想像の共同体 - 慶應義塾大学 湘南藤沢

想像の共同体:人口調査、地図、博物館
アジアの植民地時代から近代国家へ
キーワード
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pp274‐275
植民地国家の「文法」 =植民地支配の
イデオロギー + 政策。植民地国家の政治的な構造。
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上記の構造を支持することは植民地国家の「権力」である。
この権力を強固するのは以下の「制度」である。これらの目的は
1. 人口調査→「支配下にある人間たちがだれであるかという性格付
け」。ここでは、肩書きではなく、人の「人種」を特定しようとしてしまう
2.
3.
地図→ 植民地権力が支配し得る領域の地理・地理的な境界
設定
博物館 →支配する領域や支配する権力の系譜とその正統性
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想像の共同体:人口調査、地図、博物館
アンダーソンが指摘する、国家構築に仕える伝達方法
植民地制度・統治
↓
政府による法・規制
↓
教育制度
メディアや表現伝達方法
1.機械的な複写(写真など)の発明は、国民へのイメージ、
テキスト、音の伝達を可能にする
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2.植民地内のマス・メディアの管理や普及
想像の共同体:人口調査、地図、博物館
アンダーソンが指摘する「民族」についての歴史的な疑問:
• 近代ヨーロッパにおける「王朝の多くが拠って立つ正統性の基礎が
国民的なることとおよそ無縁だった」。
主な例:
「ロマノフ王朝はタタール人とラトヴィア人、ドイツ人とアルメニア人、ロ
シア人とフィン人を支配した… これらの王家に一体どこの国籍を
割り振ればよいのか」
結果:
人口調査に基づいている支配制度や施設(教育など)は、ヨーロッパで
考えられていた「人種」および「階級」の範疇と異なるようになるから、
現地の人にとっては
「自分たちを認知しはしなかったであろう」 p277
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想像の共同体:人口調査、地図、博物館
東南アジアの新国家構築の歴史背景
1. インドネシア、ビルマ、ベトナム、ラオスの植民地
統治から独立への制度的な遺産
2. 新しい国家の正統性と制度への三つの必要性:
中心(本国・植民地支配国の政権)~周辺(植民
地又は地方)の間の人の容易な移動
官僚機構
教育制度の普及
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想像の共同体
国家の構築が想像する共同体・民が想像する共同体
王朝又は
植民地統治
新構築の国家
王朝 + 植民地制度 + 近代化
している国家のモデル
国籍の共同体
宗教の共同体
言語の共同体
地理的な共同体
その他
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想像の共同体:人口調査、地図、博物館
I. 人口調査の政治的な意義:
国家の構築への貢献
•
人口調査を発展させてきた歴史状況
人口調査が指摘する範疇と、「想像の共同体」:
1. 調査の対象になる人間(の民族性、層など)・ならない
人間や層 (数えられない人間)
2. 「エスニシティ」の定義、「証明」への疑問
3. 宗教の共同体、国籍の共同体、言語の共同体などと
「国家」という観念との衝突
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想像の共同体:人口調査、地図、博物館
人口調査の意義を示す主な箇所
殖民地時代のインドネシアとフィリピンからの例
• 「一九一一年当時、これらの範疇、下位範疇に分類された人々は…
こういうラベルで自分たちを認知しはしなかったであろう。」
p277
• 植民地支配者は「中国の多様な住民、相互に了解不可能なか
れらの多くの話し言葉、東南アジア沿海部に拡がる華僑居留
地のそれぞれ固有の社会的地理的起源…まるで意にも介さず
…」 p280
従って、人口調査は
①人間の既存の存在や層を反映することではなく、
「発明」された制度
②被支配者を新たに範疇化(カテゴライズ)する制度
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想像の共同体:人口調査、地図、博物館
地図作成の意義を示す主な箇所:
• 近代タイからの例:19世紀の地図・国境をつくる「軍測量士」は、
(p287)
「人口調査が人々を監視したのと同様に、空間の監視をめざし」た。
• インドネシア・ニューギニアの「間」にあるイリヤン・ジャヤの例:
国の名前、国境、人口の特性を決めたのはインドネシア国家
「人類学者、宣教師、地方の役人はンダニ人、アスマット人、バウディ
人のことを知っており…しかし、国家それ自体は、地図にちなんで
「イリアン人」と命名された幻影を見る」 p292
従って、地図作成は
「人口調査は、一種の人口学的三角測量によって、地図の
形式的地形を政治的に埋めた」
p288
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想像の共同体:人口調査、地図、博物館
II. 地図の政治的な意義:
国内外への「国家」の定義や正統性
「地図」を発展させてきた歴史状況
• シャムの例:植民地ではない国の国境は、隣国の植民地
制度によって決定される
• 国境に基づく土地などの資源、人的資源、財産の所有
• 「ロゴ」(=レッテル)としての地図は、国が独自に存在する
記号となる
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地図 つづき
19世紀までのシャムの地図
1. 仏教的宇宙論の地図
仏教による、仏様がいる場所とそこへの遍路を中心にする
タイで作った地図
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•重要なものの違い:
「国境」は示されない
•「国境」よりも大切に
思われる要素は示される
18世紀の「シャム」(タイ)の地図
→
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想像の共同体:人口調査、地図、博物館
人口調査と地図の交差
• 歴史地図:
「区切られた領域」が昔
からあることを示す。
• こうした示し方がその
「領域」を自然化し、領域
の支配を正当化する。
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「言語の共同体」とこれの境界線との違い
灰色の地域:ラオ(ラオ
ス)語を話す人・自分
が「ラオ人」だと自己
報告する人
タイ東北部:1500万人
ラオス:
180万人
赤い線:国家になったか
らの境界線
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想像の共同体:人口調査、地図、博物館
III. 博物館の政治的な意義:
国家を正統化する歴史、国内外へのメッセージ
博物館を発展させてきた歴史状況
• 植民地支配者は、東南アジアにあった文明の遺跡を、
統治における権威をもつ考古学施設・遺跡管理制度に
属させる(=国の歴史を管理する)
• 遺跡管理は統治者による教育制度の普及の一部となっ
て、過去から(今や、統治されている現在へ)の「衰退」
を明らかに現地人に見せつけ、支配の必要を表示する
• 新たな「歴史」や「伝統」をつくって、(支配者の)都合の
よい伝統にし、現地による服従を容易にして行く 14
想像の共同体:人口調査、地図、博物館
博物館の意義を示す主な例:「博物化され」る遺跡 p296
植民地時代から始まった遺跡の考古学的な復旧、そして地図に
記入されること
1. 考古学に認定された大遺跡と教育制度との関係 p295
2. 建設者~原住民、または植民地者~原住民の上下関係
「おまえたちが…偉大なことをなす能力も自治の能力も、もう
なくしてしまった」 p295
3. 遺跡が見せるはずの「歴史」(国家に構築された歴史)を正
統化する
「国家は…その土地特有の<伝統>の護持者として立ち現
れた。」
p296
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