公共経済学

公共経済学
三井 清
1
「公共経済学(第1学期)
;三井」の運営方法
【講義のねらい(第 1 学期)
】
1.
政府の支出政策の役割について
2.
市場メカニズムの機能や政治メカニズムの機能について
2
【講義内容】
(1)
厚生経済学の基本定理 1(第 3 章)4/13
(2)
厚生経済学の基本定理 2(第 3 章)4/20
(3)
公共財 1(第 6 章)4/27
(4)
公共財 2(第 6 章)5/11
(5)
リンダール・メカニズムと公共財の自発的供給(第 7 章)5/18
(6)
投票のパラドックスと一般(不)可能性定理(第 7 章)5/25
(7)
多数決投票と公共財供給(第 7 章)6/1
(8)
消費者余剰と等価変分・補償変分 6/8
(9)
補償原理とマスグレイブ主義政策論 6/15
(10) 費用・便益分析 1(第 11 章)6/22
(11) 費用・便益分析 2(第 11 章)6/29
(12) 費用・便益分析 3 とまとめ(第 11 章)7/6
(13) まとめ 7/13
3
【参考書】
スティグリッツ
『公共経済学(上):公共部門・公共支出』
第 2 版、東洋経済新報社
4
【成績評価の方法】基本的に定期試験と宿題で成績を評価されるが、それ以外に「講義
への貢献」も考慮される。また、3 年生以上の学生に限り、レポートが提出されてい
れば、定期試験・宿題・講義への貢献の合計点が 40 点以上 50 点未満のときに限り
10 点満点でレポートが評価される。
○ 成績評価のための「総合得点」は、①定期試験、②宿題、③講義への貢献、
の3つの得点の合計である。なお、配点は以下の通りである。
① 定期試験
:80 点(=40 点×2)
② 宿題
:20 点(=10 点×2)
③ 講義への貢献
:1 点×貢献回数(上限 10 回)
○「講義への貢献」とは以下の 3 つである。また、その講義中の貢献は講義終了後にサ
インをした場合のみポイントが与えられる。
① 講義中に板書や言葉による説明の間違いを指摘する。
② 講義中に(講義の内容に関する適確な)質問をしたり意見を述べたりする。
③ ホームページ上にアップされたプリントなどの間違いを指摘する。
5
【ホームページとメールのアドレス】
http://www-cc.gakushuin.ac.jp/~20040012/index.htm
[email protected]
6
【各章間の関連性】
第 1 章から第 24 章までの議論は次の流れ図のように関連している。なお、第 1 学期は
第 1 章から第 12 章まで、第 2 学期は第 13 章から第 24 章までを講義する。
社会保障
公共財の供給
外部性
6
5
17
16
13
7
4
3
15
14
補償原理
1
2
地方財政
租税
9
24
18
10
8
20
23
11
22
21
19
市場メカニズ
ム
12
費用便益分析
7
【問題と補論について】
「*」の付いていない問題と補論は基本的・標準的な内容であり、「*」の付いている問
題と補論は発展的・技術的な内容である。そして、
「*」の付いている問題と補論の内容
は、原則的に定期試験には出題されない。
【使用される数学について】
本講義では、原則として高校で学ぶ数学の基本的な部分(集合と論理、直線の方程式、
2 次関数の微分など)だけを用いる。なお、微分については第 2 章の補論で復習する。
8
1.厚生経済学の基本定理 1
1.1 アダム・スミスの『国富論』
1.2 エッジワース(Edgeworth)の箱と実現可能な資源配分
1.3
効用関数と選好集合
1.4
パレート効率性と選好集合
1.5 効率的な資源配分と限界代替率
9
1.1 アダム・スミスの『国富論』
アダム・スミス(Adam Smith)
『国富論(または諸国民の富)』(1776)
An Inquiry into the Nature and Causes
of the
Wealth of Nations
第4篇 第 2 章
国内でも生産できる財貨を外国から輸入することにた
いする制限について
1723-1790
BOOK IV Chapter Ⅱ
OF RESTRAINTS UPON THE IMPORTATION
FROM FOREIGN COUNGRIES OF SUCH GOODS
AS CAN BE PRODUCED AT HOME
10
He generally, indeed, neither intends to promote the public interest,
nor knows how much he is promoting it. By preferring the support
of domestic to that of foreign industry, he intends only his own
security; and by directing that industry in such a manner as its
produce may be of the greatest value, he intends only his own gain,
and he is in this, as in many other cases, led by an invisible hand to
promote an end which was no part of his intention. Nor is it always
the worse for the society that it was no part of it. By pursuing his
own interest he frequently promotes that of the society more
effectually than when he really intends to promote it. I have never
known much good done by those who affected to trade for the public
good. It is an affectation, indeed, not very common among
merchants, and very few words need be employed in dissuading
them from it.
11
もちろん、かれは、普通、社会公共の利益を増進しようなどと意図しているわけでもない
し、また、自分が社会の利益をどれだけ増進しているのかも知っているわけではない。外
国の産業よりも国内の産業を維持するのは、ただ自分自身の安全を思ってのことである。
そして、生産物が最大の価値をもつように産業を運営するのは、自分自身の利益のためな
のである。だが、こうすることによって、かれは、他の多くの場合と同じく、この場合に
も、見えざる手に導かれて、自分では意図してもいなかった一目的を促進することになる。
かれがこの目的をまったく意図していなかったということは、その社会にとって、かれが
これを意図していた場合に比べて、かならずしも悪いことではない。社会の利益を増進し
ようと思い込んでいる場合よりも、自分自身の利益を追求するほうが、はるかに有効に社
会の利益を増進することがしばしばある。社会のためにやるのだと称して商売している徒
輩が、社会の福祉を真に増進したというような話は、いまだかつて聞いたことがない。も
っとも、こうしたもったいぶった態度は、商人のあいだでは通例あまり見られないから、
かれらを説得して、それをやめさせるのは、べつに骨の折れることではない。
(大河内一男監訳『国富論Ⅱ』中公文庫)
12
(問題 1-1)市場メカニズム(
「見えざる手」
)を「正常」に機能
させるためには、どのような取引ルールや規制体系を
整備するべきであろうか。また、そのルールや規制は
政府が整備すべきであろうか、民間が自主的に整備す
べきであろうか。
対策
問題
民間
政府
企業
業界団体
法律
政府系機関
(鶏肉)産地偽装
流通業者
日本食鳥協会
JAS 法、不正競争防止法
農林水産安全技術センター
インサイダー取引
証券会社
東証の自主規制法人
証券取引法
証券取引法等監視委員会
欠陥住宅
不動産会社
住宅性能評価・表示
住宅の品質確保の促進に
協会
関する法律(品確法)
住宅紛争処理支援センター
13
(問題 1-2)
「小さな政府」と「大きな政府」との関連性について
(1)所得再分配の大きさ、
(2)価格と供給量決定に対する政府の関与の大きさ、
(3)取引ルールや規制体系などの整備への政府の関与の大きさ、
という 3 つの観点から比較検討しなさい。
14
<経済システムの分類>
価格・供給量
取引ルール
決定への
作成への
政府の関与
政府の関与
小
小
中
所得再分配
小
中
大
米国(ブッシュ)
米国(ブッシュ前) 米国(オバマ)
カナダ
英国
ドイツ フィンランド
フランス
スウェーデン
日本
中
デンマーク
ロシア
中国(鄧 小平 後)
大
大
ソ連
中国(鄧 小平 前)
ソ連 ロシア
中国(鄧
小平
デンマーク
前)フィンランド
中国(鄧
スウェーデン
小平
後) フランス
ドイツ カナダ
米国(ブッシュ前)
米国(ブッシュ)
日本
15
(資料)平成17年度 『年次経済財政報告』第2章 「官から民へ-政府部門の再構築とその課題」
16
(資料)平成17年度 『年次経済財政報告』第2章 「官から民へ-政府部門の再構築とその課題」
17
(資料)平成17年度 『年次経済財政報告』第2章 「官から民へ-政府部門の再構築とその課題」
18
(1) 所得再分配の大きさ
⇒社会保障・公的年金(15章~17章) 、税(18章~23章)
(2) 純粋公共財以外への財供給への政府の関与の大きさ
⇒外部性(13章、14章)
(3) 私的財の市場の取引ルール作成に関連する政府の関与の大きさ
⇒社会保障(15章)
19
1.2 エッジワース(Edgeworth)の箱と実現可能な資源配分
交換モデル(2 財、2 人)を用いて交換の効率性について検討する。
x i :個人iの財 x の消費量( i  A, B )
yi :財 y の消費量( i  A, B )。
ci  ( xi , yi ) :個人iの消費点
Ci  {ci  ( xi , yi ) | xi  0, yi  0}
:個人iの消費平面(あるいは消費集合(consumption set))
:横軸を x i 、縦軸を yi とした平面の xi  0 かつ yi  0 の領域
Oi :消費平面の原点
20
yi
Oi
Ci  {ci  ( xi , yi ) | xi  0, yi  0}
xi
21
x i :個人iの財 x の初期保有量(initial endowment)
yi :個人iの財 y の初期保有量
wi  ( xi , yi ) :個人iの初期保有量の組(=初期保有(点)))
Edgeworth
1845-1926
「エッジワースの箱型図(box diagram)」とは、個人 A の消費平面の上に個人 B の消費平面
を次の条件を満たすように重ねたときにできる 4 つの軸で表現される図である。
i. 軸 x A と軸 x B が反対向きで平行になっている。
ii. 個人 A の初期保有点 w A と個人 B の初期保有点 wB が重なっている。
また、これらの 4 つの軸で囲まれる長方形は「エッジワースの箱」と呼ばれる。
22
x i :個人iの財 x の初期保有量(initial endowment)
yi :個人iの財 y の初期保有量
wi  ( xi , yi ) :個人iの初期保有量の組(=初期保有(点)))
yi
yi
 wi
Oi
xi
xi
w  (wA , wB ) :資源の初期保有配分
(=各個人の初期保有のパターン)
23
Edgeworth
1845-1926
「エッジワースの箱型図(box diagram)」とは、個人 A の消費平面の上に個人 B の消費平面
を次の条件を満たすように重ねたときにできる 4 つの軸で表現される図である。
i. 軸 x A と軸 x B が反対向きで平行になっている。
ii. 個人 A の初期保有点 w A と個人 B の初期保有点 wB が重なっている。
また、これらの 4 つの軸で囲まれる長方形は「エッジワースの箱」と呼ばれる。
24
(問題 1-3)エッジワースの箱型図のなかに、 x A 、 x B 、 y A 、 y B を図示しなさい。
yA
 wA
OA
xA
25
yB
 wB
OB
xB
26
xB
OB
 wB
yB
27
(問題 1-3)エッジワースの箱型図のなかに、 x A 、 x B 、 y A 、 y B を図示しなさい。
yA
xB
?
xB
yA
?
 wA (wB )
OA
xA
?
OB
yB
?
yA?
 yB
xA
yB
xA ?
 xB
28
a  (cA , cB ) :資源配分(resource allocation)
ci  ( xi , yi ) :個人iの消費点
a が「実現可能」であるとは、
x A  xB  x A  xB
y A  yB  y A  yB
(1-1)
(1-2)
の条件を満たすことである。そして、(1-1)と(1-2)は
c A  cB  wA  wB
と 1 つの式で表すこともできる。
cA  cB  ( xA  xB , y A  yB )
wi  ( xi , yi ) :個人iの初期保点
wA  wB  ( xA  xB , y A  yB )
したがって、実現可能な資源配分 a を、
a  (c A , wA  wB  c A )
と表すこともできる。
資源の初期保有配分 w  (wA , wB ) が与えられたもとでのエッジワースの箱を、個人 A の消
w
費平面上で表現したものを E とおけば、次のように定義できる。
E w  {c A  ( x A , y A )  C A | x A  x A  xB かつ y A  y A  y B }
(1-3)
29
E w  {c A  ( x A , y A )  C A | x A  x A  xB かつ y A  y A  y B }
yA
xB
xB
yA
 wA (wB )
OA
xA
OB
yB
y A  yB
xA
yB
x A  xB
30
1.3
効用関数と選好集合
消費 c i にある実数値 u i を対応させる関数 ui  U i (ci ) が、次の 2 つの関係を満たすとき個人
i の「効用関数(utility function)」と呼ぶことにする。
① 「個人 i が消費 c i1 を ci2 より選好する(好む)」とき U i (ci1 )  U i (ci2 ) である。
② 「個人 i にとって消費 c i1 と ci2 が無差別である」とき U i (ci1 )  U i (ci2 ) である。
以下では、効用関数 ui  U i (ci ) で、個人 i の選好(あるいは好み)が表現できるとする。
消費 c i1 よりも個人 i にとって選好(preference)される消費の集合(領域)を「選好集合」と呼
び、 Pi (ci1 ) と表すことにする。すなわち、
Pi (ci1 )  {ci  Ci | U i (ci )  U i (ci1 )}
である。ここに、 Ci は個人 i の「消費平面(あるいは消費集合)
」である。
(1-4)
31
yi
Pi (ci1 )
 ci1
Oi
xi
32
<クイズ1>
X  {2, 3, 5} 、 Y  {3, 4, 5, 6} のとき、
① X に含まれる集合を下の選択肢の中から選びなさい。
② Y  {3, 4, 5, 6} に含まれる集合を下の選択肢の中から選びなさい。
③ X  Y を下の選択肢の中から選びなさい。
④ X  Y を下の選択肢の中から選びなさい。
a. {3, 5} 、b. {3, 4, 5} 、c. {2, 3, 4, 5} 、d. {2, 3, 4, 5, 6}
① a
② a 、b
③ a
④ d
33
選好は「単調性(monotonicity)」を満たすとする。すなわち、
L (ci1 )  {ci  ( xi , yi )  Ci | xi1  xiかつyi1  yi }
(1-5)
とおいて、
L (ci1 )  Pi (ci1 )
(1-6)
を仮定する。
個人 i にとって消費 c i1 と無差別な消費の集合(領域)を「無差別集合(indifference set)」と呼
び、 I i (ci1 ) と表すことにする。すなわち、
I i (ci1 )  {ci  Ci | U i (ci )  U i (ci1 )}
(1-7)
である。
そして、個人 i にとって消費 c i1 よりも選好されるかまたは c i1 と無差別な消費の集合(領域)
を Pi (ci1 ) と表すことにする。すなわち、
Pi (ci1 )  {ci  Ci | Ui (ci )  Ui (ci1 )}  Pi (ci1 )  I i (ci1 )
である。そして、 Pi (ci1 ) を「弱選好集合」と呼ぶことにする
(1-8)
34
L (ci1 )
yi
Pi (ci1 )
 ci1
Oi
xi
35
一般的に、集合 X が「領域(平面上の点の集合)」であるとき、「点 a が集合 X の内点である」
とは、 a を中心とする円で X に含まれるものが存在する」ことである。
X o = X の内点を集めた集合
= X の内部(interior)
点 a が集合 X の内点である。
a
Xo
 a
点 a が集合 X の内点ではない。
36
<クイズ 2>
x y 平面上の集合 X が X  {( x, y) | x 2  y 2  1}(すなわち、 X が原点を中心とする半径 1 の
円)のとき、 X の内部 X o を求めなさい。
X o  {( x, y) | x 2  y 2  1}
37
「単調性」の仮定のもとでは、無差別集合には「内部」が存在しないので、以下では I i (ci1 )
を「無差別曲線」と呼ぶこともある。
(問題 1-4)
「単調性」の仮定より、無差別集合 I i (ci1 ) に内部が存在しないことを、図を用
いて説明しなさい。
背理法で説明しよう。そのために、無差別集合 I i (ci1 ) に内部が存在すると仮定する。その
とき、 ci  I i (ci ) となる ci を中心とする円で I i (ci1 ) に含まれるものが存在する。そして、
2
1
2
2
2
その円を B(ci ) と表すことにする。さらに、円 B(ci ) に含まれるとともに、どちらの財の
2

2
消費量も中心 ci よりも大きい消費点の存在する領域を B (ci ) と表すことにする。そのとき、
B (ci2 )  B(ci2 )  Ii (ci1 ) かつ I i (ci2 )  I i (ci1 ) なので、
B (ci2 )  Ii (ci2 )
(*)
である。また、
「単調性」の仮定のもとでは、
(**)
B (ci2 )  L (ci2 )  Pi (ci2 )
2
2
である。しかし、 I i (ci ) と Pi (ci ) の定義より、 (*)と(**)が同時に成立することはあり
得ない。そして、このような矛盾は I i (ci1 ) に内部が存在すると仮定したことから生じたも
のである。したがって、無差別集合 I i (ci1 ) に内部は存在しないことになる。
38
yi
Pi (ci1 )
 ci1
Oi
xi
I i (ci1 )  {ci  Ci | U i (ci )  U i (ci1 )}
39
1.4
パレート効率性と選好集合
状態 j の資源配分を a j  (c Aj , cBj ) と表すことにする( j  1, 2 )。そのとき、
「資源配分 a 2 が
資源配分 a1 をパレート改善(Pareto improvement)する」とは、「資源配分 a 2 の方が資源
配分 a1 よりも、全ての個人にとって効用が低くはなく、少なくとも1人の個人にとっては
効用が高い」ことである。言い換えれば、
「 a 2 が a1 をパレート改善する」とは、次の「①
または②」である。なお、
① 「個人 A にとっては c A2 の方が c1A よりも効用が高く」かつ「個人 B にとっては cB2 の
方が c1B よりも効用が低くはない」
② 「個人 A にとっては c A2 の方が c1A よりも効用が低くはなく」かつ「個人 B にとって
は cB2 の方が c1B よりも効用が高い」
である。したがって、 a 2 が a1 をパレート改善することを、選好集合 Pi (ci1 ) と弱選好集合
Pi (ci1 ) を用いて、次のように表現することができる( i  A, B )。
『「 c A2  PA (c1A ) かつ cB2  PB (c1B ) 」または「 c A2  PA (c1A ) かつ c B2  PB (c1B ) 」』(1-9)
40
「資源配分 a1 はパレート効率的(efficient)またはパレート最適(optimal)である」とは
「資源配分 a1 をパレート改善する資源配分は存在しない」ことである。
1
言い換えると、 a がパレート効率的であるとは「ある個人の効用水準を高くするには、他
の個人の効用水準を低下させることなしにはできない」ことである。
41
(実現可能な)資源配分の効率性をエッジワースの箱を用いて検討するために、個人 A と
個人 B の選好集合、弱選好集合、無差別曲線などを同じ消費平面上で表現したい。
そこで、個人 i の選好集合 Pi (ci1 ) を、エッジワースの箱 E w (の内部と辺上)に制限して、
個人 A の消費平面上で捉えたものを Pi w (ci1 ) とおけば、 E w  C A なので、
Pi w (ci1 )  {c A  E w | ci  Pi (ci1 )かつ c A  cB  wA  wB }
である( i  A, B )
。
(1-10)
CA  {cA  ( xA , y A ) | xA  0, y A  0}
E w  {c A  ( x A , y A )  C A | x A  x A  xB かつ y A  y A  y B }
また、同様にして、エッジワースの箱 E w に制限して、個人 A の消費平面上で捉えた弱選好
集合 Pi w (ci1 ) と差別曲線 I iw (ci1 ) は、次のように定義される。
Pi w (ci1 )  {c A  E w | ci  Pi (ci1 )かつ c A  cB  wA  wB }
I iw (ci1 )  {c A  E w | ci  I i (ci1 )かつ c A  cB  wA  wB }
(1-11)
(1-12)
42
yA
PAw (c1A )
xB
 c1A (c1B )
PBw (c1B )
I Aw (c1A )
xA
I Bw (c1B )
yB
43
(問題 1-5)資源の初期保有配分が w  (wA , wB )  ((x A , y A ), ( x B , y B ))  ((5, 2), (1,12)) で
あるとする。そのとき、a1  (c1A , c1B )  ((x1A , y1A ), ( x1B , y1B )) = ((3, 6), (3, 8)) が実現
可 能 な 資 源 配 分 で あ る こ とを 確 認 し なさ い 。 次 に 、 個人 A の 効 用 関 数 が
u A  min(2 x A , y A ) のときの PA (c1A ) と I A (c1A ) を求めなさい。また、個人 B の効
用関数が u B  2 x B  y B であるときの PB (c1B ) と I B (c1B ) を求めなさい。さらに、個
人 A の消費平面上に E w 、 PAw (c1A ) 、 PBw (c1B ) を図示しなさい。
PA (c1A )  {( xA , y A ) | min(2xA , y A )  6}
I A (c1A )  {( xA , y A ) | min(2xA , y A )  6}
PB (c1B )  {( xB , yB ) | 2xB  yB  14}
I B (c1B )  {( xB , yB ) | 2xB  yB  14}
44
以上の記号を用いれば、実現可能な資源配分 a j  (c Aj , cBj ) のパレート効率性に関する議論
を個人 A の消費平面上で展開することができる( j  1, 2 )
。
「資源配分 a1 をパレート改善する資源配分の集合(領域)」を「パレート改善集合」と呼び
P w (a1 ) とおく。すなわち、
P w (a1 )  PAw (c1A )  PBw (c1B )  PAw (c1A )  PBw (c1B )

 

(1-13)
である。
「資源配分 a 2 が a1 をパレート改善する」ことを c A2  P w (a1 ) と表すことができる。
空集合(要素を全く含まない集合)を  とおけば、
「資源配分 a1 がパレート効率的である」こ
とを、
P w (a1 )  
(1-14)
と表すことができる。
45
「両方の個人が a1 より好む資源配分の集合(領域)」を「強パレート改善集合」と呼び P w (a1 )
とおく。すなわち、
P w (a1 )  PAw (c1A )  PBw (c1B )
(1-15)
である。
そのとき、(1-10)、(1-11)、(1-13)、(1-15)より P w (a1 )  P w (a1 ) なので、 a1  (c1A , c1B ) に
関して、次の結果が成立する。
「 P w (a1 )   のとき、 a1 がパレート効率的でない。
」
(1-16)
(問題 1-6)下のエッジワースの箱型図にある資源配分 a j  (c Aj , cBj ) ( j  2, 3,4 )の中で資
源配分 a1  (c1A , c1B ) をパレート改善する資源配分はどれかを、理由とともに答えな
さい。
yA
PAw (c1A )
xB
 c 1A
 c A4
 c 3A
PBw (c1B )
 c A2
I Aw (c1A )
xA
I Bw (c1B )
yB
46
「単調性」の仮定(1-6)より、無差別集合 I i (ci1 ) は内部が存在しない集合(すなわち曲線)
だから、(1-14)を考慮すれば、次の結果を導くことができる。
「 P w (a1 )   かつ P w (a1 )  ( E w ) o のとき、 a1 はパレート効率的である。
」
(1-17)
(問題 1-7)(1-17)が成立することを、図を用いて説明しなさい。また、問題 1-5 で与えら
れ た 効 用 関 数 と 資 源 の 初 期 保 有 配 分 の も と で 、 資 源 配 分 a1  (c1A , c1B ) 
((x1A , y1A ), ( x1B , y1B )) = ((6,14), (0, 0)) は P w (a1 )   を満たすがパレート効率的で
ないことを確かめなさい。
47
1.5
効率的な資源配分と限界代替率
消費点 c i を通る個人iの無差別曲線 I i (ci1 ) の点 c i1 における接線が存在しているならば、限
界代替率は次のように定義される。なお、 ci1  ( xi1 , yi1 ) である。
「個人 i の消費点 c i1 における限界代替率 MRSi (ci1 ) (marginal rate of substitution)」とは
「消費点 c i1 を通る個人iの無差別曲線 I i (ci1 ) の点 c i1 における接線の傾き」である。
(問題 1-8)「個人iのある消費点 ci1  ( xi1 , yi1 ) 」における限界代替率 MRSi (ci1 ) を、x i yi 平
面に図示しなさい。
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(問題 1-8)「個人iのある消費点 ci1  ( xi1 , yi1 ) 」における限界代替率 MRSi (ci1 ) を、x i yi 平
面に図示しなさい。
yi
yi1
ci1  ( xi1 , yi1 )
MRSi (ci0 )
xi1
・・
xi
I i (ci0 )
「資源配分 a  (c A , c B ) 」における個人iの限界代替率 MRSi (a)
=個人iの消費点 c i における限界代替率 MRSi (ci ) ( i  A, B )
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この節では、選好が凸性を満たすこと、すなわち任意の c i1 に関して「 Pi (ci1 ) に含まれる任
意の 2 点 ci2 と ci3 を結ぶ線分は Pi (ci1 ) に含まれる」ことを仮定する。
Pi (ci1 )
 ci2
 ci1
 ci3
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また以下この節では、両方の個人について限界代替率 MRSi (ci1 ) が存在する資源配分
a1  (c1A , c1B ) に着目する。
そのとき、
「単調性」の仮定より、 a1  (c1A , c1B ) に関して、次の関係を導出すことができ
る。
「 P w (a1 )   ⇒ MRSA (c1A )  MRSB (c1B ) 」
(1-18)
(問題 1-9*)(1-18)が成立することを、図を用いて説明しなさい。
(ヒント)たとえば、 PAw (c1A )  PBw (c1B )   ならば PAw (c1A )  PBw (c1B ) に含まれる
円が存在する。そこで、 c1A を通りその円に接する 2 つの接線を考える。
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<レンズ型が c1Aの右下にあるケース>
yA
xB
MRSB (c1B )
 c1A
2
 cA
PAw (c1A )  PBw (c1B )  
I Aw (c1A )
MRSA (c1A )
xA
I Bw (c1B )
yB
MRSA (c1A )  MRSB (c1B )
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c1A  ( E w ) o の場合は、
P w (a1 )   ⇒ P w (a1 )  (E w ) o
(1-19)
1
1
1
が成立する。したがって、(1-17)、「(1-18)の対偶」
、(1-19)より、 a  (c A , cB ) に関して、
「 MRSA (c1A ) = MRSB (c1B ) のとき、 a1 がパレート効率的である」
(1-20)
が導かれることになる。
「 P w (a1 )   かつ P w (a1 )  ( E w ) o のとき、 a1 はパレート効率的である。
」 (1-17)
「 P w (a1 )  
(1-18)
MRSA (c1A ) = MRSB (c1B )
⇒
MRSA (c1A )  MRSB (c1B ) 」
(1-18)
P w (a 1 )  
(1-19)
(1-17)
1
「 a がパレート効率的である」
P w (a1 )  (E w ) o
c1A  ( E w ) o の場合も、 MRSA (c1A ) = MRSB (c1B ) ならば単調性より(1-14)が成立するので、
(1-20)が成立する。
P w (a1 )  
(1-14)
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資源配分 a1  (c1A , c1B ) に関して、(1-16)より、次の性質を導くことができる。
「 MRSA (c1A )  MRSB (c1B ) のとき、 a1 がパレート効率的でない」
(1-21)
「 P w (a1 )   のとき、 a1 がパレート効率的でない。
」
(1-16)
MRSA (c1A )  MRSB (c1B )
P w (a1 )  
(問題 1-10*)
1
」
「 a がパレート効率的でない。
(1-16)
(問題 1-10*) MRSA (c1A )  MRSB (c1B ) のとき P w (a1 )   となることを、図を用いて説
明しなさい。
(ヒント) MRSA (c1A )  MRSB (c1B ) のときは c1A  ( E w ) o なので、点 c i1 と無差別曲線
I i (ci1 ) 上の点 c i1 の両側にある 2 点 ci2 、 ci3 で作られる三角形の(辺と内部の)
領域を ci1ci2 ci3 と表すことにする( i  A, B )。そのとき、点 ci2 と ci3 を c i1 に近
づけることで、 (c1A c A2 c 3A ) o  (c1B cB2 cB3 ) o   とできる。
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1.厚生経済学の基本定理 1
1.1 アダム・スミスの『国富論』
1.2 エッジワース(Edgeworth)の箱と実現可能な資源配分
1.3
効用関数と選好集合
1.4
パレート効率性と選好集合
1.5 効率的な資源配分と限界代替率
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