針 状磁気プローブによる 金属表面微小傷の非接触検出

A-36
卒 業 論 文 発 表
針状磁気プローブによる
金属表面微小傷の非接触検出
平成23年2月21日
発表者
磁気応用工学研究室
細川 拓人
渦電流探傷法
渦電流探傷法(ECT : Eddy Current Testing)
(1)非破壊検査(保守検査)の一種であり,金属表面の欠陥検出に適している.
(2)構成が簡単(励磁コイルと磁気センサ)であり,小型化が容易.
(3)狭い空間にもプローブを走査し検査することが可能である.
励磁磁界
励磁コイル
磁気センサ
渦電流による磁界
検査対象
渦電流
欠陥
渦電流探傷法の原理図
ECT検出感度
検査対象と磁気センサとの距離である
リフトオフ高さを小さくすることにより向上する
検査プローブ
リフトオフ高さを小さくできる検査プローブが要求される
対象傷
リフトオフ高さを小さくなることで感度が向上し
既存のプローブより小さい傷に対応できる
針状磁気プローブ
針状磁気プローブは0.2 mm径の極細の針形状の先に数十µmサイズのSV-GMR
(Spin Valve –Giant Magneto Resistance)センサを付けたプローブ.
検出部
SV-GMR
y
75 µm
x
z
SV-GMRの特徴
①微小素子(75 x 45 µm)
②感度の指向性(x方向)
③高分解能(0.01 µT)
45 µm
15 mm
z
リフトオフ高さ(絶縁膜+ギャップ)
検査対象
y
x
針状磁気プローブ
プローブの保護膜である絶縁膜が0.01 mm と
他プローブにはない薄さを実現している.
研究目的
(1)針状磁気プローブを用いることで針部の絶縁膜0.01 mmを実現.
(2)リフトオフ高さを小さくすることにより,ECTの感度が向上すると考えられる.
(3)これまで検出できなかった小さい傷を検出する.
アルミニウム板に存在する深さ0.2 mmの微小傷を
検出することを目的とする
これにより,航空機翼などの断裂の原因となる
欠陥を早期発見できるため安全性・信頼性が向上する
針状磁気プローブによる信号検出方法
プローブ走査方向とSV-GMRの高感度方向を一致させることで
走査ラインに存在する微小傷近辺の磁界変化を検出できる
STEP 1
励磁コイルによって検査対象に
渦電流を誘起する
アルミニウム
走査方向
STEP 2
励磁コイル
渦電流
傷
傷がある場合,渦電流はx方向から
y方向に流れが変化する
(x方向の磁界が生じる)
STEP 3
y
z
磁界
針状磁気プローブ
x
傷信号検出方法
傷の始端と終端で渦電流の向きが
180度異なるため,センサに感知さ
れるx方向の磁界も180度異なる.
STEP 4
出力に正負のピークが現れる
表皮効果
励磁周波数が高くなるにつれて電流は導体の表面に集中する.
電流が金属表面での強さの「1/e」に減少する点を一般的には表皮深さ“δ”で表す.
0.3
Skin depth(mm)
•
•
アルミニウム
0.25
 
0.2
0.15
2

0.1
導電率σ=3.55×107S/m
透磁率μ=4π×10-7H/m
0.05
0
100 200 300 400 500 600 700 800 900 1000
Excitation frequency(kHz)
表皮深さδは渦電流がどの深さに流れているかの指標となる.
表皮深さが傷より深いと渦電流の大部分は傷の下を流れる.
金属表面探傷の実験系・条件
交流電流を励磁コイ
ルに印加
渦電流による
x方向の磁界
励磁磁界
実験条件
直流電流 Ic :1 mA
Function
Generator
Exciting
coil
Model
励磁電流:90 mA
励磁磁束密度:100 µT
基準信号
Power
Supply
SV-GMR
Sensor
直流電流 Ic
Lock-in
Amplifier
PC
励磁周波数:
100 kHz~300kHz
基準信号と同
位相の検出信
号を出力
走査距離:1.8 mm
(0.01 mm/point)
検出信号
金属表面探傷の実験系
微小傷付近における出力電圧の変化
深さ0.2 mm,幅0.3 mmの微小傷に対して走査を行った.
0.6 mm
Output Voltage(µV)
8.00
300 kHz
200 kHz
6.00
4.00
100 kHz
2.00
0.00
-2.00
表皮効果により,励磁周波数が高くなるにつれて
傷に遮られる渦電流密度が高くなった.
-4.00
-6.00
-8.00
0.00
0.30
0.60
0.90
1.20
1.50
Displacement(mm)
深さ0.2 mm傷に対しての走査結果
1.80
異なる傷深さの出力電圧
励磁周波数300 kHzにおける深さ0.2 mm傷,深さ0.1 mm傷の出力電圧を示す.
Output Voltage(µV)
8.00
0.2 mm
6.00
4.00
0.1 mm
2.00
0.00
-2.00
傷の深さによりピーク電圧値が異なる.
傷に遮られる渦電流の密度が異なるため.
-4.00
-6.00
-8.00
0.00
0.30
0.60
0.90
1.20
1.50
Displacement(mm)
励磁周波数300 kHzによる出力電圧
1.80
まとめ
(1)リフトオフ高さの縮小化
(2)針状磁気プローブによる傷検出
今後の課題
(1)励磁コイル
(2)深さ0.1 mm以下の傷検出
おわり
• ご静聴ありがとうございました.
針状磁気プローブ
針状プローブ
励磁コイル
針部
針プローブが振動によって折れないように
するための補強板(アクリル板)
z
y
x
表皮効果
Skin depth(mm)
•
•
励磁周波数が高くなるにつれて電流は導体の表面に集中する.
電流が金属表面での強さの「1/e」(=1/2.718=0.368)に減少するライン「A」
との交点までの深さを各々の周波数での電流の浸透深さ(Penetration Depth)
と称して、一般的には“δ”で表す.
9
8
7
6
5
4
3
2
1
0
 
2

伝導率σ=3.55×107S/m
透磁率μ=4π×10-7H/m
0.1
1
10
100
Excitation frequency(kHz)
1000
表皮効果
• どの程度の深さの傷を対象にするか?
基準値を決め,それより深い傷を対象とする
• 電流は高周波になるほど導体の表面を流れ
る現象を利用する(表皮効果).
傷
電流
導体
図5.傷が基準より浅い場合
長方形コイルであるメリット
• 幅が狭いことで,より短い傷を探傷できる.
(コイルの幅より短い傷ほど出力は小さくなるため)
• 長いことにより,コイル端からの磁界の影響が少ない.
図3.金属表面の傷検出モデル
磁気センサの比較
• ホール素子は素子に垂直な磁界を検出するので,励磁磁界
の影響を受けてしまう.
励磁磁界の理論値(導出)
• 図3においてのP地点での磁界を求める.
b
b
r a x , cosθ 
r´
a2  b2  x2
2
2
図4.励磁磁束の求め方
励磁磁界の理論値(導出)
• ビオ・サバールの法則を用いると
H1 
I
I
(cosθ+ cosθ) 
cosθ
4πr
2πr
上式のようになるが,H1のx線に垂直な分力は下辺からの磁
界の垂直分力により打ち消され,x方向の分力H2のみが残
る.
図4.励磁磁束の求め方
励磁磁界の理論値(導出)
a
H 2  H 1 sinφ, sinφ
r
Ia
Iab
H 2 
cosθ
2
2πr
2π(a 2  x 2 ) a 2  b 2  x 2
図4.励磁磁束の求め方
励磁磁界の理論値(導出)
• 下辺による磁界もH2と同じである。左右両辺による磁界も全
く同様にして求められ,aとbを取り換えれば良いだけである.
H 2´
Iab
2π(b2  x 2 ) a 2  b 2  x 2
図4.励磁磁束の求め方
励磁磁界の理論値(導出)
• 長方形全体によるP点の磁界はx線上で右向き
1 
 1
H  ( H 2  H 2´)  2 
 2
 2
[ A / m]
2
2
2
2
2
b x 
π a  b  x a  x
Iab
図4.励磁磁束の求め方
励磁磁界の理論値
• 本研究の励磁コイルはa=5mm,b=10mmであり,励磁コイルと
SV-GMRの距離x=3mmである。
• 導線の直径が1巻あたり0.1mmなので、xの長さは巻目ごとに
変化する。
• 励磁磁界の理論値を巻目毎の磁界の合成によって算出する。
図3.励磁磁束の求め方
微小信号の検出
• 検波器(ロックインアンプ)を用いる
• 検波器を用いることで多重周波数のノイズを
含む信号から微小信号を検出できる
図3.微小信号の検出回路
微小信号の検出原理
①入力信号と入力信号から取り出したい周波数成分
と同周波数である参照信号とをPSDで乗算する。
②ノイズ成分は全て交流となり、LPFで除去されること
になる。
③目的の信号と参照信号との位相を調整することに
よって、目的信号の振幅値に比例した直流電圧値
が得られる。
2位相ロックインアンプ
• PSDを2つ設け、それぞれ90度位相差のある信号で乗算する。
• すると目的の信号をそれぞれ極座標上の実部と虚部成分で
検出する。
• これにより位相を調整することなく目的の信号の振幅値およ
び参照信号との位相差が求まる。
図4.微小信号の検出回路
2位相ロックインアンプ
Asin(ωt+a)
0.5A{cos(2ωt+a)+cos(
a)}
0.5A{sin(2ωt+a)sin(a)}
図3.微小信号の検出回路
0.5Acos(a)
-0.5Asin(a)