台湾における青果物卸売市場流通の展開と行政上の課題 青果物卸売

台湾における青果物卸売市場流通の展開と行政上の課題
台湾における青果物卸売市場流通の展開と行政上の課題
吳采鴻
陳柏壽
清雲科技大學經管所助理教授
李亞柔
王麒裕
清雲科技大學經營管理研究所研究生
(台北科技大學兼任助理教授)
要旨 ( Abstract)
①流通の変化に対応し、狭隘化の著しい南北2大都市拠点市場の計画的整備拡充を図る
必要がある。また全国的な建値・広域集散市場である大規模卸売市場はその重要性から、
重点的な整備拡充が必要である。
②現在、市場経営と管理の問題が残されているとすれば、商品の規格化や包装荷作りの
不統一、取引の機械化システムと情報処理能力の遅れなどが挙げられる。しかし、見本・
銘柄取引を可能とする商品の改善・推進や、情報技術を駆使し取引を機械化することによ
って、公正な市場価格形成が可能となり、取引の省力化が促進されるともに卸売市場流通
の合理化が可能となる。また、卸売市場は生鮮青果物への幅広い品揃え、迅速な決済、集
分荷機能などの役割を発揮し、電子商取引の利便性などを取り込んで、市場を通じた電子
商取引について検討する必要がある。
③卸売市場が売り手と買い手の情報を持ち、仲介機能を強化する必要がある。急成長を
遂げ今後も販売量増加が見込まれる量販店対策は急務であり、「予約相対取引」の導入に
ついて検討することが望ましい。
卸売市場はすべてが卸売市場法をもとに運営されており、委託手数料(5%上限)をは
じめとするさまざまな規制が、結果的に効率的な市場運営や活性化を阻む。生鮮食料品流
通の変化は多少の時差はあっても時代的な流れであり、台湾国内市場の運営も根本的に見
直すべき時期を迎えたといえる。
キーワード (Key word):流通、卸売市場、電子商取引、予約相対取引、委託手数料
288
Development and administrative challenges of fruit and vegetables wholesale market and
distribution in Taiwan
【Abstract】
It is necessary to expand the market base for planned development two cities (north and south)
marked contraction, about the response to changes in the distribution.
The wholesale market to a wide assortment of fresh fruits and vegetables, fast payment,
including the ability to demonstrate the role minute load collector to capture and convenience of
e-commerce, it is necessary to examine e-commerce through the market.
Buyers and sellers with information on the wholesale market, it is necessary to strengthen the
intermediary function. Anti-discount stores are expected to increase sales volume has grown
rapidly in the future is imperative, "the relative trading book" should be considered to employ.
Commission (5% maximum) and other various regulations, and prevent activation of an
efficient market operations as a result. Changes in distribution of fresh food trend is some lag time
even be said also reached a time to revisit the fundamental operations of Taiwan's domestic market.
Key word: distribution, wholesale market, electronic commerce, trade book relative, and
commissions.
289
1.はじめに
1
大規模一等市場数の増加と市場の整備・拡充の推進
台湾の南北2大都市拠点卸売市場(台北市第一卸売市場と高雄市卸売市場)および中・
小規模卸売市場の流通量シェアを低下させ、逆に大規模一等市場が顕著に台頭したことに
ついては、80年代以降における地方都市での著しい人口増加が一要因として考えられるが、
ここでは大規模一等市場の台頭の要因を市場行政、生産・出荷構造の方面からも整理する
ことにしたい。
市場行政に関連した要因としては、行政は大消費地と産地にそれぞれ卸売市場を開設し、
全国的に卸売市場を配置し、市場の整備・拡充を推進することによって、大規模一等市場
数の増加および市場大型化が形成されていった。
高度経済成長期の都市部への人口移動や、実質所得の上昇などによって消費者の青果物
購入量が増大し、消費品目が多様化する一方、青果物の商品生産が全国的に進展した。生
産・出荷側にとって出荷が容易であり、小売・売買参加者にとって荷揃えが豊富である卸
売市場は、供給と需要の具体的会合の場として重要度を一層強めた。しかし、卸売市場は
市場規模や取引方法などについて、これらの新しい動きに対応できなかった。
そこで、政府は81年に「農産品市場交易法(農産物市場取引法)」を発布し、青果物流
通秩序を確立し、需給の調整と取引の適正化を促進する方策を打ち出した。また、84年に
提出された「農産運銷改革方案(農産物流通改革法案)」によって、その後10年を市場機
能の強化と開設都市の全国的配置の推進に当てた。
Ⅴ‐1に示したように、80年から89年にかけて大規模一等市場の取扱量シェアが
26.24%から36.21%に急上昇しているが、そのほとんどは三重市卸売市場(84年)と台北
市第二卸売市場(85年)の開設によるものであるといえる。また、90年代中期を境に西螺
鎮卸売市場の取扱量シェアが2.59%から9.52%に上昇した要因としては、営業面積を1ha
から9.7haに拡張・整備したことが挙げられる。台中市卸売市場の取扱量シェアが3.41%か
ら5.32%に上昇した要因としても、営業面積を6.4ha拡張し、セリ取引用機械システムの導
入したことなどが挙げられる。このように、卸売市場の躍進には行政による卸売市場の開
設整備基本方針の指導的要素が大きいと考えられる。
開設都市の全国的配置が進展し、大規模一等市場数は80年代初期の8市場から、85年に
は10市場に増えた。この時期の卸売市場数の増加と市場の整備・拡充は、南北2大都市拠
点市場である台北市第一卸売市場と高雄市卸売市場以外で行なわれを増加および市場の整
備・拡充である。
このような大規模一等市場数の増加と市場大型化の形成・進展は、卸売市場全体の流通
量を著しく増大させた。とりわけ80年代後半以降、伸び続けた大規模一等市場の取扱量シ
ェアは、卸売市場数の増加と市場の整備・拡充の推進に依存したものであったといえる。
2
大型出荷団体の出荷戦略の転換
生産・出荷構造の点から、大規模一等市場の台頭の要因を考えると、卸売市場の新設と
290
市場の整備拡充の推進に伴って、大型出荷団体の出荷戦略(販売戦略)が台北市などの少
数大都市の大規模卸売市場への集中出荷から、各地の大規模一等市場をも対象にした多元
出荷へ転換したことが挙げられる。
農民の出荷共同体には郷鎮農会、聯合社や青果運銷合作社の3つの農民団体(以下では
農協)があり、いずれも共同出荷(共同運銷)を行っており、80年代中期以降は台北市内
の卸売市場だけではなく、高雄市卸売市場、三重市卸売市場、台中市卸売市場、屏東市卸
売市場、鳳山市卸売市場などにも出荷している。これら新たな出荷先卸売市場はすべて大
規模出荷に対応しうるシステムを持つ大規模卸売市場に限定されている。
このような出荷単位の大型化の推進と出荷戦略の転換(84年に制定された「農産運銷改
革方案」は、共同出荷の規模を拡大するため、直轄市あるいは県(市)の主管機関が産地
集荷施設の開設や仕分け包装の改善などを指導・管理すべきであるとされている。)によ
って、農協の出荷規模が大型化しつつある。
さらに出荷先卸売市場での交渉力強化や流通コストの軽減のため、出荷先を各地の大規
模一等市場へ集中させる傾向が強まっている。
Ⅴ‐2は、青果物生産の品目別出荷量シェアの上位6県を示したものである。その92年
と2008年を比較すると、16品目中11品目の上位6県の出荷量シェアが上昇している。こう
した出荷上位県によるシェアの集中化に伴い、より大規模な卸売市場に出荷する傾向が強
まり、大規模卸売市場への集中傾向が強まったと判断できる。しかも生産者・出荷者の求
める適正な価格形成と代金の確実な回収は取扱規模の大きい卸売市場においてより信頼性
が高いといえる。
また、Ⅴ‐3およびⅤ‐4に示したように農協の出荷先別構成比の推移から判断すると、
農協の出荷量の大型化に伴い、出荷先も地方都市の大規模一等市場に偏よる傾向が出てき
た。例えば、1990年から2008年かけて農協の出荷先別構成比の動向(野菜)を見れば、三
重市市場(大規模一等市場)+4.8%、台中市市場(大規模一等市場)+1.7%、鳳山市市場(大
規模一等市場)+0.8%、屏東市市場(大規模一等市場)+1.6%、基隆市市場(中規模三等市
場)+0.1%、台北市内の卸売市場(大規模特等市場と大規模一等市場)-10%。
なお、大型出荷団体のこのような出荷戦略の転換は、台北市内卸売市場の転送分荷量を
減らし、共同出荷量に占めるそのシェアを低下させた。
こうした大型出荷団体の出荷戦略の転換により、台北市第一卸売市場の後退を引き起こ
し、逆にそれ以外の地方都市大規模一等市場の平均取扱量を増加させ、その台頭を促進し
たことはいうまでもない。
1
青果物卸売市場流通の新展開
-「全国市場体系」の形成・確立-
80年代以降における青果物卸売市場流通の概要および全国動向を概観し、それによって
次の点を明らかにした。第1は、ほぼ80年代後期を境に南北2大都市拠点卸売市場に集中
していた青果物流通が、分散・移行する傾向をみせてきたことである。第2は、全国青果
物卸売市場流通において台北市第一卸売市場、高雄市卸売市場や、中・小規模卸売市場な
291
どが次第に後退し、逆にそれ以外の大規模一等市場が80年代後期までは徐々に、それ以後
はより急速に台頭したことである。
すなわち、第2章および第3章での分析から、青果物卸売市場流通は80年代後半以降、
大規模一等市場の台頭を基軸に全国次元で南北2大都市拠点卸売市場流通や中・小規模卸
売市場流通などから、大規模一等市場へ分散・移行し、著しく変容したことが明らかにな
った。
かかる変容を引き起こした大規模一等市場について、台中市卸売市場(消費地市場)と
西螺鎮卸売市場(産地市場)と台北市第二卸売市場(首都圏消費地市場)の3大規模一等
市場を取り上げ、それぞれの集・分荷両面の分析を通して各市場の機能・役割の解明を試
みた。
まず、台中市卸売市場の分析により解明した主な点は、次の5点である。
①取扱高の増加などによる市場施設の狭隘化を解決するために、97年に中清路(約6.4 ha
の拡大)に移転し、施設の拡充を進める中で、セリ機械を用いた取引方式による取引の適
正化と市場業務の合理化が推進されたこと。
②中間産地、遠隔産地と外国産地からの果実の集荷量の増大によって、それらの産地から
の入荷量シェアが大幅に上昇したこと(90年の果実の産地としては中間産地、遠隔産地<
主な産地は嘉義県、雲林県、台東県、台南県・市などである>と外国産地からの集荷量は
3,068トン、2008年は6万7,123トン、この18年間に約21.9倍に達した)。
③中間産地、遠隔産地からの野菜の集荷量の増大によって、同産地からの入荷量シェアが
上昇したこと(90年の野菜の産地としては中間産地、遠隔産地<主な産地は彰化県、雲林
県、花蓮県、台東県、台南県などである>からの集荷量は1万1,364トン、2008年は1万2,006
トン、この間に約1.1倍に達した)。
④市場における果実の取扱高指数が90年の0.12から2008年には0.87への上昇し、果実の分
荷力が90年初期以降は急速に増加したこと。
⑤主要分荷圏が当該行政区域(台中市内約68.5%)と当該行政区域外(中部消費地地域約
31.5%、市場を中心に半径 60kmの範囲まで)を包含する地域にまで達したこと。
次に、西螺鎮卸売市場の分析により解明した点は、主に次の4点である。
①モータリゼーションの進展などによる市場施設の狭隘化問題を解決するために、96年に
新社の南部(約9.7 haの拡大)に移転し、市況情報システムなどを含む施設の拡充を行っ
たこと。
②中間産地と遠隔産地からの野菜の集荷量の増大によって、それらの産地からの入荷量シ
ェアが大幅上昇したこと(90年の野菜の産地としては中間産地と遠隔産地<主な産地は台
南県、南投県、屏東県などである>からの集荷量は4,038トン、2008年は5万5,185トン、こ
の18年間に約13.7倍に達した)。
③市場における野菜の取扱高指数は90年の13.19から2008年の42.82への上昇し、分荷力が
90年代以降は著しく増大したこと。
④主要分荷圏が当該行政区域外(北部地域約46.5%、中部地域約28.5%、南部地域約22%、
市場を中心に半径100kmの範囲まで)を包含する地域にまで達したこと。
最後に、台北市内の青果物卸売市場(台北市第二卸売市場を中心に)の分析を通して明
らかにした点は、次の6点である。
292
①台北市第一卸売市場施設の狭隘化による卸売市場の混雑を緩和するため、85年に台北市
の第二番目の卸売市場となる台北市第二卸売市場(大規模一等市場)が台北市民族東路に
開設され、セリ機械を用いた取引方式や市況情報システムの構築による取引の適正化と市
場業務の合理化が推進されたこと。
②台北市第二卸売市場への卸売市場流通の集中が進み、台北市第一卸売市場から台北市第
二卸売市場へ流通機能が部分的に移行(分散)しつつあること。
③中間、遠隔産地と外国産地からの野菜の集荷量の増大によって、それらの産地からの入
荷量シェアが大幅上昇したこと(92年の野菜の産地としては中間、遠隔産地<主な産地は
彰化県、台南県、高雄県などである>と外国産地からの集荷量は1万7,306トン、2008年は
2万6,036トン、この16年間に約1.5倍に達した)。
④遠隔産地と外国産地からの果実の集荷量の増大によって、同産地からの入荷量シェアが
上昇したこと(92年の果実の産地としては遠隔産地<主な産地は雲林県、高雄県、台東県
などである>と外国産地からの集荷量は8,415トン、2008年は1万9,819トン、この16年間に
約2.36倍に達した)。
⑤台北市第二卸売市場における野菜の取扱高指数は86年の0.17から2008年の0.23へ、ま
た果実の取扱高指数は86年の0.06から2008年の0.15への上昇し、青果物の分荷力が90年代
以降は著しく増大したこと。
⑥台北市内が台北市第二卸売市場の主要分荷圏といえること。
さて、3大規模一等市場は共通して広域集散市場としての機能・役割を果たしているこ
とが分析の結果わかった。
これら3大規模一等卸売市場は次のような相違点を有し、大規模一等市場の異なる代表
的な事例でもある。相違点とは、台中市大規模一等卸売市場は地方都市大規模一等市場全
体の平均的タイプである。①1市場当たりの取扱量の顕著な増加。ただし野菜は90年代中
期以降停滞。②果実の取扱量が常に野菜を上回っている。③主に当該行政区域(開設区域)
あるいは一部周辺市町村を包含した地域(当該市場を中心に約半径60kmの範囲まで)を
主要分荷圏とすることなどに類似した変化を示しているのに対し、西螺鎮大規模一等卸売
市場では果実に比べ野菜の取扱量が極めて多い点および、当該行政区域外(特に台湾全国
の大消費地地域、当該市場を中心に約半径100kmの範囲まで)を包含した地域を主要分荷
圏とする点において、平均的タイプと相違している。また、台北市第二卸売市場では果実
と野菜の取扱量が極めて多い点および、当該行政区域内地域(首都圏消費地)を主要分荷
圏とする点において、平均的タイプと異なっている。
そして上述のように、全国青果物卸売市場流通における大規模一等市場の台頭は、基本
的には大規模一等市場における広域集散市場の機能・役割の強化によるものであったとい
える。
広域集散市場(消費地市場)における集荷面での主要な特徴は、台中市大規模一等卸売
市場の分析から明らかなように、主に大型出荷団体への依存度を高めつつ、全国広域的な
集荷(果実の場合には外国産ものが極めて高い比率を占める)を進めたことである。従来
みられたような地元産地やその周辺産地に偏った集荷から、地元も含む全国多くの産地か
らのほぼ一様な集荷へ分散・移行した。
次に、広域集散市場(消費地市場)における分荷面での主要な特徴は、主要直接分荷圏
293
とする当該開設区域を越えた小売商の広範な分布あるいは仲卸商の直接分荷活動による面
的広がりをもつ著しい広域化である。
また、広域集散市場(産地市場)における集荷面での主要な特徴は、西螺鎮大規模一等
卸売市場の分析から明らかなように、96年以降の大型出荷団体(産地出荷団体)からの集
荷は、生産者・出荷団体全体からの集荷の大半を占めるに至った。すなわち、大型出荷団
体への依存度を高めつつ、全国広域的な集荷を進めたことである。産地出荷団体による大
型出荷団体への出荷量は中間産地と遠隔産地からの集荷より大きい。従来のような地元産
地やその周辺産地に偏った集荷から、地元も含む全国多くの産地からのほぼ一様な集荷へ
分散・移行したものである。
次に、広域集散市場(産地市場)における分荷面での主要な特徴は、90年代初期以降仲
卸商と売買参加者(小売商を含む)向け販売量構成比が上昇し、従来みられたような市場
集出荷商の構成比は次第に低下したことである。そして、それは売買参加者(小売商を含
む)の広範な分布あるいは仲卸商の直接分荷活動に基づくところの、主要直接分荷圏の当
該開設区域を越える面的広がりとしての著しい広域化である。
最後に、広域集散市場(首都圏消費地市場)における集荷面での主要な特徴は、台北市
第二卸売市場の分析から明らかなように、主に大型出荷団体への依存度を高めつつ、全国
広域的な集荷(青果物の取扱量およびシェアが顕著に上昇したのは遠隔産地と外国産地で
ある)を進めたことである。従来みられたようなその周辺産地に偏った集荷から、全国多
くの産地からのほぼ一様な集荷へ分散・移行した。
次に、広域集散市場(首都圏消費地市場)における分荷面での主要な特徴は、主要直接
分荷圏とする当該開設区域を越えた小売商の広範な分布あるいは仲卸商の直接分荷活動に
よる面的広がりをもつ著しい広域化である。この広域化は、それまで台北市第一卸売市場
によって担われていた分荷を、部分的に肩代わりするものである。
したがって、広域集散市場による大規模一等市場の台頭を基軸とした青果物卸売市場流
通の変容は、集荷面からいえば、「全国集荷市場化」といえる方向で、多数の大規模一等
市場が集荷圏を全国的に拡大したことである。また、分荷面からいえば、全国の大規模一
等卸売市場の主要直接分荷圏が開設区域を大幅に越えて広域化したことである。この集・
分荷両面における広域化は青果物卸売市場流通における大型出荷団体のシェアの増大によ
って生じたものであり、それゆえ青果物卸売市場流通の変容は各大規模一等市場を中心に
した全国的規模の青果物集荷・分荷での広域化の著しい深化でもある。
このように集・分荷両面において広域化が全国的規模で著しく深化し、大規模卸売市場
流通(広域集散市場)が大宗を占める青果物卸売市場流通構造を「全国市場体系」(Ⅴ1)と規定する。
「全国市場体系」においては、大規模卸売市場流通〔広域集散市場(消費地市場①)と広
域集散市場(産地市場②)と広域集散市場(首都圏消費地市場③)〕は地元も含む全国広
域的な直接集荷を行う(果実は外国からの集荷も多い)。ただし、①と③では直接集荷で
充分な品揃えができない場合、②からの転送集荷も行う。そして、大規模卸売市場は主に
直接分荷を行い、その主要直接分荷圏は当該開設区域(首都圏消費地市場の場合はその所
在行政区域)を越えて極めて広範囲にわたる。
なお、従来主張されてきた「伝統市場体系」とここでの「全国市場体系」を比較するた
294
めに、Ⅴ-2を示す。
「伝統市場体系」の特徴は、大規模小売企業の進展によって、産地市場のシェアの上昇
傾向が強まることを指摘した。これは青果物の販売量の増加に対して、流通経費の削減の
ため産地市場との直接取引が行われるため、大消費地市場はシェアを低下させ、一方、産
地市場はシェアを上昇させるというものである。
また、「伝統市場体系」に関しては、その実態はほとんど解明されておらず、現状を必
ずしも正確に反映したものでないことは、分析を通して既に明らかにした。
最後に、「全国市場体系」の形成過程について簡単にまとめると、80年代後半以降大規
模一等市場の顕著な台頭によって、大規模特等市場と大規模一等市場の格差が急速に縮小
した時期であることから、同時期を「全国市場体系」の形成期と定義できよう。そして2000
年代以降は大規模一等市場流通量が大規模特等市場流通量を越え、更にその格差が開く傾
向にあることから、同体系の確立・発展期と定義できよう。
今後においても、台中市卸売市場と西螺鎮卸売市場と台北市第二卸売市場としての進展
傾向は始めたばかりであることから、「全国市場体系」は更に深化することになろう。
2
今後の展開方向
述べたように生産者段階での大規模小売企業と共同出荷の推進と発展などが、卸売市場
や卸売商に与える影響については、以下の2点を挙げられる。
第1は、今後、卸売市場の大型化へ進む傾向が強まっていることである。
大型量販店・スーパーの台頭で小売りは大型化、大型出荷単位の進展と農協の出荷行動の
変化、すなわち大規模卸売市場(特に大規模一等市場)に集荷・出荷先を絞る傾向を強め
ている。
第2は、広域消費地市場と広域産地市場間の競争激化である。
大型量販店・スーパーの台頭で卸売市場仕入れについても、消費地市場と産地市場を含め
て、調達方式を構築しており、大規模卸売市場間の競争せざるを得ないし、避けては通れ
ない。
また、台中市卸売市場と西螺鎮卸売市場と台北市第二卸売市場3大規模一等市場の機
能・役割の解明を行い、今日の台湾全国青果物卸売市場流通構造を「全国市場体系」と規
定した。ここでは青果物卸売市場流通の合理性のため基礎的情報の提供を目的に、同体系
の形成・確立によって生ずるメリットについて更に考察することにしたい。
「全国市場体系」下での主なメリットを挙げると、その第1は、広域集散市場の全国各
地での展開とそれに伴う共同出荷の大型化(共同運銷)の一層の進展によって、生産者・
出荷団体などによる広域的な出荷がますます容易になることである。
例えば、農民の出荷共同体には郷鎮農会、聯合社と青果運銷合作社など3つの農民団体
があり、いずれも共同出荷を行っているが、しかも80年代後半以降、台北市内の卸売市場
のみならず、各地方都市の大規模一等市場をも出荷している。それは生産者・出荷団体な
どに対応しうるシステムを持つ大規模卸売市場が限定されていることによるものである。
295
第2は、集荷圏の拡大によって、多くの品目において集荷の周年化が進み、品目・品種
などの多様化が促進され、その結果、取扱量シェアが顕著に上昇した。
例えば、広域消費地市場である台中市卸売市場の取扱シェアは、92年の2.53%から2008
年の5.32%へ、2.79ポイント上昇した。広域産地市場である西螺鎮卸売市場の取扱シェア
は、92年の2.14%から2008年の9.52%へ、7.38%ポイント上昇した。
第3は、大規模一等市場の集荷圏の拡大によって、中間・遠隔産地と外国産青果物の入
手が容易になり、消費の多様化・周年化が進展したことである。
例えば、90年代以降における台中市卸売市場、西螺鎮卸売市場の動向を分析し、地元産
地ものの取扱シェアは顕著に低下し、反対に取扱シェアの上昇が明らかなのは中間・遠隔
産地と外国からの輸入である。また、卸売市場においては月別取扱期間の延長として、各
時期の需要に応じるために、少量でも取り扱う傾向が強まり、集荷の周年化が一層進み、
各時期の取扱品目は極めて多彩になっている。さらに、集荷の周年化によって同一品目の
各季節に応じた品種や多くの産地の異なる品種が取り扱われるため、年間を通じて取り扱
われる品種は著しく多様化している。
第4は、大規模一等市場の全国各地での展開とそれに伴う市場情報の伝達が迅速するこ
とにより、適正な価格形成が期待されることである。
例えば、台湾において大規模一等市場を核とする市況情報システムの拡充・整備が進展
した場合には、以下のような変化が起きるものと考えられる。
①相対取引による価格形成の透明化が進むことである。現在の相対取引に基づく価格形
成では当然、成立した価格を知りうるのは直接それに携わる者だけに限られ、不正な行為
が行われる可能性が強い。しかし、そうした市況情報として容易に伝達し得るようになる
と、ごく少数の関係者だけでなく、より多くの関係者が知りうることも可能になるであろ
う。また、より正確な平均価格の公表も可能になるであろう。
②適正な競争を実現することによって、卸売市場間の価格差の縮小を可能にするととも
に、流通コストの縮減をも促進することである。
③価格情報に限らず、出荷情報等の産地情報や、小売店の売れ筋情報などの伝達が活発
化し、全国的な需給調整が容易になることである。このことが取引の適正化や卸売市場間
価格差の縮小等に寄与することは言うまでもなかろう。
なお、現在、台湾の青果物流通システムにおいては、情報化の波が激しく押し寄せつつ
あるものの、卸売市場における情報化はまだまだ大幅に遅れた状況にあるといわざるをえ
ない。
2.おむすび
本論文の主な結論は以下のとおりである。
①青果物輸入の増大などによって卸売市場流通の後退がみられるものの、80年代以降に
おいても充実した施設を有する大規模一等市場を中心とする卸売市場流通の重要性に大き
な変化はない。
②台中市卸売市場、西螺鎮卸売市場、台北市第二卸売市場の3大規模一等市場の分析に
296
より、同種類市場は現在では野菜の集荷圏を中間産地と遠隔産地にまで拡大し、また果実
の集荷圏を中間産地、遠隔産地と外国産地にまで拡大した。一方、分荷圏に関しては当該
市場を中心に半径60~100kmの範囲まで拡大した。すなわち、大規模一等市場は「広域集
散市場」としての機能を著しく強めた。
③大規模一等市場の展開・発展に伴う集荷と分荷面の大量化・広域化が全国的に展開・
深化していることから、今日の青果物卸売市場流通構造はこれまでいわれていた「伝統市
場体系」というよりも、「全国市場体系」と規定することができる。
最後に、これらの動向に対する主な行政上の課題は、以下のとおりである。
①流通の変化に対応し、狭隘化の著しい南北2大都市拠点市場の計画的整備拡充を図る
必要がある。また全国的な建値・広域集散市場である大規模卸売市場はその重要性から、
重点的な整備拡充が必要である。
②現在、市場経営と管理の問題が残されているとすれば、商品の規格化や包装荷作りの
不統一、取引の機械化システムと情報処理能力の遅れなどが挙げられる。しかし、見本・
銘柄取引を可能とする商品の改善・推進や、情報技術を駆使し取引を機械化することによ
って、公正な市場価格形成が可能となり、取引の省力化が促進されるともに卸売市場流通
の合理化が可能となる。また、卸売市場は生鮮青果物への幅広い品揃え、迅速な決済、集
分荷機能などの役割を発揮し、電子商取引の利便性などを取り込んで、市場を通じた電子
商取引について検討する必要がある。
③卸売市場が売り手と買い手の情報を持ち、仲介機能を強化する必要がある。急成長を
遂げ今後も販売量増加が見込まれる量販店対策は急務であり、「予約相対取引」の導入に
ついて検討することが望ましい。
卸売市場はすべてが卸売市場法をもとに運営されており、委託手数料(5%上限)をは
じめとするさまざまな規制が、結果的に効率的な市場運営や活性化を阻む。生鮮食料品流
通の変化は多少の時差はあっても時代的な流れであり、台湾国内市場の運営も根本的に見
直すべき時期を迎えたといえる。
注
1)
2)
「経済奇跡」とは、1961 年から 1972 年までの 12 年間は、経済成長率が年平均 9.5%に達
した。喜安幸夫『台湾の歴史』原書房、1998 年、183 頁。卸売市場での主要な役割は、
供給量の過不足を調整し、供給の平衡を図ることである。また、公開された卸売市場と
いう場で適正な競争を行うことによって、適正な価格が形成される。本研究では、卸売
市場における用語の定義は、1981 年に制定された「農産品市場交易法」に準じて使用し
ている。同法第1章第3条によれば、
「農産物卸売市場」とは毎日あるいは定期的に農産
物の取引を催行する機構。「農民」とは本法にいう農産物の生産に直接従事する自然人。
「農民団体」とは法人組織の農会、魚会および農産物生産流通合作社、合作農場。
「出荷
者」とは農産物卸売市場に農産物を供給する者。
「買出人」とは農産物卸売市場で農産物
を購入する者。
「集出荷商」とは農産物生産者あるいは卸売市場から購入した農産物を他
の市場に搬送し取引する者。
「仲卸商」とは農産物卸売市場で購入した品物を同一市場内
で小売商あるいは大消費者に卸売する者。
「小売商」とは消費者に農産物を販売する商人。
その市場は以下のとおりである。野菜市場:台北市第一卸売市場、台北市第二卸売市場、
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台中市市場、南投市市場、永靖郷市場、渓湖鎮市場、西螺鎮市場、高雄市市場、鳳山市
市場、屏東市市場、花蓮市市場、台東市市場などの 12 市場。果実市場:台北第一卸売市
場、台北第二卸売市場、三重市市場、東勢鎮市場、卓蘭鎮市場、台中市市場、南投市市
場、嘉義市市場、高雄市市場、鳳山市市場、台東市市場などの 11 市場。資料:『台湾地
区農産品批発市場年報』台湾省農林庁編印。
3)
左伯喜代次『中華民国台湾-青果物流通の現況と問題』
「農産運銷季刊」第 100 期、1994
年9月、28 頁。
4)
廖武正『綜合討論』「農産運銷季刊」86 期、1991 年 3 月、15 頁。
5)
「卸売市場データ集」農林水産省食品流通局市場課、1999 年 10 月、10 頁。
6)
陳栄松『果菜批発市場的課題与改善』「農産運銷季刊」86 期、1991 年 3 月、11 頁。
7)
8)
台湾農業委員会の広報担当者からの聞き取り。聞き取りには 2000 年 9 月、農業委員会の農
産運銷科を訪問して行った。
90 年代初期から現れるシェアの上昇傾向が鮮明である。『商業動態統計月報』台湾経済部統
計処、2000 年版による。
9)
インタネットを中心とした情報技術が、流通・小売に革命を引き起こしている。
低コストで手軽に生産者や消費者の情報・声を集められるため、販売促進につなげる。
例えば、①「インタネットの取引方法」において、大田花卉市場で導入されている。出荷情
報(見本・銘柄取引を可能とする商品の情報)などのデータにし、
「定価方法」でセリを行わ
れる。商品をセリ落とした買参人は、インタネットの回線を介して買い入れ商品について
の諸情報を確認できるようになった。諸情報をプリントアウトする事も可能である。また、
箱単位で買参人別に仕分け、荷受けから仕分けまで効率的な取引システムを実現したと言
える。ただし、この取引方式は、まだ着手されたばかりである。大田花卉市場ロジスティ
ック本部平野副本部長からの聞き取り。聞き取りには、大田花卉市場を訪問して行った。
②インタネットを活用した企業間取引が広がっている。日本の外食大手のすかいらーくは、
食材をインタネットで調達するサイトを開設、卵や野菜など 70 品目を調達し始めた。イン
タネットで注文を出し、メーカーや生産者が価格を提示、品質や価格を吟味して調達先を決
める。全量をインタネットで調達する。日経流通新聞を参照されたい。
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