薬品分析学3 第1回:概論 薬品分析学3の教科書・参考書 教科書 「パートナー分析化学Ⅰ改訂第2版」、南江堂(2012)(昨年度使用 ) 「パートナー分析化学Ⅱ改訂第2版」、南江堂(2012)(要購入) 古い教科書を先輩から貰った、再履修している等の人は、旧版で構いません。 参考書 「機器による医薬品分析」 山川浩司、鈴木真言編、講談社サイエンティフィック(1994) 読み物 「分離の科学 ハイテクを支えるセパレーション・サイエンス」 上野景平著、講談社ブルーバックス(1988) 授業の進め方 PowerPointスライドと板書の併用 講義の試験を受けるために2/3以上の出席が必要 出席をとります。 講義の終わりに復習のための宿題を出します。 (国家試験等の問題を元にした問題) 評価法 試験の成績で評価します。 演習問題を中心に(約60%)試験問題を出します。 目的と概要 薬学における分析化学は、医薬の創製と薬効、体内動 態解析などの創薬科学のみならず、生命科学の基礎学 問である。 本講では、医薬品の分析に不可欠な、各種クロマトグラ フィーの基本的知識とその利用を中心に理解することを 目的とする。 学習の到達目標 分離法の原理を説明できる。 各種分離法を例を挙げ、それぞれの方法論を説明できる。 化合物ごとの適切な分離法を選択し、その理由を説明できる。 各種クロマトグラフィーの種類、それぞれの特徴と分離機構、用いら れる代表的な検出法を説明できる。 クロマトグラフィーによる定量法について習得する。 電気泳動の原理を説明できる。 薬学研究における分析化学とは • 薬品分析(pharmaceutical analysis): 薬学で扱う物質を対象とした分析 生命現象(あいまいなもの)→生体成分・薬物の情報を数値化 →定量的評価。 『なにが』 、 『どこに』、 『どのくらい』、『どのように』存在するか 薬物そのものの分析(確認試験、純度試験) 薬物動態分析:生体試料(尿、血清)中、代謝物も含む 生体成分の分析:たんぱく質、ステロイドホルモン、脂質、病態 マーカー等 生物活性天然物を生物から単離するには? 生物の中には 塩や蛋白質、脂質、糖類が大量に存在 一方、生物活性天然物は微量 特定の蛋白質を単離する場合、数万種類の蛋白 質からたった1つの蛋白質を単離する必要あり イメージ的には、シチューの中の 微量成分の単離 7 生物活性天然物を生物から単離するには? イメージ的には、シチューの中の 微量成分の単離 では、どうやって特定の物質のみを単離するか? そこで登場するのが「クロマトグラフィー」 クロマトグラフィー:単離精製法の一種 その他の単離精製法:再結晶、昇華、蒸留、分液、 遠心分離、ろ過、分子ふるい等 8 クロマトグラフィー 語源 Chroma (色) + graphy (図) → Chromatography 用語(言葉の定義) Chromatography → 分析法 Chromatograph → 分析装置 Chromatogram 局方: → 溶出曲線 (昔)クロマトグラフ法 →(今)クロマトフラフィー 9 クロマトグラフィー:何が出来る? クロマトグラフィーの目的 混合物を各化合物ごとに分離する手法の一つ クロマトグラフィーの応用 天然資源からの抽出物の分画 (混合物の分離) 合成品の精製 (不純物との分離) 単離化合物の純度試験(検定) 分析対象化合物の定量 10 薬品分析学3のポイント:クロマトグラフィー ~化合物をその物性により分離する方法~ クロマトグラフィーは、固定相と移動相と呼ばれる互 いに混合しない二つの相からなる。 そこを試料が移動する時、それぞれの化合物の固定 相と移動相と化学的親和力の違いにより移動速度に 差ができる。 これを利用して、それぞれの化合物の分離を行う。 「容器に固定相が詰めてあるもの」をカラムという (写真参照) またカラムを用いたクロマトグラフィーをカラムクロマ トグラフィーという。 言葉の説明ではイメージがつかみにくいので、 後の講義でビデオを見ていただきます。 薬品分析学3のポイント:クロマトグラフィー 液体クロマトグラフィー(カラムクロマトグラフィー) シリカゲル: SiO2 溶媒 (移動相) 移動相の例: 有機溶媒、水 (緩衝 液) シリカゲルの細粒を 詰めたもの (固定相) 化合物はここと相互作用する H H O O H O O O 内部 Si Si O 表面 Si Si O H O O O その他の固定相: アルミナ、ポリスチレン、 言葉の説明ではイメージ がつかみにくいので、後 合成樹脂 の講義でビデオを見てい カラムの写真 ただきます。 薬品分析学3のポイント:クロマトグラフィー 液体クロマトグラフィー(カラムクロマトグラフィー) シリカゲル表面 シリカゲル: SiO2 ヒドロキシ基(OH)多数 親水的 (シリカゲルが吸湿剤になる理由) 親水性化合物と強く結合(相互作用) このようなクロマトグラフィー 順相クロマトグラフィー 溶媒(移動相)を流した時は、 親水性化合物のほうが後から 出てくる 化合物はここと相互作用する H H O O H O O O 内部 Si Si O 表面 Si Si O H O O O 言葉の説明ではイメージ がつかみにくいので、後 の講義でビデオを見てい ただきます。 クロマトグラフィー 固定相との相互作用による移動速度の違いにより分離する方法 分けながら、順次はかる 分離モード:順相、逆相、イオン交換、ゲル濾過 14 薬品分析学3のポイント:クロマトグラフィー 液体クロマトグラフィー(カラムクロマトグラフィー) 親水的 (シリカゲルが吸湿剤になる理由) 親水性化合物と強く結合(相互作用) このようなクロマトグラフィー 順相クロマトグラフィー この逆に疎水性化合物をより強く 保持するクロマトグラフィー 逆相クロマトグラフィー R O Si O OSiR2(CH2)17CH3 ヒドロキシ基(OH)多数 OSiR2(CH2)17CH3 シリカゲル表面 R O Si O O 内部 Si Si O 表面 O O シリカゲル: SiO2 逆相クロマトグラフィー オクタデシル基: -(CH2)17CH3 飽和炭化水素(疎水性化合物) 疎水性化合物とより強く 相互作用する R O Si O OSiR2(CH2)17CH3 化合物はここと相互作用する OSiR2(CH2)17CH3 オクタデシルシリル(ODS)化シリカゲル (C18) R O Si O O 内部 Si Si O 表面 O O シリカゲル: SiO2 薬品分析学3のポイント:クロマトグラフィー ~化合物をその物性により分離する方法~ クロマトグラフィーは、固定相と移動相と呼ばれる互 いに混合しない二つの相からなる。 そこを試料が移動する時、それぞれの化合物の固定 相と移動相と化学的親和力の違いにより移動速度に 差ができる。 これを利用して、それぞれの化合物の分離を行う。 「容器に固定相が詰めてあるもの」をカラムという (写真参照) またカラムを用いたクロマトグラフィーをカラムクロマ トグラフィーという。 言葉の説明ではイメージがつかみにくいので、 後の講義でビデオを見ていただきます。 薬学の分析に於けるクロマトグラフィー クロマトグラフ法 目的 – 試料中の目的成分の単離精製 物質生産&分析化学 – 試料中の成分の一斉分析 – 純度試験 分析化学 – 試料中の目的成分の定量 クロマトグラフィーのための前処理 – 濃縮:溶媒(水)留去/抽出、限外濾過(蛋白質等の濃縮) – 共存物質(塩、蛋白質)の除去:分液、抽出 – 選択的抽出(抗体などの利用) :アフィニティクロマトグラフィによ る粗精製 – クロマトグラフィー自身が、他の分析の前処理になることもある。 学習の到達目標 分離法の原理を説明できる。 各種分離法を例を挙げ、それぞれの方法論を説明できる。 化合物ごとの適切な分離法を選択し、その理由を説明できる。 各種クロマトグラフィーの種類、それぞれの特徴と分離機構、用いら れる代表的な検出法を説明できる。 クロマトグラフィーによる定量法について習得する。 電気泳動の原理を説明できる。 ビデオ鑑賞 今日の演習問題と次回までの宿題 今日の演習問題 逆相クロマトグラフィーにおいて以下の化合物が溶出する順 番を答えなさい。なぜその順番で溶出するか、その理由も答 えなさい。 次回までの課題 疎水性化合物に親和性が高いクロマトグラフィーが逆相クロ マトグラフィーと呼ばれ、親水性化合物に親和性が高いクロ マトグラフィー順相クロマトグラフィーと名付けられた理由 を調べなさい(ヒント:歴史(経緯)に着目)。 逆相と順相(歴史) 順相クロマトグラフィー 担体:未修飾シリカゲル 逆相クロマトグラフィー 担体:修飾シリカゲル(オクタデシルシリル化) 未修飾シリカゲルを使っている順相のほうが先に行われた。 順相とは逆に疎水性化合物と強く相互作用する修飾シリカゲ ルができた時、逆相という言葉が生まれた。 順相という言葉は、逆相の逆という意味で、順相という言葉 が生まれた(逆方向の対義語は順方向)。 逆相と順相(まとめ) 順相 逆の逆は順 逆相 担体 未修飾シリカゲル 修飾シリカゲル(ODS化) 歴史 古い 順相より後にできた 固定相 (表面) 特徴 高極性 低極性 乾燥剤(水を結合) 親和性 親水性 疎水性 > 化合物 化合物 親水性 疎水性 < 化合物 化合物 移動相 低極性溶媒 高極性溶媒 ヘキサン, 酢酸エチル, クロロホルム 水、メタノール、アセトニトリル 逆相と順相(Point in check!)1 1. 問い(順相/逆相と名付けられた理由)について答えていない レポートがかなりの数あった 単純なクロマトグラフィーの歴史のみ クロマトグラフィーの定義になっている(例:〜のようなク ロマトグラフィーを順/逆相クロマトグラフィーという。) クロマトグラフィーの特徴を述べて終わっている(例:逆相 クロマトグラフィーでは疎水性化合物に対する親和性が 高い。) 下記2点への言及が必須。 1) 開発順: 順相→逆相 2) 順相と逆相で原理が逆 逆相と順相(Point in check!)2 2. 単に、逆相は順相とは逆の原理(または溶出順が逆等)と述べ ただけでは、もう一押し足りない!「歴史的に順相のほうが先 に出来ていた」ことに言及していないと、なぜ順相に「順」とつき、 逆相のほうが「逆」と名付けられたかの理由が不透明。もし逆 相のほうが先に開発されていたら、順相と逆相が逆転していた 可能性もあるんです。 より正確には、逆相クロマトグラフィーの出現で、従来型(今で 言う順相)と「逆」の原理のクロマトグラフィーが出現したことで、 それが逆相と名付けられた。その後、さらに従来型のクロマト グラフィーと逆相と区別する必要が出てきて、順相と名付けら れた。 スマホとガラケーの命名の経緯と類似:スマートフォンが出てき たことで従来型の携帯電話を区別する必要が出てきて、ガラパ ゴス携帯(ガラケー)という言葉が出来た。 逆相と順相(Point in check!)3 細かな指摘ポイント(間違い) 3. 順相のシリカゲルは化学的処理は何も施されていないが、「シ リカゲルは表面がSi(OH)2になるように化学処理されている」と 書かれたレポートがかなりの数あった。 4. 「順相クロマトグラフィーが最近はあまり使われなくなってきた」 という記述は不正確。“HPLCのカラムとしては”という限定が ついた時のみ、この記述は正しい。 ガスクロマトグラフィー(GC) 移動相の違いに基づくクロマトグラフィーの分類 移動相 液体 液体クロマトグラフィー 気体 気体クロマトグラフィー 分析対象 気化する化合物 学生実習の実習項目:ガスクロマトグラフィー ビデオ鑑賞 ガスクロマトグラフィー(GC) 移動相 液体 気体 超臨界流体 液体クロマトグラフィー(LC) ガスクロマトグラフィー(GC) 超臨界流体クロマトグラフィー 固定相 固体 液体 吸着クロマトグラフィー 分配クロマトグラフィー 移動相-固定相 気体-固体 気体-液体 液体-固体 液体-液体 気-固クロマトグラフィー 気-液クロマトグラフィー 液-固クロマトグラフィー 液-液クロマトグラフィー (GC) (LC) 液体クロマトグラフィー:分配モード マリモの毛のような液体(的) 液体的炭化水素に化合物が解 けたり、また溶媒に戻ったり 分液操作の油水分配に類似 H H O O H O Si Si O O O 固体 R O Si O O R O Si O O O O Si Si Si Si O H O OSiR2(CH2)17CH3 シリカゲル: SiO2 OSiR2(CH2)17CH3 オクタデシルシリル(ODS)化 シリカゲル (C18) O O 化学的に液体が固体に固定 ガスクロマトグラフィー:分配モード 気-固クロマトグラフィー(吸着型) 気-液クロマトグラフィー(分配型) 充填剤(担体) 充填剤(担体) シリカゲル 珪藻土: SiO2 活性炭 ポリエチレングリコール 液体 活性アルミナ モレキュラーシーブ OH Ethylene glycol HO 固体 Polyethylene glycol HO O n OH Polyethylene glycol (PEG) H H H H O O O O Si Si O O O Si Si O O O 物理的に液体が固体に塗布 問題 次の文章の正誤を答えなさい。間違っている場合は、何が間違っているかも答えること。 問題2 次の文章の正誤を答えなさい。間違っている場合は、何が間違っているかも答えること。 宿題 シリカゲル(順相)とオクタデシルシリル(ODS)化シリカゲル(逆相)以外 の順相および逆相の担体の例を挙げなさい。 順相クロマトグラフィーと逆相クロマトグラフィーで用いられる溶媒の特 性をまとめなさい(ヒント:極性に着目)。 通常、水を移動相に用いることができるのは、順相クロマトグラフィー と逆相クロマトグラフィーのいずれか。 逆相クロマトグラフィーの担体に結合した化合物が溶離してこない時、 どうすれば化合物を担体から溶離させることができるか、その方法を 考えなさい。その方法が良い理由も答えなさい。 イントロダクション 今日は、薬品分析学3の講義のガイダンス、 イントロダクションです。 『はかる』学問=分析化学 「わかる」という意味を持つ漢字は 分・別・判・解・頒・析・班など沢山あるが… すべて「わける」という意味を持つ。 • 分:物をいくつかにわける (分割、区分)。 • 別:はっきり違いをたててわける (区別、識別)。 • 解:ばらばらにときわける (解散、解体)。 • 析:すじ道をわける (分析、析出)。 分 刀で八つ裂きにして、理解する!! 分 析 36 分析化学関連ノーベル賞 • 化学賞 – 2002 生体高分子の分析(質量分析*と核磁気共鳴分光法) – 1991 フーリエ変換NMR – 1980 DNAの塩基配列の決定法 – 1966 X線回析法による生体物質の分子構造の決定 – 1959 ポーラログラフィー – 1958 アミノ酸配列の決定法(サンガー法) # – 1950 分配クロマトグラフィー* – 1948 電気泳動装置# – 1922 質量分析* • 生理学・医学賞 – 2003 核磁気共鳴画像法 – 1977 ラジオイムノアッセイ法# • 物理学賞 – X 線解析、ラマン、サイクロトロン、レーザー分光学 *分析2、#分析3
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