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認知工学
学習科学への適用
中京大学
三宅なほみ
Pragmaticな認知科学
• 実生活で使う道具のUsability engineering
– Don Norman
• 一般市民の知的レベルアップのための
Learning sciences
– Allan Collings, Jim Greeno, John Bransford,
Janet Kolodner…
• 政治的判断のための認知言語学
– George Lakoff
認知科学の未来像
• 科学技術の展開が、新しい人間関係、組織や制
度に対処し、新しい科学技術を「使いこなす」能
力の開発を迫っている。人が自分たち自身の認
知過程を制御できなければ、人の未来はないだ
ろう。100年後があるとすれば、それは人が自分
たちの認知過程の制御の仕方を見つけ出したと
いうことであろうから、その時には、認知科学が科
学の中のマスターサイエンスとなっているだろう。
Toda, M. “The role of psychology in the very distant future,” 改変
Pragmaticな学習科学
• 人はまだ、自分たち自身がどれほどのことを学べ
るのか知らない。学習科学は、新しい学習の理論
を駆使して、人がまだ見たことのないレベルの学
習を可能にしようとする科学である。(Bereiter,
2002)
• 学習科学は、一部の人の知的能力を高めようとす
る科学ではない。人類すべての知的レベルが今ま
で以上に目に見えて向上することを目指した工学
的な科学である。
• 認知科学が人の認知過程について明らかにして
きたことを一般の人が日常的に使える形で獲得す
ることは、上記を可能にする一つの方法である。
学習科学にとって
役立つ認知科学的知見
• さまざまな認知活動(問題解決、言語運用、
記憶、意思決定、日常的判断など)の裏に、
知識の働きがある。
• ほとんどの認知過程は、人が内的に持っ
ている知識と人を取り巻く外界に存在する
外的要因との相互作用である。
何がわかっていれば良かったか、
あるいは今後何を明らかにすべきか
• 人の知識はどのような形で「表現する」こと
ができるか
• 人が知識を獲得する過程はどのようなも
のか
• 人が、持っている知識を、将来適切な場面
で適切な形で使用できるかどうかをどう判
断するか
なぜ明らかになってこなかったのか
• 分析単位の違い
– 個人 対 集団(社会、文化を含む)
• 分析範囲の違い
– 実験時点 対 未来/過去 (歴史)
– 点 対 継時的プロセス
• 研究目的の違い
– ある結果を引き起こす個別「要因」の同定
対
– 多要因の相互作用による「成果」そのもの
学習科学が採用する
認知工学的アプローチ
• 個人が相互に知的レベルを高め合う協調
的なプロセスをデザインし、「知的コミュニ
ティ(文化)」の生成を目的とする
• そこで起きていることを理論化するために、
長期にわたって記録を取り、microgenetic
に分析する(小さな変化の積重ねを明らかにする)
• 期待すべき成果をまず実現するー実現で
きた場合、その要因と要因間の相互作用
のタイプを同定する
新手の知識構成・概念形成研究
• 領域の研究成果の蓄積を、学生自身が自
分たちで知識構成する過程を擬似的にデ
ザインする
– e.g. Dynamic Jigsaw 協調型学習
• 2年間かけて大学生が「認知科学」につい
て学ぶ過程の記録を全部データにする
– ノートの記述、概念地図、会話音声・・・
– 90~180分/week×15回×4セメスタ
×70人×5年
なにがわかりつつあるか(1)
• 専門用語の獲得過程
– 研究資料を関連付けようとする積極的な活動
を通して徐々に安定する(使い方;内容)
• はじめは日常的な用語をつかう
• そのうちに資料内にある専門的な用語を使う
• 専門的な用語はその後も何度も少しずつ異なった
対象に適用されて、内容がはっきりしてくる
• 日常的な用語が専門用語に置き換わることもある
なにがわかりつつあるか(2)
• 用語や理論の理解は、段階を追って協調
的に少しずつわかってゆく
– 資料の内容の大づかみな理解は、比較的初
期にも起きる
– その資料の内容を、他の研究例にもあてはめ
て了解しようとする努力の中で、「わかってい
たものがわからなくなる」
– 他者の言語化、同じ資料についての異なった
解釈などとの比較検討を通して、本人にとって
の「了解」が整理する
なにがわかりつつあるか(3)
• 学期末に見られる成果の多様性
• 総合得点はほぼ同じでも
•
•
•
•
教材の一部に特化して深い理解を示す学生
教材をひたすら網羅的にカバーする学生
学習スキルが付いたことをもっとも誇りとする学生
….
• 「学期末に見られる成果」が見たいわけで
はない
– Retrospective interview
– 学年が進んでからの行動、応用力
– 「将来は?」を問う視点
学習科学の常識
• プロセスの記録がデータである
– プロセスの記録をできるだけ取る
• 成果の評価に多側面からのアプローチが
必要である
• データ・パタンの解釈に、認知科学的な理
論が必要になる
• 出したい結果とやっていることの整合性を
つける