日本語の自、他、受身の選択 -中国語話者と中朝バイリンガルの比較- 名古屋大学 杉村 泰 はじめに このたび私は結婚することになりました。 ?しました。 ↓ 日本語では自動詞が好まれる。 自動詞・他動詞・受身の選択 (1) さあ,肉{が焼けた/?を焼いた/*が焼かれた}から食べよう。 (2) さあ,ケーキ{?が切れた/を切った/?が切られた}から食べよう。 (3) 冷蔵庫によく{冷えた/?冷やした/?冷やされた}ビールがある。 (4) ビール{が5℃に冷え/を5℃に冷やし/が5℃に冷やされ}ている。 → 「5℃にする」という動作主の意図性 アンケート 格助詞と動詞の同時選択 (例) 風でドア(が/を)バタンと(開いた/開けた/開けられた)。 被験者 日本語母語話者 名古屋大学学部生(114人) (2012年5月に実施) 日本語学習者 中国語母語話者:延辺大学外国語学院日語系(N1合格者 23人) 中朝バイリンガル:延辺大学外国語学院日語系(N1合格者 40人) (2012年11月に実施) 守屋(1994) 動詞の自他の選択の難しさは、程度の差はあれ、自動詞選択のむず かしさにある(1から4へと次第に習得が難しくなっていく) ┌非人為的 │ (風でドアが閉まった) │ │ ┌主体不特定 │ │ (さっき電話がかかってきた) │ │ └人為的 ┤ ┌行為の実現や意図に無関心、結果に視点 │ │ (焼けた肉からめしあがって) └主体特定┤ ├行為の実現に関心、意図に無関心、結果視点 │ (テーマがやっと決まった) 自動詞選択 │ │ │ 他動詞選択 ├行為の実現に関心、反意図的、責任範囲内 │ (うっかりさいふを落とした) │ └結果よりも行為の実現、意図に関心 (みそ汁を温めているの) 条件-1 条件-2 条件-3 条件-4 条件-5 上記条件以外 本研究における事態の分類 ┌①対象の内発的変化 │ (電池が切れて時計が止まった) ┌非人為的事態┼②無情物の非意図的な作用による対象の変化 │ │ (風でドアがバタンと開いた) │ ├③被害や迷惑の意味 │ │ (地震で家が壊れた) │ └⑫状態変化主体の他動詞文 他動詞選択 │ (火災で家を焼いた) │ │ ┌④動作主不特定(不特定多数、社会一般) │ ┌対象の状態描写┤ (もう授業が始まっている) │ │ └⑤動作主特定 │ │ (冷蔵庫に冷えたビールがある) └人為的事態┬行為の結果┼⑥対象の変化 │に焦点 │ (さあ、肉が焼けたよ) │ ├⑦動作主の変化 自動詞選択 │ │ (去年より体重が減った) │ │ │ │ │ ├⑧対象の状態描写(動作主の直接的介在が感じられる) (自動詞) │ │ (弁当箱に野菜が残っている / 残されている) 受身選択 │ └⑨被害や迷惑の意味 │ (近所にマンションが建った / 建てられた) │ │ (自動詞) │ ┌⑩不注意による対象の変化 他動詞選択 └動作主の行為┤ (転んで骨が折れた / を折った) に焦点 └⑪意図的行為による対象の変化 (コーヒーにミルクを入れて飲む) ①対象の内発的変化 ①対象の内発的変化1 17. 電池が切れて時計(が/を)(止まった/止めた/ 止められた)。 65.2 中 4.3 13.0 85.0 中・朝 5.05.05.0 100.0 日 0% 20% 40% 自動詞 他動詞 17.4 0 60% 受身 80% ねじれ 100% ①対象の内発的変化2 10. 老朽化して家の外壁(が/を)(割れた/割った/ 割られた)。 34.8 中 8.7 39.1 57.5 中・朝 10.0 17.4 22.5 95.6 日 0% 20% 自動詞 40% 他動詞 10.0 1.8 2.6 0 60% 受身 80% ねじれ 100% ②無情物の非意図的な作用 による対象の変化 ②無情物の非意図的な作用1 01. 風でドア(が/を)バタンと(開いた/開けた/開けら れた)。 26.1 中 17.4 35.0 中・朝 43.5 0 13.0 47.5 17.5 91.2 日 0% 20% 40% 自動詞 他動詞 0 8.8 0 60% 受身 80% ねじれ 100% ②無情物の非意図的な作用2 25. ポケットの中のチョコレート(が/を)体温で(溶け た/溶かした/溶かされた)。 30.4 中 42.5 中・朝 8.7 47.8 2.5 13.0 42.5 12.5 93.9 日 0% 20% 40% 自動詞 他動詞 3.5 2.6 0 60% 受身 80% ねじれ 100% ③無情物による被害や 迷惑の意味 ③無情物による被害や迷惑1 27. 地震で家(が/を)(壊れた/壊した/壊された)。 34.8 中 中・朝 13.0 57.5 47.8 2.5 4.3 30.0 91.2 日 0% 20% 40% 自動詞 他動詞 10.0 0 8.8 0 60% 受身 80% ねじれ 100% ③無情物による被害や迷惑2 02. 火災で家(が/を)(焼けた/焼いた/焼かれた)。 中 21.7 中・朝 0 37.5 日 56.5 21.7 2.5 50.0 10.0 90.4 0% 20% 40% 自動詞 他動詞 06.13.5 60% 受身 80% ねじれ 100% ④対象の状態描写 (動作主不特定) ④対象の状態描写(動作主不特定)1 49. もう授業(が/を)(始まって/始めて/始められて) いるから急ごう。 82.6 中 8.7 0 8.7 90.0 中・朝 5.005.0 99.1 日 0% 20% 40% 自動詞 他動詞 0.9 0 60% 受身 80% ねじれ 100% ④対象の状態描写(動作主不特定)2 20. 都市開発でこの町の風景(が/を)すっかり(変 わった/変えた/変えられた)ね。 60.9 中 8.7 82.5 中・朝 21.7 2.57.5 7.5 94.7 日 0% 20% 自動詞 40% 他動詞 8.7 0.9 4.40 60% 受身 80% ねじれ 100% ⑤対象の状態描写 (動作主特定) ⑤対象の状態描写(動作主特定)1 19. そのコーヒーにはもう砂糖(が/を)(入って/入れ て/入れられて)いるよ。 39.1 中 21.7 0 62.5 中・朝 39.1 5.05.0 27.5 89.5 日 0% 20% 40% 自動詞 他動詞 2.67.00.9 60% 受身 80% ねじれ 100% ⑤対象の状態描写(動作主特定)2 35. 壁に(割れた/割った/割られた)鏡が掛かってい る。 43.5 中 21.7 52.5 中・朝 34.8 27.5 20.0 100.0 日 0% 20% 自動詞 40% 他動詞 0 0 0 60% 受身 80% ねじれ 100% ⑤対象の状態描写(動作主特定)3 03. 冷蔵庫によく(冷えた/冷やした/冷やされた) ビールがあるよ。 34.8 中 39.1 32.5 中・朝 26.1 37.5 30.0 100.0 日 0% 20% 自動詞 40% 他動詞 0 0 0 60% 受身 80% ねじれ 100% ⑤対象の状態描写(動作主特定)4 23. ビール(が/を)5℃に(冷えて/冷やして/冷やさ れて)いる。 中 13.0 43.5 27.5 中・朝 27.5 29.8 日 0% 21.7 20% 自動詞 32.5 32.5 40% 他動詞 21.7 60% 受身 ねじれ 12.5 36.8 0.9 80% 100% ⑥対象の変化 ⑥対象の変化1 33. 問題(が/を)(解けたら/解いたら/解かれたら) 手を挙げてください。 21.7 中 30.4 30.0 中・朝 26.1 35.0 7.5 75.4 日 0% 20% 自動詞 40% 他動詞 21.7 27.5 20.2 60% 受身 80% ねじれ 04.4 100% ⑥対象の変化2 41. さあ、今日の夕食のメニュー(が/を)(決まった/ 決めた/決められた)よ。 中 30.4 中・朝 30.0 21.7 17.4 27.5 30.4 15.0 27.5 90.4 日 0% 20% 40% 自動詞 他動詞 8.80.9 0 60% 受身 80% ねじれ 100% ⑥対象の変化3 11. さあ、肉(が/を)(焼けた/焼いた/焼かれた)か ら食べましょう。 17.4 中 中・朝 26.1 2.5 30.4 50.0 26.1 17.5 30.0 86.0 日 0% 20% 自動詞 40% 他動詞 14.0 00 60% 受身 80% ねじれ 100% ⑥対象の変化4 09. さあ、お茶(が/を)(入った/入れた/入れられ た)からひと休みしましょう。 13.0 中 56.5 20.0 中・朝 21.7 50.0 5.0 47.4 日 0% 20% 自動詞 25.0 52.6 40% 他動詞 60% 受身 0 80% ねじれ 8.7 100% ⑪意図的行為による 対象の変化 ⑪意図的行為による対象の変化1 21. おや、髪(が/を)(切れた/切った/切られた)ん だね。 21.7 中 中・朝 47.8 5.0 75.0 日 1.8 0% 13.0 2.5 17.5 98.2 20% 40% 自動詞 他動詞 17.4 0 60% 受身 80% ねじれ 100% ⑪意図的行為による対象の変化2 54. コーヒーにミルク(が/を)(入って/入れて/入れ られて)飲む。 中 中・朝 日 17.4 52.2 10.0 72.5 2.6 0% 8.7 21.7 5.0 12.5 95.6 20% 自動詞 40% 他動詞 1.8 0 60% 受身 80% ねじれ 100% 参考文献 杉村泰(2013)「中国語話者における日本語の有対動詞の 自動詞・他動詞・受身の選択について─人為的事態の場 合─」『日本語/日本語教育研究』4,日本語/日本語教 育研究会,ココ出版,(印刷中) 守屋三千代(1994)「日本語の自動詞・他動詞の選択条件 ―習得状況の分析を参考に―」『講座日本語教育』第29 分冊、早稲田大学日本語教育センター,pp.151-165 敬請批評指正! 第11回日本語教育研究集会 2013年8月5日(月) 於名古屋大学 「日本語の自・他・受身の選択 -中国語話者と中朝バ イリンガルの比較-」 杉村 泰
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