確率と統計2007(最終回) 平成20年1月17日(木) 東京工科大学 亀田弘之 種々の公式(1) <規則1>大きさ n の標本から求めた標本平均 m の分布は,以下の 性質をもつ. ① 標本平均 m の期待値(平均)E(m)は,母平均に等しい. ② 標本平均 m の分散V(m)は,母分散の 1/n 倍に等しい. ②’ 標本平均mの標準偏差D(m)は,母標準偏差の1/(√n)倍に等しい. E(m) , V (m) 2 n , D(m) n 種々の公式(2) <規則2>正規分布する母集団から無作為に抽出した,大きさ n の 標本から得られる標本分散 s2 の期待値(平均) E(s2) と分散 V(s2) とは,以下の式で与えられる. 2 4 E(s ) , V (s ) n 1 2 2 2 この式は,母集団の分布が正規分布 以外の任意のものでも常に成り立つ. 種々の公式(3) <規則3>確率変数 X1 と X2 は互いに独立に分布し,かつ, E( X1 ) 1, V ( X1 ) 12 , E( X 2 ) 2 , V ( X 2 ) 22 とすると,和 Y = X1 + X2 および 差Z= X1 - X2 の期待値(平均)と 分散は以下の式で与えられる. E(Y ) 1 2, V (Y ) 12 22 , E(Z ) 1 2, V (Z ) 12 22 ポイント:この規則は,母集団の分布にかかわらず成 り立つ.また,和の分散と差の分散とが等しく,かつ, いずれも元の分散の和になっている. 種々の公式(4) <規則4>確率変数Xの期待値(平均)が E(X)=μ, 分散が V(X)=σ2と する.このとき,以下の式が成り立つ.ただし,a は定数とする. E(aX ) aE( X ) a, V (aX ) a V ( X ) a 2 2 2 種々の公式(5) • <対数の法則>平均μ,分散σ2の任意の母集団から,大きさnの 標本を無作為に抽出して得られる確率変数を,X1,X2,・・・,Xn とす るとき,これらの平均mと母平均μとの差がεを超える確率は,nを 十分大きく取るとゼロに近づく. P(| m | ) 0 (n ) 種々の公式(6) <チェビシェフの不等式>母平均μ,母分散σ2 をもつ確率変数 X とそ の母平均との差について,以下の不等式が成り立つ. P(| X | ) 2 2 種々の公式(7) <中心極限の定理>確率変数 X が,母平均μ,母分散σ2 を もつ(任意の)分布に従うとき,これから無作為に抽出し た大きさ n の標本平均 m の分布は,n が大きくなるに つれて母平均μ,母分散σ2 /n の正規分布に従う. 正規分布の重要性 コメント:もとの母集団がどのようなものであって も,標本の大きさnが大きければ,標本平均m の分布はいつも正規分布で近似できる,ことは 正規分布の重要性を示唆している. 重要な確率分布 • 正規分布は統計学において極めて重要な意味があるこ とをみてきた.以下では,正規分布以外の主要な確率分 布を紹介する. 重要な確率分布 • 正規分布 • 2項分布 • ポアソン分布 2項分布 • 1回の試行で事象Aの起きる確立がpとする.このとき,n回の試行 において事象Aが起きる回数Xの分布を,2項分布という.X=kとな る確率は,一般には以下の式で与えられる. P( X k )n Ck p k q nk (k 0,1,2,, n) ただし, q 1 p. ポアソン分布 • 事象Aの生起確率pとする.いまpが極めて小さいとき,事象Aが生 起する回数Xの分布を,ポアソン分布という.X=kとなる確率は以 下の式で与えられる. P( X k ) e k k! (k 0,1,2,) 重要な性質(覚えてしまうと便利) 平均 分散 正規分布 μ σ2 2項分布 np npq λ λ ポアソン分布 その他の確率分布 • • • • • • • • • • • 負の2項分布 幾何分布 超幾何分布 他項分布 t分布 指数分布 ガンマ分布 ワいブル分布 カイ2乗分布 一様分布 コーシー分布 • ベータ分布 • F分布 • アーラン分布 などなど 確率の計算法 • 各分布に対して確率を計算する必要がしばしば発生す る.その際,前述の定義式に従って計算してもよいが,実 質的に計算不可能な場合も発生する. 2項分布の確率計算法 • 生起確率がpで,かつ,繰り返し回数がnの2項分布に対して,nが 十分大きいときには,2項分布は,平均がnp,分散がnpqの正規分 布で近似できる. • さらに,平均m=np,分散σ2 =npqの正規分布は, 変数変換 Z X m X np npq • により,平均ゼロ,分散1の標準正規分布となり,標準正規分布に 関する確率計算値は,数表(正規分布表)から読み取ることができ る.(計算をしなくてすむ!) 統計的検定 大標本の場合 母平均に関する検定(標本の大きさnが大きいとき) 1. 帰無仮説H0の設定. H0:μ=μ0 2. 実験・調査をして,標本平均m,標本分散s2を求める. 3. Z0 m 0 n (ただし, sとおく ) 母集団が正規分布に近 いときは,n≧30,そうでな いときはn≧50とする. 4. |Z0|≧1.96ならば危険率5%で, |Z0|≧ 2.576ならば危険率1%で, 仮説H0を棄却する.そうでないときは仮説を否定しない. (注)ここの数値は正規分布表から得ている. 母平均の差の検定(大標本の場合) 1. 帰無仮説H0の設定. H0:μA=μB 2. 実験・調査をして大きさnAの標本Aと大きさnBの標本Bをもとめ,そ れらから標本平均mA, mB,標本分散sA2, sB2を求める. 3. Z0 (mA mB ) ( A B ) A2 B2 nA nB 母集団が正規分布に近 いときは,n≧30,そうでな いときはn≧50とする. (ただし, A2 sA2 , B2 sB2とおく ) 4. |Z0|≧1.96ならば危険率5%で, |Z0|≧ 2.576ならば危険率1%で, 仮説H0を棄却する.そうでないときは仮説を否定しない. (注)ここの数値は正規分布表から得ている. 小標本の場合 母平均に関する検定(標本の大きさnが小さいとき) 1. 帰無仮説H0の設定. H0:μ=μ0 2. 実験・調査をして,標本平均m,標本分散s2を求める. 3. t0 m 0 n (ただし, sとおく ) 母集団が正規分布に近 いときは,n≧30,そうでな いときはn≧50とする. 4. |t0|≧t(n-1,0.05)ならば危険率5%で, |t0|≧ t(n-1,0.01)ならば 危険率1%で,仮説H0を棄却する.そうでないときは仮説を否定し ない. (注)ここの数値はt分布表から得ている. 母平均の差の検定(小標本の場合) 1. 帰無仮説H0の設定. H0:μA=μB 2. 実験・調査をして大きさnAの標本Aと大きさnBの標本Bをもとめ,そ れらから標本平均mA, mB,標本分散sA2, sB2を求める. 3. (mA mB ) ( A B ) t0 1 1 S A SB nA nB nA nB 2 (ただし, A2 B2 2とおく ) 4. |t0|≧t(2(n-1),0.05)ならば危険率5%で, |t0|≧ t(2(n-1),0.01)な らば危険率1%で,仮説H0を棄却する.そうでないときは仮説を否 定しない. (注)ここの数値もt分布表から得ている. 今後の勉強 • t分布,t検定 • F分布,F検定 • 区間推定 をまず勉強してください. • • • • • その後,興味あるテーマを順次勉強してください. サンプル数(標本の大きさ)の決め方 無作為抽出法 分散分析 分散の検定,分散の差の検定 感性検査(嗜好の検査) などなど 統計の勉強は手を動かすことが大切!
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