「のだ」と「のか」の使用・非使用に関する 文法および語彙知識の影響 趙萍(麗澤大学大学院生) 玉岡賀津雄(名古屋大学) 木山幸子(麗澤大学大学院生) 言語科学会第11回年次国際大会 (JSLS2009) 研究の目的 • 外国人学習者にとって,「のだ」と「のか」を使う場合と 使わない場合とを適切に判断するのは難しい。 • 学習者の語彙および文法の知識が,「のだ」「のか」の 使用しなければならない条件と使用すべきでない条件 の習得にどのように影響しているかを検討することを 目的とする。 • そのために,日本語学習者を語彙および文法テストの 上位・中位・下位群とで比較した。 「のだ」/「のか」のバリエーション 「のだ」:主なバリエーションとして 「のだ/んだ/のです/んです/のである/の」 「のか」(「のだ」の疑問形式)の場合: 「のか/のですか/んですか/の」 これらを「のだ」/「のか」という形で代表させ, 一括して扱うことにする。 「のだ」/「のか」の 分類 分類の根拠 使用条件 • 「のだ」または「のか」を使用すべき条件 非使用条件 • 「のだ」または「のか」を使用できない条件 「のだ」と「のか」の使用については, 「既定性」と「関連づけ」の二つの視点が挙げられている (田野村,1990; 野田, 1997; 大場, 1995; 近藤, 2008 など) 「のだ」「のか」の使用条件と非使用条件 既定性なし 非使用 既定性あり, 関連づけあり 使 用 既定性なし, 関連づけあり 「のだ」使用 (既定性あり+関連づけあり) 先生: Aさん、昨日どうして休んだんですか? 適切 学生A: すみません、頭が痛かったんです。 学生A: すみません、頭が痛かったです。 不適切 「のだ」非使用① (既定性なし) (倒れそうな花瓶を見て) 適切 あっ,倒れる! あっ,倒れるんだ! 不適切 「のだ」非使用② (既定性あり,関連づけなし) (聞き手が地震があったということを2人とも知っている) 適切 昨日地震がありましたけど,大丈夫でしたか? 昨日地震があったんですけど,大丈夫でしたか? 不適切 「のか」使用 (既定性あり+関連づけあり) 適切 こんなにおいしいのに、どうして食べないの? こんなにおいしいのに、どうして食べない? 不適切 「のか」非使用① (既定性なし) (服を試着して) 適切 どう?この服似合う? どう?この服似合うの? 不適切 「のか」非使用② (既定性あり,関連づけなし) (デパートで。店員がお客さんに尋ねます) 適切 何かお探しですか? 何かお探しなんですか? 不適切 方 法 調査の概要 属性:西安外国語大学で日本語 を専攻とする大学生 人数:合計224名 • 2年終了時の学生112名 • 3年終了時の学生112名 年齢:18歳5ヶ月~26歳5ヶ月 • 2年終了時の学生:平均21歳0ヶ月 • 3年終了時の学生:平均22歳2ヶ月 日本への留学経験なし 日本語能力テスト 「のだ」「のか」のテスト (72問) • • • • • • 「のだ」使用 「のだ」非使用① 「のだ」非使用② 「のか」使用 「のか」非使用① 「のか」非使用② • • • • 語彙テスト 文法テスト (48問) (36問) 漢語 和語 外来語 機能語 • 形態素変化 • 局所依存 • 構造の複雑性 「のだ」「のか」(72問) 「のだ」(36問) 信頼性係数 α = 0.747 信頼性係数 α = 0.866 「のか」(36問) 「のだ」使用 「のか」使用 「のだ」非使用① 「のか」非使用① 「のだ」非使用② 「のか」非使用② 信頼性係数 α = 0.801 実際に使用したテスト問題例 A 「あれ、道路が濡れてるね。」 B 「本当だ。きっと雨が 。」 適切 不適切 ①降ったんだ ②降った ③降ったなんだ ④降るんだった 文法的な誤り ほかのテスト問題の信頼性係数 • 文法テスト(36問) 信頼性係数 α = 0.859 • 語彙テスト(48問) 信頼性係数 α = 0.733 注:独立行政法人科学技術振興機構(JST. 研究代表者・萩原裕子)の助成を受けて, 文法,語彙,読解テストは,宮岡弥生,酒井弘,玉岡賀津雄らによって作成 されたものである。なお,読解テストは,一部改訂した。 結果と考察 「のだ」と「のか」の下位カテゴリの相関 「のだ」使用と 「のか」使用の相関 「のだ」と「のか」の下位カテゴリの相関 「のだ」非使用①と 既定性なしの 「のか」非使用①の相関 2つの 非使用条件 「のだ」非使用②と 既定性あり, 関連づけなしの 「のか」非使用②の相関 2つの非使用条件 「のだ」と「のか」の下位カテゴリの相関 既定性あり,関連性あり 「のだ」使用と : 非使用①の相関 既定性なし 既定性あり,関連づけあり 「のか」使用と : 既定性あり,関連性なし 非使用②の相関 語彙力で分けた上位・中位・下位群の比較 日本語学習者224名の語彙テスト 平均点(M)は 32.10,標準偏差(SD)は 7.23 上位群(46名): 39点以上 [M+1SD=32.10+7.23=39.33] 141名 中位群(52名):30点~34点 [M+2=34.10 ; M-2=30.10] 下位群(43名):25点以下 [M-1SD=32.10-7.23=24.87] 語彙力で分けた上位・中位・下位の 分散分析および多重比較の結果 「のだ」「のか」の使用・非使用に関する 語彙知識の影響 「のだ」「のか」の使用および非使用①に関しては, 下位群と中位群の間に有意な違いがみられたこと から,語彙能力が平均以上になると,「のだ」「のか」 の使用および非使用①に関する理解がある程度高く なっていると言える。 一方,非使用②に関しては,下位・中位・上位の3 群の正答率が高くなっているものの,3群の間の違 いは有意ではないため,語彙能力が高い学習者でも 非使用条件②をよく理解できないことがわかった。 文法力で分けた上位・中位・下位群の比較 日本語学習者224名の文法テスト 平均点(M)は 27.87,標準偏差(SD)は 4.17 上位群(43名): 32点以上 [M+1SD=27.87+4.17=32.04] 149名 中位群(61名):27点~29点 [M+1=28.87 ; M-1=26.87] 下位群(45名): 24点以下 [M-1SD=27.87-4.17=23.70] 文法力で分けた上位・中位・下位の 分散分析および多重比較の結果 「のだ」「のか」の使用・非使用に関する 文法知識の影響 「のだ」「のか」の使用と非使用①の理解に関して, 上位群は,中位群と比べてあまり高くなっていない が,下位群と上位群の間に有意な違いが見られた。 それに対して,非使用条件②の理解については, 語彙知識の場合と同様,文法能力が高くても伸び ていなかった。 「のだ」「のか」の習得上の困難点 語彙や文法といった基礎的な日本語能力の習得が 進むにつれ,使用条件と非使用条件①の理解はでき るようになるものの,非使用条件②の理解は伸びな いことが判明した。 中国人日本語学習者にとって,「のだ」「のか」 を習 得している際に,既定性あり・関連性なしの非使用 条件②が一番難しいことが示唆された。 非使用条件②はなぜ難しいのか? 非使用①=既定性がない 非使用②=既定性あり,関連づけなし 既定性の有無と関連づけの有無の二段階の 認知処理を要することが,非使用条件②の 理解の促進を妨げていると解釈できる。 まとめ 中国人日本語学習者は,語彙や文法といった基礎的な 日本語能力の習得が進むにつれ,使用条件の理解は できるようになるものの,非使用条件の理解にはただ ちに結びつかないことが窺える。 既定的ではあるが関連づけはない場合に「のだ」「の か」を使用できないこと(非使用②)の理解は,基礎的 能力が高い学習者にとっても困難であることが明らか になった。 ご清聴 ありがとうございました。
© Copyright 2024 ExpyDoc