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日語文法研究
(大学院)
5月14日(木)~
担当 神作晋一
第9章 ヴォイス3――授受
ねらい:
 授受表現は、モノの授受だけでなく恩
恵の授受も表します。
 同じ事態を与え手の視点や受け手の
視点から表し分ける点でヴォイス(事
態の捉え方)と考えます。

第9章 ヴォイス3――授受


キーワード:
授受動詞、共感度、視点、恩恵の授受、
話し手の主観、アゲル、テアゲル、モラウ、
テモラウ、クレル、テクレル
第9章 ヴォイス3――授受

§1 モノの授受


§2 恩恵の授受


アゲル、クレル、モラウ
テアゲル、テクレル、テモラウ
§3 話し手の主観

テクレル、テアゲル
§1 モノの授受
アゲル、クレル、モラウ
§1 モノの授受
アゲル、クレル、モラウ

授受動詞 「あげる」「もらう」「くれる」

ヴォイスの一種


同じ事態をさまざまに表し分ける
待遇表現とのかかわり


「やる」(通常)「さしあげる」(謙譲語)
「いただく」(謙譲語)「くださる」(尊敬語)
§1 モノの授受
アゲル、クレル、モラウ

授受動詞の文の構造

「*友達が私を手伝ってあげました」
→友達が私を手伝ってくれました
 →私は友達に手伝ってもらいました


「*友達が私に本をもらいました」

→私は友達に本をあげました
§1 モノの授受
アゲル、クレル、モラウ



授受動詞の文の構造
「与える」の「アゲル・クレル」の構造
[A(=与え手)がB(=受け手)にCをアゲ
ル・クレル]
与え手はモノの移動の出発点
 受け手はモノの移動の到着点

§1 モノの授受
アゲル、クレル、モラウ
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
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

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
授受動詞の文の構造
(1)アゲル
私が田中に本をあげた。(私→第3者)
*田中が私に本をあげた。(第3者→私)
*田中が私の妹に本をあげた。(第3者→身内)
私の妹が田中に本をあげた。 (身内→第3者)
田中が山田に本をあげた。(第3者→第3者)
§1 モノの授受
アゲル、クレル、モラウ
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

授受動詞の文の構造
(2)クレル
アゲルと正反対
*私が田中に本をくれた。 (私→第3者)
田中が私に本をくれた。 (第3者→私)
田中が私の妹に本をくれた。 (第3者→身内)
*私の妹が田中に本をくれた。(身内→第3者)
*田中が山田に本をくれた。 (第3者→第3者)
§1 モノの授受
アゲル、クレル、モラウ
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

共感度の序列と視点
アゲル:与え手を表すガ格補語に視点
クレル:受け手を表すニ格補語寄りの視点


→動作主が主語だが、ニ格の要素で決まる
クレルの特殊性[心理的距離(=共感度)]
話し手
自身
(私)
話し手
の親族
や友人
第3者
無生物
§1 モノの授受
アゲル、クレル、モラウ
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

授受動詞の文の構造
「受け取る」の「モラウ」の構造
[A(=受け手)がB(=与え手)にCをモラウ]
[A(=受け手)がB(=モノの出所)からCをモラウ]
§1 モノの授受
アゲル、クレル、モラウ
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





授受動詞の文の構造
(3)モラウ
話し手の視点がガ格補語
1私が田中に本をもらった。 (私←第3者)
2*田中が私に本をもらった。 (第3者←私)
3私の妹が山田に本をもらった。(身内←第3者)
4*山田が私の妹に本をもらった。 (第3者←身内)
5山田が田中に本をもらった。 (第3者←第3者)
§1 モノの授受
アゲル、クレル、モラウ
語順
アゲル クレル モラウ
矢印はモノ
の移動
語順
私→第3者
○
×
×
2第3者←私
第3者→私
×
○
○
1私←第3者
第3者→身内
×
○
○
3身内←第3者
身内→第3者
○
×
×
4第3者←身内
第3者→第3者
○
×
○
5第3者←第3者
§1 モノの授受
アゲル、クレル、モラウ
表1 授受動詞と視点
ガ格主語
ニ格補語
共感度⇒視点
アゲル
与え手
受け手
与え手>受け手
クレル
与え手
受け手
受け手>与え手
モラウ
受け手
与え手
受け手>与え手
アゲルとモラウは能動文と直接受身文の関係に近い。
「*あげられる」
クレルの特殊性





部長が社長にプレゼントを差し上げなさい
ました。
部長が社長にプレゼントをお送りなさった。
謙譲語
尊敬語
二方面の敬語
§2 恩恵の授受
テアゲル、テクレル、テモラウ
§2 恩恵の授受
テアゲル、テクレル、テモラウ

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



恩恵の授受 テアゲル テクレル テモラウ
(4) 視点の制約
友達が私に中国語を教え{てくれた/*てあげた}。
私が友達に日本語を教えて{*てくれた/てあげた}。
私が友達に手伝ってもらった/*友達が私に手伝って
もらった。
→授受の対象が、受け手にとってありがたいもの・
利益・恩恵だと捉えたもの
§2 恩恵の授受
テアゲル、テクレル、テモラウ
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
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

恩恵の授受 受け手の格表示
(5) ニ か ノタメニ か
太郎は次郎に本を読んであげた。
太郎は次郎に手紙を書いてあげた。
太郎は次郎に昔話をしてあげた。
太郎は次郎{*に/のために}買い物に行ってあげた。
太郎は次郎{*に/のために}部屋を掃除してあげた。
§2 恩恵の授受
テアゲル、テクレル、テモラウ



恩恵の授受 受け手の格表示
(5) ニをとる場合 到達点・目的がにの場合
太郎は次郎に本を読んであげた。


太郎は次郎に手紙を書いてあげた。


「~が~に本を読む」 読んで(音読)聞かせる
「~が~に手紙を書く」
太郎は次郎に昔話をしてあげた。

「~が~に昔話をする」
§2 恩恵の授受
テアゲル、テクレル、テモラウ





恩恵の授受 受け手の格表示
(5) 到達点・目標がニ格でない
太郎は次郎{*に/のために}買い物に行ってあ
げた。→「買い物に行く」(買い物をする)
太郎は次郎{*に/のために}部屋を掃除してあ
げた。 →「部屋を掃除する」
クレルの場合も同じ

受け手が話し手自身であることが明確なら「私
ニ/私ノタメニ」は言わない。
§2 恩恵の授受
テアゲル、テクレル、テモラウ

恩恵の授受 受け手の格表示

クレルの場合も同じ





受け手が話し手自身であることが明確なら「私ニ
/私ノタメニ」は言わない。
(6)太郎が(私に)本を読んでくれた/
太郎が妹に本を読んでくれた。
(7)太郎が(私のために)買い物に行ってくれた/
姉のために太郎が買い物に行ってくれた
§2 恩恵の授受
テアゲル、テクレル、テモラウ
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
モラウ(受ける)の二通りの解釈
例:奨学金の推薦状 田中さんが書く
(8)田中さんが推薦状を書いてくれた。


自主的な行為への恩恵の念 てくださった
(9)田中さんに推薦状を書いてもらった。


(田中さんに)依頼した行為への恩恵の念
ていただいた
§2 恩恵の授受
テアゲル、テクレル、テモラウ
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テモラウ 使役に共通する働き
(10)パソコンを壊したのは君だから弁償して
もらうよ。 →「弁償させる」
(11)時間に遅れた理由をみんなの前で説明
してもらった。 →「説明させる」
(12)仕事の失敗の責任をとってもらいたい。
→「とらせる」
→(使役者と)行為者との間の緊迫感を和らげ
る(緩衝)(恩恵性の効果)
§3 話し手の主観
テクレル、テアゲル
§3 話し手の主観
テクレル、テアゲル
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行為の実際的なやり取り?
(13)うちはひとりっ子だけど、近所に同い年の
子供がいてくれて、一緒に遊んでくれるので助
かります。
(14)あ、いいところに来てくれた。運ぶの手
伝って…。
(15)日照続きだったけど、やっと雨が降ってく
れた。
§3 話し手の主観
テクレル、テアゲル

テクレル:出来事の当事者ではなくても好ましいとき

※話し手とは無関係の出来事

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

(13)「近所に同い年の子供が住んでいること」「一緒
に遊ぶこと」
(14)「誰かが来たこと」
(15)「雨が降ったこと」
→話し手の利益として恩恵と解釈
話し手の主観
§3 話し手の主観
テクレル、テアゲル


「みじん切りのたまねぎは弱火でゆっくり炒めて
あげてください」
「洗顔後、この乳液をお顔全体にのばしてあげ
てください」
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

「たまねぎ」「顔」を大事に、丁寧に
「料理を食べる人」、「(その人の)顔」が間接的な恩
恵の享受者
話し手の思いやり