会計学基礎

会計学基礎
4月20日 会計の種類と役割
アウトライン
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企業とは
企業の活動と会計
会計情報は誰が?誰のために?作るのか
企業の所有と経営の分離
経営者から所有者への報告
投資家への情報提供
情報の非対称性
企業とは
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会計とは何か、を定義する前に企業とは何をし
ているのかを考えてみる
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(注)会計には、企業の会計の他に政府・自治体の会
計や非営利組織の会計など、いろいろな組織のため
の会計があるが、この授業では(特に指定しない限り
)企業、とりわけ株式会社の会計を取り扱う
企業とは
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企業(とりわけ株式会社)とは何だろうか?
よく、企業とはヒト・モノ・カネによって成り立って
いると言われる
ヒト?
モノ?
カネ?
企業とは
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ヒト・モノが動けばカネも動く
ヒト:給料、福利厚生など
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モノ:仕入、売上など
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カネ:企業->従業員
カネ:(仕入の場合)企業->仕入れ先
カネ:(売上の場合)顧客->企業
会計は,企業の活動をカネの動きに着目して記
録・報告している
企業の活動と会計
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企業の活動を、次の3種類に分けて考えるとこ
れから勉強する会計の考え方が理解しやすくな
る
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財務活動
投資活動
営業活動
財務(資金調達)活動
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営業活動や投資活動に必要な資金を準備する
活動
例:株主からの出資を受ける(=>資本)
例:銀行などからの借り入れをする(=>負債)
投資(資金投下)活動
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準備された資金を用いて営業活動に必要な資
産を獲得する活動
例:土地や建物を購入する
例:工場で使う機械を購入する
営業活動
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獲得された資産を用いて利益の追求を行う日常
的な活動
いわゆる「本業」
例:材料を購入する
例:製品を販売する
企業におけるキャッシュ(カ
ネ)の流れ
土地・建物・工場
原材料
証券投資
仕掛品
現金
完成品
銀行借入
株主
売上債権
営業活動
投資活動(資金投下)
財務活動(資本調達)
3種のキャッシュ・フロー
現金流入
営業活動
製品や
サービスの
販売
投資活動
機械の売却
建物の売却
財務活動
新規借入
出資の受け入れ
現金流出
原材料の購入
賃金の支払い
現金
機械の購入
建物の購入
利息の支払い
配当の支払い
借入金返済
会計情報は誰が?誰のために?
作るのか
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誰が?
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会計情報を作るのは経営者
誰のために?
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所有者のため
投資家のため
他にも、従業員・税金関係・政府関係など、いろいろ
な人々のため
企業の所有と経営の分離
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株式会社の場合、企業の持ち主(所有者)は株
主である
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企業の元手となるお金を出した(出資した)人達
最終的な会社の儲けや損は株主が負う
いっぽう、会社の経営を行うのは社長などの経
営者である
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「経営の専門家」としての能力を会社(の持ち主に)提
供することによって対価(報酬)を受け取る
企業の所有と経営の分離
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大企業の場合、所有者と経営者は別であること
が多い
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事業を行うために多額の資金が必要なので、個人で
まかなうことが困難である
そのため、株式を発行して資金を調達する
(中小企業では両者が同一であることも多い)
経営者から所有者への報告
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経営者は、所有者に代わって企業の経営を行い
、所有者にその成果を報告することが求められ
る(会計責任)
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所有者から出してもらった資金をどのように使い、ど
れだけの儲け(または損)をだしたのか?
どのように使っているのか=>貸借対照表
どれだけの儲け(損)をだしたのか=>損益計算書
所有者は、経営者に納得していればまた経営を
任せるだろうし、納得しなければ交代させるであ
ろう
投資家への情報提供(ディスクロ
ージャー)
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また、株式は最初の所有者から他の投資家へ
転売される(ことがある)
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株式を発行した企業に買い取らせることは(原則)とし
て出来ない
最初の所有者が何らかの理由で所有者であることを
やめるためには株式を転売するしかない
株式を売りたい人、買いたい人にとってその株
式を発行している企業について知ることが大変
重要である
投資家への情報提供(ディスクロ
ージャー)
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株式などの売り手・買い手(投資家)がその意思
を決定するために、会計の仕組みから提供され
る情報が役に立つ
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企業がこれからどのような業績を達成しそうであるか
を予想することが投資家の関心事
これまでの業績について報告=>損益計算書
現在の状況について報告=>貸借対照表
現代の財務会計の主たる目的は投資家への情
報提供(ということになっている)
なぜディスクロージャーを行うの
か
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ルールがあるから、仕方なく…?
ディスクロージャー規制の歴史的背景はむしろ
反対だった!
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放っておくと、誰もが好き勝手な情報を開示すること
ができる=>真実と異なる情報の開示(~証券詐欺)
の防止
ディスクローズすることによって
誰が得をするのか?
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「社会全体」?
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市場経済を通して資源の有効活用をはかる
証券取引法の基本的考え方
それだけであれば、企業がディスクロージャーに
関するコストを負担するべき理由は明らかでは
ない
しかも、自発的にディスクロージャーを行ってい
る企業の行動について説明できない
ディスクローズすることによって
誰が得をするのか?
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「ディスクロージャーを行う企業」?
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ディスクロージャーを行うことによって企業は得するこ
とができるだろうか
答はYes!
情報の非対称性
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取引の当事者間(たとえば、売り手と買い手)で
、それぞれが持っている情報の内容が異なると
きに情報の非対称性が存在している
2001年のノーベル経済学賞受賞者の研究対
象
情報の非対称性
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ディスクロージャーの文脈では、企業(株式の売
り手)と投資家(株式の買い手)の間で企業につ
いての情報量が異なっている状況
(もちろん、負債についても同様の議論があては
まる)
中古車市場の例
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アカロフ(Akerlof)の研究
中古車ディーラー(売り手)は中古車の状態につ
いて詳しい
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隠れた故障はないか、事故の履歴はないか…
中古車の買い手には中古車の「本当のところ」
はわからない
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情報が非対称な状況が発生している
中古車市場の例
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買い手としては、中古車の平均的な品質を前提
に値段を見るしかない
=>売り手としては、「平均以上」の中古車を売
ると損をする
=>売り手は、「平均以下」の中古車しか売らな
くなる
=>買い手としては、最初に推定した平均を低
めに修正しなければならなくなる
=>(くりかえし)
中古車市場の例
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ひとまず結論:非対称情報のもとでは、市場が
成立しなくなる可能性がある
それでは売り手は困ってしまう
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社会としても決して好ましい状況ではない
何か手段はあるだろうか?
中古車市場の例(続)
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スペンス(Spence)の研究
良い中古車の売り手としては、何らかの手段で「
この中古車は良い品質の中古車ですよ!」とい
うことを買い手に伝えたい
しかし、悪い中古車の売り手も同じことを考える
であろう(ウソを伝えたい)
中古車市場の例(続)
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良い中古車の売り手は、悪い中古車の売り手に
はまねのできない方法で「この中古車は良い品
質の中古車ですよ!」ということを伝える必要が
ある
たとえば、良い中古車に「1年間保証」をつける
ことによって目的を達することができるかもしれ
ない
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悪い中古車は故障しやすいので、保証をつけると売
り手にとってコストが大きすぎるから
中古車市場の例(続)
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このように、コストをかけて「良い」中古車である
ことを買い手に伝えることによって、売り手はより
高めの価格で中古車を売ることができる
一方、「悪い」中古車は低めの価格で取引される
であろう
この(コストをかけてまで伝えられる)情報をシグ
ナルと呼ぶ
ディスクロージャーと市場
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ここまで議論してきた中古車を、企業の株式と置
きかえてみよう:公募増資の場合なら
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売り主:企業
買い主:投資家
もし、企業についての情報が何もなければ、投
資家は株式を購入するだろうか?
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市場が成立しない可能性が大きい
ディスクロージャーと市場
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では、企業は何ができるだろうか?
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「良い企業」は自社が良い企業であるというシグナル
を送ることによって、株式を売る(資本を調達する)こ
とができる
「悪い」企業には真似のできない内容のディスクロー
ジャーを行うことがシグナルになる
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自発的、かつ適時的に企業についての(おそらく、良い)
情報を開示することが、「悪い」企業と自社を差別化する
結果をもたらす
ディスクロージャーを行わない企業は「悪い」企業であると
投資家にみなされる
ディスクロージャーと市場
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ディスクロージャー規制の役割
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「良い」企業だけが「良い」情報を、開示できるように
するために規制が存在する(要は、事実のみを開示
させる)
「悪い」企業が「我が社は良い企業ですよ」と開示した
らペナルティが課される
次回への準備
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テキスト第2章を予習すること