II. 信託の担い手としての弁護士 2011年7月28日

II. 信託の担い手としての弁護士
2011年7月28日
寺本振透*
* 九州大学大学院 法学研究院 教授、弁護士
1
正直で思慮深い弁護士さん に信託すると
いうお話は現実的なのだろうか?
2
信託業法の規定
•
•
2条1項 この法律において「信託業」とは、信託
の引受け(<<略>>)を行う営業をいう。
3条 信託業は、内閣総理大臣の免許を受けた
者でなければ、営むことができない。
3
これまでの一般的な説明とその問題
•
この点、同法を所管する金融庁は、「営業とは営利目的を
もって反復継続して行うことと解し、この場合の営利の目
的とは少なくとも収支相償うことが予定されてる」との見
解を述べている。しかし、この金融庁見解を形式的に当て
はめるならば、弁護士が弁護士 報酬を得て信託の引受けた
る性質を有する法律事務を反復継続して行うことが、信託
業法 に定める「営業」に該当し、すべからく信託業法の免
許・登録を受けずに「信託業」を行うものとして、同法違
反に該当するとの誤った解釈を導き出すおそれが生じる。
このように誤った解釈がなされるおそれがあることから、
弁護士が法律事務の一環として行う民事 信託業務について
萎縮効果を招き、民事信託の発展が図られないことが懸念
されるところである。
•
日弁連総第52号「法律業務に伴う弁護士による信託の引
受けを 信託業法の適用除外とする法整備案について」
2006年11月20日 による正当な指摘。
4
考えて見れば....
•
•
•
•
業規制法Aが、規制対象者aに対して、αという水準をクリアする
ことを要求している。
業規制法Bが、規制対象者bに対して、βという水準をクリアする
ことを要求している。
業規制法Bの規制対象者bの公的な自治集団が、構成員に対し
て、γという水準をクリアすることを要求している。
α≪β≪γ であるときに、bが業規制法Aの定める規制に服す
べき理由があるのか?
5
6
薬剤師法19条では....
•
•
•
第十九条 薬剤師でない者は、販売又は授与の目的で
調剤してはならない。ただし、医師若しくは歯科医師が次
に掲げる場合において自己の処方せんにより自ら調剤す
るとき、又は獣医師が自己の処方せんにより自ら調剤す
るときは、この限りでない。
一 患者又は現にその看護に当たつている者が特にその
医師又は歯科医師から薬剤の交付を受けることを希望す
る旨を申し出た場合
二 医師法(昭和二十三年法律第二百一号)第二十二条
各号の場合又は歯科医師法(昭和二十三年法律第二百
二号)第二十一条 各号の場合
7
医師法22条(参考)
•
•
•
•
•
•
•
•
•
第二十二条 医師は、患者に対し治療上薬剤を調剤して投与する必要が
あると認めた場合には、患者又は現にその看護に当つている者に対して処
方せんを交付しなければならない。ただし、患者又は現にその看護に当つ
ている者が処方せんの交付を必要としない旨を申し出た場合及び次の各
号の一に該当する場合においては、この限りでない。
一 暗示的効果を期待する場合において、処方せんを交付することがその
目的の達成を妨げるおそれがある場合
二 処方せんを交付することが診療又は疾病の予後について患者に不安
を与え、その疾病の治療を困難にするおそれがある場合
三 病状の短時間ごとの変化に即応して薬剤を投与する場合
四 診断又は治療方法の決定していない場合
五 治療上必要な応急の措置として薬剤を投与する場合
六 安静を要する患者以外に薬剤の交付を受けることができる者がいない
場合
七 覚せい剤を投与する場合
八 薬剤師が乗り組んでいない船舶内において薬剤を投与する場合
8
9
注意すべきこと。
•
•
•
•
「お目こぼし」を求めるのではない。
できて当然。やることが弁護士の使命。
信託業法より低い水準の管理でよい、という
ことにはならない。
信託業法のテクニカルな規定は、受託者たる
弁護士の善管注意義務の水準を推し量るた
めの参考にはなるはず。
10
弁護士と信託銀行の関係
•
•
•
弁護士:非定型業務の設計と遂行が得意。小規模案件にも
対応できる。
信託銀行:定型業務をもたらす商品設計と遂行が得意。あ
る程度の規模(大きな案件、または、中小規模であっても定
型にあてはまるものが多数あるもの)の案件の処理が得意。
テクニカルな管理(帳簿管理、定時報告など)、他の種類の
金融機関との連携が得意。
非定型業務、小規模案件を弁護士が積極的に受託すること
によって、案件の数が十分に大きくなれば、それに伴うテク
ニカルな管理は、信託銀行が引き受けていくようになるので
はないか?
11
II. おわり。
12