くらし塾 きんゆう塾 2015年春号

じょうずに使おう物やお金 ∼めざせ、
買物名人∼
エキスパートとして、多くの研究授
愛媛県の特別研修を受けた家庭科の
内 容の た め 事 例 や
い)と比べて新しい
(快適な衣服と住ま
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くらし塾 きんゆう塾〈2015年春号〉
金融教育の現場レポート
生活と家族)
、内容
ほかの内容A(家庭
しかし内容Dは、
「金融教育」は、社会の中で生きる力を育むことを目的として行われる教育です。
このコーナーでは、金融教育の授業がどのように進められているか、教育現場に立つ先生や、
授業を受ける生徒の姿をレポートします。
今回は、愛媛県松前町立岡田小学校教諭・樋口典子先生が、
同校の先生方とともに取り組んだ小学校家庭科における金融教育についてご紹介します。
「身近な消費生活」
の新しい
学習に全教職員で挑戦
B(日常の食事と調
業を実践してきました。2012年
資 料 が 少 な く、同
理の基礎)
、内容C
度、岡田小学校が愛媛県教育研究協
校独自でカリキュラ
樋口先生は小学校家庭科において、
議会伊予支部から、家庭科の研究指
1〜6年生のさまざ
ム 作 り か ら 始 める
新たな授業実践の取り組みがスター
ま な 教 科 等の 学 習
定 を 受 け た こ と を き っ か け に、「 身
トしました。研究指定校として3カ
と 関 連 付 けて 実 践
必要がありました。
年にわたる実践が行われ、1年目に
的 に 学 ぶこ と を 考
近 な 消 費 生 活 と 環 境 」( 学 習 指 導 要
は、樋口先生と、当時の研修主任で
えて指 導計画を見直し、家 庭生活を
やお金を大切にする心情を育てる学
ま ず 同 校 で は、
あった則友先生を中心に研究の柱立
総合的に捉えた題材構成を工夫した
習」
、3〜4年生では学級活動でお
領 に お け る 内 容 D ) に 焦 点 を 当 て、
ておよび5年 生での授 業 実践、2年
り、他学 年他教科等におよぶ関連教
こづかいゲームなどを用いた「お金
年生は道徳で「物
目~3年目には、全校を対 象に授 業
育も取り入れたりしています(図表1)
。
例えば、1〜
実践が行われました。
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愛媛県
松前町立岡田小学校
樋口典子教諭
【図表1】(内容D・身近な消費生活と環境)家庭科と道徳・他教科等との系統表
2学年
家庭科
教科等 1学年
道徳
○朝食を考えよう!
(5月)
・加工品の選び方
○じょうずに使おう! 物やお金Ⅱ
(5月)
・修学旅行のお金の使い方
○クリーン作戦Ⅱ
(6月)
・ごみ削減のための物の使い方のく
ふう
○めざせ! 快適生活Ⅱ
(7月)
・衣類の表示、選び方
○ソーイングで生活を楽しく (9月)
・エコソーイング
○くふうしよう! 楽しい食事
(11、12月)
・目的に合った食品の選び方
・買物実習
○考えよう! これからの生活 (2月)
・環境に配慮した生活
(4月)
(5月)
(9月)
(11月)
図工
○楽しくつかおう(4月)
○ざいりょうからひらめき(6月)
○トントンサクサク木の名人(7月)
○ガラスのびんのへんしん(10月)
○自ぜんからのおくりもの(11月)
○ゴムの力でトコトコ(11月)
○やさしいモンスター(2月)
国語
○便利ということ
(1月)
○ぬのでかざろう
(4月)
○ぬのにえがいたら
(6月)
○切って切って木の世界
(7月)
○つないでいくと/木で
○つないでいくと/えだで (10月)
○いつもの場所でへんしん/校庭で
○いつもの場所でへんしん/ろうかや
教室で(12月)
図画工作
国語
(11月)
○白神山地からの提言 (10・11月) ○織る、編む、組む
(1月)
○効果的に発表しよう
(1月) ○ドリームプラン
総合的な学習の時間
○共に生きる
(9~12月)
総合的な学習の時間
○めざせお米マイスター(4~11月) ・ユニバーサルデザインについて
・高齢者疑似体験
○環境問題について考えよう
(10~12月) ○今わたしたちにできること
(1~3月)
○自分にできる環境活動を実施して発
信しよう
(1~3月) 外国語活動
○買物をしよう
(5・6月)
学校行事
○修学旅行
(5月)
が多く、まず金額設定が壁になりま
すが、いろいろな考えが出てきて、授
子どもたちが買物をする上で、
「優
「物を長く使う工夫」
、
「環境を考えた
業は非常に楽しく展開しました」と
した。1000円と決定した後、おや
エコライフ」を学習目 標に掲 げ、1
当時担任の新村先生は振り返ります。
先順位」を考え「意思決定」できる
年目より「買物シミュレーション」を
例えば、
「誕生日プレゼントだから
つ、文房具、家族への誕生日プレゼン
導入(図表2)
。おこづかい1000
多めに使おう」
、
「高くて買えないもの
よう、
「物や金銭の大切さ」
、
「金銭の
円 が 適 正 な 金 額 か ど う かの 検 証 の
はお金を貯めてから買おう」など、
「条
トを買うようルールを決めたわけで
ために事前アンケートを実施したり、
件に合わせたお金の使い方」を学ぶ
計画的な使い方」
、
「適切な買い方」
、
シミュレーションでの子どもたちの反
きっかけになったことが大きな成果の
ひとつです。また最初は「買うこと」
を前提としていましたが、子どもたち
から「どうしても買うのか?」という
問いかけがあり、
「買う・買わないとい
う自己決定」もできる項目を追加。教
師も子どもたちも、
この買物シミュレー
ションで多くの気付きを得て、授業内
容もどんどん改善されていきました。
学校全体での金融教育の
取り組みが最終学年で実を結ぶ
こ の プ ロ ジ ェ ク ト で は、 金 融 教
育が1〜2年生の道徳でお金や
物 の 大 切 さ に 気 付 き、 3 〜 4 年 生
の 学 級 活 動 で お 金 の 使 い 方 を 学 び、
くらし塾 きんゆう塾〈2015年春号〉
応や理解度を踏まえた上で授業の流
その他
図画工作
(9月) ○ぼうしをかぶって
(2月) ○ワクワクがっき
○ケーキやさん
○大すきなたからもの
算数
○かえますか かえませんか (2月)
(7月)
(2・3月)
やお金〜めざせ、買物名人〜」の5
理科
図画工作
○ならべてつんで
○はこのなかまたち
(5月) ○生物のくらしと環境
(9月)
(10月) ○人と環境
(1月)
を大事に計画的に使う態度を育てる
社会
生活
(5月) ○種子の発芽と成長
○台風の接近
○雲と天気の変化
○冬の天気
○1日の気温と天気
れを改善したりしながら、3カ年で
(3月)
時間授業です。先生方がとくに重視
○卒業式への参加
○うごくうごくわたしのおもちゃ
○はたらく人とわたしたちのくらし
○住みよいくらしをつくる
○わたしたちの生活と食料生産
(11月) ・店ではたらく人
(9・10月) ・水はどこから
(6・7月) ・米づくりのさかんな庄内平野
(6・7月)
○住みよいくらしをつくる
・ごみのしょ理と利用
(9月) ・水産業のさかんな静岡県 (9月)
・これからの食料生産とわたしたち
(9・10月)
○わたしたちの生活と工業生産
(10~12月)
○わたしたちのくらしと日本国憲法(1月)
○情報化した社会と私たちの生活
(1・2月) ○世界の未来と日本の役割(2・3月)
○わたしたちの生活と環境(2・3月)
学習」を実践。5〜6年生の学習に
(10月)
題材構成を進化させてきました。
○食生活をみつめよう
【図表2】「買物シミュレーション ワークシート」
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(2月)
(12月) ○ボランティア活動を見直そう(7月) ○ボランティア活動について (4月)
したのは「できる・分 かる・考 える
○じょうずにお使いできるかな
○こづかい帳をつけよう
(11月)
(9月)
つなげていく工夫をしています。
(1月) ○「ふれあいの森」で〈3-2〉
(2月) ○わたしのボランティア体験〈4-4〉 ○白旗の少女〈4-8〉
(2月)
○ホタルよ再び〈4-7〉
「おこづかいをもらっていない児童
○日曜日のバーベキュー
(7月) ○一ふみ十年〈3-2〉
(6月) ○小さい子からもらった幸せ〈4-4〉
○おもちゃリサイクル〈1-1〉
(7月)
(5月)
○ひがたに生きるシオマネキ〈3-2〉 ○愛華さんからのメッセージ〈3-2〉
○ふろしき〈4-6〉
(9月)
(9月) ○義足のランナー〈4-8〉 (6月)
授業づくり」という視点でした。
(4月)
6学年
○はじめてみようクッキング (5月)
・新鮮な野菜の見分け方
○できるようになったかな! 家庭の
仕事
(7月)
・物を長く大切に使うくふう
○じょうずに使おう物やお金Ⅰ
(11月)
・物や金銭の大切さ
・金銭の計画的な使い方
・適切な買い方
○考えよう! 元気な毎日と食事
(12月)
・実の選び方 ○めざせ! 快適生活Ⅰ
(2月)
・衣類の表示、選び方
手探りで作り上げた
できる・分かる・考える授業
○こうえんの花〈4-1〉
(5月)
(9月) ○町のひみつわかったよ〈4-5〉
○かいもの〈1-1〉
(6月)
○おもいでいっぱいの夏休み〈4-2〉
(9月)
○ケヤキのやさしさ〈3-2〉
○ぼくが大きくなったらね〈3-2〉
(2月)
○おばあちゃんのお手玉〈1-1〉
(1月)
5学年
研 究 テ ーマの 中 心 と なった の が、
学級活動
○1ねんせいのすたあと
4学年
5年生の実践「じょうずに使おう物
○おれたクレヨン〈1-1〉
3学年
【図表3】視点2-(3)消費生活への理解と関心を高める、他学年他教
科等との関連を図った学習指導の工夫(金融広報中央委員会主催「2014
年度 教員のための金融教育セミナー」における発表資料より)
「じょうずに使おう物やお金」の応
が、5年生のときに基礎編を学んだ
おう」という新たなカリキュラム
学旅行で無駄なく上手にお金を使
徴 で す( 図 表 3)。 6 年 生 で は「 修
りを見せていったことが大きな特
という学校全体の取り組みへと広が
高学年はその実践へと発展していく
作成などを事前学習で実施。限られ
下調べ、リストアップ、買物メモの
づかいとして使えるため、土産物の
のうち4000円がお土産用のおこ
旅行費用の3万円の価値を学び、そ
の使い方を振り返る」を計画。修学
る」
、
「修学旅行で買物体験」
、
「お金
める」
、
「工夫しながら計画を立て
にお金を使うために必要な情報を集
方について考える」
、
「無駄なく上手
ましいエピソードも含め、本当に子
な枕で寝て慣れておこう”など微笑
する練習をしよう”とか“いろいろ
過ごすという意識が高まり“早起き
め”にも、楽しんで有意義な時間を
「 3 万 円 を“ 生 き た お 金 に す る た
実践になったと樋口先生は話します。
年生のときの学習を土台に、絶好の
た子どもたちが多かったものの、5
難しく、考えた通りにはいかなかっ
限られた買物時間の中ではなかなか
「 修 学 旅 行 の お 金( 3 万 円 ) の 使 い
修学旅行に関する金融教育として、
用編を実践する場となります。
た場所(土産が買えるのは3カ所)
、
【図表4】
「2014年度 教員のための金融教育セミナー」における発表資料
より
※「お土産だからその土地のものを買おう」
、
「贈る相手に喜ばれるものを買おう」
、
「同
じ人へのお土産なら友人同士で一緒に出し合ってより良いものを買おう」
、
「お土産を
優先して自分の欲しいものは余ったら買おう」
、
「日持ちするものを買おう」
、
「賞味期限
を確かめて買おう」
「みんなでまとめて買おう」
、
などを吹き出しコメントにして表にする。
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くらし塾 きんゆう塾〈2015年春号〉
どもたちが修学旅行を楽しむこと
校家庭科における『消費生活』の題
なく「目的に合ったもの、品質の良
といった価値観を押し付けるのでは
しょう」
、
「お金は無駄なく上手に使
材は大きく変わっていくはずです」
子 ど も た ち が 今 回、
「下調べや計
いましょう」という視点をベースに
に つ な が り ま し た。 ま た【 図 表 4】
画を立てることで、生きたお金の使
していると言います。
い も の を、 よ り 良 い 価 格 で 買 い ま
い方ができる」ことを学んだように、
「今後も継続して家庭科における金
と期待を寄せています。
を 作 る 調 理 実 習 の 授 業 で は、 買 物
家庭科が生きる力につながる総合的
融教育の研究を進め、教師の技能や
のような多くの視点を持てたこと
か ら 子 ど も た ち に 任 せ ま し た。 買
な教育になっていくことが、樋口先
経験にかかわらず指導できる授業案
も大きな成果だったと思います」。
物 の 予 算 の 作 成 か ら、 予 算 内 で 買
生の大きな目標です。
価 計 算 ま で、 十 分 理 解 で き る 力 が
弁 当 は 何 円 で す か?」 と い っ た 単
考え、
「品質が一番」
、
「価格が大事」
て、子どもたちの家庭環境の違いも
な お、 実 践 に お け る 留 意 点 と し
する子どもを育てていきたいですね」
。
います。そして、お金や物を大 切に
づくりにも力を入れていきたいと思
じょうずに使おう物やお金 ∼めざせ、
買物名人∼
また、6年生の最終題材「お弁当」
物 を 行 い、 最 終 的 に は「 自 分 の お
身に付いていたといいます。
「5〜6年 生の2カ年にわたり 金
融教育を実践できた子どもたちの成
長を強く感じる結果でした。学校行
事である修学旅行と家庭科で共通し
た枠組みのもとで体験的な学習がで
きる点は、今後の実践にも活かして
いけるという自信になりました」と
樋口先生は話しています。
松前町立岡田小学校 樋口典子教諭
愛媛県
これからの
“生きたお金”の金融教育
家 庭 科 の 内 容 D「 身 近 な 消 費 生
活と環境」は現在の学習指導要領
から注目されるようになった新し
くらし塾 きんゆう塾〈2015年春号〉
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い内容であり、家庭科のエキスパー
ト で あ る 樋 口 先 生 も、
「 今 後、 小 学
金融教育の現場レポート
左から、加藤亜紀子先生、樋口典子先生、新村理昴(まさたか)先生、
則友(のりとも)美紀先生