアサイメントというに，と言うことは誰でも承知ししばしば見てきました。う宿題には苦労しましたが，そのていますが，日本人の多くの場合，英語の表現力を身に付けるため教育効果は絶大でした。これらが生来の礼儀正しさが先に出て，には，英語の小説をたくさん読む，私をますます，アメリカびいきに「何回も」を実行できません。話英語の新聞を毎日読む，英語のテしてくれました。の途中がわからない状況をそのまレビ番組や映画を見る，英語の学まにしておくと，ますます話がわか術誌に投稿して，何回もの棄却，程の区別が無く，私は博士論文をらなくなりますので，度胸を出して書き換えを繰り返してもまれる，志望，その修了に 4 年かかりました。何回も聞き返してください。失礼なというようなことが必要です。こ苦しく，かつ楽しい生活でした。ことではありません。一対一の会れは時間と経験を要しますので，授業の成績は H がハイパス・クラ話は比較的わかりやすくても，大留学当初に解決できる問題ではあスで一人か二人がこれを取ります。勢との会話は騒音もあり，注意のりません。しかし留学はその勉強次が多くの学生が取る P でパス，散漫もあり，理解しにくいものです。過程として最初の，かつ最適の機次は数人が取る L のロウパス，最大学院には当時，修士，博士課会を与えてくれます。後が F で落第。L を三つ取ると自厳しくも温かいアメリカの学生生活動的に放校でした。私は一年目のくなるか，というような形でヒアさて毎日の生活はどうでしょう一学期に実験心理学とパーソナリリング能力をテストすべきだと思か？私が大変恵まれていたと思ティで二つの L，一緒に楽しく勉っています。騒音の中の日本語はうのは，私の留学先だったアメリ強した級友メイは L 三つでクリわかるが英語はわからないというカ南部の大学町チャペルヒルは，スマスのころ大学を去りました。現象は，海外で暮らす日本人の経生活がいつも大学構内に集中して幸い，因子分析で時系列因子模験です。また日本語の歌なら注意いたことです。寮から大学のキャ型を提唱して H，二学期には数学私は英語力の試験で，どれだけ騒音を入れると会話が理解できな 45 科の三講義がすべて H で一年目生のものも，徹底的に添削し何回ってきて論文を書きたいと言われは無事修了。二年目からはアメリも書き直させ，簡潔な論文ができても，普通はあまり乗り気になれカ式の授業に適応できました。三るまで論文を受理しませんでした。ません。問題が面白くない，重要年目の一学期には学位のための全私のプロジェクトに関係ないテに思われないということではな域にわたる試験に不合格，辛酸をーマを選んだ学生は二十数人のうく，自分がその研究課題の専門家なめましたが，四年目に合格。論ち二人だけ。その二人とは学会のではない，ということが往々にあ文のテーマをボック教授のプロジ共同発表も無く，論文の完成も長るからです。ェクトから選ぶと，彼はすぐ全額引きました（トロント大学では支給で私をフィラデルフィアの学 1960 ∼ 80 年代には論文完成までさて，これまで書いたように多会に派遣し，多くの研究者を紹介の提出期限がありましたが，そのくの難題が留学生の前にありましてくれました。論文の最終口述後，就職難が悪化，論文修了前にす。いちばん大きな言葉の壁は，試験は計量心理学教授 4 人，数就職する学生が出るということで長年海外に住んでも無くなりませ学科教授 2 人の試験官。数時間期限が廃止されました）。ん。私の場合，何年海外にいても，にわたる難問の連続にもうだめか学生時代と教師時代の経験から英語を母国語とする家内のようと思いましたが，驚いたことにボ言えることは次のことです。海外に，訪問客があると「あの人はボック教授が私を弁護してくれましの大学院入学応募では，通常，研ストンアクセント，シカゴアクセた。最後には全員が笑顔で大手を究テーマを書くことが要求されまント，カリフォルニアアクセント」広げて祝福してくれ，その時の感すが，いったん入学が決まったら，だとか，英語をきいて「あの人は激は今も忘れません。苦労あってできる限り指導教官の研究プロジポーランド出身，ロシア出身，チの喜びでした。ェクトに関心を持ち，プロジェクェコ出身，ブラジル出身」などと教えられる側から，教える側へトに関係したテーマを修士，博士いう判断はできません。一生をか論文のために選ぶことです。けた努力が必要です。教職に就いたカナダでは二十数人の修士論文と博士論文を指導しもちろん，その関心を指導教官国が違えば考え方も違い，留学ました。ほとんどが博士論文で私に伝えると喜んでテーマを提供しにより思考範囲が広くなり，海外の研究プロジェクトに関するものてくれる場合が多いものです。共の学会で発表する機会も増え，多でした。自分のプロジェクトなの同研究では学会参加の費用を捻出くの知己を得られます。留学にはで学生任せではなく，一緒に仕事してもらえる可能性のほか，学会冒険の側面と不透明の世界がありをしました。研究体制は，学会発での発表，プロジェクトのプログますが，同時に得ることも豊富です。表を指導の一部に活用し，旅費をレスリポートなどを通じて，徐々ぜひ海外の奨学金にも応募し，羽を研究費から工面して学生とともにに論文の完成が近づきます。広げてください。大きな世界が手を学会に出席し，時には学生に発表もしほかに興味ある話題がある広げて貴方を待っています。留学させました。それにより期限に間なら，論文修了後に自分の研究テしてもいつまでも日本の良さを持に合わせる研究体制ができ，かつーマとして研究すればよいのではち続け，日本と海外で大いに活躍学会で多くのフィードバックを得るないでしょうか？教官の立場かしてください。留学という冒険を，こともできました。学生の論文はら言いますと，学生本人が興味を若い時代のチャレンジとして捉え英語圏からの学生のものも，留学持つ話題を論文のテーマとして持てみてはどうでしょうか？読者の声 ■ 57 号を読ませていただきました。特に北海道大学の仲先生の記事，大変楽しく読みました。研究者は子育てする女性には難しいという声がある中，工夫されて楽しく子育てされていたことがよくわかりました。私も現在一女の母であり，来週読者の声投稿募集中！ 46 から 3 年間，主人と娘（6 歳）をつれて，私の仕事の都合で米国に 3 年間赴任します。不安もある中，仲先生の記事で元気が出ました。今後もこのような子育てをされた先生方の記事を載せていただけたら嬉しいです。（女性，外務省国連日本政府代表部）『心理学ワールド』への，ご意見・ご感想をお待ちしています。 ●送付先〒 101―0051 千代田区神田神保町 2― 10 （株）新曜社第一編集部 [email protected] 投稿は，お葉書・E メールどちらでもけっこうです。世代と性別をあわせてお知らせください。