2資産に依存するオプションの 高速・高精度価格計算手法 名古屋大学 計算理工学専攻 高柳健一郎 山本有作 東京大学 情報理工学専攻 杉原正顕 1 発表の概要 1. 2. 3. 4. 5. 6. オプションとは 本研究の目的 従来の数値計算手法 新手法の提案 数値実験 まとめ・今後の課題 2 1.オプションとは 市場変動によるリスクを回避するための金融商品 リスクの例 ・株価下落に伴う資産価値減少 ・為替レート変動に伴う原材料の輸入価格の高騰 IBM株 (2004/2/2~2005/2/2) Yahoo! Finance http://finance.yahoo.com 円/ドル 為替レート (2004/2/2~2005/2/2) 朝日新聞(経済為替欄) http://www.asahi.com/business/exchange.html 3 オプションによる市場変動リスクの回避 オプション = 将来のある時点T(満期)において資産を決まった 価格K(行使価格)で売買する権利 例1 株 企業Aが半年後にB株を売却予定 半年後に1000円で売却できるオプションを購入 → 半年後に下落して1000円未満となっても1000円で売却可能 例2 為替 日本企業Cが3ヵ月後にアメリカから製品原材料を輸入予定 3ヶ月後に為替レート110円/ドルで取引できるオプションを購入 → 3ヶ月後に円安で110円/ドル以上になっても110円/ドルで取引可能 それでは,この権利の値段はいくらにするのが妥当か? オプションの価格評価問題 4 実際に取引されているオプションの例 IBM株のオプション QBトレードの画像を貼り付ける Chicago Board Options Exchange (CBOE) 5 オプションの価格評価 オプションの値段はいくらにするのが妥当か? 満期 T において権利行使により得られる利益(ペイオフ)を 考える (例) 資産 S を満期 T において K 円で購入できるオプション (ヨーロピアン・コール・オプション) (i) ST K ならペイオフは p ( ST ) = ST K (ii) ST K ならペイオフは p ( ST ) = p ( ST ) max( ST K ,0) 0 p ( ST ) (i) (ii) K ST オプション価格 = 資産価格がある確率モデルに従うとした時の ペイオフの(リスク中立測度の下での)期待値 Q( ST ) E[ p ( ST )] 6 資産価格の確率モデル ブラック-ショールズモデル • 資産価格が幾何ブラウン運動に従うと仮定 1.4 "Brown.dat" 1.2 1 dSt dt dX t 0.8 0.6 0.4 : 期待成長率 0.2 0 : ボラティリティ -0.2 -0.4 0 0.2 0.4 0.6 0.8 1 ブラック-ショールズモデルの下でのオプション価格 • ヨーロピアン・コール・オプションに対しては,ペイオフの期待値を 解析的に求めることが可能 ブラック=ショールズ公式 Q( St ) St N (d1 ) Ee r (T t ) N (d 2 ) S 1 log( t ) (r 2 )(T t ) K 2 d1 T t N : 標準正規分布 S 1 log( t ) (r 2 )(T t ) K 2 d2 T t 7 より複雑なオプションの例 2つの資産に依存するオプションとして以下のオプションがあり 広く用いられている スプレッド・オプション • 満期において2つの資産を交換できる権利 • ペイオフ: Q(S1,T , S2,T) = max(S2,T – S1,T – K, 0 ) Maxオプション • 満期において2つの資産のうち高価な方を価格Kで購入出来るオプション • ペイオフ: Q( S1,T , S2,T ) max(max( S1 , S2 ) K ,0) クウォント・オプション • 外国株の株価変動と為替変動リスクを同時に回避するオプション • ペイオフ: Q( S1,T , S2,T ) S1 max( S2 K ,0) 8 より複雑なオプションの例(続き) バリア付きの変種 • バリア = 一方の資産の価格がある閾値(バリアレベル)Hを越えたら オプションの権利が無効になるという特約 • オプションから得られる利益に上限あり → その分価格が安い 1.4 S1 "Brown.dat" 1.2 1 バリアレベルH 0.8 0.6 0.4 この時点で権利消滅 0.2 0 -0.2 -0.4 0 0.2 0.4 0.6 0.8 1 t 2資産に依存するオプション,およびバリア付きの変種では 解析的な価格公式が求められないのが普通 9 2.本研究の目的 2資産に依存するオプション(バリア付きの変種を含む)に 対し,高速・高精度な価格計算手法を開発する そのため,1資産の複雑なオプション計算に有効なDE-FGT 法 (Broadie & Yamamoto, 2004) を2資産に依存する オプションに拡張適用する 10 3.従来の数値計算手法 2資産のブラック=ショールズモデル dS1t 1dt 1dX1 S1t dS2t 2 dt 2 dX 2 S2t : 相関係数 dX 1dX 2 dt 従来法1: モンテカルロ法 権利消失(バリアレベル) • 確率微分方程式を離散化し,(t , X 1 , X 2 ) 空間に 多数のサンプルパスを発生させる • ペイオフの平均値として期待値を近似 1 N Q( ST ) E[ p ( ST )] E[ p( STi )] N i • 実装が簡単 • 計算量: O(N) 1 • 誤差のオーダー: O ( ) N 11 従来の数値計算手法(続き) 従来法2: 2項モデル • 連続的な確率過程を時間・空間が離散的な確率過程で近似 • 各時間ステップにおける S1, S 2 の動きは上昇/下降の2通りのみ • 上昇/下降の大きさは,離散的な過程の2次までのモーメントが連続 的な過程と一致するよう決定 1資産 1/2 uS (u2, B2) 2資産 (u2, AB) (u, B) (u2, A2) S 1/2 dS Dt = N/t Qt(St) = e–rDt E[Qt+Dt(St +Dt) = e–rDt {Qt+Dt(uSt)+ Qt+Dt(dSt)}/2 3 • 2資産の計算量: O ( N ) • 誤差のオーダー: O ( 1 ) N S1 1/4 (ud, AC) (S1, S2) 1/4 S2 (d, C) Dt (d2, C2) 2Dt Qt(S1t, S2t) = e–rDt E[Qt+Dt(S1t +Dt, S2t +Dt)] = e–rDt {Qt +Dt(uS1t, AS2t) + Qt +Dt(uS1t, BS2t) + Qt +Dt(dS1t, CS2t) + Qt +Dt(dS1t, DS2t)}/4 12 4.新手法の提案 基本的なアイディア • 2項モデルの代わりに多項モデルを用いる • 各時間ステップに対し,資産価格の取りうる値が M 個存在 • 1ステップで,どの価格からどの価格へも変化しうると仮定 収束性は2項モデルに比べ向上 ・ ペイオフが解析関数の場合,誤差は M に関して指数的に減少 1資産の場合の 多項モデル DW S Dt t 0 t 1 t2 13 多項モデルの計算式と計算量 計算式 • 変数を (S1t, S2t) から適当な変数 (Y1t, Y2t) に変換すると,価格間の遷移 確率はガウス分布に従う 価格計算式 Qt(Y1t(j), Y2t(k)) = e–rDt E[Qt+Dt(Y1t +Dt, Y2t +Dt)] = e–rDt m1M2 l1M1 Qt +Dt(Y1t+Dt(l), Y2t+Dt(m)) × (1/2p) exp{– (Y1t+Dt(l) – Y1t(j))2 / 2} w1t+Dt(l) × exp{– (Y2t+Dt(m) – Y2t(k))2 / 2} w2t+Dt(m) 1ステップの計算量 1 … … • 1資産の場合: O(M2) • 2資産の場合: O(M4) i … … Dt 計算量が膨大 N t 0 t 1 t2 t k t k 1 t T 14 高速ガウス変換による加速 高速ガウス変換(Fast Gauss Transform)とは • 高速多重極展開法(FMM)の一種 • 次のような数列とガウス分布の離散畳み込み積を O(N) で計算可能 N Qi Pj exp{ j 1 ( xi y j )2 2 2 },(i 1,2, , N) 多項モデルへの適用 • Qt(y1t, y2t) の計算式は,2次元配列とガウス分布との離散畳み込み積 • 高速ガウス変換を y1 ,y2 の両方向に対して行うことで計算可能 計算量を O(M4) → O(M2) に削減 2資産に対するFGT法 15 バリア付きオプションへの適用 バリア付きオプションの場合の問題点 • S1 に対するバリア: S1 > H のとき Qt(S1t, S2t) = 0 • Qt の不連続性により,多項モデルの収束性は大きく低下 • S1 (変換後の変数では Y1)方向の格子点を2重指数型数値積分公式 (DE公式)の標本点に取ることにより,収束性の向上が可能 • 格子点は不等間隔になるが,高速ガウス変換はそのまま適用可 2資産に対するDE-FGT法 Y2 Y2 Y1 Y1 = h Y1 Y1 = h 16 5.数値実験 問題1 Maxオプション パラメータ Q( S1,T , S2,T ) max(max( S1 , S2 ) K ,0) • S1=100, S2=100, K=95, 1=0.1, 2=0.2, q1=0.01, q2=0.02, =0.5, T=0.25 計算機環境 • OS: Windows XP • CPU:Pentium4 1.7GHz • Memory: 256MB 真値との絶対誤差 モンテカルロ法 結果 • FGT法は他の手法に比べ,収束が速い • しかし,誤差には振動が見られた 2項モデル FGT法 誤差の振動の原因 • ペイオフが1階導関数に不連続を持つ • 2資産の場合に固有の問題 17 5.数値実験 問題2 クウォント・オプション Q( S1,T , S2,T ) S1 max( S2 K ,0) パラメータ • S1=50, S2=50, K=40, 1=0.1, 2=0.2, q1=0.01, q2=0.02, =0.5, T=0.25 真値との絶対誤差 結果 • FGT法は極めて速く真の解に収束した モンテカルロ法 2項モデル 収束が速い理由 • ペイオフは1階導関数に不連続を持つが, 不連続点は直線 S2 = K 上のみ • 多項モデルの格子点をこの直線上に取る ことにより,不連続の影響を小さくできる FGT法 18 5.数値実験 問題3 クウォント・オプション Q( S1,T , S2,T ) S1 max( S2 K ,0) (バリア付き) パラメータ • S1=50, S2=50, K=50, 1=0.1, 2=0.2, q1=0.01, q2=0.02, =0.5, T=0.25 • バリアレベル: H=52 (S1に対するバリア) 真値との絶対誤差 モンテカルロ法 2項モデル 結果 • DE-FGT法は他の手法と同程度の時間で2 ~3桁高精度な価格が計算できる • ただし,バリアなしに比べると収束は遅い DE-FGT法 収束が遅くなる理由 • バリアによる不連続の影響はDE公式で回避 • しかし,その結果,格子点がペイオフの1階 導関数の不連続点からずれる 19 6.まとめと今後の課題 まとめ • 多項モデルにDE公式と高速ガウス変換を用いたDE-FGT 法を2資産に依存するオプションに適用した • 数値実験の結果,種々のオプションに対しDE-FGT法は従 来の2項モデル,モンテカルロ法などに比べ高速・高精度 であった 今後の課題 • バリアなしMaxオプションやバリア付オプションの精度向上 • DE-FGT法を3資産以上のオプションに適用・評価 20
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