生命情報学 (7) 代謝ネットワーク 阿久津 達也 京都大学 化学研究所 バイオインフォマティクスセンター 本日の講義内容 代謝ネットワーク ミカエリスメンテン式 代謝流束解析 階層型スケールフリーモデル 代謝ネットワーク 代謝 生体内における化学反応 代謝経路の例 物質代謝:化合物(生体高分子を含む)の合成、分解、 変換 エネルギー代謝:エネルギーの出入りや変換 解糖系:糖を分解してピルビン酸などを生成 TCA回路(クエン酸回路):ピルビン酸などからATPや NADHを生成 カルビン回路:光合成により糖を生成 多くの代謝反応は酵素(≒タンパク質)により触媒さ れる ミカエリス・メンテン式 化学反応の微分方程式による記述例 例:分子Aが1個と分子Bが1個が反応して、分子 ABが1個できる A +B k1 k2 AB 分子Xの濃度を[X]とした時の、ABの濃度変化 d [AB ] k1[A][ B] k 2 [AB ] dt 平衡状態におけるAの全体量に対するABの比率 [AB] [B] [A] [AB] k 2 / k1 [B] ( [AB] (k1 / k2 )[A][B]) ヒル式 分子Aが1個と分子Bがn個が反応して、分子 A(nB)が1個できる A + nB k1 k2 A(nB) 平衡状態におけるA(nB)の比率 n [A(nB)] [B] n n [A] [A(nB)] K [B] ( K k2 / k1 ) n ヒル式の様子 K=10の場合 [B]が増えるに従い 1に近づく n が大きいと、K の 付近で急速に0から 1へと変化 (⇒スイッチの役割) n [B] K n [B]n ミカエリス・メンテン式 (1) 基質をS、 酵素をE、 その複合体をES、さらに、ES から生成物Pができるとする E+S k1 k2 ES k3 基質(S) E+P 生成物(P) 活性部位 酵素(E) 酵素-基質複合体 (ES) 酵素(E) ミカエリス・メンテン式 (2) E+S k1 ES k2 k3 E+P d [ES] d [ P] k1[E][S] k 2 [ES] k3 [ES] k3[ES] dt dt d [ES] 0 , Etotal [E] [ES]とおくと dt Etotal (k2 k3 )[ES] k2 k3 k1[ S ] [ES] [ ES ]より k1[S] k1[S] k1k3 Etotal [S] d [ P] dt k2 k3 k1[S] d [P] Vmax[S] dt K m [S] ( Vmax k3 Etotal Km (k2 k3 ) / k1 ) ミカエリス・メンテン式 (3) E+S k1 k2 ES k3 E+P d [ES] k1[E][S] k 2 [ES] k3 [ES] dt k3 k1 , k3 k2 とすると よって、 Etotal d [ P] k3[ES] dt k1[S][E] k2 [ES] 1 [E] [ES] k2 / k1 1[ES] [S] d [P] k3 Etotal [S] dt k 2 / k1 [S] d [P] Vmax[S] dt K s [S] ( Vmax k3 Etotal Ks k2 / k1 ) 代謝流束解析 代謝流束解析(1) 定常状態を対象 化合物の生成量と消費量のバランスを一次式で 表現 v1 v2 v6 X1 v3 X2 v5 X4 X3 v4 代謝流束解析(2) dX1 dt dX 2 dt dX 3 dt dX 4 dt dX 1 dX 2 dX 3 dX 4 0 dt dt dt dt v1 v6 v2 X1 v3 X2 v5 X4 X3 v4 1 0 0 0 v1 v2 v3 v2 v3 v5 v6 v3 v4 v4 v5 v1 1 1 0 0 0 v2 0 1 1 0 1 1 v3 0 0 1 1 0 0 v4 0 0 0 1 1 0 v5 0 v 6 代謝流束解析(3) 解は一意に決まらない しかし、v1, v6 を指定すれ ば一意に決定 1 0 0 0 v1 1 1 0 0 0 v2 0 1 1 0 1 1 v3 0 0 1 1 0 0 v4 0 0 0 1 1 0 v5 0 v 6 v1 v6 v2 v2 v6 X1 v3 X2 v5 X4 X3 v4 v3 v1 v6 v4 v1 v6 v5 v1 v6 代謝流束解析(4) v2, v3, v4, v5 に制約がある場合に、X2の生成量を 最大化したい ⇒ 線形計画問題 maximize v6 subject to a2 v2 b2 a3 v3 b3 a4 v4 b4 a5 v5 b5 1 0 0 0 v1 1 1 0 0 0 v2 0 1 1 0 1 1 v3 0 0 1 1 0 0 v4 0 0 0 1 1 0 v5 0 v 6 ⇒ 微生物工学などへの応用 基準モードと極値パスウェイ(1) 代謝流量を基本的な流れの重ね合わせで表現 基準モード 極値パスウェイ 定常状態を維持する流れ 極小数の反応で構成 他のモードの非負係数の線形結合で表わされない基準モードの集合 「どの酵素群を不活性化させれば、特定の化合物を合成不 可能にできるか」やネットワークのロバスト性の解析に有用 v4 A v3 代謝 ネットワーク v1 C v6 B v2 v5 A B C 基準モード の例 基準モードと極値パスウェイ(2) M1 A B M2 A C M3 A C B M4 A C B M1,M2,M3,M4はすべて基準モード 極値パスウェイは M1, M2, M3 B C 階層型スケールフリーネットワーク 階層型スケールフリーネットワーク 優先的選択法によるスケールフリーネットワーク クラスター係数の平均値( 実際の代謝ネットワーク 1 n C 1i n i )が小さい( O(n ( 3 / 4) )) クラスター係数の平均値が大きい 階層的な構造をしていると考えられる ⇒ クラスター係数が大きな階層的スケールフリー ネットワークの構成法 階層型ネットワークの構成法 再帰的、かつ、決定的(乱数を使わず)に構成 フラクタル的 L角形を使うと P(k ) k 1(ln(L1) / ln(L)) クラスター係数 は定数オーダー [Ravasz et al, Nature, 2002] 階層型ネットワークの解析 レベル i のハブの次数は n=1 i=1のハブ 2 2 2 23 2i 2i 1 2 2i n=2 i=2のハブ ステップ n におけるレベル i のハブの個数は n=3 (2 / 3)3n i 1 3n i i=2 n=4 ここで、k 2i とおくと、 3 i=1 n i 3 / 3 3 (k よって、γ n i n lnln 32 ) ln 3 ln 2 (実際には binningのため、 γ 1 lnln 32 ) L+Mモデル Barabasi のモデルの拡張 2より大きな任意の値にいくらでも近いγを持つネットワ ークを構成可能 (Barabasi モデルでは γ<2.58 ) ln(L M ) 1 ln(L) (L=2) (M=2) L+M モデルの解析 Degree of i - th levelnode is around Li T henumber of i - th levelnodes in n - th step is around ( L M ) n i By letting k L , i ( L M ) n i ( L M ) n /( L M ) i ( L M ) n (k T hus, we have γ ln (lnLLM ) ) ln ( L M ) ln ( L ) (Finally, by binning, γ 1 ln( L M ) ln ( L ) ) ln(L M ) 1 ln(L) Barabasiらの階層モデルの解釈 Barabasi らの階層スケールフリーモデル ⇒ L+Mモデルにおける M=1 の場合に相当 ln(L M ) ln(L 1) ln(3) 1 1 1 2.58 ln(L) ln(L) ln(2) L=3, M=1 まとめ 代謝 ミカエリス・メンテン式 酵素反応による生成物の生成速度 d [P] Vmax[S] dt K m [S] 代謝流束解析 生体内における化学反応 基質と生成物のバランスを一次式で表現 基準モード、極値パスウェイ 階層型スケールフリーネットワーク クラスター係数が大きなスケールフリーネットワーク 再帰的構成法 [参考文献:江口至洋著:細胞のシステム生物学、共立出版、2008]
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