学部:天体輻射論I 大学院:恒星物理学特論IV 講義の狙い=天体輻射の基礎的な知識を、 (1) 天文学の学習を始めた学部3年生 と、 (2) 学部時代に天文学の講義を取らなかった大学院生 に与える。 天体輻射に関する知識は(ほとんど)ゼロと想定しているので、どんな質問でも歓 迎します。 毎授業毎に出す問題に対し、次の授業にレポートを出すと単位が取得できます。 講義のファイルは http://www.ioa.s.u-tokyo.ac.jp/kisohp/STAFF/nakada/intro-j.html に置いてあります。 質問は [email protected] へ。 第1課: 輻射強度 Intensity 1.1.フラックス(Flux)と輻射強度(Intensity) 位置=x、法線ベクトル=kの微小面dS=kdSを考える。 dΩ´=k´dΩ´=k´方向の微小立体角 n(x、k´)=位置x、進行方向k´の光子の個数密度 dΩ=k´dΩ (k・k´)=cosθ である。 k k′ θ dS=kdS dSを通る光のエネルギー dFを計算してみよう。 n(x、k´) 時間dt内にdSを通るdΩ´方向の光子数dNは、 dSのk´方向射影=dS・k´= (k・k´) dS=cosθdS なので、 dN= c n(k´)cosθdΩ´dS dt (c=光速) θ k´ dS k cosθdS ε(ν)=hν=光子のエネルギーを用 いると、 時間dt内にdSを通るdΩ´方向の 光子のエネルギーdEは、 dΩ´=k´dΩ´ dE= εdN = cεn(k´)cosθdΩ´dS dt 単位時間にdSを通る光子エネルギー dFは、dF=∫(dE/dt)dΩ′ dF(k)=∫cεn(k´)cos θdSdΩ´ =dS∫ cεn(k´)(k・k´) dΩ´ = ∫ cεn(k´) ( dS・ dΩ´ ) dS=kdS θ IntensityとFlux I(k´)=cεn(k´) I(k´) dΩ′ =輻射強度 (Intensity) F F=∫I(k´)dΩ´ 積分 =輻射流束(Flux) 前ページの式は、I とFを使う と dF(k) = ∫I(k´) dS・ dΩ´ = dS・F =dS F(k) F(k) F F k dS 射影 改めて、輻射強度(Intensity) k方向微小面dSを通り、同じくk方向の微小立 体角dΩ方向に向かう、光子のエネルギーは単 位時間当たり、 I(k)dSdΩ である。 dΩ I(k) =cεn(k)は、k方向の一立体角当たり、単 位時間に流れるエネルギー流量である。 dS 改めて、フラックス dSを通る光子のエネルギーは、 単位時間当り I(k´) dS=kdS F(k)dS=dS∫I(k´)cosθdΩ´ θ である。 F(k)は、 k方向の面に対するフラックス と呼ばれる。 フラックス(輻射流束)ベクト ルFのk成分とみなせる。 dΩ´=k´dΩ´ 1.2. Intensityの表示 光子の振動数(ν)分布、または波長(λ)分布を考える時は、 I=∫I(ν)dν =∫I(λ )dλ となる I(ν)や I(λ)を使う。 Intensity I(ν) の単位 dE=I(ν) dSdΩdtdν dE=エネルギー=J(ジュール) dS=面積=m2 Ω dΩ=立体角=無次元 dν=周波数=Hz=s-1 dt=時間=s 従って、J=I(ν) m2 ss-1 I(ν)=J/m2 /s/s-1=W/m2 /Hz=J/m2 dS dΩ I(λ) : Intensity の別な表現 dE=I(λ)dSdΩdtdλなので、前と同様に単位を揃えると、 J=I(λ)m2 s m となり、 I(λ)=J/m2 /s /m=W/m3 I(ν)から I(λ)への変換? dI=I(ν)dν = I(λ)dλ νλ=c なので、 dν/ν=ーdλ/λ dI=I(ν)ν(dν/ν) = I(λ)λ(dλ/λ) と書き直すと、 I(ν)ν = I(λ)λ である。 νI(ν)= λI(λ) dI=I(ν)dν=I(λ)dλ =[νI(ν)](dν/ν) = [λI(λ)] (dλ/λ) 3 ln10λI(λ) 2 2 I(λ) 1 1 0 0 0 1 2 λ 3 -1 0 0.3 logλ 1 1.3. 輻射強度Ⅰ不変の法則 吸収や散乱の無い時、輻射強度Ⅰは距離によって変化しない。 Ⅰ = Ⅰ´ dS´から輻射強度Ⅰ´、立体角dΩ´で放射した光がR離れ たdSを輻射強度Ⅰ´、立体角dΩで通過する。 dE =Ⅰ´dS´dΩ´=ⅠdSdΩ dS=R2dΩ´ dS´=R2dΩ Ⅰ´R2dΩdΩ´=ⅠR2dΩ´dΩ よって、Ⅰ=Ⅰ´ R dS´ Ⅰ´ dΩ´ Ⅰ dΩ dS もう少し詳しく光線の広がり具合を観察すると、 S S1 =X12Ω S2 =X22Ω Ω Ω1=S/X12 Ω2 =S/X22 輻射強度一定の法則とLiouvilleの定理 SをΩで出た光子の集団の運動を、位置(X、S)と運動量(P,Ω)の位相空間 の中で考える。 実空間(S)で広がる。 ⇔ 運動量空間(Ω)で絞られる。(SΩ=一定) 位相密度 f(x,p) は経路に沿って不変(Liouvilleの定理) S S1 S0 X1 Ω0 Ω Ω1 X Intensityと位相数密度 I(k,ν)=cεn(k、ν) 速度がk方向立体角dΩ内、振動数 νがdν内にある光子の位相数密度は、 Pz dPz dPx Py dn=n(k、ν)dΩdν 光子の運動量p分布関数 f(p)が直交座標系px、 py、pzで表示されている場合、hν=cp=εから、 Px p2 dΩ dn=f(p)dpxdpydpz P = f(p)p2dΩdp= f(p)(hν/c)2 (h/c)dΩdν 上の式と見比べて、 n(k、ν)= f(p)(h/c)3ν2 I(k,ν)=cεn(k、ν)= f(p)(h4ν3/c2 ) dPy dS 1.4. 輻射強度 I の簡単な例 (A) 等方的に光る壁(n=壁の法線ベクトル) I(x,k)=Io (k・n>0) 表面輝度(Surface Brightness) =0 (k・n<0) k y x I(y,k)=I(x,k)=Io (kが壁をヒットする時) =0 (kが壁をヒットしない時) y 点yから見た壁 z 点zから見た壁 小さくなるが、壁の色、明るさは変わらない 壁表面でのフラックス F F =∫Io cosθdΩ =∫Io cosθ2πsinθdθ =2πIo ∫cosθsinθdθ =πIo 黒体輻射を等方に出す壁からのフラックス Fo=πB(T)=σT4 (B) 等方的に光る球面 I(R、θ)=Io (|θ|<90°) R I(D、θ)=Io ( sin θ< R/D ) θ =0 (otherwise) D F(D)=∫ I(D、θ)cosθdΩ =2πIo ∫cosθsinθdθ = 2πIo[sin2θ/2] =πIo(R/D )2 球状天体のフラックスと輻射強度 半径Rの球表面でIntensityが等方的、 I(θ)=A θ I(θ) とする。 球表面でのフラックスFoは? Fo=∫I(Ω)cosθdΩ = ∫∫A cosθdφsinθdθ =2πA∫0π/2cosθsinθdθ = 2πA∫01μdμ 2R =πA 球面全体からは、 L=4πR2Fo=4π2R 2A 距離DにおけるフラックスF(D)と輻射強度I(D,θ) D θ´ 等方的輻射強度Aの半径Rの 球中心から、D離れた点での I(D,θ)とF(D)を求めよう θo θ I(D,θ) R I(D,θ)=I(R,θ′)=A なので、 F(D)=∫I(D,θ)cosθdΩ=2πA∫μo1μdμ=πA(1-μo2)= πA(R/D)2 =L/4πD2 X Y I(X,θ) F(D) I(Y,θ) A A 0 θo π/2 0 θo θ R X D π/2 θ Y (C) 体積輻射率ε 微小体積dVからの輻射率がεdVのとき、εを体積輻射率と呼ぶ。光度(エネルギ ー総放出率)Lの星が数密度nで分布している時、ε=Lnである。 dSから視線方向Xの地点での、体積輻射率をε(X)とする。dSから見て、dΩに 含まれる体積dV=dsdX=X2dΩdX内の ds=X2dΩ dS dΩ dω X dX 各点からdSを見込む角はdω=dS/X2である。したがって、dVからdSを通ってdΩ に放出されるエネルギー率は、dIdSdΩ=εdVdω/4π=εX2dΩdXdS/ 4πX2=(ε/4π )dXdSdΩ。 コラム密度と輻射強度 このように、微小長さdXからI(X)への貢献は、dI= (ε/4π)dX である。 光度Lの星が数密度n(X)で分布している。 ε(X)=Ln(X) コラム密度 N= ∫n(X)dX とすると、I(X)=∫dI= (L/4π)N となるので、 上の二つの場合のように、密度分布が異なっていてもNが等しいと、I も等し い。このように、I は N と直接つながっている。 銀河の表面輝度 例 XY方向には無限に広がり、Z方向に厚みD=100pcの平らな銀河を考える。 星の数密度は n=2x102/pc3、星の光度は太陽と同じで L=Lo とする。 この星団を表面からの高さ、Hから観測したときの Intensity Io(θ)を 求めよう。θは真下方向からの角度である。 I(θ) H 100pc θ 前々ページでやったように、I(θ)=(Lo/4π)N(θ) ここに、 N(θ)=n・D/cosθ 従って、I(θ)= (Lo/4π)n・D/cosθ=(104 /4π)(1 /cosθ)(Lo/pc2) 5 Ⅰ (103Lo/pc2) I(θ)にH(面までの距離)が 入っていないことに注意せ よ。 4 3 2 1 0 0 30 60 θ(°) 90 (D) 望遠鏡のF比 直径D、焦点距離 f の収差なし単レンズ L を考える。焦点位置Fには天体A の像Bができている。Fに置いた画像検出器(写真乾板、CCD)が受ける輻射量 を考える。 f 表面輝度 I の天体A D L B=天体Aの像 F Aからの光はB上で円錐状に焦点を結ぶ。円錐の頂角を2θo とすると tanθo≒ θo =D/2f 、円錐の張る立体角Ωo=πθo2=(π/4)(D/f)2である。 Bでの輻射強度 I´(θ) = I ( θ<θo) = 0 (θo<θ)でI´(θ)=0である。 Bでのフラックス T=∫I´(θ) cosθdΩ = (π/4)I(D/f)2 つまり、広がった天体画像の表面の明るさはF比= f/D で決まる。口径が大きくて も F比(通常Fと書く)が大きいと画像は暗くなる。 問題1: 出題平成16年10月4日 提出10月18日 A,Bどちらかの問いに答えよ。 天文専攻の学生は、なるべくならBを選択せよ。 A.太陽光度(L=Lo)の星からなるリング状銀河がある。リングの形状は、 厚み W=1kpc、 外半径 R1=10kpc、 内半径 R2=8Kpc であ る。リング内の恒星密度分布は一様で、n=100星/pc3である。この銀河 を1 Mpc離れて真横から観測したときの輝度分布 I(W/m2)を、中心から縁方 向 への角度θの関数として表わせ。 さらに結果を図示せよ。 グラフの縦軸は log I (W/m2) 横軸はθ(′) を使用すること。 θ B.太陽光度(L=Lo)の星からなる、半径R=10pcの球対称な星団がある。この 星団を距離D=10kpc離れた点から観測し、下のような輝度分布 I(θ) を得た。 I=Io[1-(θ/θ o)2] ここに、 Io=3.36 10-8 W/m2 は中心方向の表面輝度、 θ o=3.44′は星団の中心から縁までの角度である。 星団内部の恒星密度分布 n(r)を中心からの距離 r も関数として表わせ。 次に、その結果を縦軸 n(個/pc3)、横軸 r(pc)のグラフとして図示せよ。 点光源では? 点光源からの輻射強度の定義にはこれまでの方法が通用しない。 点光源に対しては、通常、フラックスのみ使用する。
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