津波襲来時の住民避難を誘発する 社会対応の検討 -2010年チリ地震津波の避難実態から- 災害情報 No.9 2011 P103~112ページ 金井昌信・片田敏孝 紹介者:芹澤沙季 はじめに 平成22年2月27日南米チリ沖で巨大地震が発生 平成22年2月28日9:33、その津波の襲来に備え、 太平洋沿岸の49の津波予報区に対して、 、 が発表された。 津波警報で予想された高さ以上の津波の襲来はなく、犠牲者はでな かった 総務省消防庁が実施したアンケート調査結果によると… 「避難した」の割合は37.5% 過去に把握された津波避難率と比較すると高い避難率と なっているが、それでも40%に満たない。 はじめに 2006年11月、2007年1月に発生し 千島列島の地震 片田・村澤(2009)によると 遠地地震では大きな揺れを感じることができないため、 高度な災害情報理解 自分の命を守ることに津波情報を活用できるよう「情 報リテラシー」の向上を図る しかし、今回発表された津波情報においても、その避 難率が低調であった避難実態を考えると、 新たな視点の対策 研究目的 本研究では、2010年チリ地震津波襲 来時の避難実態を詳細に把握することから、 遠地地震だけでなく、今後その発生が危惧 されている近地津波対策も考慮して、住民 の津波避難率を高めるための方策について 考察する。 調査概要 インターネット調査 郵便調査 実施日:平成22年3月8日~10日 実施日:平成22年3月19日~24 対象:全国を11区分に分け、 各地区から200人ずつ計2 200人のモニター 対象:岩手県釜石市(2334世帯) 三重県尾鷹市(1580世帯 「津波警報が発表され、かつ津波到達予想 時刻が15:30以前と発表された市町村 に居住しており、自宅が避難勧告または避 難指示の対象となった」 特徴 ◆若年齢層からの回答を多く得られ る ◆津波防災への興味・関心について 津波防災について先進的な取 り組みをしている 特徴 ◆津波防災に対する認知率が高い 津波避難を阻害する要因の整理 ◆正しく伝わらない避難情報 インターネット調査回答者の居 住地に発表された避難情報の種 類 避難勧告 53. 8% 避難指示 16. 7% 1.6% 勧告or指示 未発表 27. 「避難勧告」、「避難指示」が発表された 9% ことを 津波避難を阻害する要因の整理 ◆正しく伝わらない避難情報 避難指示が発表され た 避難勧告と一部の地域 に避難指示が発表され た 自宅に発表された、避難情報を正しく認識 していなかった住民が多く存在していた 両市とも15%前後の回答者は自宅が避難 の対象であったのかどうかを把握していな い 津波避難を阻害する要因の整理 ◆津波の特徴に対する不理解が招く危険な避難行動 予想津波高さ 25. 4% 津波からの被害を逃れるための行動を とった住民の割合は指定避難場所に避 難した住民よりも、多く存在してい インターネット調査回答者の居住者に発表された津波情報・避難情報別当日の行動分類構 る!! 成比 津波避難を阻害する要因の整理 ◆津波の特徴に対する不理解が招く危険な避難行動 予想津波高さ 3.0m 2.0m 津波防災の取り組みをしてきた地域の住民の方が、 同一条件下にある他地域の住民よりも高い避難率で あった 郵送調査回答者の自宅に発表されたと認識している避難情報種類別当日の行動分類構成 比 津波避難を阻害する要因の整理 ◆津波の特徴に対する不理解が招く危険な避難行動 1.津波到達予想時刻を目安に避難を開始した住民が多い 2.避難率のピークをすぎると避難率が急激に低下 津波避難を阻害する要因の整理 ◆津波の特徴に対する不理解が招く危険な避難行動 1.津波到達予想時刻を目安に避難を開始した住民が多い 2.避難率のピークをすぎると避難率が急激に低下 津波避難を阻害する要因の整理 ◆津波の特徴に対する不理解が招く危険な避難行動 1.津波到達予想時刻を目安に避難を開始した住民が多い 避難者の多くは、津波警報とともに発表された津波到達 予想時刻通りに、津波が来るものと考え、避難行動の開 始タイミングを決定していた 2.避難率のピークをすぎると避難率が急激に低下 避難先から帰宅した理由として、「各地に到達した津波 の大きさからたいしたことはないだろうと思ったから」、 「自宅近くに到達した津波の第一波が小さかったから」 というものが多かった (津波の特徴について不理解) 津波避難を阻害する要因の整理 ◆津波避難を阻害する社会の雰囲気 毎回予想よりも小さい津 波しか襲来していないの で、今回も大したことに はならないだろうと思っ た はずれる可能性が高いの であれば今後は津波情報 の発表にもっと慎重にな るべきだと思う 津波情報が発表されている のに、東京マラソンが開催 されていたので、それほど 心配することもないんだな と思った 26% 68% 35% 46% オオカミ少年効果による避難率の低下 社会的対応による避難行動の阻害 今後の津波避難促進に向けて ◆津波警報がはずれたことを是とする態度の形成 津波警報 予想区域内の中で想定された最も高い津波の高さに基づいて発 表 多くの住民にとっては「予報ははずれた」と感じる!! 「オオカミ少年効果」が影響しやすい情報である はずれたことを是とする態度の形成を促すような情報提供が必要 →「津波警報が発表されたら、とにかく避難する」という行動の 今後の津波避難促進に向けて ◆「今が緊急事態である」という雰囲気をつくり だすこ とで避難行動を誘発 状況想定 被災状況提示 個々の住民へどのような情報を如何に伝えるのではなく、 「今が緊急事態である」という雰囲気をつくりだすマネジメ 仮想条件 ント策の検討 提示 大きな避難促進効果が期待できる まとめ (1)太平洋沿岸全域に津波警報が発表される程の緊急事態で あったにも関わらず、沿岸部に居住していながら、自宅に発表 された避難情報を把握していない住民は少なくない割合で存在 した (2)これまで様々な津波防災の取り組みをしてきた地域で あっても、津波の予想到達時刻後に急激に避難率が低下してお り、津波の特徴を踏まえた避難行動をとることができていな かった (3)太平洋沿岸全域に津波警報が発表されたにも関わらず、 半数以上が「今回もたいしたことない」と思った (4)東京マラソンの開催続行が、安心感を与えていた (5)今後は“はずれたことを是とする態度”の形成を促すことを 指摘した (6)「今が緊急事態である」という社会の雰囲気をつくりだ す社会対応の検討の必要性を指摘した
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