一般講演 積雪寒冷地における舗装の破損とその対策 独立行政法人土木研究所寒地土木研究所 寒地保全技術研究グループ寒地道路保全チーム上席研究員 熊谷 政行 1.はじめに ただいまご紹介いただきました、寒地道路保全チー ムで上席研究員をしております熊谷と申します。今日 は「積雪寒冷地における舗装の破損とその対策」と題 しまして、今年、去年と、春先に、舗装の破損が見ら れて、新聞、テレビ等でも取り上げられましたので、 舗装の破損に対して関心を持たれている方も最近、増 えているということで、このテーマを選ばせていただ きました。 今日お話する内容(図-1)は、まず舗装の破損と は一体どういうことなのか、何が壊れるのか、どんな ことが起こっているか、というお話。次に、北海道で は積雪寒冷地特有の舗装の破損が起こりますので、ど んなことが起こっていて、そのために今までどのよう な研究が行われてきたかを紹介しまして、これまでの 現状を踏まえて、最近の舗装の破損が、どのような傾 向があるのか、どう変わってきているのか、そして、 それに対して今、どんな研究をしているのかを紹介し ていきたいと思っております。 2.道路舗装の破損とは まず、舗装の破損についてお話しします。舗装とい 図-1 うのは、ほかの構造物と比べて何が違うか(図-2) を載せてあります。コンクリートや鋼構造物に比べて、 耐用年数が短くて、大体10年から20年程度と言われて います。また、日常的な維持管理を前提として設計さ れていて、一度造れば、放っておいても大丈夫という ものではないということです。そして、状態が悪くな ると、少し壊れてもすぐ道路利用者に対して影響が出 るといった特徴がございます。 図-2 寒地土木研究所月報 特集号 2013年度 17 図-3 図-5 図-4 図-6 2-1 舗装の機能 されてしまう。ということで、最適な管理レベルをど こに持っていくかが、道路管理上、重要です。 舗装に求められている機能とは、安定的に、快適に 簡単に、舗装がどんな形をしているのか示していま 走行できるという路面の性能。そして車両が走っても す(図-4)。このように層状をしていまして、上から、 沈まない支持力を確保すること。そして、例えば騒音 表層、基層という、アスファルトの混合物でできた層 とか振動とか、 沿道環境にも配慮した機能が求められ、 があり、その下に、路盤と呼ばれる砂利などでできた こういった機能が損なわれることを、舗装が破損する 層、そしてその下に、路床という、もともとの地盤が、 といいます。 層状に重なってできています。自動車の荷重を支える 舗装が破損すると、何が問題になるかというと、一 ために、上にあるものほど強度が強くて、下に行くほ 番は、道路利用者に対するコストが上がるということ ど、比較的安価で強度の弱い材料でできています。 です。 舗装が健全な状態であれば、ガソリン代も安かっ こういった構造をしているのは、例えば、走行性を たり、タイヤの摩耗も少なかったりと、利用者のお金 確保するためには、一番表層の自動車と接する部分の が少ないのですが、傷んでくるとコストが、どうして 性状が快適に保たれていなければいけないためで、路 も利用者の方に転嫁されていきます。 面性状という機能が、一つ重要な機能としてあります それを示したものがこちらの図(図-3)です。道 (図-5)。 路管理レベルを高い状態に保っている場合には、道路 そして、構造体全体として、上に乗る車両の荷重を 管理者費用は高くなりますが、道路利用者の費用は少 支持する構造的な機能。この路面性状と構造という二 なくなる。しかし、管理レベルを下げて、道路の状態 つの大きな機能が舗装の特徴となります。 が悪くなってくると、そのコストが利用者の方に転嫁 18 寒地土木研究所月報 特集号 2013年度 図-7 図-9 図-8 図-10 2-2 舗装の破損の種類とその原因 構造的な破損(図-8)があり、路面性状の破損の場 合は、破損自体が表面的なので、表層だけ直せば解決 それらの機能が損なわれることが、舗装が破損する しますが、構造的に破損してしまうと、下の層まで壊 ということですが、舗装の破損は路面性状に関する破 れているため、上の層を直しただけでは対策にならな 損と、構造に関する破損というふうに、二つの破損に い。ということで、構造的な破損の方が、対策にはよ 大きく分けられ、それぞれの破損についても、ひび割 りお金もかかり、大がかりになります。 れだったり段差だったりと、さまざまな壊れ方があり いくつかの代表的な破損形態を紹介します。 ます(図-6) 。 1)線状ひび割れ(図-9) 次に、破損の形態について、代表的なものについて これは線状ひび割れといい、センターラインの辺り ご紹介したいと思います。 の舗装の打ち継ぎ目にできるひび割れです。施工する 舗装の破損の要因(図-7)を分類すると、要因の ときに、右のレーンの後で、左のレーンを施工すると 代表的なものには三つあります。外力、それは走行す 真ん中にちょうど打ち継ぎ目ができて、温度差によっ る車両の荷重や冬のタイヤチェーンなどの外力。そし てうまく接着しなかったりして、こういったひび割れ て、内部要因は、舗装自体が持つ性質です。強度や、 ができることが多くあります。 あるいは長年使っていくことで蓄積された損傷などの 2)疲労ひび割れ(図-10) 舗装自体が持つ要因。そして、外部要因は、気温や、 これは疲労ひび割れといって、長く使っていると繰 あるいは水の作用や、油の作用などの外的な要因。こ り返しの荷重が舗装にかかることによって舗装の下の の三つの要因が重なりあって破損が起こります。 面が引っ張られる作用が起こります。引っ張られます 代表的な壊れ方としては、先ほどいった路面性状と と、下の方からだんだんひび割れが入ってくる。する 寒地土木研究所月報 特集号 2013年度 19 図-11 図-13 図-12 図-14 と、 舗装の一番下の層から入ってくるひび割れなので、 ると、このようにタイヤが当たったところがへこんで 上まで貫通したときには、舗装全層に対してひび割れ 両側が盛り上がってくることでわだちができます。 が入っている状態になるものです。 6)ポットホール(図-14) 3)縦表面ひび割れ(図-11) これはポットホールといいまして、穴状にできる破 これは逆に、表面だけにできる縦表面ひび割れとい 損です。特に道路面に水が多いときに、ひび割れなど うものです。わだち割れともいわれます。直接、舗装 に水が入って、骨材とアスファルトの付着力を弱くし 表面にタイヤが当たることによって、ダブルタイヤで て、車両が通ると、このような穴ぼこができます。こ 引っ張られたり、直接的な作用によって、舗装表面に れについては、後ほど詳細にお話させていただきたい できるひび割れで、これはひび割れが深くなければ、 と思います。 舗装の表層だけ直せば良いものです。 4)劣化、老化によるひび割れ(図-12) 3.積雪寒冷地特有の舗装の破損と対策 これは、長く使っていると、紫外線や酸素の作用に よって、アスファルト自体が硬くなって、だんだん、 次に、寒冷地特有の破損には、どういうものがある このような亀甲状のひび割れができる、老化によるひ のか、ご紹介したいと思います(図-15)。北海道の び割れです。 特徴になりますが、温度も単に低いというだけでなく、 5)流動わだち(図-13) 冬が低く、夏は温度が高い。すると、アスファルト舗 次はわだちです。わだちにもいくつか種類がありま 装は温度が低いときは硬くなり、温度が高くなると軟 す。 これは流動わだちといい、特に夏になるとアスファ らかくなるため、寒いときと暑いときの両方に対して ルトは軟らかくなるため、そこに重い車両が乗って走 のダメージが起こります。 20 寒地土木研究所月報 特集号 2013年度 図-15 図-17 図-16 図-18 そしてまた、北海道の場合、寒さはそれほどでもな いですが、雪が非常に多いため、除雪やタイヤチェー ンで直接ダメージを受けます。そしてまた、温度が低 いことによって、凍上ですとか、低温により直接的に 舗装が壊されるといったことも起こります。 3-1 寒冷地特有の破損 1)低温ひび割れ(図-16) 実際にどんなことが起こっているかですが、これは 低温ひび割れと呼ばれるものです。舗装にこのように 横断方向に均等にひび割れが入るのが特徴です。これ は舗装上に雪があるときはあまり起こらず、除雪され 図-19 て、直接に寒気が当たるようになると、舗装自体が縮 どういうところに多く発生するかというと、これは んで、ひび割れが均等に入ってくるというメカニズム 赤いところが、寒い地域ですが、温度の低いところに で、低温ひび割れが発生します。 集中して発生していることが分かります(図-18)。 これは昭和の時代に、足寄地域でできた低温ひび割 また、交通量別(図-19)に比較すると、比較的交 れのスケッチ(図-17)です。このように非常に細か 通量の少ないところに多い。交通量が少ないというこ く発生することがあります。 とは、舗装の設計的には薄くできているため、舗装が 寒地土木研究所月報 特集号 2013年度 21 図-20 図-22 がったときに、舗装全体の強度が低下して、亀甲状の ひび割れの破損が起こります。 凍上の対策として、一定の深さまで凍りにくい材料 に地面の土を置き換えてしまうことが有効ですが、過 去に、凍上の実態として、どのくらいの深さまで置き 換えれば、凍上が発生しないかを調べたものが、左の 図(図-22)です。縦軸が置き換え深さで、凍結深さ のどれくらいの割合まで置き換えたか、そして横軸が、 実際に凍上がどれくらい発生したかです。大体80%く らい置き換えると、凍上がほとんど起きなくなること が分かります。 図-21 これを設計に反映するためには、実際に、その場所 その場所で、凍結深を測るのはなかなか難しいことか 薄いところで、低温ひび割れが多く発生しているとい ら、気象データから、例えば舗装の設計年数を20年で えます。対策では、混合物層を厚くするのが有効だと 考えた場合には、20年間で一番深い凍結が、どれくら 考えられております。また、引っ張られても壊れにく いか計算して、その70%まで置き換えるということに いように、舗装に軟らかい材料を使うのも、一つの対 しております。80%と70%と違うのは、左図は実際の 策となっています。 現地調査の結果ですが、凍上しない土は、凍上を起こ 2)凍上ひび割れ(図-20) す土よりも凍結深が深いため、一般的な土での80%の もう一つの特徴的な舗装の破損形態に、凍上ひび割 深さは、凍上しない土で計算する理論凍結深では大体 れがあります。凍上現象というのは、寒気が表面から 70%に相当するという考え方で置き換えの深さが決め 入ると、ある深さのところに氷ができはじめます。氷 られております。 ができはじめると、その氷が下から水を吸い上げて、 3)摩耗わだち(図-23) だんだん氷が厚くなります。もう水を吸いきれなくな また、ほかの寒冷地特有の舗装の破損の形態では、 ると、さらに寒気が深いところに入って、その下に同 摩耗という破損があります。タイヤチェーンや、スパ じような氷の層を作っていきます。この繰り返しで土 イクタイヤで直接舗装表面が削られて、このようなわ の中に氷の厚い層が積み重なっていくことによって、 だちができ、以前、大変問題になっておりました。 路面自体が盛り上がって凍上が起こります(図-21)。 現在は、ひと冬の間にこういった摩耗というのは、 これが道路で起こると、厳冬期には、氷によって、舗 ほとんど起きていませんが、以前は、年間10ミリくら 装が持ち上げられて、舗装がひび割れます。 いの摩耗がよく起こっていたと言われております。 さらに、春先になると、いったんできた氷が融けて、 これも、スパイクタイヤが使用されていた当時のデ 路床の中で水分が多くなることで、その支持力が下 ータ(図-24)です。実線が摩耗わだちの量で、点線 22 寒地土木研究所月報 特集号 2013年度 図-23 図-25 図-24 図-26 が流動わだちです。流動わだちに対して、北海道では 摩耗わだちが2倍くらい発生していて、摩耗わだちの 対策が一番重要でした。 摩耗わだちの対策としては、摩耗しにくい軟らかい 舗装材料にすることも行われていますが、舗装自体の 品質も関係が深いことが調べられていて、品質が良く、 締め固め度が高い舗装ほど、摩耗が少なかったという データも出ています(図-25) 。 4)流動わだち(図-13) 先ほど、流動わだちよりも摩耗わだち対策の方が重 要だったというお話をしましたが、摩耗わだちの対策 として、舗装に軟らかい材料が使われるようになり、 最近になって非常に重い車両が増えてきたことで、北 海道でも流動わだちの問題が最近は起きるようになっ 図-27 3-2 舗装の破損の対策 てきております。これに対しては、アスファルト材料 に改質剤という、強度を高めるものを混合することに 寒冷地特有の舗装の損傷に対する構造による対策 よって、流動わだちを少なくする対策も取られており (図-27)を整理いたしますと、一つは、北海道では ます(図-26) 。 上層路盤に、アスファルト安定処理という、アスファ ルト混合物を使うことによって、混合物層を厚くして、 寒地土木研究所月報 特集号 2013年度 23 図-28 図-29 低温クラックに強い構造にしております。 また、下部に凍上抑制層という層を作り、凍上の起 きない深さまで、凍上しにくい材料で置き換えること で、凍上の対策をしています。また、路床土について も、融解期に支持力が低下することを考慮した評価を 行って、舗装全体を設計しています。 また、材料面でも、ひび割れや摩耗、剥離等に対応 するために、骨材の品質が、本州よりも厳しい材料が 使われております(図-28)。また、アスファルト材 料も、針入度の値が、本州に比べて大きくなっていて、 軟らかい材料が北海道では使われております。 また、混合物も、アスファルト量を多くしたり、フィ 図-30 ラーの量を多くしたり、あるいは、すり減り量を厳し く制限したり、また、空隙率を小さく抑えたりするこ 4.舗装の破損の近年の傾向と研究課題 とで、本州に比べて、品質の規格が非常に高くなって いて、これまでの研究から、こうした対策が取られて 4-1 舗装の破損の近年の傾向 います。 一度壊れてしまった舗装は、維持修繕(図-29)に では、舗装が、どんな状況にあるのか、最近の傾向 よって直されます。先ほどの繰り返しになりますが、 についてご紹介したいと思います。これは全国の社会 左下のような、路面性状に関する破損の場合には、破 資本投資の推移(図-30)です。90年代くらいまでは、 損が深いところまで行かず、表層だけにとどまってい 建設費等も増えていましたが、それ以降、どんどん下 ることが多いので、その場合には、例えばこういった がって、維持管理費にシフトしてきていて、古くなっ パッチングやシール材など表面的な対策で対応が可能 た構造物がこれからどんどん増えてくることが考えら です。右側のように、構造的に破損してしまった場合 れます。 には、深いところまで壊れているため、表面を直した 北海道の舗装(図-31)についても、青の路線延長 だけでは、すぐまた破損が再発してしまいます。こう に対して、赤い線の舗装延長が、1960年代から70年代 いった場合には、切削オーバーレイという、一度舗装 くらいに急激に増えていて、この当時建設された舗装 をはがして、その上に新しい舗装を敷く方法や、全く が多く、それからすでに40年、50年たったことで、舗 打ち換えてしまう方法などが必要になってくるため、 装の寿命から考えて、老朽化が進んだものが、これか 構造的な破損がいったん起こってしまうと、その補修 らどんどん増えてくるということが考えられます。 にはお金も時間もかかります。 24 寒地土木研究所月報 特集号 2013年度 図-31 図-33 ർᶏ䈱⥩ⵝ䈱⎕៊䈱⁁䋨䊘䉾䊃䊖䊷䊦䋩 䊘䉾䊃䊖䊷䊦䈱⊒↢ᤨᦼ 㪏㪇 㪩㪊㪊㪊 㪎㪇 㪩㪉㪋㪉 㪩㪉㪊㪏 ⊒↢ઙᢙ 㪍㪇 㪌㪇 㪋㪇 㪊㪇 㪉㪇 㪈㪇 㪊 㪉 㪈 㪈㪉 㪈㪈 㪐 㪈㪇 㪏 㪎 㪍 㪌 㪋 㪇 ㆙シၞ䈮䈍䈔䉎䊘䉾䊃䊖䊷䊦䈱⊒↢ઙᢙ 䋲䈎䉌ᓢ䇱䈮Ⴧ䈋ᆎ䉄䇮䋳䈫䋴䈮⊒↢㊂䈏ᄙ䈇䈖䈫䈏 ⏕䈘䉏䈢䇯䋳䇮䋴䈲Ⲣ㔐ᦼ䈮䈅䈢䉎䇯 図-32 図-34 4-1-1 ひび割れ おります。新聞等でも、道路のポットホールが問題に 実際にデータを調べてみました。左側の写真(図- なりました。 33)のように、構造的なひび割れの場合には、下から ポットホールがどういう原因で起こるかということ ひび割れが入ってくるボトムアップクラックが起こり を調べてみましたが、発生時期で見ますと、ほとんど ます。表面的な場合は、トップダウンクラックという、 が3月、4月、やはり融雪期に多いということが、改 上から入ったクラックだけにとどまります。現状は、 めて確認されております(図-34)。 ボトムアップ、下から入ってくるひび割れは、舗装の 次に、どんなときに起きているかを調べました。 薄いところで、 随分増えてきています(図-32)。ただ、 ちょっと分かりにくいですが、1日の間に気温が、0 まだ舗装の厚いところでは、ボトムアップのひび割れ 度を境にして上がったり下がったりする、1日の間に はあまり発生していない。それと逆に、トップダウン、 プラスとマイナスを繰り返す時期に非常に多くなって 上からのひび割れはまだ、それほど多くはなっていま いることが分かります。上は厳冬期ですが、1日中気 せんが、舗装の厚いところでも薄いところでも同じ程 温が低いときには、逆にほとんど起きていないことが 度という傾向が見られます。 分かります(図-35)。 ひび割れ全体としては、だんだんひび割れ率が高く 発生している場所(図-36)についても、全く問題 なっていっている傾向が、最近見られております。 の無いところでは少なく、基盤となる舗装に疲労ひび 割れや横断ひび割れとか、もともとひび割れが発生し 4-1-2 ポットホール ていたところに、ポットホールが多く発生しているこ 最近、舗装のひび割れが増えている現状もあり、去 とが確認されています。 年、今年と、春先に、ポットホールの問題が起こって また、道路の横断的な位置(図-37)としても、外 寒地土木研究所月報 特集号 2013年度 25 図-35 図-37 図-36 図-38 側のタイヤが当たる位置に多く発生していることが確 認されています。これはタイヤによる直接的なダメー ジに加えて、北海道の場合、路肩に雪をためているた め、その雪が融けて、路面に流れ出すと、外側のタイ ヤが当たる位置にちょうど水がたまってしまい、その 水の作用と、タイヤの作用とが相乗的に作用して、こ の位置に多く見られるのではないかと推測されており ます。 そのメカニズム(図-38)を模式的に示したもので す。表面的なひび割れの場合は、①のように、もとも と舗装にあるひび割れに、②のように、雪融けの水が 入っていくと、舗装自体が付着力が弱くなるというこ 図-39 とが起こり、そこをタイヤが走行することによって、 壊れやすくなり、④のように、ひび割れの周りが壊れ ると考えられます。 ます。これが疲労ひび割れのように、全層にわたって また、北海道特有の低温ひび割れ、凍上ひび割れの ひび割れが入っていた場合(図-39)には、同じよう 箇所でも、深いひび割れが発生しています(図-40) な現象が起こった場合でも、このように深い穴が発生 ので、同じように一度ポットホールができると、より する可能性があります。今後、こうした疲労ひび割れ 深いものができる可能性があるため、こういった低温 が増えてきた場合には、より、注意が必要になってく ひび割れ、凍上ひび割れの対策が、ポットホール対策 26 寒地土木研究所月報 特集号 2013年度 図-40 図-42 図-41 図-43 の上でも非常に重要です。 ひび割れともう一つ大きな原因として、先ほど、水 というお話をしましたが、北海道の融雪期(図-41) には、雪が融けた水が斜面から道路に流れ出たり、道 路脇に堆雪している雪が融けて流れ出るとか、直接雪 や雨が降って、路面が濡れたりして、非常に水の供給 が多くなっています。春先は、舗装にとっては壊れる 要因がそろっているために、ポットホールが非常に発 生しやすいということが分かります。 整理しますと、融雪期のポットホールの要因(図- 42)は、車両の走行と、もともと舗装にあるようなひ び割れ、打ち継ぎ目などの欠陥、そこに水が入り込む 図-44 ということによって起こります。それを改善するため には、一つは内部要因を改善するため、舗装自体のク 4-2 現在の研究課題 ラックや欠陥を無くすというのが有効な対策です。も う一つは水を遮断するということです。融雪水が路面 こうした、寒冷地特有の舗装の破損に対して、今、 に流れ出ないように、排水をしっかりすることも、大 どんな研究をしているかを、いくつかご紹介したいと きな対策になります。 思います(図-43)。 1)高耐久材料(機能性SMA) 寒地土木研究所月報 特集号 2013年度 27 図-45 図-47 図-46 図-48 一つは、耐久性の高い舗装材料で、単に耐久性が高 り差は無くなりますが、北海道で一番問題になってい いだけなく、滑りにくいとか、水たまりができにくい るブラックアイスに対しては、非常に効果があること とか、機能も持っているものです。そういった高機能 が確認されています。 な舗装には、排水性舗装というものが従来からありま また、排水性舗装は、高速道路等で使われています すが、同じような機能を持って、少しでも長持ちでき が、高速走行時の安定走行の面から、雨が降ったとき るよ う な 舗 装 材 料 が で き な い か と 考 え て、 機能 性 の安全性を見ると、上の写真(図-47)が水はねの状 SMA(図-44)というものを開発しております。表 況を調べたものですが、左車線が加速車線で、密粒度 面は排水性舗装と同じような形をしていて、中が密実、 舗装という、通常の排水機能の無い舗装で、そこでは そんな構造のものです。 水はねが起こっていますが、右側の車線は、排水性舗 これを使いますと、これは衝撃、強い力を与えたと 装でも SMA でも、水はねが非常に少ないことが分か きに、舗装が、骨材が飛んでどれくらい壊れるかとい りました。また、下の写真のように、夜間の対向車の うものを調べる試験(図-45)の結果ですが、一番左 ライトのグレアの程度も、密粒度舗装に比べて、SMA 側にある排水性舗装の場合は、壊れる割合が大きいの や排水性舗装は、まぶしくない。こんな効果も確認さ ですが、機能性 SMA にすると、壊れる量が少なくな れています。 る、ということで、耐久性が高まっていると言えます。 2)長寿命構造(理論的設計手法) また、冬の滑り対策(図-46)でも、機能性 SMA また、耐久性自体を高めるための対策も検討してお が赤いところですが、ブラックアイスが発生したとき ります。従来、TA 法という経験的な手法で舗装の厚 でも、排水性舗装ほどではないが、比較的高い滑り抵 さが決められていますが、理論的設計法は、舗装の材 抗を示している。氷や雪が厚くなってしまうと、あま 料特性から、計算により舗装の構成を決めようとする 28 寒地土木研究所月報 特集号 2013年度 図-49 図-51 図-50 図-52 方法(図-48)です。この理論的設計を用いると、理 すると、どうしても品質が低下という問題が起こって 論的には、 混合物の一番下の層が引っ張られることが、 います。その対策ということで、中温化舗装技術を活 疲労ひび割れが起きる原因だと考えられていますの 用(図-50)することが、考えられております。これ で、従来のように、上から下にいくほど、強度が弱い は特殊な添加材によりアスファルト混合物を作るとき 材料を使うのではなく、一番下の層を逆に強くすると に、混合温度が通常よりも低い温度でも、同じような いうことができますので、試しに試験道路で試験をし 性質が保てるようにする技術で、CO2削減にも期待さ てみました。このように、いろいろな舗装構成を試験 れている技術です。これを寒冷地の舗装に適用するこ 道路に作り、確認したところ(図-49)、下の層に安 とで、低い温度で施工した場合でも、一定の品質が保 定処理のような、弱い材料を使うと、大体10年くらい てるということを期待しております。 でひび割れが発生しています。次に、安定処理でも少 北海道は、冬期に施工した場合には、舗装の温度の し厚くしたものでは、もうちょっとかかって13年、そ ばらつきが非常に大きくなります。上が夏、下が冬で して粗粒度アスコンという、安定処理よりももう少し すが、サーモグラフィで温度分布(図-51)を調べて 強い材料を使うと15年、さらに、密粒度舗装という、 みますと、冬の方が温度の高いところと低いところの 表層に使われるような強度のある材料を使うと、今現 幅が非常に大きいということで、ばらつきが大きく 在でもまだ、ひび割れが発生していない、ということ なっています。 で、非常に耐久性が高くなるということが分かりまし 温度のばらつきが、品質がばらつく原因になるため、 た。 上が通常の混合物と、CO2を削減するため混合温度を 3)寒冷期施工時の品質向上(中温化舗装) 30度低下させた中温化混合物ですが、品質のばらつき また、北海道の場合、寒冷地のために、冬に工事を がやや大きい(図-52)。 寒地土木研究所月報 特集号 2013年度 29 図-53 図-55 図-54 図-56 しかし、中温化混合物を、下のように温度を下げな ですが、シートを使った場合には、施工後3年たって いで通常の混合物と同じ温度で使うと、品質のばらつ も1%のひび割れ率と、ほとんどひび割れが発生して きが非常に小さくなりました。北海道の冬のように気 ないと見ていいレベルで、再発はしていないというこ 象条件の悪い時期の施工には、こういった技術も有効 とで、疲労ひび割れが発生したところでも、延命化が ではないかと考えております。 図れるという効果が期待されております(図-55)。 4)修繕時の舗装延命化(ひび割れ抑制シート) 根本的には全層打ち換えが必要ですが、それまでの 最後に紹介する技術は、ひび割れ抑制シートです。 期間を延ばすことができることから、舗装の修繕の 先ほど、疲労ひび割れがいったん発生してしまうと、 ピークを分散できるという目的で使えるのではないか その対策には、全部打ち換える必要があるとお話しし 期待しております。 ましたが、 これは、 疲労ひび割れが発生した場所にオー バーレイで修繕をする場合に、表層を施工する前に、 5.まとめ ひび割れシートを間に挟むことによって、下層のひび 割れが上層に伝わらないようにする対策(図-53)で 以上をまとめると(図-56)、舗装の破損は、道路 す。 利用者に直接影響する。そして、その原因も形態も多 このようにオーバーレイを行う際に、表層と下層の 種多様であると言えます。そして北海道のような積雪 間にひび割れ抑制シートを貼り付けて施工する試験を 寒冷地では、道路舗装にとって非常に過酷な環境にあ してみました(図-54) 。 るため、これまでにもいろいろな対策が取られてきて 過去に、シートを敷かないでオーバーレイを行った いる。北海道で最近見られる舗装の破損も、無対策だっ 場合には、大体1年半くらいでひび割れが再発したの たわけではなくて、いろんな対策を取ってきた。それ 30 寒地土木研究所月報 特集号 2013年度 でもなおかつこのような状態になっていることをご理 解いただければと思います。 今後はさらに、機能的な破損だけではなく、構造的 な破損が増えてくるため、構造的な破損に対応した対 策が重要になってくると考えております。舗装の対策 というのは、造るときだけではなくて、維持、更新と、 各段階での取り組みが必要です。これらの各段階での 対策について、今後も研究を進めていきたいと思いま すので、ご支援よろしくお願いします。 以上で、私の講演を終わらせていただきます。どう もありがとうございました。 寒地土木研究所月報 特集号 2013年度 31
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