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学部
:天体輻射論I
大学院:恒星物理学特論IV
講義の狙い=
天体輻射の基礎的な知識を、
(1) 天文学の学習を始めた学部3年生
と、
(2) 学部時代に天文学の講義を取らなかった大学院生
に与える。
単位取得の条件は、授業の最後に出す問題に対し、最低5レポートを提出。
成績は「レポート+出欠」でつけます。
各課のキーワードを以下に列挙します。これらの言葉が分かる人は
授業を聞く必要はありません。
第1課: 輻射強度
第2課 等級
第3課 カラー
第4課 輻射の方程式I
第5課: 準位
第6課: 平衡
第7課: 吸収係数
第8課: 輻射の方程式II
第9課: 恒星スペクトル
第10課:星雲
第11課:ダストの光学
第12課:星間減光
フラックス (Flux)
距離指標 (distance modulus)
輻射補正 (bolometric correction)
源泉関数 (source function)
共鳴線
(resonance line)
サハの式 (Saha equation)
f-値
(f-value)
ロスランド平均 (Rossland mean)
エディントン近似 (Eddington approximation)
ストロームグレン半径 (Stromgren sphere)
ミー吸収
(Mie absorption)
2200A バンプ (2200A bump)
第1課: 輻射強度
2005年10月17日
1.1.フラックス(Flux)と輻射強度(Intensity)
最初に定義を少し。(見にくいけれど太字はベクトル)
dΩ(k)
n(x、Ω)=位置x、進行方向Ωの光子の個数密度
n(x)=∫n(x、Ω)dΩ=光子の個数密度
dΩ=kdΩ=Ω方向の微小立体角
(kはΩ方向の単位ベクトル)
S=S k=法線ベクトルkの微小面
k
k=Sの法線ベクトル(長さ1)
S=Sk
k´=kと角度θをなす単位ベクトル
(k・k´)=cosθ
θ
k´
S
k
単位時間にSを通る光子の数 Nを計算してみよう。
Sを通る光子(Ω´方向)は法線k(Ω方向)に対し
色々な角度(θ)を持つ。
dΩ´=k´dΩ´=Ω´方向の微小立体角
Ω´方向の光がSを通過するときは、Sを斜めに見る
ので、その有効面積は
θ
k
k´
S・cosθ= (k・k´) S=(S・k´)
S
cosθS
dΩ´方向の光子密度は n(k´)dΩ´
で、それが光速 c でSを通り抜ける。
dΩ´=k´dΩ ´
結局、Sを通り抜けるdΩ´方向の光子の数dN´は、
dN´=光子密度×立体角×有効面積×光速
= c n(Ω´)cosθdΩ´S
= c n(Ω´)(k・k´)dΩ´S
= c n(Ω´)(S・dΩ´)
N=∫dN´=∫ c n(Ω´)(S・dΩ´)
k′
k
θ
dS=kdS
(個/時間)
n(x、k´)
次に、単位時間にSを通る光のエネルギー Eを計算してみよう。
光子の一つ一つがエネルギー ε(ν)=hνを運ぶから、
Sを通り、dΩ´方向に流れるエネルギーdE´は、
k
dE´=εdN´
= ε c n(Ω´)(S・dΩ´)
したがって、
E=∫dE´=∫cεn(Ω´)(S・dΩ´)
dS=kdS
I(Ω)=cεn(Ω) =輻射強度(Intensity)
F=∫I(Ω)dΩ
=輻射流束(Flux)ベクトル と定義すると、
E=∫( Ω´ )I(Ω´)(S・dΩ´)=S・ ∫( Ω´ )I(Ω´)dΩ´=(S・F)
*: Sを単位面積にしたときの E=(k・F)もフラックスという。
*: 上で定義した I を言い換えると、
I = 単位時間・単位面積・ Ω方向単位立体角あたりに通過するエネルギー
輻射強度(Intensity)
dΩ
k方向微小面dSを通り、同じくk方向の微小立
体角dΩ方向に向かう、光子のエネルギーは単
位時間当たり、
I(k)dSdΩ
である。
I(k) =cεn(k)は、k方向の立体角当たり、単
位時間に流れるエネルギー流量である。
dS
I(k´)
フラックス F(k)
dΩ´=k´dΩ´
dSを通る光子のエネルギーは、単位時間当り
θ
F(k)dS=dS∫I(k´)cosθdΩ´
である。
k方向の面を通るフラックスF(k)はフラックス(
輻射流束)ベクトルFのk方向成分である。
dS=kdS
Intensity と Flux はよく混同される
Intensity=光線方向に垂直な単位面積を通り、その方向に単位立体角、単位時間
あたりに通過するエネルギー
=角度、エネルギー流表示での光子の数密度関数
=面輝度
dΩ′
I(k´)
F
Flux= エネルギー流ベクトル
積分
さらにフラックスには
F(k)
(1)ベクトルのエネルギー流 F
(2)単位面積を通過する
エネルギー (F・k)=F(k)
の2つの意味がある。
F
F
k
dS
射影
天体観測の場では、
点光源(例:星)
フラックス
面光源(例:星雲)
インテンシティー
と使い分けられることが多い。
点光源
インテンシティー
I(R,Ω)=(L/4πR2)・δ(Ω-Ωo)
k(Ωo)
R
フラックス
F(R)=(L/4πR2)・∫δ(Ω-Ωo)dΩ
=(L/4πR2)k
面光源
インテンシティー
I(R,Ω)=Io
(Ωが下の青い四角内)
=0
(Ωが下の青い四角外)
R
フラックス
F(R)=Io・∫(青いΩ)dΩ
光源が平らでもイ
ンテンシティ分布
は球面状である。
=Io・ ∫(青いΩ)cosθdΩ ・k(Ωo)
面光源ではインテンシティとフラックスを混同するおそれは少ない。
I(k´)
k
k´
I(k)
スリット位置でのインテンシティは、スリットから スリット位置でのフラックスは、スリットを通
球面を見たときの球面上の各点での輝きであ 過する球面上の各点での輝きからのエネ
る。
ルギーの総和である。
1.2. 輻射強度Ⅰ不変の法則
吸収や散乱の無い時、輻射強度Ⅰは距離によって変化しない。
dS´から輻射強度Ⅰ´、立体角dΩ´で放射した光がR離れ
たdSを輻射強度Ⅰ´、立体角dΩで通過する。
dE =Ⅰ´dS´dΩ´=ⅠdSdΩ
dS=R2dΩ´
dS´=R2dΩ
Ⅰ´R2dΩdΩ´=ⅠR2dΩ´dΩ
dS´
よって、Ⅰ=Ⅰ´
Ⅰ´
R
dΩ´
Ⅰ
dS
dΩ
もう少し詳しく光線の広がり具合を観察すると、
SをΩで出た光子の集団の運動を、位置(X、S)と
運動量(P,Ω)の位相空間の中で考える。
実空間(S)で広がる。 ⇔ 運動量空間(Ω)で絞られる。(SΩ=一定)
S
S1
S0
X1
Ω0
Ω
Ω1
位相密度 f(x,p) は経路に沿って不変(Liouvilleの定理)
X
1.3. 体積輻射率ε
インテンシティ I のソースはどこか?
1) 壁
I2=I1
I1
2) 途中からの輻射の集積
I2
I2 =∫dI
途中からの輻射の寄与をもう少し丁寧に考える。
4πεdV=体積dVからの輻射エネルギー発生率
(ε=体積輻射係数)
dΩ
ds=X2dΩ
dS
dX
dω
X
dSから視線方向Xの地点での、体積輻射係数をεとする。dSから見て、dΩに含ま
れる体積dV=dsdX=X2dΩdX内の各点からdSを見込む角は dω=dS/X2
したがって、dVからdSを通ってdΩに放出されるエネルギー率は、
(4πεdV)(dω/4π)=(4πεX2dΩdX)(dS/ 4πX2)=εdXdSdΩ。
この式を見ると、dX部分からのIへの寄与 dI=εdX であることが分かる。
したがって、2)の場合は
I=∫dI=∫εdx
コラム密度と輻射強度
このように、微小長さdXからI(X)への貢献は、dI= εdX である。
例:恒星
光度(エネルギー総放出率)Lの星が数密度nで分布している。
体積dV内の星の総数=ndVだから、 4πεdV=LndV
ε=Ln/4π
光度Lの星が数密度n(X)で分布(N=∫n(X)dX)しているとする。
数
密
度
高
低
低
高
Nが共通だが、n(X)が異なると、
写真に撮った星の明るさ分布はま
るで違う。写真上の数密度も異な
る。
しかし、I(X)=∫dI= (L/4π)N となるので、上の二つの場合のように、密度
分布が異なっていてもNが等しいと、I も等しい。写真上では測定した星の総
フラックスが等しいという結果で現れる。
1.4. 輻射強度 I の簡単な例
(A) 等方的に光る壁(n=壁の法線ベクトル)
壁の表面XでのIntensity
I(x,k)=Io (k・n>0) 表面輝度(Surface Brightness)
=0 (k・n<0)
X
k
Y
壁の前面、一定距離の点YでのIntensity
I(y,k)=I(x,k)=Io (kが壁をヒットする時)
=0
(kが壁をヒットしない時)
壁から離れた点 y、 z での輻射強度は?
y
点yから見た壁
z
点zから見た壁
黄色い部分は小さく見
えるが、そこの色、明る
さは変わらない
壁表面でのフラックス F
(1) F =∫I cosθdΩ
=∫∫I(θ、φ)cosθsinθdθdφ
(2) I(θ、φ)が壁の法線に関して軸対称 (φによらない) と、
F=2π∫I (θ)cosθsinθdθ
(3) I(θ、φ)が一定 (等方) I=Io な場合、
F=2πIo∫0π/2cosθsinθdθ
=2πIo∫01μdμ
=πI0
Fを求める際の∫dΩは壁前面なので2πに渡る。しかし、Fの計算には
Iにcosθの重みがかかる(F=∫IcosθdΩ)ので、<cosθ>=0.5のためF=
2πIoでなく、F=πIoになるのである。
(B) 等方的に光る球面
表面で等方的に光る (I=A) 球面を考える。
球からの距離が変わっても、球の表面方向のインテンシティはI=Aで不変
である。しかし、球を見込む立体角は距離によって変化する。
X
Y
I(X,θ)
F(D)
I(Y,θ)
A
A
0
θo
π/2
0 θo
θ
R
X
D
π/2
θ
Y
等方的に光る球面によるフラックスFを、距離D離れた点で求めてみよう。
下の計算から分かるように、F=πIo(R/D)2はR/D<<1といった近似とは関係な
く成立する。
I(R、θ)=Io
(|θ|<90°)
R
I(D、θ)=Io ( sin θ< R/D )
θ
=0 (otherwise)
D
F(D)=∫ I(D、θ)cosθdΩ
=2πIo ∫cosθsinθdθ
= 2πIo[sin2θ/2]
=πIo(R/D )2
(C) 銀河の表面輝度
光度(エネルギー総放出率)Lの星が数密度nで分布している時、
ε=Lnである。
例
XY方向には無限に広がり、Z方向に厚みD=100pcの平らな銀河を考える。
星の数密度は n=2x102/pc3、星の光度は太陽と同じで L=Lo とする。
この星団を表面からの高さ、Hから観測したときの Intensity Io(θ)を
求めよう。θは真下方向からの角度である。
I(θ)
H
100pc
θ
前々ページでやったように、I(θ)=(Lo/4π)N(θ)
ここに、 N(θ)=n・D/cosθ
従って、I(θ)= (Lo/4π)n・D/cosθ=(104 /4π)(1 /cosθ)(Lo/pc2)
5
Ⅰ
(103Lo/pc2)
I(θ)にH(面までの距離)が
入っていないことに注意せ
よ。
4
3
2
1
0
0
30
60
θ(°)
90
(D) ガス雲の表面輝度
同じガス雲を異なる距離
で観測する。対応する点
でのガスのコラム密度
N=∫ndxは距離によらな
い。
したがって、観測マップは見かけの
大きさがかわるだけで、表面輝度分
布は同じマップとなる。
(E) 望遠鏡のF比
直径D、焦点距離 f の収差なし単レンズ L を考える。焦点位置Fには天体A
の像Bができている。Fに置いた画像検出器(写真乾板、CCD)が受ける輻射量
を考える。
f
D
B
L
A
Aからの光はB上で円錐状に焦点を結ぶ。円錐の頂角を2θo とすると tanθo≒ θo
=D/2f 、円錐の張る立体角Ωo=πθo2=(π/4)(D/f)2である。
Bでの輻射強度 I´(θ) = I
( θ<θo)
= 0 (θo<θ)でI´(θ)=0である。
Bでのフラックス T=∫I´(θ) cosθdΩ
= (π/4)I(D/f)2
つまり、広がった天体画像の表面の明るさはF比= f/D で決まる。口径が大きくて
も F比(通常Fと書く)が大きいと画像は暗くなる。
(F) 体積輻射係数εの筒
L
I=∫dI=∫εdx=εL
この式は、L∞ の時に I∞ となる。
これは正しいだろうか?
A. 銀河バルジ、楕円銀河、球状星団等の恒星密度分布はしばしば
n(r)=no(ro/r)αと表される。このような星団の表面輝度分布は
I(d)=Io((ro/d)α-1と表されることを示し、Ioを求めよ。
n(r)=noexp[-(r/ro)2] の場合はどうか?
B.太陽光度(L=Lo)の星からなる、半径R=10pcの球対称な星団がある。この
星団を距離D=10kpc離れた点から観測し、下のような輝度分布 I(θ) を得た。
I=Io[1-(θ/θ o)2]
ここに、Io=3.36 10-8 W/m2、 θ o=3.44′、Lo=3.85×1026 W
星団内部の恒星密度分布 n(r)を中心からの距離 r の関数として表わせ。
次に、その結果を縦軸 n(個/pc3)、横軸 r(pc)のグラフとして図示せよ。
C. 太陽の表面輝度の分布は近似的に、B(φ)=Bo・[1-0.1×(φ/φo)2] と
表せる。これから、太陽の表面上の1点における輻射強度分布 I(θ)を求めよ。
φo=地球から見た太陽中心から縁までの角度。
φ=地球から見た太陽中心から太陽面上の1点までの角度。
θ=天頂角