第2講③ 特別解約権の系譜 道徳危険事実 -モラル・ハザードと生命保険- 保険者が統計計算の上で(?)とても知りたいこと = 保険契約者側が保険金不正取得の意図 を持っているかどうか ところが、この内心的な事情は、告知させることが難しい!! ・当事者の主観のみに属し、客観的に確実な判断ができない *保険危険事実との相違を明確に! 現在ではむしろ 道徳危険事実の方が重要になっている? 保険危険事実 保険者が保険金を 支払うべき保険事故 の発生率の測定に直 接関係する事実 典型的告知対象事実 道徳危険事実 保険契約者が不正な保 険金支払請求を行う意図を 持っているという道徳的危 険に関する事実 ちょっとまって… 保険金不正取得 保険契約の偶然性の破壊(わざと事故惹起) そもそも、保険金を不正に取得しようとして契約者や 被保険者がわざと保険事故を引き起こしても (モラル・ハザード)、保険金は 支払われるの? NO! 保険法17条、51条 いわゆる「故意による事故招致免責」(後に詳述) でも問題が… ことの起こりは、自殺免責の緩和 期間免責条項設定の趣旨 自殺免責期間経過後の自殺の特殊事案 保険法51条1号の修正(免責期間) 故意免責の根拠の一つである、「公益」から 見ると、自殺は犯罪行為ではないし、宗教 的・倫理的にも「非難可能性」がない。 保険金を受け取るのは被保険者の遺族等で あることから、そうした者の生活補償を優先 すべきである。 自殺の瞬間は、多かれ少なかれ精神的疾患 を患っているといってよい。 1年(2年)経過後の自殺には保険金を支払う しかし… 免責にひっかからない悪質な事案 生命保険契約 殺害! 保険会社 A 保険契約者兼 本当の被保険者 ところが 殺人事件発覚! Aによく似たB Aは逃亡の果て… 遂に自殺! ただし自殺免責期間経過後 受取人による保険金請求 どうですか? 第2防御壁を緩和したなら、第1防御壁で… 保険金不正 取得の意図 第一次防御壁 =告知 第二次防御壁 =故意免責 道徳危険の告知・通知は やっぱり、ちょっときついかも… *間接事実は告知に馴染む? 道徳危険(モラル・ハザード) 排除の新対応 「生命保険契約は、本質的に当事者の一方又は双方の契約上の給 付が偶然な事実によって決定される射倖契約であるため、第一に、偶 然による不労の利得そのものを目的とする賭博的行為に悪用された り、公序良俗違反の行為に堕する危険を有し、さらに国民経済的に不 利益を生ぜしめるような事態を加入者側が誘発させ、または放任する 危険が内在しており、第二に、問題となる事実の偶然性ないし不可測 性により相手のおかれた不利な地位に不当に乗じたり、自己のおか れた有利な地位を不当に利用したりする危険が存するのであって、公 正ないし公益維持の原則と、信義誠実の原則の適用がことに要請さ れているものということができる。 したがって、生命保険契約において、商法或いは保険約款に規定が なくても、その契約本来の特質から、保険契約者が保険金の取得を 意図して故意に保険事故の発生を仮装するなど、生命保険契約に基 づいて信義則上要求される義務に違反し、信頼関係を裏切って保険 契約関係の継続を著しく困難ならしめるような不信行為をしたような場 合には、保険者は債務不履行を理由に催告を要せず生命保険契約 を将来に向かって解除することができるものと解するのが相当であ る。」( 大阪地裁昭和60.8.30) 1987年の生命保険約款改訂 【重大事由による解除の場合】 次のような事由に該当し、遺族保障または付加された特約が 解除された場合、保険金・給付金の支払事由…が生じても、保 険金・給付金のお支払いまたは保険料の払込の免除はできませ ん。 イ.保険金または給付金 (保険料の払込免除を含みます。) を 詐取する目的もしくは他人に詐取させる目的で事故を起こしたと き ロ.保険金または給付金の請求に関して詐欺行為があったと き ハ.… ニ.特約については、他のご契約との重複によって給付金額等 が著しく過大で、保険制度の目的に反する状態がもたらされるお それがあるとき ホ.その他このご契約を継続することを期待しえない上記の事 由と同等の事由があるとき 中間試案は… ① 保険者は、次に掲げる場合には、保険契約の 解除をすることができるものとする。 (ア)保険契約者又は被保険者が保険金を取得し、 又は第三者に保険金を取得させる目的で故意 に損害を生じさせ、又は生じさせようとした場合 (イ)被保険者が当該保険者に対する当該契約に 基づく保険金の請求について詐欺を行った場合 (ウ)その他の当該保険者との信頼関係を損ない、 当該契約を存続し難い重大な事由がある場合 効果は… ② ①による保険契約の解除がされた場合 には、保険者は、①に掲げる事由があっ た後に発生した保険事故によって生じた 損害をてん補する責任を負わないものと する。 →これなら、保険者に余裕があるね! 【新保険法】 第三十条 保険者は、次に掲げる事由がある場合に は、損害保険契約を解除することができる。 一 保険契約者又は被保険者が、保険者に当該損 害保険契約に基づく保険給付を行わせることを目的 として損害を生じさせ、又は生じさせようとしたこと。 二 被保険者が、当該損害保険契約に基づく保険給 付の請求について詐欺を行い、又は行おうとしたこ と。 三 前二号に掲げるもののほか、保険者の保険契約 者又は被保険者に対する信頼を損ない、当該損害 保険契約の存続を困難とする重大な事由 第三十一条 損害保険契約の解除は、将来に向かってのみそ の効力を生ずる。 2 保険者は、次の各号に掲げる規定により損害保険契約の解 除をした場合には、当該各号に定める損害をてん補する責 任を負わない。 一 第二十八条第一項 解除がされた時までに発生した保険 事故による損害。ただし、同項の事実に基づかずに発生した 保険事故による損害については、この限りでない。 二 第二十九条第一項 解除に係る危険増加が生じた時から 解除がされた時までに発生した保険事故による損害。ただし、 当該危険増加をもたらした事由に基づかずに発生した保険 事故による損害については、この限りでない。 三 前条 同条各号に掲げる事由が生じた時から解除がされ た時までに発生した保険事故による損害 平成16年最高裁判決 【原審】 「保険者においその自殺が専ら又は主と して保険金の取得を目的としてされたも のであることを主張・立証した場合には、 一年内自殺免責特約の存在にもかかわ らず、保険者は、商法六八〇条一項一 号の原則に基づき、保険金支払義務を 免れる…」 もっとも、最高裁は完全に否定! 事案にてらして、どうだろうか?
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