大学院理工学研究科 2004年度 物性物理学特論第6回

大学院理工学研究科 2004年度
物性物理学特論第6回
-磁気光学効果の電子論(2):量子論-
非常勤講師:佐藤勝昭
(東京農工大学工学系大学院教授)
復習コーナー
古典電子論
m
d 2u
dt 2
 m
du
du


 m 02u  q E 
 B
dt
dt


B  (0,0, B)
E  E 0 exp i t 
u  u0 exp(it )
 m 2u  imu  m02u  qE  iu  B


m  2  i  02 x  iqBy  qEx


 iqBx  m  2  i  02 y  qE y


m  2  i  02 z  qEz
復習コーナー
電気分極Pを求める

P=nquにより分極Pを求める
nq 2
 2  i  02
nq 2
ic
Px  
E

Ey
x
2
2
m  2  i   2   2 2
m  2  i   2   2 2
0
c
0
c




nq 2
ic
nq 2
 2  i  02
Py  
Ex 
Ey
2
2
m  2  i   2   2 2
m  2  i   2   2 2
0
c
0
c


nq 2
1
Pz  
Ez
2
2
m   i  0

 c  qB m
サイクロトロン角振動数

復習コーナー
電気感受率を求める

P=0Eにより電気感受率を求める。


Py   0   xy Ex   xx E y 
Px   0  xx Ex   xy E y
Pz   0  zz Ez
nq 2
 2  i  02
 xx    

m 0  2  i   2 2   2 2
0
c


nq 2
ic
 xy   

m 0  2  i   2 2   2 2
0
c


nq 2
1
 zz    
 2
m 0   i  02
 c  qB m
より、非対角成分は磁界に比例
復習コーナー
誘電率に変換する
 ij=ij+ijを用いて、誘電率テンソルに変換
nq 2
 2  i  02
 xx    1 

m 0  2  i   2 2   2 2
0
c


nq 2
ic
 xy   

m 0  2  i   2 2   2 2
0
c


nq 2
1
 zz    1 
 2
m 0   i  02
 c  qB m
より、非対角成分は
磁界に比例
復習コーナー
ローレンツの式

B=0なのでc=0を代入:Lorentzの分散式
nq 2
1
 xx     zz    1 
 2
m 0   i  02
 xy    0
 2   02
nq 2
 xx ( )  1 

m 0 ( 2   02 ) 2   2 2
nq 2



 xx ( ) 

m 0 ( 2   02 ) 2   2 2
質問コーナー電子が束縛されていてω0≠0の場合にγが
生じる具体的イメージがつかめない(H君)

バネにつながった荷電粒子が振動するとき、熱
振動による散乱を受けたり、不純物と衝突した
りによって、さまざまなダンピング項が働きます
がそれをまとめてγで表したと考えてください。
復習コーナー
ドルーデの式

c=0, 0=0とおく:Drude formula
nq 2
1
 xx     zz    1 

m 0  (  i )
 xy    0
nq 2
1

 xx ( )  1 

m 0  2   2
nq 2

 ( ) 
 xx

m 0  ( 2   2 )
負の誘電率
復習コーナー
プラズマ振動数

Drudeの式で、ダンピング項を0としたとき、εの実数
部が0となる振動数を自由電子プラズマ振動数pとよ
び下の式で求められる。
nq 2 1
 xx ( )  1 
 2 0
m 0  p
p 
nq 2
m
ダンピングのある場合のDrudeの式
をpを使って書き直すと
2
 xx ( )  1 
 ( ) 
 xx
p
2   2
 2p
 (   )
2
2
 p   2p   2
においてゼロを横切る
質問コーナー金属中の電子が自由電子と見なせること
がぴんと来ない(N君)
金属では、構成している原子が外殻電子を放出して
結晶全体に広がる電子の海を作っています。
 この電子の海による遮蔽効果で、原子核の正電荷か
らのクーロンポテンシャルは非常に弱められています。
 このため、電子はあたかも自由電子のように振る舞う
のです。実際、有効質量もほとんど自由電子質量と
一致すると言われています。

復習コーナー
金属結合




金属においては、原子同士が接近していて、外殻のs電子は互
いに重なり合い、各軌道は2個の電子しか収容できないので膨
大な数の分子軌道を形成する。
電子は、それらの分子軌道を自由に行き来し、もとの電子軌道
から離れて結晶全体に広がる。これを非局在化するという。
正の原子核と負の非局在電子の間には強い引力が働き、金属
の凝集が起きる。
この状態を指して、電子
の海に正の原子核が浮
かんでいると表現される。
http://www.chemguide.co.uk/atoms/bonding/metallic.html
質問コーナー
自由電子とプラズマとの関係が分からない(A君)


金属は電子がたくさんありますが、全体としては中性
です。これは、電子による負電荷の分布の中心と原
子核の正電荷の中心が一致しているからです。
光の電界を受けて電子が+側に移動すると、-側に
は正電荷が残されます。この結果電気分極が生じる
のですが、このように正電荷と負電荷が空間的に分
離した状態をプラズマというのです。
電子の移動
+ -
+
-
+
質問コーナー
貴金属の選択反射の原因
光は電磁波の一種である。つまりテレビやラジオの電波
と同じように電界と磁界が振動しながら伝わっていく。
 金属中に光がはいると金属中に振動電界ができる。この
電界を受けて自由電子が加速され集団的に動く。
 電子はマイナスの電荷を持っているので、電位の高い方
に引き寄せられる。その結果電位の高い方にマイナスの
電荷がたまり、電位の低い側にプラスの電荷がたまって、
電気分極が起きる。
 外から金属に光の電界が進入しようとすると、逆向きの
電気分極が生じて電界を遮蔽してしまって光は金属中に
入れないことを示す。光が入れないということは、いいか
えれば、光が全部反射されてしまうということを意味する。

質問コーナー
PtMnSb以外にもプラズマ振動による効果は見られるか(A君)


Drudeの式の適用
出来る例としては、
金、銀、銅の反射ス
ペクトルが挙げられ
ます。
金によるプラズマエ
ンハンス効果につい
ては、Fe/Au,
Fe/Cuの人工格子
の例があります。
これについては、第
12回の授業で触れ
ます。
Kerr rotation (min)
実験結果
Fe/Cu=0.62
Experiment
(a)
Fe single
layer
Fe/Cu=
150/245
Fe surface
106/171
70/113
70/113
106/171
150/245
Cu
surface
Wavelength (nm)
Fe/Cu=0.62
Experiment
Cu
surface
Fe
surface
Reflectivity (%)
Cu single layer
Fe single layer
(b)
Fe/Cu=31/49
57/92
106/171
170/275
Wavelength (nm)
種々の層厚をもったFe/Cu
組成変調多層膜の磁気光
学スペクトルおよび反射ス
ペクトル(実験値)
質問コーナー
金銀銅の反射スペクトル
波長表示
エネルギー表示
 
 
hJ  scm  s  6.62610
EeV 

EJ   hJ  s s
-1
hJ  sc m  s -1

 m
-1
 meC
 34
 2.998108
1240

 nm109 1.6021019  nm
佐藤勝昭:金色の石に魅せられて
質問コーナー
貴金属の誘電率スペクトル
復習コーナー
マグネトプラズマ共鳴
0=0,=0を代入
 ij=-i0(ij-ij)によりに変換

p
nq 2
1
 xx    1 

1 2
m 0  2  c 2
  c 2
2
 pc
nq 2
 ic
 xy   

 i
m 0   2  c 2
  2  c 2



p
nq 2 1
 zz    1 
1 2
m 0  2

2
2=p2+c2で
ゼロを横切る
マグネトプラズマ共鳴
 xx    i0  zz  1 

 xy    i0 xy 
 2  c 2
 2pc
  c
2
2
= cで発散
i 2p 0
 zz    i0  zz  1 

2 0
i 2p 0

復習コーナー
マグネトプラズマ共鳴
 xx    1 
 xy    i
 2p

 2p c
  2  c 2
 zz    1 
N  2   xx  i xy  1 
 2  c 2
 2p
2



 2p
2
  c2

   c   1 
 2p
    c 
復習コーナー
ホール効果(による記述)

DCにおいては、→0とすることにより、次式を得る。xyはx方
向に電流が流れたときy方向に電圧が生じることを表しており、
まさにホール効果を記述するものである。
nq 2

q
2
2
0
 xx 0 
 2

nq

nq


m c   2
m  c 2   2
 c 2   2 ( c /  ) 2  1
nq 2

q
 c
c / 
 xy 0   
 2 c 2   nq



0
m c  
m  c 2   2
( c /  ) 2  1
nq 2 1
q
 zz 0  
  nq
 nq   0
m 
m
復習コーナー
ホール効果(による記述)

導電率テンソルを抵抗率テンソルに変換
 xx 0  
1
 zz 0  
1
ホール係数
0
 /
qB / m
B
 xy 0    c   2

  RH B
0
nq
nq / m
0
0 
1 /  0  RH B


ˆ   RH B 1 /  0
0 
 0

0
1
/

0

復習コーナー
Feの磁気光学効果と古典電子論
nq 2
ic
 xy   

m 0  2  i   2 2   2 2
0
c


比誘電率の非対角成分の大きさ:最大5の程度
   0  2eV ,  0.1eV ,
キャリア密度 n  1022 cm 3  1028 m -3 と仮定
B=3000Tという非現実的な磁界が必要
 スピン軌道相互作用によって初めて説明可能

磁気光学効果の量子論
磁気光学効果の量子論
電気分極と摂動論
 時間を含む摂動論
 誘電率の対角成分の導出
 誘電率の非対角成分の導出
 磁気光学効果の物理的説明
 磁気光学スペクトルの形状

電気分極と摂動論
電気分極とは,「電界によって正負の電荷がず
れることにより誘起された電気双極子の単位体
積における総和」
 「電界の効果」を,電界を与える前の系(無摂動
系)のハミルトニアンに対する「摂動」として扱う。
 「摂動を受けた場合の波動関数」を「無摂動系
の固有関数」の1次結合として展開。この波動
関数を用いて「電気双極子の期待値」を計算。

時間を含む摂動論(1)
無摂動系の基底状態の波動関数を0(r)で表し,
 j番目の励起状態の波動関数をj(r) で表す.
 無摂動系のシュレーディンガー方程式
H 00(r) =00(r)
(4.22)
H 0j(r) = j Ej(r)

光の電界E(t)=E0exp(-it)+c.c.
 摂動のハミルトニアン
H’=er・E(t)

(c.c.=共役複素数)
時間を含む摂動論(2)

摂動を受けた系のシュレーディンガー方程式


i  r, t   H r, t   H 0  H  r, t  (4.23)
t
この固有関数を,無摂動系の(時間を含まない)固有関数
のセットで展開
 r, t   0 (r ) exp(i 0 t )   c j (t ) j (r ) exp(i j t ) (4.24)
j

i
j'
この式を式(4.23)に代入し,無摂動系の波動関数につい
て成立する式(4.22)を代入すると
dc j ' (t )
dt
 j ' (r) exp  i j 't   H 0 (r ) exp( i0t )   c j ' (t ) exp( i j 't ) H  j ' (r )
j'
時間を含む摂動論(3)
i 
j'
dc j ' (t )
dt
 j ' (r ) exp i j 't   H 0 (r ) exp(i0t )
  c j ' (t ) exp(i j 't ) H  j ' (r )
j'

左から*j(r)をかけて,rについて積分すると
i
dc j (t )
dt




 j H  0 exp i j 0t  e j r 0  E (t ) exp i j 0t (4.25)
ここで e i r 0  e dr * j (r )r0 (r ) また  j 0   j   0
また、励起状態間の遷移行列
eir j
は無視した
時間を含む摂動論(4)
i

dc j (t )
dt



 j H  0 exp i j 0t  e j r 0  E (t ) exp i j 0t
式(4.25)を積分することにより式(4.24)の展開係数cj(t)が
求められる.


c xj (t )  i 1 0 e j x 0 E 0 x exp(i t )  cc.exp i j 0 t dt
t
 eE x 0





1  exp i(   j 0 )t
1  exp i (   j 0 )t
0
jx0

    j0
     j0






(4.26)


この係数は,摂動を受けて,励起状態の波動関数が基底
状態の波動関数に混じり込んでくる度合いを表している.
 r, t   0 (r ) exp(i 0t )   c j (t ) j (r ) exp(i j t )
j
誘電率の対角成分の導出(1)

電気分極Pの期待値を計算
(入射光の角周波数と同じ成分 )
Px  Nqx(t )  Nq  * xdx

cxj (t )  eEx 0




1  exp i(   j 0 )t 1  exp i(   j 00 )t
j x0 

    j0
     j0







 
 Nq  0 x 0  j x 0 c xj (t ) exp i j 0 t  0 x j c xj * (t ) exp  i j 0 t   
j

j x0
2
 Nq 
j


2


1
1
 E (t )


  j    j 0    x
 0

(4.27)
Px ( )   xx ( ) 0 E x
Nq 2
 xx   
 j x0
 0 j
2

1
1



 j 0    j 0   
(4.28)
 

誘電率の対角成分の導出(1)

有限の寿命を考える:i の置き換えをす
る。 2
Nq
 xx ( ) 
m j x 0
m 0 j
2

   j 0


1
1


   i
  j 0    i 
 

(4.31)
Ne 2
1

 f xj 2
m 0 j
 j 0    i 2
振動子強度

2
f xj  2 m j 0 j x 0

誘電率に変換
2

2
jo
Ne
 xx ( )  1 
 f xj
m 0 j
 2j 0   2   2


  2   2  2i

2
 4 2 2
(4.33)
誘電率の非対角成分の導出(1)

非対角成分:y方向の電界がEy(t)が印加されたと
きの,分極Pのx成分の期待値
Px  Nqx (t )  Nq   * xdx

 
j
 Nq   j x 0 c yj (t ) expi j 0t  cc.
 

 Nq  0 x 0  j x 0 c yj (t ) exp i j 0t  0 x j c yj * (t ) exp  i j 0t   
j
1  E * y 0 exp(it ) E y 0 exp(it ) 
 Nq  j x 0 0 y j






 j0   
j
j0


2
 xy ( )  Nq 2 
j
 xy ( ) 
0 y j j x0

  j0  

 xy ( )   xy * ( )
2
および
 xy * ( )  Nq 2 
j
0x j j y0

  j0  
0x j j y0
Nq 2  0 y j j x 0



2 j    j 0  
  j0  









誘電率の非対角成分の導出(2)
x  x  iy / 2 という置き換えをすると若干の近似のもとで
0x
Nq 2
 xy ( ) 
 j0
2i j
0x

2
j
j
2
 0x

j
2
 2j 0   2
右および左円偏光により基底状態|0>から,励起状態|j>に遷移する確率
円偏光についての振動子強度
 xy


f jo

m j 0 0 x  j
f j0  f j0
Nq 2
  xy ( )  i
 2
2m 0 j  j 0    i 2

2
磁気光学効果の 量子論

磁化の存在→スピン状態の分裂

左右円偏光の選択則には影響しない
スピン軌道相互作用→軌道状態の分裂
 右(左)回り光吸収→右(左)回り電子運動誘起
 大きな磁気光学効果の条件

遷移強度の強い許容遷移が存在すること
 スピン軌道相互作用の大きな元素を含む
 磁化には必ずしも比例しない

電子分極のミクロな扱い
電界の摂動を受けた
2 Nq 2
波動関数
 xx   
 j 0 j x 0
 0 j
E
+
+
-
 1 x 0 2
2 Nq  10

 0  102   2

2
無摂動系の
波動関数
2



2
2
  j 0   
2

 20 2 x 0


   
2
2
 20  


1
|2>
=
+
-
摂動を受けた
波動関数
=
+
+・・・・
+ ・・
+
+
s-電子的
<0|x|1>
p-電子的
無摂動系の固有関数で展開
|1>
<1|x|0>
|0>
円偏光の吸収と電子構造
px-orbital
2
2 



0x 1
0x 2 
Nq 2 
 xy ( ) 
  20 2
  10 2

2
2i 
10  
20   2 


py-orbital
|2>
Lz=+1
20-
|1>
10-
p+=px+ipy
Lz=-1
20
10
p-=px-ipy
10は20より光エ
ネルギーに近い
|0>
Lz=0
ので左回りの状
態の方が右回り
s-like 状態より多く基底
状態に取り込ま
れる
スピン軌道相互作用の重要性
Jz=-3/2
Jz=-1/2
L=1
LZ=+1,0,-1
L=0
磁化なし
交換分裂
LZ=0
Jz=+1/2
Jz=+3/2
Jz=-1/2
Jz=+1/2
交換相互作用
+スピン軌道相互作用
反磁性型スペクトル
Lz=-1
励起状態
0

Lz=+1
1
”xy
’xy
2
1+2
基底状態
Lz=0
磁化の無いとき
磁化のあるとき
光子エネルギー
光子エネルギー
誘電率の非対角成分のピーク値
 xy
peak
Ne 2 f SO

2
4m 0
鉄の場合:N=1028m-3, f0=1, so=0.05eV, 0=2eV,
 /=0.1eVを代入xy”|peak=3.5を得る
大きな磁気光学効果を持つ条件:
・光学遷移の振動子強度 f が大きい
・スピン軌道相互作用が大きい
・遷移のピーク幅が狭い
常磁性型スペクトル
 f=f+ - f励起状態
0
f+
f-
基底状態
磁化なし
磁化あり
誘
電
率
の
非
対
角
要
素
’xy
”xy
光子エネルギー