公共経済学

公共経済理論研究
三井 清
「公共経済学(第1学期)
;三井」の運営方法
【講義のねらい(第 1 学期)
】
1.
政府の支出政策の役割について
2.
市場メカニズムの機能や政治メカニズムの機能について
【講義内容(第 1 学期)
】
(1) 厚生経済学の基本定理 1(第 3 章)4/17
(2) 厚生経済学の基本定理 2(第 3 章)4/24
(3) 公共財 1(第 6 章)5/1
(4) 公共財 2(第 6 章)5/8
(5) リンダール・メカニズムとフリーライダー問題(第 7 章)5/22
(6) 投票のパラドックスと一般(不)可能性定理(第 7 章)5/29
(7) 多数決投票と公共財供給(第 7 章)6/5
(8) 消費者余剰と等価変分・補償変分 6/12
(9) 補償原理とマスグレイブ主義政策論 6/19
(10) 費用・便益分析 1(第 11 章)6/26
(11) 費用・便益分析 2(第 11 章)7/3
(12) 費用・便益分析 3 とまとめ(第 11 章)7/10
【参考書(第1学期)
】
スティグリッツ
『公共経済学(上):公共部門・公共支出』第 2 版
東洋経済新報社
【成績評価の方法(通年)
】基本的に定期試験と宿題で成績を評価する。成績は定期試験が
80 点、宿題が 20 点の合計 100 点満点で評価される。また、3 年生以上の学生に限り、
レポートが提出されていれば、定期試験と宿題の合計点が 40 点以上 50 点未満のとき
に限り 10 点満点でレポートが評価される。
○ 成績評価のための「総合得点」は、①定期試験、②宿題、③レポート、④講義への貢
献、の4つの得点の合計である。なお、配点は以下の通りである。
① 定期試験
:40 点×2 回
② 宿題
:10 点×2 回
③ 講義への貢献
:2 点×貢献回数(上限 5 回)
④ レポート
:10 点×1回(単位取得に関わる場合にのみ考慮)
○「講義への貢献」とは以下の2つである。また、その講義の終了後にサインをした場
合のみポイントが与えられる。
① 講義中に板書や言葉による説明の間違いを指摘する。
② 講義中に(講義の内容に関する適確な)質問をしたり意見を述べたりする。
③ HPにupされた資料のミスプリなどを指摘する(メールでの指摘も可)。
【ホームページ】
http://www-cc.gakushuin.ac.jp/~20040012/index.htm
【メールのアドレス】
[email protected]
1.厚生経済学の基本定理 1
1.1 エッジワース(・ボウリー)の箱(ボックス・ダイアグラム)
1.2 実現可能な資源配分(resource allocation)
1.3 パレート改善とパレート効率性
1.4 効率的な資源配分と限界代替率
アダム・スミス(Adam Smith)
『国富論(または諸国民の富)』(1776)
An Inquiry into the Nature and Causes
of the
Wealth of Nations
第4篇 第 2 章
国内でも生産できる財貨を外国から輸入することにた
いする制限について
BOOK IV Chapter Ⅱ
OF RESTRAINTS UPON THE IMPORTATION
FROM FOREIGN COUNGRIES OF SUCH GOODS
AS CAN BE PRODUCED AT HOME
1723-1790
もちろん、かれは、普通、社会公共の利益を増進しようなどと意図しているわけでもない
し、また、自分が社会の利益をどれだけ増進しているのかも知っているわけではない。外
国の産業よりも国内の産業を維持するのは、ただ自分自身の安全を思ってのことである。
そして、生産物が最大の価値をもつように産業を運営するのは、自分自身の利益のためな
のである。だが、こうすることによって、かれは、他の多くの場合と同じく、この場合に
も、見えざる手に導かれて、自分では意図してもいなかった一目的を促進することになる。
かれがこの目的をまったく意図していなかったということは、その社会にとって、かれが
これを意図していた場合に比べて、かならずしも悪いことではない。社会の利益を増進し
ようと思い込んでいる場合よりも、自分自身の利益を追求するほうが、はるかに有効に社
会の利益を増進することがしばしばある。社会のためにやるのだと称して商売している徒
輩が、社会の福祉を真に増進したというような話は、いまだかつて聞いたことがない。も
っとも、こうしたもったいぶった態度は、商人のあいだでは通例あまり見られないから、
かれらを説得して、それをやめさせるのは、べつに骨の折れることではない。
(大河内一男監訳『国富論Ⅱ』中公文庫)
He generally, indeed, neither intends to promote the public interest,
nor knows how much he is promoting it. By preferring the support
of domestic to that of foreign industry, he intends only his own
security; and by directing that industry in such a manner as its
produce may be of the greatest value, he intends only his own gain,
and he is in this, as in many other cases, led by an invisible hand to
promote an end which was no part of his intention. Nor is it always
the worse for the society that it was no part of it. By pursuing his
own interest he frequently promotes that of the society more
effectually than when he really intends to promote it. I have never
known much good done by those who affected to trade for the public
good. It is an affectation, indeed, not very common among
merchants, and very few words need be employed in dissuading
them from it.
交換モデル(2 財、2 人)を用いて交換の効率性について検討しよう。
1.1 エッジワースの箱(ボックス・ダイアグラム)
x i =個人iの財xの消費量( i  A, B )
yi =個人iの財yの消費量( i  A, B )
「個人iの消費平面」=横軸を x i 、縦軸を yi とした平面
Oi =個人iの消費平面の原点
ci  ( xi , yi ) :個人iの消費点(=消費の組み合わせ)
Edgeworth
1845-1926
x i =個人iの財xの初期保有量
x  x A  x B :財xの消費可能量
yi =個人iの財yの初期保有量
y  y A  y B :財yの消費可能量
Wi  ( xi , yi ) :個人iの初期保有量(=個人iの初期保有点)
W  (WA ,WB ) :(両個人の)初期保有量の組合せ(=初期保有点)
「エッジワースの箱」
=個人 A の消費平面の上に個人 B の消費平面を次の条件を満たしつつ重ねたもの
i)軸 x A と軸 x B が反対向きで平行になっている。
ii)個人 A の初期保有点 W A と個人 B の初期保有点 W B が重なっている。
(問題 1-1)エッジワースの箱を図示しなさい。
yA
xB
OB
W
xA
OA
yB
(問題 1-1)エッジワースのボックス・ダイアグラムを図示しなさい。
yA
WA
OA
xA
(問題 1-1)エッジワースのボックス・ダイアグラムを図示しなさい。
yB
WB
OB
xB
(問題 1-1)エッジワースのボックス・ダイアグラムを図示しなさい。
xB
OB
WB
yB
(問題 1-1)エッジワースのボックス・ダイアグラムを図示しなさい。
yA
xB
?
xB
y?A
W
OA
x?A
OB
yB
?
xA
yB
x A?
 xB  x
y?
A  yB  y
1.2 実現可能な資源配分(resource allocation)
(c A , cB ) あるいは資源配分 ((x A , y A ), ( x B , y B )) が「実現可能」であると
次の条件を満たすことである。
x A  x B  x A  x B [ x ]
y A  y B  y A  y B [ y ]
(問題 1-2)エッジワースのボックス・ダイアグラムの内の点 a1 で実現可能な資源配分
(c1A , c1B ) あるいは (( x1A , y1A ), ( x1B , y1B )) を表すことができることを、図を用いて説明しなさい。
yA
?
x1B
xB
OB
(c1A , c1B )
?
y1A
OA
y1A  y1B  y
y1B
?
a
1
?
x1A
問題1-1
xA
yB
x1A  x1B  x
以下では、実現可能な資源配分に議論を限定するとともに、資源配分 (c1A , c1B ) のことを資源
配分 a1 と表現することもある。
1.3 パレート改善とパレート効率性
(Vilfredo Federico Damaso Pareto、1848-1923 )
個人iは「資源配分 a1  (c1A , c1B ) 」の方が「 a 2  (c A2 , cB2 ) 」よりも効用が高い(好ましい)。
=個人iは消費の組み合わせ c i1 のほうが ci2 よりも効用が高い(好ましい)
。
資源配分 a は資源配分 a を「パレート改善(Pareto improvement)
」する。
2
1
1
2
=資源配分 a の方が資源配分 a よりも、全ての個人にとって効用が低くはなく、少な
くとも1人の個人にとっては効用が高い。
資源配分 a は「パレート効率的(Pareto efficient)」である。
=資源配分 a をパレート改善する資源配分は存在しない。
=ある個人の効用水準を低下させることなしに、別の個人の効用水準を高くすること
ができない。
I i (ci ) =消費点 c i を通る個人 i の無差別曲線(indifference curve)
I i (a) =資源配分 a を通る個人 i の無差別曲線=「資源配分 a  (c A , cB ) 」のときの I i (ci )
エッジワースの箱は「 I i (a) を境界線とする① I i (a) と原点 Oi の両方を含まない領域 Pi (a )
と② I i (a) と原点 Oi の両方を含む領域 Pi C (a) 」の2つの領域に分割される。(補集合=Complement)
Pi (a) =個人 i が資源配分 a よりも好む(prefer)資源配分の存在する領域
PiC (a) =個人 i が資源配分 a よりも好まないか、無差別な資源配分の存在する領域
yA
xB
PA (a )
 a
PAC (a)
I A (a )
xA
OA
yB
(問題 1-3) PA (a) と PB (a) の共通部分(レンズ型の部分)が存在するとき、資源配分 a が
パレート効率的でない(すなわち、資源配分 a をパレート改善する資源配分が存
在する)ことを、図を用いて説明しなさい。(ヒント) PA (a) と PB (a) を図示し
1
2
3
なさい。資源配分 a 、 a 、 a の中で、資源配分 a をパレート改善する資源配分
はどれであろうか。
図より
定義より
yA
パレート改善する資源配分が存在する。
xB
PA (a )
 a3
 a
 a2
 a1
I A (a)
xA
PB (a)
I B (a)
yB
(問題 1-4) PA (a) と PB (a) の共通部分(レンズ型の部分)が存在しないとき、資源配分 a
がパレート効率的であることを、図を用いて説明しなさい。 図より
yA
定義より
xB
パレート改善する資源配分は存在しない。
PA (a )
 a
I A (a)
xA
PB (a)
I B (a)
yB
1.4 効率的な資源配分と限界代替率
消費点 c i を通る個人iの無差別曲線 I i (ci ) の点 c i における接線が存在しているならば、限
界代替率は次のように定義される。
個人 i の消費点 c i における限界代替率 MRSi (ci ) (marginal rate of substitution)
=消費点 c i を通る個人iの無差別曲線 I i (ci ) の点 c i における接線の傾き
≒個人 i が財xの消費量を1単位減少させたときに、
効用水準を維持するために必要な財yの消費量の増分
(問題 1-5)
「個人iのある消費点 ci0  ( xi0 , yi0 ) 」における限界代替率 MRSi (ci0 ) を図示し
なさい。
yi
yi0
ci0  ( xi0 , yi0 )
MRSi (ci0 )
xi0
I i (ci0 )
xi
「資源配分 a  (c A , c B ) 」における個人iの限界代替率 MRSi (a)
=個人iの消費点 c i における限界代替率 MRSi (ci ) ( i  A, B )
(問題 1-6) PA (a) と PB (a) の共通部分(レンズ型の部分)が存在するとき、資源配分 a に
おける個人 A の限界代替率 MRSA (a) と個人 B の限界代替率 MRSB (a) が(存在
していれば)異なることを問題 1-3 の図を用いて確認しなさい。
yA
xB
MRSB (a)
 a
IA
MRSA (a)
xA
IB
yB
(問題 1-7)問題 1-4 と問題 1-6 の結果から、
「資源配分 a における個人 A の限界代替率
MRSA (a) と個人 B の限界代替率 MRSB (a) が(存在していて)一致しているとき、
資源配分 a がパレート効率的である」ことを説明しなさい。
(ヒント)問題 1-6 の結果の対偶を考えればよい。なお、命題「pならばq」の対偶
とは「qでないならばpでない」という命題である。そして、ある命題が
正しいときはその命題の対偶も必ず正しい。
MRSA (a) = MRSB (a)
(問題 1-6)の対偶
「 PA (a) と PB (a) の共通部分(レンズ型の部分)が存在しない。
」
(問題 1-4)
「資源配分 a がパレート効率的である。
」
1.厚生経済学の基本定理 1
1.1 エッジワース(・ボウリー)の箱(ボックス・ダイアグラム)
1.2 実現可能な資源配分(resource allocation)
1.3 パレート改善とパレート効率性
1.4 効率的な資源配分と限界代替率