第13章 不確実性と情報(4章3節を含む) パレート最適が達成するための条件: 市場の普遍性:すべての財に対して市場が存在し,交換が行われる。 完全競争の条件:すべての市場で完全競争が支配し,すべての生産要 素が企業間・産業間で自由に移動できる。 凸環境の条件:効用関数・生産関数は他の経済主体の消費量・産出量 から独立であり,されに限界代替率逓減の法則,限界 費用逓減の法則が成り立つ。 安定性の条件:競争均衡が安定的で,均衡はずれても素早く均衡が回 復される。 これらの条件のうちいくつかが満たされずに市場メカニズム が資源の最適配分を達成できないことを市場の失敗market failureと呼ぶ。 ミクロ経済学(Ⅱ) 1 第13章 不確実性と情報 不確実性と経済現象 われわれはほとんどの財の品質などに関して十分な情報を持たずに 意思決定を行っているし,価格や取引量についても多くの場合,情報は 完全ではない。 意思決定を行う段階で情報を持たないということを2つに分類される。 1.意思決定の時点と状況が判明する時点に差があるケース (例えば: 火災,交通事故,株式市場,為替市場,・・・・・・) 2.特定(一部の)人々は知っているが他の人々は知らないという情報 の非対称性ケース (例えば: 労働市場,中古品市場,・・・・・・) 不確実性の種類 危険(risk): すべての人にとって共通の客観的な確率の存在を前提とするこ とができるケース 不確実性(uncertainty): 客観的な確率が存在しないため,もしくは客観的な 確率が存在したとしても認知能力の不足により,主観的な確率を付与しなけれ ばならないケース 2 ミクロ経済学(Ⅱ) 第13章 不確実性と情報 不確実性と経済現象 不確実性の種類 危険(risk): すべての人にとって共通の客観的な確率の存在を前提とするこ とができるケース 不確実性(uncertainty): 客観的な確率が存在しないため,もしくは客観的な 確率が存在したとしても認知能力の不足により,主観的な確率を付与しなけれ ばならないケース 現実の経済問題を考えるとき,不確実性やリスク(危険)が重要な意味 を持っていることが少なくない。 このような不確実性やリスクの問題に対処するため,経済のなかには 様々な仕組みが存在する。 例えば,保険はリスクへの対処の手段として生まれたものである。株 式市場や外国為替市場などにおいても,株価変動リスクの対処として, 分散して投資する投資信託,為替変動リスクを回避するための為替先 物取引などはその代表的な例である。 ミクロ経済学(Ⅱ) 3 第13章 不確実性と情報 不確実性と経済現象 大数の法則と危険分散 大数の法則(law of large numbers): ある事象が一見,偶然や不規 則的に見えても,同じ属性を持った事象データを大量に集めれば集める ほど,その事象が一定割合で発生するような「経験的確率と理論的確率 が一致する」 という法則である。 危険分散(火災保険の例) 各経済主体の火災被害リスクを分散するために火災保険制度が生ま れた。火災保険は基本的に多くの人が資金を出し合って,その資金で火 災にあった人を補償する制度である。保険加入者の火災の発生確率に 関して,大数の法則でかなり正確に予想できるので,それをもとにして保 険料金が計算でき,その保険料金で火災の被害に対する補償額をカ バーすることができる。 ミクロ経済学(Ⅱ) 4 第13章 不確実性と情報 不確実性と経済現象 大数の法則と危険分散 大数の法則(law of large numbers): ある事象が一見,偶然や不規 則的に見えても,同じ属性を持った事象データを大量に集めれば集める ほど,その事象が一定割合で発生するような「経験的確率と理論的確率 が一致する」 という法則である。 危険分散(企業の多角経営の例) テレビやクーラーなどの家電製品を生産している企業にとって,このよ うな製品が将来も大きな利潤を生んでくれるかどうかは不確実である。し たがって,特定の製品に集中しすぎると,経営上のリスクは拡大してしま う。もしこの企業が半導体,通信機器,PC関連製品などに多角化してい けば,家電製品部門が不振になっても,他の部門がそれをカバーしてく れるかもしれないので,リスクが軽減されることになる。 ミクロ経済学(Ⅱ) 5 第13章 不確実性と情報 不確実性と経済現象 大数の法則と危険分散 大数の法則(law of large numbers): ある事象が一見,偶然や不規 則的に見えても,同じ属性を持った事象データを大量に集めれば集める ほど,その事象が一定割合で発生するような「経験的確率と理論的確率 が一致する」 という法則である。 危険分散(資産選択の例) 所有資産を銀行預金,株式,債券,土地・不動産などの形で保有する ことができる。銀行預金は収益性が低いが,元本が保証されるのでリス クも低い。株式や債券などは収益性が高いが,元本が保証されないの でリスクも高い。いわゆるハイリスクリスク・ハイリターンのことである。収 益性を求めるとリスク高い資産を保有しなければならない。また,リスク 分散のために複数形態の資産を保有した方がいい。複数形態の資産を それぞれどの割合で保有するかはポートフォリオの選択問題である。 6 ミクロ経済学(Ⅱ) 第13章 不確実性と情報 13.1 セント・ペテルスブルグの逆説 コイン投げのゲーム ゲームの参加料は1000円が必要とする。コイン投げで表が出たら, 1000円の参加料が没収され,ゲーム終了になるが,裏がでたら下図通り の賞金がもらえる。 1回目 2回目 3回目 4回目 5回目 裏 裏 裏 裏 裏 4円 8円 16円 32円 賞金: 2円 6回目 ・・・・・・ 裏 64円 ・・・・・・ 皆さん,このゲームに参加しませんか? ミクロ経済学(Ⅱ) 7 第13章 不確実性と情報 13.1 セント・ペテルスブルグの逆説 コイン投げのゲーム ゲームの参加料は1000円が必要とする。コイン投げで表が出たら, 1000円の参加料が没収され,ゲーム終了になるが,裏がでたら下図通り の賞金がもらえる。 1回目 2回目 3回目 4回目 5回目 6回目 ・・・・・・ このような無限大の期待利益があるのに,なぜほとんどの人はこの ゲームに参加しようとしないのか。 裏 裏 裏 裏 裏 裏 この現象を説明するのが,期待効用最大化仮説である。 賞金: 2円 確率: 1/2 4円 1/4 8円 1/8 16円 1/16 32円 1/32 64円 1/64 ・・・・・・ ・・・・・・ 利得の期待値 ミクロ経済学(Ⅱ) =1/2×2+1/4×4+1/8×8+1/16×16+1/32×32+・・・・・・ =1+1+1+・・・・・・=∞ 8 第13章 不確実性と情報 13.2 期待効用最大化仮説 危険回避者の所得の効用曲線は上に凸であり,所得の限界効用は 危険回避者の災害に関する例: 逓減である。 ある人の所得効用関数: U=x1/2 (U:効用,x:所得) 同じ250万円に対して,危険回避者にとって,不確実な所得の期待値 災害があれば,所得=100万円。 災害がなければ,所得=400万円 よりも,同じ額の所得を確実に得られることを好む。 年度の自然災害にあう確率=1/2 ① 災害にあえば,所得は100万円にな 効 用 20 るので,効用U1=1001/2=10。 ② 災害にあえなければ,所得は400万 15.81 15 円になるので,効用U2=4001/2=20。 ミクロ経済学(Ⅱ) 効用U=2501/2=5×101/2≒15.81 400万 確実に所得を250万円を得る場合 0 250万 所得の期待値=100×1/2+400×1/2 =250万円 期待効用 u=10×1/2+20×1/2=15 10 100万 不確実な場合 所得 9 第13章 不確実性と情報 13.2 期待効用最大化仮説 危険愛好者の所得の効用曲線は下に凹であり,所得の限界効用は 危険愛好者の賭けごとに関する例: 逓増である。 ある人の所得効用関数: U=(1/10)x2 (U:効用,x:所得) 同じ25万円に対して,危険愛好者にとって,確実に所得が得られる状 賭に勝つと,所得=40万円。 賭に負けると,所得=10万円 況よりも,同じ期待値をもつ不確実な状況の方を好む。 勝ち負けの確率=1/2 ① 賭に勝つと,所得は40万円を得る 効 用160 ので,効用U1=(1/10)×402=160。 ② 賭に負けると,所得は10万円を得る ので,効用U2= (1/10)×102 =10。 ミクロ経済学(Ⅱ) 効用U=(1/10)×252=62.5 10 0 40万 確実に所得を25万円を得る場合 62.5 25万 所得の期待値=40×1/2+10×1/2 =25万円 期待効用u=160×1/2+10×1/2=85 85 10万 不確実な場合 所得 10 第13章 不確実性と情報 13.2 期待効用最大化仮説 危険中立者例: 危険中立者の所得の効用曲線は直線であり,所得の限界効用は一 ある人の所得効用関数: U=x+2 (U:効用,x:所得) 定である。 災害があれば,所得=10万円。 災害がなければ,所得=40万円 同じ25万円に対して,危険中立者にとって,不確実な所得の期待値と, 年度の自然災害にあう確率=1/2 同じ額の所得を確実に得られることが無差別である。 ① 災害にあえば,所得は10万円にな 効 用 42 るので,効用U1=10+2=12。 ② 災害にあえなければ,所得は40万 27 円になるので,効用U2=40+2=42。 ミクロ経済学(Ⅱ) 効用U=25+2=27 40万 確実に所得を25万円を得る場合 2 0 25万 所得の期待値=10×1/2+40×1/2 =25万円 期待効用 u=12×1/2+42×1/2=27 12 10万 不確実な場合 所得 11 第13章 不確実性と情報 13.2 期待効用最大化仮説 危険回避者と危険愛好者 人生観が違う2人のそれぞれの所得に関する効用関数 効 用 危険愛好者 所得の限界効用逓増 0 効 用 所得 0 危険回避者 所得の限界効用逓減 所得 危険回避者は危険愛好者に比べ安定した職業を選択する。より積極的に 保険に加入する。 ミクロ経済学(Ⅱ) 12 第13章 不確実性と情報 13.2 期待効用最大化仮説 危険回避者と危険愛好者 ミクロ経済学(Ⅱ) 0 限界効用=6/200 =0.03 限界効用=10/200 限界効用 =0.05 所得 1500万 55 50 46 40 30 1000万 ① 年収500万円 確率100% ② 年収700万円 確率50% + 年収300万円 確率50% ①の期待年収=②の期待年収 =500万円 ①の期待効用=40 ②の期待効用=30×0.5+46×0.5 =38 危険回避者 所得の限界効用逓減 300万 500万 700万 人生観が違う2人の所得効用関数 所得の限界効用逓減の効用関数を 持つ危険回避者の危険回避行動を次 危険愛好者 の実験で確認しよう。 所得の限界効用逓増 効 2つの職業,どれを選択するか? 用 13 第13章 不確実性と情報 危険回避行動の背景には,このよ 13.2 期待効用最大化仮説 うな所得の限界効用逓減という現象 が隠されている。 危険回避者と危険愛好者 【思考問題】 危険愛好者なら,ど 人生観が違う2人の所得効用関数 所得の限界効用逓減の効用関数を の職業を選択するか? 持つ堅実主義者の危険回避行動を次 危険愛好者 の実験で確認しよう。 所得の限界効用逓増 効 2つの職業,どれを選択するか? 用 ミクロ経済学(Ⅱ) 1500万 0 1000万 55 50 46 40 30 300万 500万 700万 ① 年収500万円 確率100% ② 年収700万円 確率50% 38 + 年収300万円 確率50% ①の期待年収=②の期待年収 =500万円 ①の期待効用=40 ②の期待効用=30×0.5+46×0.5 =38 危険回避者 所得の限界効用逓減 所得 14 第13章 不確実性と情報 13.2 期待効用最大化仮説 保険の機能 単純な例: もしこの人が保険に入っていなければ, 期待年収=400×1/4+1000×3/4=850万円 期待効用= 100×1/4+140×3/4 =130 ミクロ経済学(Ⅱ) 130 100 0 850万 1000万 保険料金は年間150万円で,火災が 起こったら,被害額(年間600万円)を支 払ってくれる。 保険会社から見ると,大数の法則で, 4軒に1軒しか火災にあわないので,被 害額(600万円)の1/4(=150万円)ずつ 出し合えば,保険が成立する。 この人はこの保険に入るのか? 効 用140 400万 保険について: 所得 15 第13章 不確実性と情報 13.2 期待効用最大化仮説 保険の機能 単純な例: もしこの人が保険に入っていなければ, 期待年収=400×1/4+1000×3/4=850万円 期待効用= 100×1/4+140×3/4 =130 もし保険に入れば,火災が起こるか 否かに関わらず,確実に年間850万円, 効用137を確保することができる。 100 同じ850万円の年収に対して,危険回 避者にとって,収保険に入る前に比べ, 確実に得たほうが効用がより高い。 0 危険回避的な人にとって,この保険は 有益なものである。 ミクロ経済学(Ⅱ) 850万 1000万 効 用140 137 130 400万 保険料金: 年間150万円 所得 16 第13章 不確実性と情報 13.2 期待効用最大化仮説 リスクプレミアムとは,火事のようなリスクに直面する不効用を,金銭 保険の機能 価値で表したものである。リスクに直面している人が,そのリスクを消す 単純な例: もしこの人が保険に入っていなければ, ために所得をどれだけ犠牲にしてもよいかを数値で示したものがリスク 期待年収=400×1/4+1000×3/4=850万円 プレミアムである。一般的に危険回避的な人ほど,それの値が大きい。 期待効用= 100×1/4+140×3/4 =130 700万 850万 1000万 ミクロ経済学(Ⅱ) リスクプレミアム risk premium 400万 効 保険料金: 年間150万円 用140 しかし,保険に入る前の期待効用は 137 130 130であり,この効用に対応する年収は 700万円しかない。つまり,この人が保 険に入った後の年収が700万円であっ 100 ても,損とは感じないのである。 保険に入ることによって,危険回避者 の効用は7くらい向上した。この効用を 0 金銭価値に換算すると(850-700=) 150万円となり,リスクプレミアムと呼ぶ。 所得 17 第13章 不確実性と情報 13.2 期待効用最大化仮説 保険の機能 危険中立的な人のリスクプレミアムはゼロである。 危険愛好的なギャンブラーのリスクプレミアムは負の値となる。 危険愛好者 効 用140 効 用140 130 130 125 ミクロ経済学(Ⅱ) 所得 リスクプレミアム risk premium (負の値) 100 0 400万 0 400万 100 850万 1000万 リスクプレミアム risk premium (=0) 850万 950万 1000万 危険中立者 所得 18 第13章 不確実性と情報 状況①: 確率=1/2,実現所得=100万円 状況②: 確率=1/2,実現所得=400万円 期待所得=1/2×100+ 1/2×400=250万円 期待効用 u(100, 400)=1/2×1001/2+ 1/2×4001/2=15 確実に所得225万円を得るとき, u(225, 225)=U(225)=2251/2=15 ミクロ経済学(Ⅱ) 10 0 の状 所況 得② 400万 所得の効用関数: U=x1/2 (危険回避者) 15.81 15 100万 225万 250万 所得の効用関数: U=U(x) 状況①: 1/2の確率で実現する所得=x1 状況②: 1/2の確率で実現する所得=x2 期待効用: u(x1, x2)=1/2U(x1)+1/2U(x2) もし x1=x2=x ならば, u(x, x) =1/2U(x)+1/2U(x)=U(x) 所得 45° 400 225 0 100 225 13.3 条件付き財 効 用 20 状況① 19 の所得 第13章 不確実性と情報 13.3 条件付き財 効 用 20 ミクロ経済学(Ⅱ) 400万 危険回避者の 無差別曲線 45° 900 400 225 0 900 状況①: 確率=1/2,実現所得=100万円 状況②: 確率=1/2,実現所得=400万円 期待所得=1/2×100+ 1/2×400=250万円 期待効用 1/2+ 1/2×20 1/2=15 1/2+ u(100, 400)=1/2×10 u(0, 900)=1/2×0 1/2×9001/2=15 u(900, 0)=1/2×9001/2+ 1/2×01/2=15 確実に所得225万円を得るとき, u(225, 225)=U(225)=2251/2=15 の状 所況 得② 100 225 所得の効用関数: U=x1/2 (危険回避者) 100万 225万 250万 所得を状況①の所得,状況②の 所得の効用関数: U=U(x) 15.81 所得に分けて,それぞれを異なるも 15 状況①: 1/2の確率で実現する所得=x1 のとして扱われている。このように, 状況②: 1/2の確率で実現する所得=x2 状況に依存して定義される財を条 10 期待効用: u(x1, x2)=1/2U(x1)+1/2U(x2) 件付き財と呼ぶ。 もし x1=x2=x ならば, 例えば,雨が降るときの傘,晴れ 0 所得 u(x, x) =1/2U(x)+1/2U(x)=U(x) のときの傘など。 状況① 20 の所得 第13章 不確実性と情報 の状 所況 得② 13.3 条件付き財 所得の効用関数: U=U(x) 状況①: 1/2の確率で実現する所得=x1 状況②: 1/2の確率で実現する所得=x2 期待効用: u(x1, x2)=1/2U(x1)+1/2U(x2) もし x1=x2=x ならば, u(x, x) =1/2U(x)+1/2U(x)=U(x) の状 所況 得② 危険愛好者の 無差別曲線 45° 0 の状 所況 得② 危険中立者の 45° 無差別曲線 状況① の所得 危険回避者の 無差別曲線 45° 900 400 状況① の所得 0 900 0 100 225 225 状況① 21 の所得 第13章 不確実性と情報 投資額 資産選択 ある個人の所有資産: 225万円 ある投資について 成功率: 50% 年利益率: 400% 問題:225万円のうちいくら投資する? 状況①の資産 状況②の資産 w1 w2 0 225 225 225 0 900 b 225-b 225+3b 75 75 675 の状 資況 産② 投資額を b として考えよう 状況① :投資失敗 900 1年後の資産w1=225-b 225+3b 状況② :投資成功 1年後の資産w2=(225-b)+4b=225+3b ①から,b=225-w1 ②から,b=(w2-225)/3 225-w1=(w2-225)/3 予算制約線: w2=900-3w1 w2=900-3w1 45° 3b b 225 0 225-b 225 300 13.3 条件付き財 状況① 22 の資産 第13章 不確実性と情報 投資額 資産選択 0 225 225 225 0 900 b 225-b 225+3b 150 75 675 投資額を b として考えよう 状況① :投資失敗 1年後の資産w1=225-b 状況② :投資成功 1年後の資産w2=(225-b)+4b=225+3b の状 資況 産② 45° 900 675 225 危険回避者の無差別曲線は下に凹である。 効用最大化行動:予算制約線上の効用が最大 となる点を選択する。 0 投資金額: b=150 b=150 225 300 ある個人の所有資産: 225万円 ある投資について 成功率: 50% 年利益率: 400% 問題:225万円のうちいくら投資する? 状況①の資産 状況②の資産 w1 w2 75 13.3 条件付き財 状況① 23 の資産 第13章 不確実性と情報 投資額 資産選択 ある個人の所有資産: 225万円 ある投資について 成功率: 50% 年利益率: 400% 問題:225万円のうちいくら投資する? 状況①の資産 状況②の資産 w1 w2 0 225 225 225 0 900 b 225-b 225+3b 150 75 675 投資額を b として考えよう 状況① :投資失敗 1年後の資産w1=225-b 状況② :投資成功 1年後の資産w2=(225-b)+4b=225+3b の状 資況 産② 45° 900 225 危険愛好者の無差別曲線は上に凸である。 効用最大化行動:予算制約線上の効用が最大 となる点を選択する。 0 投資金額: b=225 b=225 225 300 13.3 条件付き財 状況① 24 の資産 第13章 不確実性と情報 危険愛好者: 投資金額: b=225 すべての資産を投資に回す。 失敗なら資産=0,成功なら資産=900 危険回避者:投資金額: b=150 資産の一部を投資に回す。 失敗なら資産=75,成功なら資産=675 【思考問題】 危険中立者:??? b=150 225 0 状況① の資産 225 300 ある個人の所有資産: 225万円 ある投資について 成功率: 50% 年利益率: 400% 問題:225万円のうちいくら投資する? 675 の状 資況 産② 45° 900 b=225 225 0 225 300 資産選択 45° 900 75 13.3 条件付き財 の状 資況 産② 状況① 25 の資産 第13章 不確実性と情報 13.4 情報の非対称性 現実の経済世界では,取引の双方は情報不完全の下で経済取引を 行っている。このとき,完全情報の世界とは異なるさまざまな興味深い現 象が観察される。(例えば:労働市場,中古品市場,金融市場,・・・・・・) 特定(一部の)人々は知っているが他の人々は知らないという情報の 非対称性ケース (このケースは二つに分類されている) 1)隠された行動:ある主体のとった行動が他の主体からは全く,ある いは部分的にしか観察できないことを指す。つまり,意思決定主体の観察 能力が限定されているケースである。このとき,しばしばモラル・ハザード が引き起こされる。 2)隠された情報:ある主体の特性や性格などを外部から直接に観察 できないため,すべてを同じように扱わなければならない現象を指す。そ の結果,価値あるものが低く,価値のないものが高く評価されることになっ てしまい,価値あるものが駆除されてしまうという逆選択現象が引き起こさ れる。 ミクロ経済学(Ⅱ) 26 第13章 不確実性と情報 13.4 情報の非対称性 ■モラル・ハザード 1)隠された行動:ある主体のとった行動が他の主体からは全く,ある いは部分的にしか観察できないことを指す。つまり,意思決定主体の観察 能力が限定されているケースである。このとき,しばしばモラル・ハザード が引き起こされる。 火災保険契約の例: 火災の発生 火災の原因について,保険会社が識 別できないため,契約者との間で情報 の非対称性が生じる。どんな原因で あっても火災が発生すれば,保険会社 が損害を負担することになる。 もし,契約者が注意や努力を怠った 結果で発生する費用を他人に負担して もらえるとき,理想な行動が歪められる ならば,このような事態をモラルハザー ド(moral hazard)と呼ぶ。 原因 契約者の行動 (故意 or 過失) 原因 不確実要因 (不可抗力的 な理由) 認識可 認識不可 認識不可 保険会社の認識 27 第13章 不確実性と情報 13.4 情報の非対称性 ■モラル・ハザード 1)隠された行動:ある主体のとった行動が他の主体からは全く,ある いは部分的にしか観察できないことを指す。つまり,意思決定主体の観察 能力が限定されているケースである。このとき,しばしばモラル・ハザード が引き起こされる。 金融機関救済の例: 金融会社の利潤がマイナスになり倒産しそうになると,公的な援助が投入され るとすれば,経営者は経営努力をしなくても倒産することはないと考えていると, 会社経営を効率的に行われなくなる可能性が生じる。 自然独占の公営企業の例: 第9章で学んだX非効率性の存在はモラル・ハザードを背景としている。 28 第13章 不確実性と情報 13.4 情報の非対称性 ■モラル・ハザードに対する政策対応 (1)モニタリングmonitoring(監視) 相手の行動をよりよく監視することで,モラル・ハザードの弊害を軽減する。 具体例: 公営企業や金融機関のような大企業に対して,情報公開や会計監査 を徹底する。 (2)罰則の強化 もし被害の原因がモラル・ハザードによるものであると,後で判明した場合に, 重い罰則を課することで,モラル・ハザードを事前的に抑制する。 具体例: 火災保険,公営企業経営など (3)補償額の上限の設定 具体例: 火災保険や公益企業の場合,損失の一部のみしか補償あるいは補 填しないのであれば,モラル・ハザードの弊害を軽減する。 (4)保険料の差別化 具体例: 火災保険の場合,耐火建築の火災が故意でないと発生困難であるの で,木造建築に比べて原因判別がより容易である。耐火建築の保険料よりも木造 29 建築の保険料を高くする。 第13章 不確実性と情報 13.4 情報の非対称性 ■エイジェンシーの理論 分析モデル 2種類の個人: 依頼人(プリンスパルprincipal)と代理人(エイジェントagent) 依頼人は代理人の行動を完全に観察できない。 依頼人はリスクに関して中立的であるとす 依頼人 代理人 る。 賃金契約の例 (依頼人:経営者; 代理人:従業員) 経営者にとっては生産水準(成果)は観察 できるが,従業員の努力水準(行動)は観察で きない。生産水準が従業員の努力水準による ものか,不確実要因によるものかは分からな い。 訴訟依頼人 弁護士 政策当局 公益企業 経営者 従業員 親会社 下請け企業 投資家 投資信託会社 銀行 資金の借り手 保険会社 契約者 メーカー 小売業者 30 第13章 不確実性と情報 13.4 情報の非対称性 ■エイジェンシーの理論 賃金契約の例 (依頼人:経営者; 代理人:従業員) 経営者にとっては生産水準(成果)は観察 できるが,従業員の努力水準(行動)は観察で きない。生産水準が従業員の努力水準による ものか,不確実要因によるものかは分からな い。 従業員の行動分析: 従業員の効用U=U(努力水準E,賃金W), ∂U/∂E < 0, ∂U/∂W > 0 もし,賃金Wが努力水準Eの上昇につれて 増加すれば(dW/dE > 0),従業員効用最大化 の行動として,-∂U/∂E=(∂U/∂W)(dW/dE) と なるような努力水準を出す。 しかし,賃金Wが努力水準E と無関係の場合,従業員は最 適な努力水準を出さない。 この問題を解決するために, 2つの制約が必要とする。 ① 参加制約 依頼人(経営者)は代理人 (従業員)に少なくともある水準 の効用を保証しなければならな い。例えば,退職しないような 最低限賃金を保証する。 ② 誘因制約 代理人(従業員)が自らに とって最適な行動を選択するよ うな賃金契約を,依頼人(経営 者)は設計しなければならない。 31 第13章 不確実性と情報 しかし,賃金Wが努力水準E と無関係の場合,従業員は最 適な努力水準を出さない。 13.4 情報の非対称性 ■エイジェンシーの理論 依頼人はリスク中立的,代理人もリスク中 立的のケース 出来高払いの賃金契約(リース型契約) 応用例: タクシー会社 コンビニエンスストアなどのフランチャイ ズ契約 45° 賃 金 賃金契約線 利潤 0 生産収益 この問題を解決するために, 2つの制約が必要とする。 ① 参加制約 依頼人(経営者)は代理人 (従業員)に少なくともある水準 の効用を保証しなければならな い。例えば,退職しないような 最低限賃金を保証する。 ② 誘因制約 代理人(従業員)が自らに とって最適な行動を選択するよ うな賃金契約を,依頼人(経営 者)は設計しなければならない。 32 第13章 不確実性と情報 13.4 情報の非対称性 ■逆選択adverse selection 2)隠された情報:ある主体の特性や性格などを外部から直接に観察できないた め,すべてを同じように扱わなければならない現象を指す。その結果,価値あるも のが低く,価値のないものが高く評価されることになってしまい,価値あるものが 駆除されてしまうという逆選択現象が引き起こされる。 この問題はアカロフ(Akerlof)が中古車(レモン)市場の例を用いて分析された。 レモン(lemon)市場とは,見かけは立派だがとんでもない ポンコツである中古自動車市場のことを指す。 経済学で「レモン市場の問題」と呼ぶのは,買い手が商品 の品質について完全な情報を持っていないケースを指す。 中古車市場の特徴: 中古車の品質情報について,売り手 はよく知っているが,買い手は十分な情報を持っていない,と いう顕著な情報の非対称性がある。この場合に市場がうまく 機能しない可能性があり,最悪のケースでは市場そのものが 成立しなくなる。 ミクロ経済学(Ⅱ) George Arthur Akerlof (1940~) アメリカ経済学者,2001年 ノーベル経済学賞受賞 33 第13章 不確実性と情報 13.4 情報の非対称性 ■逆選択adverse selection 価 格 S (3/2)q 中古車市場の例 q q は中古車の質を表し,(0≦q≦1)とする。 D 様々な質の中古車が1台づつあるとすると, 0 中古車全体の平均的な質は1/2である。 1 質qの中古車 買い手の思い: 中古車の質qであれば,(3/2)qの金額を支 買い手が中古車質qの情報 払ってもいい。つまり,価格が(3/2)q以下であ が分かれば, れば,質qの中古車を買いたい。 売りたい金額 最高買い金額 売り手の思い: (3/2)q > q 質qの中古車をqの金額で売りたい。つまり, この中古車の売買が成立する。 価格がq以上であれば,質qの中古車を売り たい。 ミクロ経済学(Ⅱ) 34 第13章 不確実性と情報 13.4 情報の非対称性 ■逆選択adverse selection 中古車市場の例 q は中古車の質を表し,(0≦q≦1)とする。 様々な質の中古車が1台づつあるとすると, 中古車全体の平均的な質は1/2である。 買い手の思い: 中古車の質qであれば,(3/2)qの金額を支 払ってもいい。つまり,価格が(3/2)q以下であ れば,質qの中古車を買いたい。 売り手の思い: 質qの中古車をqの金額で売りたい。つまり, 価格がq以上であれば,質qの中古車を売り たい。 ミクロ経済学(Ⅱ) 価 格 S (3/2)q q (3/2)q* 0 D 1 質qの中古車 買い手が中古車質qの情報 が分からなければ,買い手は観 察可能な平均的な質q*しか評価 せず,買いたい最高金額は (3/2)q*となる。もし, 最高買い金額 (3/2)q* < 売りたい金額 q ならば,この中古車の売買が成 立しなくなる。 35 第13章 不確実性と情報 13.4 情報の非対称性 ■逆選択adverse selection 価 格 1 (3/2)q* 売れない 良質中古車 S 中古車市場の例 q は中古車の質を表し,(0≦q≦1)とする。 様々な質の中古車が1台づつあるとすると, 0 中古車全体の平均的な質は1/2である。 q* 1 中古車質q 買い手の思い: ① すべての質の中古車が供給され 中古車の質qであれば,(3/2)qの金額を支 るときに, 払ってもいい。つまり,価格が(3/2)q以下であ 買い手の質評価q*=1/2 買いたい最高金額=(3/2)q* れば,質qの中古車を買いたい。 良質中古車が売れなくなる。 売り手の思い: 質qの中古車をqの金額で売りたい。つまり, ② 市場で出回る中古車の質が低下 買い手の質評価 ↓ 価格がq以上であれば,質qの中古車を売り 買いたい最高金額 ↓ たい。 売れない良質中古車 ↑ ミクロ経済学(Ⅱ) ③ 最終的に,中古車市場は成立し 36 なくなる。 第13章 不確実性と情報 13.4 情報の非対称性 ■逆選択adverse selection 中古車市場の例 レモン(lemon)市場の問題点: 高い価格の中古車の中にも質の悪いもの(レ モン)が紛れ込んでいる。買い手はレモンをつかまされることを考慮に入れるの で,価格が高くてもその中古車を対して評価しない。 このようなレモンの存在のために,質のよい商品の取引が阻害される。この 現象をグレシャムの法則と呼ぶ。(もともと,「悪貨は良貨を駆逐する」という現象 を指す。)また逆選択とも呼ばれる。 逆選択の様々な例: 新規採用,銀行の融資,健康保険,・・・・・・ もし売り手も品質情報を持たなければ,ある意味では「くじ」を引くような状況 になる。買い手は売り手の行動に対して疑心暗鬼になる必要がなく,逆選択も 起こらないのである。 つまり,情報不完全の場合,情報の非対称性が問題を引き起こしていて,情 報が対称的なケースでは問題にはならない。 ミクロ経済学(Ⅱ) 37 第13章 不確実性と情報 13.4 情報の非対称性 ■逆選択adverse selection 逆選択への対応(中古車市場の例) 1.供給を強制する。 2.モニタリングを容易にする制度を確立する。 3.ある一定価格以下の売買を禁止する。 4.シグナリングの方法: 例えば,売り手側の自発的な対応で,一定走行距離範 囲での故障に対する保証を付ける。このように良質の中古車であることを買い 手に発信する。 5.自己選択あるいはスクリーニングの方法: 例えば,買い手側が事故発生の保 証を売り手に要求することで,中古車の質を区別できるようにする。 ミクロ経済学(Ⅱ) 38 第13章 不確実性と情報 13.4 情報の非対称性 もし情報が完全であれば それぞれのタイプの労働 ■逆選択adverse selection 者に対し彼らの生産費用に 自己選択あるいはスクリーニング(賃金契約の例) 等しい賃金を支払えばよい。 1.労働者のタイプ: 有能 or 普通 2.企業の観察可能性: 労働者の行動は観察可能,労働者のタイプは観察不可 3.2タイプの労働者の同生産量xに関する生産費用c : c2(x) > c1(x) 普通の労働者の費用 有能な労働者の費用 従って,限界費用についても: MC2(x) > MC1(x) (a)もし情報が完全であれば の労 普 (労働者タイプの識別可能) MC 利働 通 MC2 MC1 潤者 の 生産物の価格を1とすると,企業利潤最 1 大化の条件: MC1(x1)= MC2(x2)=1 有能な労働 普通の労働者を雇用するなら,x2 * を生 者の利潤 働普 産させる。 産者 通 有能な労働者 * 費の の 有能な労働者を雇用するなら,x1 を生 の生産費用 用生 労 産させる。 0 * 39 x* ミクロ経済学(Ⅱ) 2 x1 生産量x 第13章 不確実性と情報 13.4 情報の非対称性 もし情報が完全であれば それぞれのタイプの労働 ■逆選択adverse selection 者に対し彼らの生産費用に 自己選択あるいはスクリーニング(賃金契約の例) 等しい賃金を支払えばよい。 1.労働者のタイプ: 有能 or 普通 2.企業の観察可能性: 労働者の行動は観察可能,労働者のタイプは観察不可 3.2タイプの労働者の同生産量xに関する生産費用c : c2(x) > c1(x) 従って,限界費用についても: MC2(x) > MC1(x) (b)情報が非対称なケース(労働者タイプ識別不可) もし,(自己選択なし) 生産がx2*なら,賃金=S2=C2(x2*) MC2 MC1 MC 生産がx1*なら,賃金=S1=C1(x1*) とするならば, 有能な労働者も普通な労働者のふりをして, 1 x2*しか生産しなくなる。なぜならば, S2 生産がx1*の場合,労働者余剰= S1-C1(x1*)=0 = C1(x1*) S 1 C1(x2*) 生産がx2*の場合,労働者余剰= S2-C1(x2*) > 0 ミクロ経済学(Ⅱ) 0 x2* x1* 40 生産量x 第13章 不確実性と情報 13.4 情報の非対称性 ■逆選択adverse selection 自己選択あるいはスクリーニング(賃金契約の例) 1.労働者のタイプ: 有能 or 普通 2.企業の観察可能性: 労働者の行動は観察可能,労働者のタイプは観察不可 3.2タイプの労働者の同生産量xに関する生産費用c : c2(x) > c1(x) 従って,限界費用についても: MC2(x) > MC1(x) (b)情報が非対称なケース(労働者タイプ識別不可) もし, 企業の利潤 ① 生産がx2*なら,賃金=S2 MC2 MC1 ② 生産がx1*なら,賃金=S1+( S2-C1(x2*) ) MC を自己選択させるならば, 1 普通の労働者は ① を選択する。 有能な労働者は ① と ② の余剰が等しい(無 S2 差別)なので,② を選択する。 S1 = C1(x1*) * C1(x2 ) ミクロ経済学(Ⅱ) 0 x2* x1* 41 生産量x 第13章 不確実性と情報 13.4 情報の非対称性 ■逆選択adverse selection 自己選択あるいはスクリーニング(賃金契約の例) 1.労働者のタイプ: 有能 or 普通 2.企業の観察可能性: 労働者の行動は観察可能,労働者のタイプは観察不可 3.2タイプの労働者の同生産量xに関する生産費用c : c2(x) > c1(x) 従って,限界費用についても: MC2(x) > MC1(x) (b)情報が非対称なケース(労働者タイプ識別不可) 企業の利潤 実際に企業は(利潤最大化のために) ① 生産がx2なら,賃金=S'2 MC2 MC1 MC ② 生産がx1*なら,賃金=S1+( S2-C1(x2) ) を自己選択させる。(但し, x2 < x2 *) 1 普通の労働者は ① を選択する。 有能な労働者は ① と ② の余剰が等しい(無 S'2 S1 = C1(x1*) 差別)なので,② を選択する。 C1(x2) → ミクロ経済学(Ⅱ) 0 x2 x2* x1* 42 生産量x 第13章 不確実性と情報 13.4 情報の非対称性 ■逆選択adverse selection 自己選択あるいはスクリーニング(その他の例) * 医療保険の自己選択の例 ① 安い保険料で,風邪などの通常の病気しかカバーしない契約 ② 高い保険料で,重病でもカバーする契約 * レジャー施設やスポーツクラブの自己選択の例 ① 高い入会金と低い利用料金の組合せ ② 低い入会金と高い利用料金の組合せ ミクロ経済学(Ⅱ) 43 第13章 不確実性と情報 13.4 情報の非対称性 ■逆選択adverse selection シグナリング(就職活動の例) *企業側の考え: 生産性の高い学生を雇用したい *学生のタイプ: 生産性の高い学生 or 生産性の低い学生 (但し,生産性の差は先天的に生じたものとする。) *企業は面接で学生の生産性を判断することができない。 企業と学生との間で,生産性の情報は非対称であるため,企業は雇用しなくなる。 学生側の対策:自分の生産性を示す学歴をシグナルとして,企業に提示する 長期間の受験戦争を乗り越えて,大学に入学できたことは,自らの生産性 の高さのシグナルになり得るからである。 企業側が就職に際して,指定校制度を採用するのもそれなりの理由がある からである。 ミクロ経済学(Ⅱ) 44 第13章 不確実性と情報 13.4 情報の非対称性 ■逆選択adverse selection シグナリング(その他の例) *製品品質のシグナル: 企業の広告 消費者はどの企業の製品の品質がいいかが分からない。 巨額の費用を費やして広告宣伝をすることは,しっかりした製品を作ってい る大企業に限定されると思う消費者がいる。企業の広告は製品品質を伝える シグナルとなる。 *宝石店の信用のシグナル: 高額の固定費用(立派な内外装) 消費者はどの店で本物の宝石を売っているかが分からない。 高額の固定費用を投入した立派な内外装の店が,短期的な利潤を稼ぐ誘 引は乏しいであろうと思う消費者がいる。宝石店の立派な内外装は販売品の 品質を伝えるシグナルとなる。 ミクロ経済学(Ⅱ) 45 第13章 不確実性と情報 13.4 情報の非対称性 ■まとめ 情報の 非対称 問題点 対応策 ミクロ経済学(Ⅱ) 相手の行動 (隠された行動) モラル・ハザード 相手のタイプ (隠された情報) 逆選択 1.モニタリングにコストをかける 1.自己選択 2.インセンティブ契約(エイジェ 2.シグナリング ンシーの理論) 46
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