NEA-GaAsフォトカソードの劣化機構

2011/1/12
第8回高輝度・高周波電子銃研究会
NEA-GaAsフォトカソードの
劣化機構
広島大学大学院 先端物質科学研究科
飯島北斗、栗木雅夫、久保大輔(M2)
増元勇騎(M1)、細田誠一(D4)
概要
NEA-GaAsフォトカソードは低エミッタンスで偏極した電子を発生できること
から、ERL次世代放射光源の様な大型加速器のみならず電子顕微鏡などの
電子源としても研究開発が進められている。一方、その寿命は他の電子源と
比べて短く、これを改善することが大きな課題である。広島大学ではNEAGaAsフォトカソードの長寿命化を目指して研究を行っている。
本日の話の内容
• 残留ガス吸着によるNEA劣化
• QMS-TPDによる表面の吸着物の測定
• まとめ
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NEA-GaAsフォトカソード
•
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•
•
•
NEAとは半導体表面の真空準位が伝導帯の準位よりも低い状態。
CsとOを蒸着することでNEA表面を形成。
GaAsのバンドギャップに合わせた光で電子を放出させれば余計なエネルギーをもた
ずに引き出せるので低エミッタンスが実現できる。
金属カソードに比べて量子効率が高い。
円偏光したレーザーを用いることで偏極電子を取り出すことが可能。
カソードの量子効率は時間とともに、
またビームを引出すことで低下
NEA状態が劣化
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バンドギャップ
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NEA状態劣化のメカニズム
Adsorption
Ion back-bombardment
• 残留ガスの表面への吸着
• イオンバックボンバードメント
真空度に依存
• Cs/Oの熱脱離
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Thermal desorption
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大電流引出し時に顕著
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H2Oの分圧依存性
 p   p p 
0

n
n = 1.01
D. Durek, et al., “Degradation of a gallium-arsenide photoemitting NEA surface by water vapour”,
Appl. Surf. Sci., 143 (1999) 319-322. より抜粋
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CO2, CO分圧依存性
CO2による劣化は起きるが、
COによる劣化はほとんどない。
T. Wada, et al., “Influence of Exposure to CO, CO2 and H2O on the Stability of GaAs Photocathode”,
Jpn. Jour. App. Phys., 29 (1990) 2087-2091. より抜粋
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光陰極試験装置(0号機)
 ロードロックの機構は持たないので、加熱洗浄、NEA表面の作成、寿命の計測は
すべて同じチェンバー内で行っている。
 ガス分析を行えるようQMSを設置。
ベース真空度
5×10-9 Pa
He-Ne (633nm)
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測定装置内残留ガスの成分
H2
残留ガスの主成分は、H2、H2O、CO、CO2
O、F、ClはQMSのフィラメントから発生
O
H2O
CO
F
C
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CO2
Cl
Ar
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Dark lifetimeの真空度依存
真空度依存
 p   p p 

0

n
p0; 係数
p; 真空度
 各真空度における分圧比はほぼ
同じ。
 暗寿命の全圧に対する依存性は
fittingによって n=2 に近い次数が得
られた。
 10-10Pa台の真空度を達成できれ
ば、数千時間の寿命が可能。
実際、何が表面に吸着しているのか?
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昇温脱離法
• 昇温脱離法(Temperature Programmed
Desorption; TPD)
– 試料を高真空下で加熱し、表面に吸着している物質の状態
を調べる方法。
– Thermal Desorption Spectroscopy (TDS)ともいう。
– 四重極質量分析計(Quadrupole Mass Spectrometer; QMA)
と組合わせることで個々の物質の状態が解る(TPD- Mass
Spectroscopy; TPD-MS)。
カソード表面の吸着物を詳細に調べる
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脱離の速度
• 表面に吸着した物質の脱離速度はPolanyi-Wignerの式に従う。
d
v(t )  
 n e
dt
E
 a
n
RT
v(t) ; 脱離速度 Ea ; 活性化エネルギー
R ; 気体定数
 ; 被覆率
T ; 絶対温度
n ; 頻度因子
n ; 反応次数
• 一定の速度で温度をさせた場合。
T  T0  t
dT

dt
d
1
  n n e
dT

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
Ea
RT
 ; 昇温速度
d
(QMSのsignal)  
dT
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反応次数
0次 (物理吸着)
表面被覆率が十分に
高 く ( θ>1 ) 、 脱離 の 頻
度が被覆率に依存しな
い。
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1次 (化学吸着)
θ<1、脱離の頻度が被
覆率に依存する。表面
に吸着しているものが
そのまま脱離。
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2次 (化学吸着)
θ<1、脱離の頻度が被
覆率に依存する。
例) 2OH→H2O+O
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反応次数とTPD曲線の関係
吸着物がなくなると
QMSからのsignalが0
になる。
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反応速度が最も早く
なる温度(Tp )の前後
で非対称な曲線が得
られる
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Tp の前後で対称な曲
線が得られる
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各パラメータとTPD曲線の関係
図はいずれもn=1の例。n=0, 2でも同じ傾向となる。
活性化エネルギー
頻度因子
昇温速度
活性化エネルギーが
高いとTp は高温側に
シフトする。
頻度因子が小 さ い と
Tpは高温側にシフトす
る。
昇温速度が速いTp は
高温側にシフトする。
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表面被覆率とTPD曲線の関係
0次反応
Tp でのシグナル強度
が大きくなるとともに
Tpが高温側にシフトす
る。
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1次反応
2次反応
全体のシグナル強度
は大きくなるが、Tp の
位置は変化しない。
全体のシグナル強度
が大きくなり、Tp は低
温側にシフトする。
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Temperature Programmed Desorption(全圧)
 N.I.G.による全圧測定。
 清浄表面からのピークは観測されない
(青線)。
 清浄表面を10日放置してもピークは観測
されない(緑線)。
 NEA活性化を行うとピークが観測される
(橙線)。
昇温速度 20 K/min
 それぞれのピークは時間の経過とともに
増大する(赤線)。
NEAを行うとTPDピークが現れる→
残留ガスはGaAsではなく
Cs/Oに吸着している
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Temperature Programmed Desorption(分圧)
全圧
H2
CO
CO2
H2O
 NEA表面から脱離してくるガ
ス種をQMSで計測(40日間の寿
命測定後の試料)。
 CO2、CO、H2の脱離ピークが
観測される。
 H2O、O2のピークは観測され
ない。
O2
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NEA表面へ吸着過程の考察
 試験装置内の残留ガスにはH2、H2O、CO、CO2が存在する。また、表面
活性化時にはO2を用いている。
 H2O、CO2の分圧が高いと寿命が短くなることが報告されている。また、
H2Oの寿命依存性の次数は1次である。
 全圧の寿命依存性の次数は2次であった。
 QMSによるTPD曲線からCO、CO2の脱離は観測されたが、H2O、O2の
ピークは観測されない。
吸着過程の可能性
さらに、、、
Cs2O + H2O → 2CsOH
2CsOH + CO2 → Cs2CO3 + H2O
Cs2O2 、 CsO2 や Cs11O3 で は 左
の様な反応が起きないならば、
結果NEA表面の状態を限定で
きるかもしれない?
Cs2O2; 過酸化セシウム
CsO2; 超酸化セシウム
Cs11O3; クラスター
Cs2O; 酸化セシウム
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M/Z = 44 (CO2)曲線比較
 活性化40日後と1日後の違い
はCO2被覆率の違いによる。
NEA活性化40日後
 TPD曲線はどちらもTpに対して
対称。 → 2次反応
 Tpの位置はどちらも150℃。
→ 1次反応
 結果が矛盾する!!
S/Nが悪い
温度の分解能が悪い
NEA活性化1日後
TPD曲線の形状を悪くしている?
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QMS設置場所変更後、M/Z=44
QMS設置位置を移動
測定間隔を調整
 これまでは見えていなかったが、
80℃、380℃付近にピークが存在
する。
 170℃付近のピークには高温側
にもう一つのピークが存在している。
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まとめ
• NEA-GaAsはフォトカソードとして有用であるが、長寿命化は重要な課題であ
る。
• 量子効率劣化の原因の一つは残留ガスの吸着によるもので、H2O、CO2な
どが量子効率を劣化させることが報告されていた。
• 表面活性化後、寿命測定を行ったGaAsに対してQMSを用いたTPDにより、
表面に吸着している物質を観測した。
• TPDのピークは表面活性化によって現れることから、残留ガスは主にCs/Oに
吸着していると考えられる。
• 表面から脱離してくる成分はH2、CO、CO2が支配的であり、H2Oのピークは
計測されなかった。
• TPD曲線の分解能を上げるため、QMS位置の変更と測定間隔の調整を行っ
た。これにより今までは見えていなかったピークが測定されるようになった。
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カソード試験のサイクル
加熱洗浄(550℃、1時間)
表面活性化(Yo-Yo法)
寿命測定(真空度依存、温度依存、、、)
加熱洗浄(表面に吸着したガス分析)
• GaAs基板:住友電工社製 GaAs(100), Zn=5×1019/cm3。
• 2008/11/26に化学洗浄、チェンバーにインストール。
• 2010/9まで、62回の過熱洗浄、NEA表面作成、計測を繰り返した。
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Yo-Yo法によるNEA表面作成
活性化時のQEの変化
QEの履歴
O2 Cs
O2 Cs
Cs O2 Cs
O2Cs
9.8±1.1 %
• CsとO2を交互に蒸着。
• 通常、5回目の酸素蒸着で活性化を終了。
• He-Neレーザー(波長633nm)に対し、10%程度の量子効率を得られる。
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寿命曲線(典型例)
Dark lifetime
(ビームを引出していない時の寿命)
T = 23.4 ± 0.5 [℃]
P = 5.8 ± 0.1 [×10-9 Pa]
Q.E.の劣化が始まってから寿命を算出
Beam lifetime
(ビームを引出した時の寿命)
T = 22.8 ± 0.2 [℃]
P = 7.0 ± 1.5 [×10-9 Pa]
温度、真空度を
温度、真空度を
変えて寿命を測定
変えて寿命を測定
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