社会福祉法人 登別千寿会 特別養護老人ホーム 緑風園 理事・施設長 菊地 雅洋 2004年12月「痴呆」から「認知症」へ と呼称変更がされました。 「痴呆」という言葉は侮蔑的で高齢者の尊 厳を欠く表現であることが最大の理由。 認知症は病気で性格や日ごろの行いとは関 係のないものです。 痴呆という呼称が早期発見、早期診断の支 障になっていました。 65歳以上で認知症になる人は 13人に一人 85歳以上だと4人に一人 4人に一人という意味をもう少 し深く考えてみましょう ケアサービス対象はすべての状況と人 特別なケアの意味を取り違えてはいけない 認知症に対する基礎知識や症状理解は当 然必要になる。→専門知識 専門知識を備えた上での援助技術が求めら れる→認知症の方以外のケアも同様 様々な原因で脳に生じた障害によって生活 に支障がでる状態 神経変性疾患→代表的なものがアルツハイ マー病→脳の神経細胞の死滅と脳萎縮→ア ルツハイマー型認知症 (非アルツハイマー型→前頭葉・側頭葉認知 症、レビー小体症) 脳の障害を引き起こす(神経のネットワー クを壊す)脳血管障害(脳卒中:脳出血や 脳梗塞・くも膜下出血)→脳血管性認知症 中核症状とは脳の細胞が壊れ ることが原因で起こる記憶障 害、見当識障害、理解・判断 力の低下、実行機能の低下→ 脳の変性、気質変化そのもの が原因で、治療やケアにより 改善するものではない。 周辺症状とは何か ~認知症ケアの原点~ 周辺症状は、中核症状がもたらす不自 由のために、日常生活のなかで困惑し、 不安と混乱の果てにつくられた症状で す。 暮らしのなかで、つまり、ケ アによって必ず治る。 問題行動ではない 認知症専門医の重要性は増す 画像診断の重要性を介護の現場は軽視 しすぎていないか 医療の分野での認知症診断と研究は日 進月歩→専門医のケアへの理解も進ん でいる 今後の課題は物忘れ外来の専門医等と の連携 認知症のタイプが違うからといいってケ アの方法論に違いはないという考え方は 、ある意味においては正しくない。 場合によってはケアの具体的方法が違っ てくる事例がある→かかわり方の基本は 同じでもサービスの方法に違いが出てく る アルツハイマー型認知 症 脳血管性認知症 初老期から高齢まで 60歳以上に多い 性 女性に多い 男性に多い 発症と経過 緩徐に発症 進行的 急性発症 階段状に悪化・動揺性 全般的認知症 失語・失認・失行 まだら認知症 運動麻痺・歩行障害 その他 徘徊・物盗られ妄想 抑うつ・感情失禁 病 早期に消失 晩期まで残る 脳萎縮(特に海馬) 脳梗塞の多発・大脳白質 病変 側頭・頭頂葉、後部帯 状回の血流、代謝の低 下 主に前頭葉の血流代謝の 低下 年齢 症 CT 状 識 / MRI SPECT / PET 徘徊と言われる行動には、実は 理由や意味がある 徘徊には特徴的理由がある~な ぜ歩くのか 家にいる人でも「家に帰る」と 外に出るのはなぜだろうか 男女共通の理由 家に帰る 男の人に多い理由 仕事に行く 女の人に多い理由 買い物に行く 時間が過去に戻っている 空間が過去の生活習慣上の場所に置き換 わっている。 自分の最も充実していた時代に自分自身 を引き戻している 今の生活は自分らしくないと無意識に感 じている 過去に向かって歩き続けている 今ここは自分がいられる場 所ではないと感じている 身の周りの小さな危機の訴 えが徘徊である 徘徊の誘因は混乱~実行機 能障害も大きな原因 認知症の方々の「思い」に寄り添う 寄り添うケアとは、付きまとうケア ではない 過去の生活習慣からヒントを見つけ る できないことを、できるようにする のではなく、できることを続けられ る支援 認知症の中核症状と周辺症状 ~増悪をまねく多様な要因の関与~ 認知症の中核症状 1.生きる機能の障害 意欲、自発性、気力 2.人間らしく生きる 機能の障害 1)認知機能の障害 記憶障害 見当識障害(時、場、人) 実行機能の障害など 2)感情機能の障害 感情の多様性・安定性・ 適切性の障害 3.自分らしく生きる 機能の障害 自己決定、人格 周辺症状(適応行動) ①精神症状 不安、焦燥、抑鬱 心気、不機嫌、興奮 攻撃的、幻覚、妄想 ②機能不全行動 多動、繰り返し 徘徊 異食、過食、拒食 引きこもり 誘 破局反応:パニック 因 身体的要因 : 水・電解質の異常、便秘、発熱、薬の副作用等 心理-社会的要因 : 不安、孤独、過度のストレス、無為、プライドの失墜等 環境的要因 : 不適切な環境刺激(音、光、陰、風、空間の広がりや圧迫 人及び人が原因で起こる様々な関係等 不穏、せん妄 大声、乱暴 破壊的行為 自傷行為 認知症を生きる不自由 身体的不調~疲れ 奥行き知覚の障害~幻覚(幻視)ではな い 「同時進行人間」の崩れ~家事困難 全体的把握、物語ることの困難~全体把 握が困難 実行機能の障害~つなぎ役 フィードバック機能の障害~いつもと違 う事 自覚できない~物忘れの自覚(認知と情 動) 見当識障害とは時間や場所、人物や周囲の 状況が認識できなくなること 時間や季節感の感覚が薄れる 道に迷う、遠くの行けない場所に歩いてい こうとする 人間関係の見当識障害はかなり進行してか ら起こる。→娘をお母さんと呼ぶ。亡くな った母親がいると思い込む。←80代の人が 30代以降の記憶が無くなると、それ以前の 記憶の生活しか思い出せない。 認知と行動が結びついて社会的行動が可能に なること~つなぎ役機能の障害 夕食のために食材を買っても、そのことが行 動と結びつかない。→冷蔵庫のほかの食材を みると買ってきた食材のことを忘れてしまう 料理の献立が一応できるが味付けができなく なってくる。進行すると食べることができな い料理を作る。←保たれている機能をサポ ートすることが大事(何もできないわけで はない」) 考えるスピードが遅くなる→時間をかけれ ば自分なりの結論が出せる→急がせない 2つ以上のことが重なるとうまく処理ができ ない→複雑な内容ではなく単純に伝える いつもと違うことに混乱する→些細な変化 にも適応ができずらくなる→混乱を防ぐよ うないつもと違った出来事へのサポート 考えと行動が結びつかない→高齢者を狙っ た高額な販売←高額なもので無駄なものを 買ってしまう。 認知症初期→うつ状態→認知機能低下の自 覚がもたらす 自信を失いすべてが面倒になる→意欲低下 ではなく脳機能障害 身の回りの行為に支障が出てくる→トイレ の場所が分からないなど しまい忘れから盗られ妄想に発展→家族関 係等の人間関係の悪化→妄想が進行 徘徊にも必ず意味や理由がある 認知症の状態にある人への ケアに求められるもの ケア・パートナーとしての意識を育てる ①生きる意欲を大切にする ②不自由を知る ③絶対の信頼関係 確認して欲しい3つのポイント 足 跡 今 将 来 過 去 現 在 未 来 今の気持ち したいこと 過去の生活習慣 ケア(支援)とは ケア(支援)とは、その人 にとって良い状況(環境) を作り出す中で、その、人 を見極め、見守り、支え、 語りかけ、共に歩むことで ある。→寄り添うケア 原因を相手だけに求めすぎていま せんか? 自分が変わらなければ相手は変わ らない すべての起こりは自分自身である 自分をアセスメントしよう! 目を合わせていますか?声をかけていま すか?柔和な表情ですか? 動きは早くないですか?早口じゃないで すか?触れられる関係ですか? 何事にも丁寧ですか?ユーモアがありま すか?イライラしていませんか? 待てますか?柔軟な考え方ですか? 近づき過ぎじゃないですか?物音に注意 していますか? 一方的じゃないですか?押し付けていま せんか? 自分が変われば 相手が変わる 心が変われば言葉が変わる 言葉が変われば態度が変わ る 態度が変われば自分が変わ る まずは、 あなたが変わる ことから始まり ます。 何を感じますか? 今まで思い出せていたことが、思 い出せなくなってきたら? あなたは、どんな気持になります か? 時間や場所、人の見当がつ かないとしたら? あなたは、どんな気持にな りますか? 「あ~して下さい」「そう じゃないでしょう」と言わ れるとしたら? あなたは、どんな気持にな りますか? 周りは見向きもしない、目 もあわせてくれないとした ら? あなたは、どんな気持にな りますか? 視界も狭く、ぼんやりとし た世界だとしたら? あなたは、どんな気持にな りますか? ある特別養護老人ホームにて の実際の面接調査の結果です。 どの言葉が喜ばれ、どの言葉 が嫌われるのかを一緒に考え て見て下さい。 1. ○○さん、よく眠れましたか? 2. 時間ですよ 3. 早くから起きているわね。もっ と寝てればいいのに 1. ゆっくり召し上がって下さい 2. 早く食べてよ 3. 全部食べないと栄養が取れな いですよ 1. たくさん出ましたよ。よかっ たわね。 2. くさいわね。におうわ。 3. おなかの具合はどうですか? 1. もう少し待っててね。すぐあなたの 番だから 2. あぁ重いわね。どっこいしょ。 3. 湯加減はいかがですか。熱いです か?ぬるいですか? 1. 何かご用はないですか 2. がんばってくださいね 3. のんきでいいわね 1. 枕(布団など)は、これでい いですか 2. (無言で) 3. 今度はこっち向くのよ 1. 楽しい夢をみてください。 2. 用事があったらナースコール鳴らし てね 3. 勝手に起きて動き回らず、おとなし くしててよ 嫌われる言葉⇒スタッフ本位の言葉 スタッフ本位になると「ああしなさい」「こうしな さい」などの指示的な言葉になります。または 「あっち」「こっち」という命令調のようにも聞こ えます。 例えば体位交換の時の声がけでは、「今度は窓のほうをみま しょうか」「今度は扉のほうをみましょうか」などと言い換 えると気分もいいでしょう。 また、否定的な言葉も嫌がられます。「くさい」「重 いわね」などです。これは本人を非難する言葉とし て捉われても仕方ありません。 自分本位であったり、指示的、命令的であったり、相 手に対して否定的であったりすれば、どんなに言葉 づかいが丁寧でも相手を傷つけることになってしま うことを私たちは再度自覚する必要があるでしょう。 認知症の人の世界をもう一度想像し てみて下さい 今まで思いだせていたことが思い出せなくなる 時間も場所も人もわからなくなる 「あ~しなさい」「こ~しなさい」と言われる 視界も狭く、いつもぼんやりした世界 何をどうしたらいいの 何もすることが ない 「困った」「どうしよう」「心配だな」 恥ずかしい 何でわかってくれないの 私を見て!さびしい!助けて! ゲートボールでルールが分からなくなりパニックに なったことから自室に閉じこもり食欲もなくなった。 服薬治療を開始後、イライラして落ち着きがなくなり 不穏状態となった。 抗うつ剤の量を減らしたところ、イライラ・不穏は改 善し、ゲートボールに付き添うことで精神的に安定。 食後、うろうろして落ち着かなくなり、着替えや 入浴などの介護に抵抗が現れた。 排便がなかったので、摘便して大量に排便したこ とによって症状が治まった。 その後、日常的に排便コントロールに留意するこ とによって落ち着いた生活ができている。 徘徊が激しく、外に出ようとするたびに引き戻すが、険し い顔で殴りかかったり玄関ドアを蹴るなどの行為がある。 ドライブが好きだったので、散歩とドライブを日常介護 計画に導入し毎日実行した。 笑顔が見られるようになり、暴力を振るうこともなくなっ た。 歳のせいによる変性 うつ状態 せん妄 左半側空間失認 (※特に重要:左麻痺の方はこのこと も疑ってください) 健忘(生理的老化) ・体験の一部の物忘れ ・物忘れの自覚がある ・頻度は増えるが進行し ない ・見当識は保たれる ・行動上の問題はない ・日常生活に支障はない 認知症 ・体験全体の物忘れ ・物忘れの自覚がない ・進行性で頻度・程度と も悪化する ・見当識障害がおこる ・行動障害が出現する ・日常生活に支障をきた す 私を見て! 私を理解して! 私の傍にいて! 認知症の状態にある人が伝 えたいこと 「私」をもっとよく見て! 私の訴えの本質を理解して! BGMの歌詞を我々と認知症高齢者の関 係に置き換えてほしい。 答えなどどこにもない、誰も答えてくれ ない。 でも君を思うとこの胸が何かを叫んでる 。それだけは真実。
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