社会経営講座 社会経営と評価論 ー評価概論とその課題ー 城山佳胤/Yoshitsugu Shiroyama 豊島区行政経営課長・法政大学大学院政策評価研究所 (日本行政学会・日本自治学会) 2015/10/1 Social and Public Management 1 行政評価とは何か 行政が行う管理ツールとしての評価をいう 何のための評価か⇒政策見直し =サービス、資源管理を含めた問題解決 機能の見直しにほかならない 目的・手段の関係について、量的・質的な 判断⇒要・不要、他に採りうる手段の可能 性を検討し⇒その合理性を判断する 2015/10/1 Social and Public Management 2 なぜ評価が必要か その1 説明責任(Accountability)=予算責任 ⇒主権者たる区民の信託に対する責任 ①政策の内容・執行方法をオープンに すること(透明性) ②行政活動の目的・目標・内容を説明 すること 指標(ものさしindicator)が必要 2015/10/1 Social and Public Management 3 なぜ評価が必要か その2 財政危機 ストックサイクルの時代(①少子高齢化、②施 設更新需要、③公債費、④団塊の世代)を迎え、 税収減とセットで財政危機に直面している 無駄・非効率の排除 管理経費の節減+政策的経費の節減が必要 高齢化のピークを迎える2025以降に備え、持 続可能な社会を作っておくためには、政策手段を 見直すことが、限られた資源の有効配分を行う 外に方法がない。⇒絶えざる見直しが必要 2015/10/1 Social and Public Management 4 なぜ評価が活用されない? 管理のツールとしてその活用結果がみえ にくい。 はたしてそれだけが原因か 制度の設 計の問題 2015/10/1 作成担 当者の 問題 評価を使 う人の 問題 国民性・ 組織風土 の問題 複合的な問題(相互に関連性がある) Social and Public Management 5 (原因1)制度設計上の問題 経営管理システムが旧態依然 ①評価をしても自ら計画・実行に反映でき る権限をもたない ②右肩上がりの予算配分(あるいは増分主 義)の仕組みが定着している ③見直しによる政策機能を高め成果をあ げても褒美(インセンティブ・誘引)がない 2015/10/1 Social and Public Management 6 (原因2)評価者の問題 必要性、妥当性、代替性⇒本当はわかっ ている サービスの中身に個人的な利害感情をも つと⇒見直し判断は困難(バイアス) 導入当時は、財政査定に評価を使われる ことに抵抗 セクト主義・変な競争意 識・横並び主義 現状肯定主義・区民不在⇒モラル・ハザード 2015/10/1 Social and Public Management 7 (原因3)評価を使う人の問題 誰が使うのか 本来は所管(係・課・部) しかし、PDCAの サイクルは部課長の瞬時の判断で終了? 議会・関係団体・区民 評価を使った議論、要望、パブリック・コメン トをあまり見ない 政策議論がない。利害関係者との 関係重視⇒客観より主観への傾斜傾向 2015/10/1 Social and Public Management 8 (原因4)国民性・組織風土の問題 明治以来の行政官僚組織のあり方(ドイツ 風と英国風の違いも遠因か)? 右肩あがりに慣れ、将来世代への責任を 自覚しない戦略(ハコモノ・もの獲り合戦) 誰も責任をとらない社会に対する不信の 「自治の推進に関 する基本条例」に 増大(ニート問題・少子化も関係?) 期待 市民がステーク・ホルダー(株主)として政府 のあり方に参画・関与する仕組み・風土がない 2015/10/1 Social and Public Management 9 どうすれば活用されるか 職場で議論が行われること(参加型の組織運営)が必要。 トップ(区長)⇔管理職・監督職⇔係員 ⇒トップマネジメントと現場を繋ぐミドル層の調整機能が 管理システムとして機能しなければならない。 分権型(分散化)経営管理システムを導入すること⇒権 限委譲型+政策体系別の組織にすれば、評価が自律的 経営に貢献する。 ※最終的な資源割当権限はトップに留保されていること に注意。 ミドル層の経営感 脱セクト主義の政策型職員を育成する 覚を磨くこと 2015/10/1 Social and Public Management 10 評価で使うキーワード 政策とは――市民社会の公共的問題を解 決すること、政府の将来にわたる活動の目 標を示し、その目標を達成するための手段 を示したもの、条例や計画などの形をとる。 (武藤教授の定義:17行政評価研修) 評価とは――ものの価値を判断すること。 政策評価とは――政策がその策定時に設 定した問題を解決したか(価値があった か)どうかを判断すること。 2015/10/1 Social and Public Management 11 キーワードを覚える アウトプット(output) 個別の具体的なサービス、産出物、直接的 な行政活動の結果 アウトカム(outcome) 区民生活・社会経済に及ぼす影響、効果 (政策効果) 2015/10/1 Social and Public Management 12 評価するための条件 ①目標と活動 ②そのデータ 行政の担当者で なくてはわからない ③それらの分析・価値判断 区民も評価が可能 2015/10/1 Social and Public Management 13 必要性の評価 必要性は、そのサービスを、現在も提供し なければならないサービスか? ①セットアップ(スタート)時に必要と判断され ても、時代、社会情勢の変化とともに、そ の果たす役割は人々に支持されているか ②事務事業による政策効果がより上位の政 策目的に適合しているか。 2015/10/1 Social and Public Management 14 23区指標について 最低1区と比較 2~3区実施 16年度から導入(23区全部は難しい) 隣接区との比較はかならず行う。 ⇒文京、北、板橋、練馬、中野、新宿の 少なくとも1区以上 同様な事業の有無、有る場合のサービス 水準・実施方法(単位あたりコスト)等の比 較を行う。 2015/10/1 Social and Public Management 15 効率性(経済性)の評価 サービスそのものは必要であるとして その実施(提供)方法は妥当かどうか。 ⇒他の主体がなしえないか(そもそも行政 の役割かどうかとも関連する) ⇒より費用のかからない代替策はないか どうか(単位費用を抑制するための効率的 執行方法はないか)・・・民営化の手法、事 務執行体制の見直しについても検討。 2015/10/1 Social and Public Management 16 評価の何が問題か(本質を考える) 活用されないという現実を直視すべき(市民は見ない、見てもわかか らない。他の部局の職員がみてもわからない。) 誰のための評価かという評価の目的が明確でなく、一律雑多に行わ れる。 →評価の単位(予算科目にある事務事業をベースに基本計画の体 系に無理やりはめ込んでいるため、補助金事業、内部管理事務、公 共事業など関連するものがぶら下がる →事業の所管として予算はあるが、その見直しには他の部局との調 整もしくはトップ層の政治的判断を待たなければ解決しない。 →政策の目的と手段の関係が精査されないままただデータの更新 が行われる。 行政活動における「成果」を図ることの困難性 2015/10/1 Social and Public Management 17 Accountability(説明責任) 「説明さえすればよい」という安易なモラルハ ザードの蔓延 合法性、合規制、コンプライアンス、透明性、効 率性、有効性、公平性、節約のどれを優先する かの評価の目的が散漫で機能しない 相反する要請(目標の達成・有効性を求める声と 縮小・節約を求める声の板ばさみ) →アカウンタビリティのディレンマ (行政責任のディレンマ) 2015/10/1 Social and Public Management 18 Accountabilityとは 行為の権限について何がしかの委任がなされて いる場合において、委任を受けた個人あるいは 機関がその行為の遂行に関して答えなければな らない関係(元来は会計責任→結果説明責任→ 最近は制度説明責任の意味でも使われる) 法律、上司の命令、および効率性と経済性の基 準を忠実に遵守すること(responsibilityの必要 要素) 客観的証拠によって釈明しうるもの 2015/10/1 Social and Public Management 19 協働と説明責任 (Accountability)の低下 多様な主体間の相互関係(構造と作用)が 社会集団の統治システムにおいて機能す るかたち(=ガバナンス) 豊かな社会→良いガバナンス 結果志向、成果重視の説明責任へ パートナーシップ→共同責任であるが→職 務範囲・権限責任を明確化しにくい(協働 の精神に馴染みにくい)→NPMと矛盾 2015/10/1 Social and Public Management 20 基本計画(総合計画)との関係 Plan-Do-Check-Actionの循環により評価 が計画に反映されないのはなぜか 政策企画立案が優先(トップダウンが多い 場合も)→評価の従属性→正当化する機 能 もともと「お題目としての基本計画」 →評価の自立を保ちつつ政策循環と「半ク ラッチ状態」で繋がることが難しい 2015/10/1 Social and Public Management 21 統治政策への評価 (Constitutional Accountability) ガバナンス→マクロレベルの評価がまず 必要 ①自治体の役割、②事業仕分け、③国・県 などの補助金の効果などの評価 官と民、パブリックセクターとプライベートセ クターとの制度設計に対する説明責任 2015/10/1 Social and Public Management 22 総括 「評価のための評価」で終わりがち 身びいきの自己評価は合成の誤謬を生む。その ため評価者の自立性、当事者意識は重要 事業や施策の「成果」をどう測るかの指標(管理 可能な範囲)がないところが悩み(致命的?) 評価は目的、用途に応じた戦略的な評価とする ことが重要(ガバナンス、マネジメントのレベル 別) 基本計画を所与のものとせず、状況適応型の評 価制度を目指す(そのための人材開発が不可欠 →シンクタンク構想に繋がる) 評価と予算編成のリンクには分散化のシステム 2015/10/1 Social and Public Management 23 と政策体系別事業部組織の編成が不可欠
© Copyright 2024 ExpyDoc