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Agent-based Simulation of
Consumer’s Market
慶應義塾大学大学院 政策・メディア研究科 修士2年
Novel Computing Project ・武藤研究室所属
島 広樹
発表の流れ
研究の背景
Agent-based Social Simulation (ABSS)
オブジェクト指向方法論
一般システム理論
Consumer’s Market
社会科学の方法論としてのABSS
おわりに
―研究のゴール
研究の背景
社会システムの複雑性
そして複雑化する社会
深刻化する社会問題
●先行事例
科学的研究の細分化
知の統合の必要性
World モデル
諸理論を立体的に組み立てることで
地球環境問題の深刻性を示した。
システムダイナミクス
諸領域の理論をマクロなレベルで統合する
ことで複雑な事象を説明しようとした.
■本研究のドメイン
Agent-based Social Simulation
ミクロなレベルの相互作用の複雑なプロセ
スからマクロな事象を説明しようとする。
―Agent-based Social Simulation
“Agent” という概念
Agentとは?
Agent
自律性: 内部構造に基づいて行動や状態を制御する.
社会性: 他のAgentや人間とコミュニケーションする.
反応性: 外部環境を認識し、外部環境に働きかける.
自発性: 受動的反応だけでなく、能動的動作を起こす.
(Computer Science における “Agent” の基本的特性)
― M. J. Wooldridge and N. Jenninsg, “Intelligent Agents”, Lecture Note in
Artificial Intelligence 890, Springer-Verlag, 1995
具体的には?
・Software Agent
・社会シミュレーションにおいて行動する各主体
―Agent-based Social Simulation
Agent-based Social Simulation
社会を構成する各主体の行動原則をプログラム
として表現したエージェントを多数用意し、そ
れらを相互作用させることによって社会的構造
を再現し、構造分析などに利用する手法
現実世界
プログラム
として表現
Agent
多数用意
抽出
人間の
行動原理
Simulation
Bottom Up
社会構造の分析
•社会理論の研究
•教育的利用
近未来のシナリオ導出
•政策提言
•ニュービジネスの提案
―Agent-based Social Simulation
Agent-based Social Simulation の
アドバンテージ
Advantage
・個性を計算要素として尊重することができる点
・創発的プロセスを取り扱うことができる点
・動的関係性を構築できる点
・モデルを手軽に交換することができる点
?
情報モデル X
Y
心理モデル B
A
C
―Agent-based Social Simulation
ABSSの領域にみる先行研究
(Agent-based Social Simulation)
Sugarscape

“砂糖”と“香辛料”の山を求めてさまよう人工生命の動態を追い、こ
れを解釈することで人間社会を理解しようとするアプローチ
― Joshua M. Epstein, Robert Axtell, “Growing Artificial Societies ―Social
Science from the Bottom Up”, The Brookings Institution, 1996
人工株式市場

過去の値動きのパターンを元に学習しながら取引を行うAgentによ
る人工株式市場において、現実との類似性を見いだすアプローチ
― W. B. Arthur, et al., "An Artificial Stock Market", Working Paper.
University of Wisconsin, Department of Economics. など
Swarm Project

人工社会シミュレーションを行うために開発されたソフトウェアパッ
ケージ。プログラムの素材集としての役割も果たそうとしている。
― Swarm Project official home page: http://www.santafe.edu/projects/swarm/
―Agent-based Social Simulation
Simulation という研究手法
Simulation = 実物ではできないことを代わり
のもので実行すること
Simulation の目的

現実世界の特定の現象を論理的・数学的に理解すること
―生命、社会、物理 など

現実世界の動きを予測し、対策を練ること
―天気予報、環境、経済 など


現実世界の何かについて、計画を立てたり、設計したり
―電子回路、原発、プラント、政策 など
すること
人間の行動を把握したり、人間を訓練したりすること
―フライトシミュレータ、経営ゲーム など
― オブジェクト指向方法論
オブジェクト指向方法論
オブジェクト指向プログラミングの考え方
 プログラムの中でひとまとまりのものとして捉えると便
利な機能や変数の群をモジュールとして区切り、プ
ログラム全体の挙動をこうしたモジュールの相互作
用によって導出しようというもの
― オブジェクト指向方法論
オブジェクト指向の基本概念
抽象化
継承
階層
カプセル化
インスタンス化
抽象化
カプセル化(ブラックボックス化)
インスタンス化
継承
階層
ある対象が、さらに小さな幾つかの対象
モデル化したい対象を煮詰め、本質的で
定義した構造をある種のパッケージにま
オブジェクト指向のプログラミングでは
ある対象の構造をそのまま受け継ぎ、そ
とめ、内部構造が見えないようにし、
から構成されている。
あると考えられる機能を抽出し、単純な
、まずクラスと呼ばれる設計図を記述し
れとの差を記述することによって、別の
ものとして一般化する。
存在を定義する。
用意したインタフェースを通じてのみや
なければならない。インスタンス化とは
り取りすることができるようにする。
この設計図から実体を生成すること。
全体
一般化
継承
ID = 01
継承
02
03 …
部品
特殊化
― オブジェクト指向方法論
オブジェクト指向のメリット

複雑性の管理が行いやすいという点
 あるサイズを超えるシステムは、複雑すぎて一人で全部把握すること
はできなくなると言われている。オブジェクト指向のカプセル化を上
手に利用すれば、複雑なシステムをうまく整理できるし、人間の思考
回路にもうまく納まる。

プログラムの再利用が行いやすいという点
 以前に構築したモデルや、他の人の構築したモデルを再利用すること
が比較的容易なのである。これは、そのまま利用することも、継承に
よって細部を修正して利用することも含んでいる。

開発速度が向上するという点
 極めて単純なシステムを構築する際にはこれは当てはまらないが、構
築するシステムがある程度複雑になってくるとオブジェクト指向を用
いた方が早いケースも多い。これは、上記二つの利点を関係している。
― システム論的世界観
システム論の基本的な考え方
システムの認識段階 認識プロセス







「観察者」の役割や目的
まず、ある「全体」を認識
それに「境界」を設定
「制御機構」を同定
「入力」と「出力」の定義
「組織性」を認識
「階層性」を認識
観察
境界
入出力
sys
sub
subsub
組織性
サブシステム
階層性
― システム論的世界観
創発性と分析的手法の限界
「創発」という概念

システムとは、小さな要素群が組織化された複雑性に発生するある
種の秩序である。そして、この秩序、即ちシステムは、小さな要素
群のレベルではその存在を想定することができないような、ある特
性をもつ。システム論の言葉では、この特性が発現する性質のこと
を創発と呼んでいる。
全体の理解
全体の理解
― 創発
system
sub-system
デカルト的分析手法
一般システム論的世界観
― 社会科学の方法論としてのABSS
「一般システム研究会」設立主旨
「一般システム研究会」設立主旨より
一般システム研究会は1954年に個々の伝統的な知識分
野を越えて応用しうる理論的体系の発展を促す目的
で設立された。主な役割は、
①いろいろな分野の概念、法則およびモデルの同型性
を研究し、各分野間の有益な転用をはかること
②理論的なモデルのかけている分野で適切な理論モデ
ルの発展を促すこと
③異なった分野での理論的な努力の重複を最小限にと
どめること
④専門家のコミュニケーションの改善を通じて科学の
統一化を促進すること。
― システム論的世界観
一般システム論の停滞
共有されるべき世界観を提示した時点で停滞


「要素が同等の他の要素群と相互作用し、その複雑なプロセスから創発
的に上位の秩序が生まれ、それもまた他の秩序と秩序群と相互作用する
一つの要素であり、これが階層的に発達している」という世界観
世界の表記方法を示したのはいいが、具体的な内容が伴わなかった。
停滞の原因




各分野のモデルを説明するのに、共有された一般的な言葉を用いると内容が
伴わず、専門用語を用いると統合が進まない 、というジレンマがある。
停滞の原因は、さまざまな分野の研究成果を共通の言語で記述し、「集
積」するための、そしてそれを活用するための技術に恵まれなかったこ
とに求められる。
「まだ「洞察、定理、恒真命題、あるいは単なる予感といったものの混
合物」に過ぎない 。」
一般システム理論の成果はまだ存在しない。一般システム論の世界観に
基づいて処理論の統合を実践するための道具がなかったのである。
― システム論的世界観
「一般システム論」と
「オブジェクト指向方法論」の親和性
①観察者の主観で秩序を同定し、モデルを定義する点
②記述される対象の境界が明確である点
③対象に何らかの入出力が存在する点
④対象はさらに小さな対象によって構成されるという階
層性が成立し得る点など
― 社会科学の方法論としてのABSS
社会科学の方法論としてのABSS
社会、人間もしくはそれに付随する存在のモデ
ルを、ある共有された人工言語によってオブ
ジェクトとして表現し、これを組織化すること
によってシステムを定義し、このシステムがコ
ンピュータ上で展開するプロセスを追うことに
よって、現実世界の現象を理解、説明、予測も
しくは制御するための科学を、オブジェクト指
向社会科学(Object-Oriented Social Science)
として定義する。
ABSSは、特にオブジェクトの自律性を重視したAgentを
用いたシミュレーションとして位置づけられる。
― 社会科学の方法論としてのABSS
ABSSがもたらすもの
従来の社会科学の方法論
ABSS が提供できるもの
社会理論を文章や数式として表現
文章や数式として伝達
伝達・共有の限界
モデルの適用
頭脳や紙上で計算
プログラムとして伝達
伝達・共有が高速かつ正確
コラボレーションの促進
コンピュータで計算
複雑な論理構造
高速な計算が可能
正確に計算
論理構造の限界
計算速度の限界
計算精度の限界
現実社会
― 社会科学の方法論としてのABSS
ABSSの限界
観測の限界
モデリングの限界
計算精度の限界
――細かさ
誤差の限界
――バタフライ効果
― Consumer’s Market
Consumer’s Market
Black Box Product
Agent の多様性
Agent の情報交換
― Consumer’s Market
Agent の構造
Decision
System
環境
Communication
Module
Information
List
環境
Action
(Sell, Buy…)
他者
― Consumer’s Market
Communication Module
― Consumer’s Market
限定合理性
World
fact
event
event
event
fact
event
考える
fact
知る
event
意思決定
Based On
行動
入手情報リスト
Information
fact
Information
Information
Change
情報の量
の限界
・・・
計算能力
の限界
情報の質
の限界
― Consumer’s Market
EBM Model
欲求
内的情報探索
環境の影響
情報探索
•文化
•社会階層
•対人的影響
•家族
•状況
露出
刺激
購入前
代案評価
注意
・マーケティ
ング活動
理解
記憶
環境の影響
購買
•消費者の資源
•動機づけと関与
•知識
•態度
•パーソナリティー、価
値とライフスタイル
受容
消費
保持
購入後
代案評価
外的情報探索
不満
満足
処分
(Engel, Blackwell & Miniard, 1995)
― Consumer’s Market
Agent の Decision System
欲求
情報探索
情報記憶
判断の
アルゴリズム
Communication
Module
他者
広告等
満足度予測
・Information Packet
購買
消費
学習機能
評価
処分
topic: Product
content: Estimation
― Consumer’s Market
実験
実験の要旨
 各エージェントがコミュニケーションを行う相手の数を調整し、それによっ
て市場の動きや個々のエージェントの振る舞いがどのように変わるのか
を見た。
F 0
(低)
F 5
コミュニケーションネットワークの密度(F)
F  10
(高)
― Consumer’s Market
実験結果(1)
F=0 の場合のシェア推移
―各商品のシェア推移
F=5 の場合のシェア推移
F=10 の場合のシェア推移
横軸
縦軸
時間( 0 <= t < 500 )
シェア(異なる色は異なる銘柄を指す)
― Consumer’s Market
実験結果(2)
F=0における各値の推移
―
上位1商品のシェア、上位5商品のシェア、
各主体の適応度、商品の体験率
F=5 における各値の推移
F=10 における各値の推移
最も売れてる商品のシェア(青色)
横軸
時間( 0 <= t < 500 )
縦軸
上位5商品のシェアの和(紫色)
Agentの適応度の平均値(黄緑色)
Agentの商品体験率の平均値(赤色)
― Consumer’s Market
実験結果の考察
実験より、説明できた現象



コミュニケーションがある一部商品のマーケットシェアの拡
大を促進する。
エージェントのコミュニケーション相手が多いほど、短期的
な噂が発生し、それが社会に大きな影響をもたらすことに
なる。
良い商品を求めるのに有益な、客観的な情報を入手する
ためには、多くの他者とのコミュニケーションが重要である。
― Consumer’s Market
Consumer’s Market の
Case Study から得られた、方法論的考察
意義

シミュレーションにおいて、各主体の個性、限定合理性の概念、主
体間の動的な相互作用など、他の手法では取り扱うことのできない
特性を取り扱うことができ、ABSSの可能性を検証することができた。
限界

プログラミングのプロセスから発生する、モデルの恣意性、強い主
観性が混入せざるを得ないという点で、科学的方法として物足りな
いという現状がある。シミュレーションの第二、第三、第四の目的を
達成するためには、さらなる工夫が必要である。
ABSSの次のステージ

モデルの共有と検証を社会的規模で展開することが、科学的方法
には不可欠である。そのためには、モデルの相互利用を図るため
のobjectの規格策定(標準化)や共有されるべきライブラリーの構
築と運用が極めて重要である。
― 社会科学の方法論としてのABSS
ABSSによるコラボレーション
ABSSを利用した研究コラボレーション
モデル設計
社会構造分析
心理学
研究者
設計
心理モデル
心理モデル
市場構造
研究者
設計
市場モデル
市場モデル
・
・
・
・
(各種モデルをプログラムとして記述)
Object
Library
シミュレー
ション
コミュニケー
ション
モデル
(モデルの選出)
社会構造
分析者
利用目的
・政策提言
・政策効果の予測
・社会構造の分析
・マーケティング戦略
提案する次世代型社会科学基盤の設計図
知の組織化
社会理論をプログラムとして表現
Case Study
Standardization
社会理論プログラムの
ライブラリーを構築
Verification
Theory Metabolism
社会理論における
知の組織化
Existent Theory
Social Data
社会科学研究者
Social Simulation
社会構造の論理的的解明
近未来のシナリオの導出
―おわりに
Future Work
オブジェクトの規格策定(標準化)
オブジェクトライブラリーの構築
社会的規模でのコラボレーションの活性化
現実世界からの観測データを活用
既存のモデルのオブジェクト化
リソースのパッケージ化
コラボレーション基盤としての拡充
現実世界への適用(→シミュレーションの目的)
―おわりに
まとめ
オブジェクト指向の方法論を次世代型社会科学の基盤と
して位置づけることを提案した。
オブジェクト指向社会科学を、一般システム論の世界観
に基づく分析を実践する手段として、科学的方法論の中
で位置づけた。
Consumer’s Market のシミュレーションを通じ、これを具
体的な形で実践し、その可能性と限界を示した。
今後の展開において、社会的コラボレーションの基盤を
確立し、知の組織化を計ることの重要性を確認した。
修士2年間での研究成果
島 広樹, 「新しい時代の情報技術 ―ANSS構想― (Agent Network
Simulation System)」, 富士総合研究所創立10周年記念懸賞論文(優秀賞
受賞作品), 1998
島 広樹, 井庭 崇, 小澤太郎, 武藤佳恭,「情報流通ダイナミズムのエージェ
ントネットワーク型シミュレーション」, 日本シミュレーション&ゲーミング学会
第10回全国大会, 1998
島 広樹, 武藤 佳恭, 「情報流通ダイナミズムのマルチエージェント型シミュ
レーション-人工社会モデルに対するコミュニケーションモジュールの適用
-」, 進化経済学論集第3集(進化経済学会第3回大阪大会研究報告), Mar.
26-27, 1999
Hiroki Shima, Takashi Iba, Taro Ozawa, Yoshiyasu Takefuji,
"Information Propagation and Price Fluctuation on Multi-Brand Market" ,
Computational Intelligence Methods and Applications: Soft Computing
in Financial Markets, 1999
Hiroki Shima, Takashi Iba, Yoshiyasu Takefuji, "Agent-based Simulation
of Black Box Product's Market", 1999
Appendix
― 社会科学の方法論としてのABSS
社会モデルのプログラミング
ABSSは、人間やその心理、社会などに対するモデルをコンピュー
タ上で動かすことのできるプログラムとして表記してやることから
スタートする。
社会科学のモデルの中には、一般化されており、抽象度が高いため、
そのままの形では機能しないものが多くある。社会科学の場合、見
えないところに存在する多くの仮説を前提としていなければ、理論
が成り立たない 。
社会シミュレーションを行うためのプログラミングの際には、完全
な論理性が求められるため、見えない仮説を引き出し、それを論理
化してやらなければならない。プログラマーはこうした曖昧な点を
払拭し、論理的欠如を補うことが求められる。
― 社会科学の方法論としてのABSS
Bottom-up アプローチ
ボトムアップ型アプローチの背景には、システムが階層的に成り
立っているという一般システム論的な世界観がある。
自然科学においては、このアプローチの妥当性はほぼ確認される。
だが、社会科学の場合は、これを構成する要素をモデル化したも
のが、現実の動きを表現する能力において不確実性が高いという
問題がある。
「モデルが極度に単純化され、その不確実性が高い場合において
も、ボトムアップ型アプローチが有効であるかという問題」に帰
結される。
これまでのアプローチでは明らかに行き詰まっている状況の中で、
感覚的に理解しやすいボトムアップ型アプローチの有効性を信じ、
期待を寄せる人が増えてきたという段階でしかないのである。
現象が論理的・数学的プロセスによって説明されるべきであると
信じている限りにおいて、下位の現象に与えられるモデルと、上
位の現象に与えられるモデルとの間に、論理的・数学的な整合性
が取れるかどうかについて検証することが可能である点である。
研究の目的
オートメーション化の流れ
• 肉体労働
機械化によるオートメーション化
→ ブルーカラーの生産性向上
• 事務作業
コンピュータによるオートメーション化
→ ホワイトカラーの生産性向上
• 頭脳処理
???
Agent-based
Social Simulation
→社会科学 研究者の生産性向上
― 社会科学の方法論としてのABSS
観測の限界
研究の目的
研究の目的
従来の社会科学の方法論
社会理論を文章や数式として表現
文章や数式として伝達
伝達・共有の限界
モデルの適用
頭脳や紙上で計算
社会科学の
Agent-based 方法論
社会理論をプログラムとして表現
プログラムとして伝達
伝達・共有が高速かつ正確
コラボレーションの促進
モデルの適用
コンピュータで計算
論理構造の限界
計算速度の限界
計算精度の限界
複雑な論理構造
高速な計算が可能
正確に計算
現実社会
現実社会