剥き出し」の世界との対話

「剥き出し」の世界との対話
―アール・ブリュットの意義をめぐって―
青野美和(東北大学大学院)
1.はじめに
アール・ブリュットとは
「生の芸術」(ジャン・デュビュッフェ)
正規の美術教育を受けていないアーティストによ
る、既成の枠組みにとらわれない美術作品。
知的障がい、精神障がいをもつ人の作品が多い。
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1.はじめに
本稿の課題
既成の枠組みを突き抜ける美術の試みは
かつてもあった。
↓
前衛芸術や、他の現代美術とどこが違うのか?
人々の熱烈な反響が示唆するものは何か?
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2.意図および目的の欠如
「アート」とみなしうるか?という問い
• 制作意図の欠如
• 他者からの評価を一切想定しない創作
• 「他者を必要としない作品」(マクラガン)
↓
本当に?
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2.意図および目的の欠如
• カントの芸術論
• 「芸術は、・・自然であるかのように見える場
合にのみ美と称せられる」
• 「芸術的所産における合目的性は、なるほど
意図的なものではあるがしかし意図的に見え
てはならない」
↓
意図-合目的性の欠如が指摘されている。
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2.意図および目的の欠如
• アール・ブリュットも同様である。
• たとえば八島孝一の作品。通勤路で拾い集めた
モノでつくられるオブジェ。
• 「何かのために」が一切ない。
• 誰かへのおもねりや、評価や承認の欲求もみら
れない。
↓
人々はここに、「何かのため」ではない生のありよう
を見出しているのではないか?
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2.意図および目的の欠如
• 現代社会は「あるがままの生」を許さない。
• あらゆる局面で、行為の意味や目的が問わ
れる。合目的性の過剰がある。
• しかし、「~のために」は、他を生かすために
自らを「犠牲」にする営為と結びつく危険性を
もつ。
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2.意図および目的の欠如
• アール・ブリュットは「犠牲」の対極に位置する。
• 誰のためでもない創作
• 他者への〈意図〉は全くないにもかかわらず、
作品は見る人を立ち止まらせ、反応を引き起こす。
↓
合目的性過剰の中で見出される他性。
制作意図の欠如による、本来的な生のありようの
想起
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3.他性としての作品
• 「発見されるアート」という性格
• 戸来貴規の「日記」
• 彼独自の形象の羅列は、施設の女性職員の
発見によって「作品」となった。
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そこには「他者の視線」が不可欠である。
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3.他性としての作品
• アール・ブリュットは、作品の「受け手」が他の
ジャンルよりも先鋭に問われる。
↓
• 創り手と受け手によるある種の「協働関係」
・・・しかし決して予定調和的ではない。
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3.他性としての作品
• 誰のためでもなく、「伝えよう」という意図もな
い作品
• 特定の対象に対する自らの強いこだわりゆえ
に生まれた作品
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私性への埋没ではなく、
他者の反応を引き起こす。
受け手を問い、受け手にとって
他性として迫ってくる経験をもたらす。
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3.他性としての作品
• 20世紀美術以来の創り手と受け手をめぐる問題
分化、拡散、意図の空転に陥りがちなモダン・
アートに対して、
• アール・ブリュットは、他性を組み込んで成り立ち、
他性として受け手に迫り、
• 作品と受け手とを結び合わせる。
• 「このような世界がある」
• 「このような世界との対話もある」
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4.世界との対話
• 回帰するための「体制」は既に解体した日常
• 「生‐権力」が浸透し、「剥き出しの生」(アガンベ
ン)へと投げ出されがち
↓
日常世界は、既存の表現手段では表象困難。
他者および世界とかかわるとはどういうことか?
世界との相互作用が争点に。
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4.世界との対話
魲万里絵の作品
•生-権力のありようが描かれている。
•有用なもの、命、意味すべて生きた人間の身
体から引き出そうとする暴力
•視線による意味づけ・表象の暴力
小幡正雄の作品
•結婚式、家族など性や生殖にかかわるテーマ
を描くも暴力の臭いがしない。
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4.世界との対話
• アール・ブリュット制作者たちは、一方的な意
味づけにさらされてきた存在でもある。
• しかし作品によって、自らをとりまく世界に対
する自分なりの対話を示した。
• 作品は内閉していない。受け手は作品に世
界との対話を見る。そこに、作品の創り手と
受け手の相互作用がある。
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5.おわりに
アール・ブリュットの現代的意義
• 制作意図の欠如による、本来の生のありよう
の想起
• 作品の受け手を先鋭に問うこと
• 他性を問い、他性として迫る作品
• 作品の創り手と受け手を結ぶこと
• 世界との対話をひらくこと
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参考文献
• アガンベン、ジョルジョ『ホモ・サケル』以文社、2003
• Kant ,Immanuel, 1790, Krtik der Urteilskraft. (=1964, 篠田秀雄訳
『判断力批判』全2冊 岩波書店,(上)pp.254-255.
• 多木浩二, 2000,『ベンヤミン「複製技術の時代の芸術作品」精読』
岩波書店
• 服部正,2003,『アウトサイダー・アート』光文社
• マクラガン,デイヴィド, 2011,『アウトサイダー・アート 芸術のはじま
る場所』青土社,p.174
• 高階秀爾, 1993,『20世紀美術』ちくま書房,pp.246-258.
• 小出由紀子, 2008,「アール・ブリュットの誕生とひろがりをめぐっ
て」『アール・ブリュット パッション・アンド・アクション』求龍堂
• はたよしこ編著, 2009,『アウトサイダー・アートの世界』紀伊国屋書
店
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