Ⅱ.腎移植の概要 腎不全治療の比較(血液透析・腹膜透析・腎移植) 血液透析 腎機能 必要な手術 通院回数 治療による自覚症状 免疫抑制剤 食事・水分制限 旅行・出張 出 産 スポーツ 入浴 社会復帰率 その他の利点 腹膜透析(CAPD) 腎臓移植 正常に近いレベル (60~70%程度) 腎機能廃絶 シャント手術 (局所麻酔) 腹膜カテーテル挿入手術 (主として局所麻酔) 腎臓移植手術 (全身麻酔) 3回/週 1回/月 1回/1~2月 穿刺による痛み、 除水による血圧低下 お腹が張る 爽快感など症状の改善 不要 不要 不可欠 多い やや多い (蛋白・水・塩分・リンなど) 少ない 制限あり (透析液・装置の準備運搬) 自由 困難 腎機能により可能 ほぼ自由 腹圧がかからないように注意が必要 移植後以外ほぼ自由 透析後はシャワーが望ましい カテーテルの保護が必要 問題なし 中程度 やや高い 高い 医学的ケアが常に提供される、 日本で最も確立した治療方法 血液透析に比べ自由度が高い 透析による束縛からの開放感 (蛋白・水・塩分・カリウム・リンなど) 制限あり(通院透析施設の確保) 困難 太田和夫 監修:「目で見てわかる末期腎不全の治療法」(一部改変) Ⅱ.腎移植の概要 腎移植の種類 生体腎移植(健康な生体からの提供)と献腎移植(死体からの死後、善意による提供)の2種類がある。 血縁者間腎移植 生体腎移植 親子、兄弟、祖父母などからの提供 非血縁者間腎移植 配偶者などの提供 腎移植 脳死腎移植 献腎移植 臓器提供の意思確認後に脳死と判定されたド ナーから摘出された腎臓を移植 心臓死腎移植 心臓が停止した死後に摘出された腎臓を移植 Ⅱ.腎移植の概要 生体腎移植と献腎移植の特徴 長 生体腎移植 所 短 所 ・ 計画的な手術が行えるため、生体腎ドナー と生体腎レシピエントがともに最善な状態で移 植が可能 ・ 健康人(生体腎ドナー)を傷つける ・透析離脱 ・ 精神的なストレスが大きい ・ 血液型不適合や前感作症例等、前処置が 必要な患者の場合でも可能 献腎移植 ・ 健康人を傷つけない ・ 献腎ドナーがきわめて少ない ・ 移植後しばらく透析継続のケースが多い Ⅱ.腎移植の概要 腎移植手術までの流れ 生体腎移植の場合 透析治療 ※ドナーの状況によっては、透析導入前の移植も可能です。 組織適合検査 医学的適応検査 生体腎移植 医学的適応検査 登録・待機 透析治療 継続 献腎移植の場合 透析治療 献腎移植 一般的な移植手術後の流れ(期間は目安です) 移植後3~4ヶ月まで 約2~4週間 手術 免疫抑制療法開始 感染症予防 ※ 免疫抑制療法、感染症予防は、 退院後も継続されます。 退院 初期維持期 週1~2回受診 4ヶ月以降 維持期 月1~2回受診 太田和夫 監修:「目で見てわかる末期腎不全の治療法」(一部改変) Ⅱ.腎移植の概要 臓器移植までの流れ 脳死者からの臓器提供の標準的なフローチャート 救急医療の現場 NW本部 移植施設 その施設における適切な治療 臨床的脳死の判断(診断) NWCo.の説明希望確認 脳死判定医 の選定(2名) 法的脳死判定 (1回目) 法的脳死判定 (2回目) 連絡 NW本部 NWCo.の来院 NWCo.派遣 家族説明と意思確認・承諾書作成 レシピエント選定 連絡 法的脳死判定 法的脳死判定終了/死亡時刻確定 NW本部 移植施設への連絡 検視/死亡診断書の作成 手術室の確保と ドナー管理 摘出チーム到着 臓器摘出開始 摘出チームの決定・派遣 臓器搬送 摘出終了お見送り 移植 臓器提供施設マニュアル(平成11年度厚生科学研究) 「脳死体からの多臓器の摘出に関する研究」報告書より抜粋 一部改変 Ⅱ.腎移植の概要 脳死と植物状態 全脳死 脳幹を含む全脳髄の不可逆的な 機能消失(回復不可能) 機能残存部分 機能喪失部分 植物状態 脳幹機能が残っていて自発呼吸も 可能(回復することもある) 竹内一夫 著 「脳死とは何か~基本的な理解を深めるために~」 Ⅱ.腎移植の概要 脳死と心停止 脳損傷の進行と脳蘇生の限界の時間的関係 発症 回復の可能性あり 昏睡 脳 損 傷 の 程 度 呼吸停止 脳幹反射消失 平坦脳波 脳血流停止 脳蘇生の限界点の確認 Point of no return 脳 死 6時間 第1回 脳死判定 第2回 脳死判定 心停止 時間 島崎修次 著 「救急医学から見た脳死」 Ⅱ.腎移植の概要 レシピエント選択基準(腎臓) 適合条件 腎臓 ABO式血液型の一致 リンパ球クロスマッチ(全リンパ球、またはTリンパ球) 陰性 優先順位 以下4項目を点数化し、合計点数が多い順 提供施設と移植登録施設の所在地 HLA抗原のミスマッチ数 待機日数 小児待機患者 (16歳未満加点) Ⅱ.腎移植の概要 レシピエント優先順位の点数 1.搬送時間 同一都道府県内 同一ブロック内 2.HLA型の適合度 12点 6点 DRミスマッチ数 0 0 0 0 0 1 1 1 1 1 2 2 2 2 2 AおよびBミスマッチ数 0 1 2 3 4 0 1 2 3 4 0 1 2 3 4 9 8 7 6 5 4 3 2 1 0 点数 3.待機日数(N) 14 13 12 11 10 > 11年 ≦ 11年 4.小児待機患者 年齢≧16 <16 N/365 10+log1.74 (N/365-9) 0点 14点 Ⅱ.腎移植の概要 提供可能な臓器および組織 脳死下 心臓 肺 肝臓 小腸 心停止下 腎臓 眼球 膵臓* 皮膚 耳小骨 気管 心臓弁 血管 骨 臓器 組織 ◆脳死下での臓器提供 : 本人の書面による生前の意思表示と家族の承諾が必要 ◆心停止下での臓器提供 : 腎臓と眼球は、家族の書面による承諾で提供可能 (旧法「角膜及び腎臓の移植に関する法律」からの経過措置) *膵臓は、心停止後であっても本人の書面での意思表示が必要 ◆組織については、家族の承諾のみで提供可能(臓器移植法範疇外) Ⅱ.腎移植の概要 生体腎移植 ドナーの適応条件 (倫理的条件) 親族に限定する。 親族とは6親等以内の血族、配偶者、3親等以内の姻族を指すものとする。 ※ 姻族 : 配偶者の血族や血族の配偶者など 3 2 祖父母 1 親 3 おじ・おば 4 2 いとこ 配偶者 1 2 兄弟・姉妹 3 親 2 兄弟・姉妹 本人 配偶者 甥・姪 4 日本移植学会(平成15年10月27日改定)倫理指針より 1 子供 2 孫 3 1 血縁者の親等 1 非血縁者の親等 Ⅱ.腎移植の概要 生体腎移植 ドナーの適応条件 (医学的条件①) 医学的な条件については、特に定められた基準があるわけではなく、あくまで医師による医学的な判断基準です。したがって移植施 設によって若干異なることがある。 ①心身ともに健康であること ②血液型 ・血液型は適合している方が望ましいが、不適合でも移植を受ける患者の血液中の抗体が少ない 場合は移植は可能です。 ・不適合の場合は、抗体を除去するために、移植前に移植を受ける患者さんに血漿交換を行い、 抗体を下げて移植を行います。 ・しかし血液型不適合の場合でも、提供者が何らかの特別な処置を受けるわけではありません。 ③組織適合性抗原(HLA抗原) ・HLA抗原の適合は必須の条件ではありません。 ・HLA抗原を検査して、双方の適合性を確認しますが、免疫抑制剤が進歩した現在では、HLA抗原 が適合していなくても提供は可能です。 ④リンパ球交差試験(クロスマッチ) ・提供者のリンパ球(とくにTリンパ球)に対する抗体が、移植を受ける患者さんの血液中にないこと を確認します。 ・この検査が陽性だと、拒絶反応を起こす可能性が高く、移植はできません。 寺岡 慧 他:「いのちの贈り物---あなたの善意をいかすために---」 Ⅱ.腎移植の概要 生体腎移植 ドナーの適応条件 (医学的条件②) 医学的な条件については、特に定められた基準があるわけではなく、あくまで医師による医学的な判断基準です。したがって移植施 設によって若干異なることがある。 ⑤感染症がないこと ⑥癌などの悪性腫瘍がないこと ⑦年齢 ・年齢の上限については特に規定はありませんが、通常は70歳未満とされています。 ・しかし十分な検査で、健康で手術が可能であると確認されている場合は、75歳ぐらいまでは提供 は可能とする施設もあります。 ⑧腎機能が良好で移植に適さない腎疾患がないこと ・一般的にはクレアチニン・クリアランスが70ml/分以上で、尿蛋白や血尿がないことが条件とされ ています。 ⑨心疾患、糖尿病、高血圧、肝疾患 ・これらの疾患がある場合は、その治療が優先され、慎重に検討されます。 ⑩提供のための腎摘出手術 ・安全に行えることを確認することが必要です。 寺岡 慧 他:「いのちの贈り物---あなたの善意をいかすために---」 Ⅱ.腎移植の概要 生体腎移植 ドナーのリスク ①手術に伴うリスク 手術による死亡リスクは0に近いが、感染・ヘルニアなどは数%の可能性がある。 腎摘出手術による死亡率は米国の古いデータでは0.03%(3,333人に1人)とされています。 現在の医学の進歩のもとではこのようなリスクは限りなく0に近い(しかし、0とは言い切れな い)と言えます。命に関わらない合併症としては、数%に傷の感染や出血・ヘルニアなどが みられるとされます。 ②腎摘出に伴う腎機能低下などのリスク 透析にいたるようなリスクは殆ど無い(0.5%未満)が、高血圧や蛋白尿は数%ある。 腎摘出後の腎機能は提供前のおよそ70~75%程度となりますが、その後はほとんど変化 しないとされ、それ自体で透析や移植が必要な腎不全になることは稀です。しかし、もともと の腎機能が低いと、そのリスクが高くなりますので、術前に腎機能が良好であることが必要 です。欧米のデータでは10年以上の後に透析にいたるような腎不全の率は約0.5%未満と されます。また、高血圧や蛋白尿などの出現は数%に見られるとされています。 日本腎臓学会、日本透析医学会、日本移植学会 ;「腎不全の治療選択」 Ⅱ.腎移植の概要 ABO型生体腎ドナーとレシピエントの適合性検査 ①血液型、②HLA、③リンパ球クロスマッチテスト(交差試験)の適合検査を行う。 血液型 薬剤投与や処置により移 植が可能 移植可能 リンパ球クロスマッチテスト (交差試験) HLA 白血球の表面にある膜抗原で、 これによって自己と非自己を認 識することができる。class Ⅰ(A、 ドナーリンパ球(T・B)に対する抗 B各2つ)とclass Ⅱ(DR2つ)があ 体の有無を調べる検査 り、それぞれの適合性を検査 T細胞抗体陰性 (補体による細胞障害性試験と FCM法を使用した検査法がある) 一致・不一致 条件によっ て移植可能 不適合 ・移植時の脾臓摘出、抗血液型 抗体の除去⇒血漿交換や DFPP⇒強力な代謝拮抗剤とス テロイド剤の投与などの術前処 置により、抗体価低下すれば可 能 移植不可能 現在では殆ど無し 免疫抑制剤投与により、不一致 の場合でも特に問題はない 陽性(血清法、AHG-LCT法) 寺岡 慧 他:「いのちの贈り物---あなたの善意をいかすために---」 Ⅱ.腎移植の概要 腎移植における血液型の組み合わせ 患者(レシピエント)の血液型 提供者(ドナー) の血液型 適合 不適合 一致 不一致 A A AB B、O B B AB A、O O O A、B、AB - AB AB - A、B、O 寺岡 慧 他:「いのちの贈り物---あなたの善意をいかすために---」 Ⅱ.腎移植の概要 腎臓摘出術(ドナーの手術) 直視下腎臓摘出手術 鏡視下腎臓摘出手術 青線:切開部(手術創) 手術時間:通常4時間程度。 輸血:通常必要ない。 手術方法 直視下:従来から行われている手術法。後腹腔を開く。 鏡視下:後腹膜と腹腔からのアプローチがある。 基本的には、両方とも1cm程度の小さな切開をおいて内視鏡と手術器具を挿入して行う。 寺岡 慧 他:「いのちの贈り物---あなたの善意をいかすために---」 Ⅱ.腎移植の概要 腎移植手術:レシピエントに移植する場所 腎臓は本来、腰のあたりにありますが、腎移植の際には、おなかの右下の皮膚をおよそ15cm切開し、骨盤の中(腸骨窩)に移植し ます。 下大静脈 腹部大動脈 腎静脈 移植腎 腎動脈 尿管 膀胱 下腹部を20~25cm切開する おなかの中には「腹膜」という膜があり、腹腔を形成していますが、移植後の腹膜炎や腸閉塞等の合併症を予防 するため腹膜を傷つけないように腹腔の外(後腹膜)にスペースをつくり、そこに腎臓をおさめます。 腎臓には「動脈」「静脈」「尿管」の3本の管があり、それぞれを「内あるいは外腸骨動脈」「外腸骨静脈」「膀胱」に つなぎます。 通常、手術時間は約4時間。 寺岡 慧 他:「いのちの贈り物---あなたの善意をいかすために---」
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