当院のNSTの現状

病院におけるNST活動の実際
阿久根市民病院
岩下佳敬
はじめに
• 当院NSTは2005年8月に組織し、活動を開
始した。
• 第2回JSPEN認定NST稼動施設
• NST回診やカンファレンスを行っており、適
切な栄養療法に努めている。
• その中での薬剤師の専門性を生かした取
り組みについて報告する。
当院の概要
病床数222床、地域医療支援病院、紹介率77%
逆紹介率80%、平均在院日数15日
患者平均年齢72.5歳、常勤医師20名、薬剤師10名
NST専門療法士3名 病態栄養専門師1名
NSTとは
• Nutrition Support Team の略
• 1970年にシカゴで誕生
• 医師、栄養士、薬剤師が集結し、栄養管理
チームの必要性を唱え、1980年代に全米
に広がった。
NSTの目的
• 栄養療法はすべての治療の基盤
• 栄養が不良であればいかなる治療も無効
適切な栄養療法の推奨
NSTの役割
•
•
•
•
•
•
•
•
栄養状態を評価する
適切な栄養管理がされているかチェックする
最もふさわしい栄養管理法を指導・提言する。
栄養管理に伴う合併症の予防と早期発見を行う
栄養管理上の疑問に答える。
資材・素材の無駄を省く。
早期退院や社会復帰を助ける。
栄養における新しい知識の習得・志気の向上を図る。
当院の栄養管理業務のフローチャート
入院日
入院時
入院日~翌日
栄養アセスメント
NST依頼
栄養スクリーニング
栄養管理計画書記入
NST回診
栄養管理計画実施
栄養管理法提案
その他のNST対象患者
• Alb3以下の患者
⇒検査科でリスト作成
• 褥瘡患者
⇒褥瘡委員会メンバーからの相談
回診での実例
• 必要カロリーを計算し、食事や栄養補助食品の
追加を行う。
• 栄養追加後にアルブミン、プレアルブミン採血を
行い評価
• 末梢輸液のみの栄養投与が14日間を超えたの
で、中心静脈栄養の提案
• 下痢が多いため、経管栄養投与時にポンプを使
用し、流速を遅くしてみるよう提案
• 経管栄養患者でDMあるため、DMでも使用しや
すい栄養剤を提案
NST薬剤師としての活動
• 点滴の無菌調製拡大
• CVライン検討
• 薬剤からみた適正食の提案
点滴の無菌調製の拡大
2001年 高カロリー輸液無菌調製開始(平日のみ)
2003年 抗がん剤無菌調製開始
2006年 時間外や休日を含めた高カロリー輸液
完全無菌調製実施
TPN疑義照会
• ハイカリック2号+アミゼットB+エレメンミック
+総合ビタミン剤の処方
• Na Cl free ⇒検査値は正常
• 医師に確認後、NaClを追加して調製
ハイカリックRF+エレメンミック+総合ビタミン剤の処方

医師に確認後、ネオアミューを追加して調製

HPNの実践
• 慢性特発性偽性腸閉塞症候群
• 自宅が阿久根であるため鹿児島大学より
紹介され、当院でのフォロー開始
• 月に2日分、水に2日分、金に3日分調製し
お渡ししてる。
在宅麻薬注射薬の調製
小括
• 無菌調製を拡大し、不足している看護師の
手間を省いている。
• HPNに対応し、在宅での生活の支援を
行っている。
• 麻薬皮下注の無菌調製を行い、緩和ケア
病棟患者の長期外泊を支援している。
CVラインの検討
• 2003年12月に高カロリー輸液用ビタミン剤の添
付文書にDEHPが溶出するのでDEHPを含まな
い輸液セットの使用が望ましいという文章が追
加された。
• 当院では、高カロリー輸液セットの変更を検討
し、DEHPフリー(PVCフリー)かつクローズドシ
ステムである高カロリー輸液セット(シュアプラ
グ輸液セット)を採用した。
DEHPを溶出する薬剤
高カロリー輸液用総合ビタミン剤
マルタミン、ビタジェクト他
抗がん剤
タキソール、ベプシド、サンラビン
脂肪乳剤
イントラリポス他
アルプロスタジル
パルクス他
プロポフォール
ディプリバン他
フルルビプロフェン
ロピオン
メナテトレノン
ケイツーN
TPN輸液ルートの変更
• 以前の輸液ルート
•閉鎖式高カロリー
輸液セット(シュアプ
ラグ輸液セット)
シュアプラグ
• DEHPフリーであり、閉鎖式ニードルレスコネクターで
ある。
• 側管部から既存のルート(ロック式)が使用できる。
CVラインの購入額の変化
定価
導入前
導入後
輸液セット(DEHP含有)
140
ファイナルフィルター
920
三方活栓×2
280
三方活栓キャップ×8
280
延長チューブ
75
閉鎖式高カロリー輸液セット(シュ
アプラグ輸液セット)
1,900
総額
1,655
差額は245円
1,900
カテーテル感染症の変化
%
20
15
閉鎖式CVライン
導入
10
5
0
7月 8月 9月 10月 11月 12月 1月 2月 3月 4月 5月 6月
閉鎖式CVライン導入前後のカテーテル感染症の割合
カテーテル感染症は導入前6.4%、導入後1.5%であった。
看護師の意見
利点
• 接続の手間が掛からず、衛生
的である。
• 作業時間が短縮した。
• 針刺し事故防止に有用である。
• 挿入口が平面なので消毒がし
やすい。
問題点
• 気泡がつきやすい。
• 空気抜きがしにくい。
• ニードルレスであるが、導入後
に針を刺してしまったことが1件
あった。
従来のセット
4%
シュアプラグ
輸液セット
96%
今後使用していきたい輸液セットについてのアンケート
n=25
閉鎖式高カロリー輸液セットの問題点と利点
問題点
• 1セットあたり245円のコスト増加
• ルート内に気泡が生じやすい
• ルート内空気の排除困難
利点
• 利便性良好
• 衛生的
• カテーテル感染症の発生減少
• DEHP曝露の防止
小括
• 薬剤師の取り組みでDEHP暴露防止や感
染防止のために、高カロリー輸液のルート
を閉鎖式のものに変更した。
• 感染率は減少し、使用する看護師も閉鎖
式のセットのほうが使用しやすいと回答し
ていた。
薬剤からみた適正食の提案
 当院は紹介型であり、ほとんどの患者が他院から
の持ち込み薬を服用している。
 持ち込み薬の確認や同効薬チェックはルーチン化
して行っているものの、その薬剤に対する病院食
の妥当性確認までは十分に行えないことがある。
 薬剤師と管理栄養士で情報を整理し、服用薬と食
品のチェックを行い、主治医への提言を行うことを
試みた。
食事の組成と特徴(1日1600kcalの場合)
常食
糖尿病食
糖尿病性腎
症食
高血圧食
ワーファリン食
蛋白質(g)
60
70
45
60
脂質(g)
50
40
47
45
常食等の
食事名を
選択
炭水化物
(g)
270
240
250
240
塩分(g)
10以下
10以下
5~7
5~7
その他
単糖類の
単糖類の
使用を制限 使用を制限
納豆禁止
ワーファリン食への提言を行った
患者はすべて変更されていた
件
4.5
4
3.5
3
2.5
2
1.5
1
0.5
0
ワーファリン食への変更提言
ワーファリン食への変更実施
10月
11月
12月
1月
2月
3月
ワーファリン食への変更提言と実施
食事変更の状況(ワーファリン食)
件
提言を行った患者の81.5%
が変更されていた
14
12
10
8
6
高血圧食への変更提言
4
高血圧食への変更実施
2
0
10月
11月
12月
1月
2月
高血圧食への変更提言と実施
食事変更の状況(高血圧食)
3月
糖尿病食への提言を行った患者
はすべて変更されていた
件
2.5
2
1.5
1
糖尿病食への変更提言
0.5
糖尿病食への変更実施
0
10月
11月
12月
1月
2月
3月
糖尿病食への変更提言と実施
食事変更の状況(糖尿病)
結果
1. 糖尿病食,ワーファリン食への提言を行った症例は
すべて変更されていることが分かった。また、糖尿
病食に変更したことにより空腹時血糖値が安定し
てきた症例を経験した 。
2.高血圧食への提言を行った症例はほとんどが変更
されていた。
3. 糖尿病食などの特別食に変更された場合、特別食
加算が1食につき76円増加することが分かった。
小括
 当院では、病棟担当薬剤師が持ち込み薬を確認
しているが、食事の開始、変更には関与が薄く、
また、特別食の知識不足から食事への配慮が不
十分であった。
 薬剤師、管理栄養士、看護師が所属している
NSTを介して、定期的にチェックを加えた。
 患者に最適な食事を選択することは、治療を行う
上で重要であると考えられた。
総括
薬剤師が関与することにより
• 点滴の無菌調製を拡大できた。
• CVルートをより清潔なものに変更し、環境
ホルモン暴露を防止した。
• 薬剤から食事の変更を提言し、適正な食
事療法に努めることができた。
最後に
• 輸液や経腸栄養剤は薬剤である。
• 薬剤師はそれを適切かつ安全に使用する
ことに努める義務がある。
• 我々薬剤師は栄養の分野においてもその
職能を発揮し、十分に活躍できる。