集中講義(九州大学数理学研究院) バイオ構造データに対する数理モデルと アルゴリズム(1) スケールフリーネットワーク 阿久津 達也 京都大学 化学研究所 バイオインフォマティクスセンター 講義内容 バイオインフォマティクス概観 スケールフリーネットワーク タンパク質進化の数理モデル 木構造および画像データに対する文法圧縮 ブーリアンネットワーク 定常状態検出アルゴリズム ブーリアンネットワークの制御 木の編集距離 スケールフリーネットワーク グラフとネットワーク グラフ 情報科学や離散数学における基礎概 念 グラフは頂点集合と辺集合から構成さ れる 頂点 ⇔ 物 (例:化合物) 辺 ⇔ 2個の物の間の関係 (例:化学反 応) 無向グラフ:辺に方向無し 有向グラフ:辺に方向有り ネットワーク 無向グラフ グラフの辺などに意味や量などのつい たもの 本講義ではグラフとネットワークを区別 しない 有向グラフ グラフと生物情報ネットワーク 代謝ネットワーク (KEGG) グラフ ・点と線で構造を表す グラフと実際のネットワークの対応 代謝ネットワーク 頂点 ⇔ 遺伝子、 辺 ⇔ 遺伝子間制御関係 WWW 頂点 ⇔ タンパク質、 辺 ⇔ 相互作用 遺伝子ネットワーク 辺 ⇔ 代謝反応 タンパク質相互作用ネットワーク 頂点 ⇔ 化合物、 頂点 ⇔ WEBページ、辺 ⇔ リンク 共著関係 頂点 ⇔ 研究者、 辺 ⇔ 共著論文の有無 スモールワールド: 頂点間の距離 二つの頂点をつなぐ辺の列 G A F パスの長さ H 頂点間のパス パス中の辺の個数 B 頂点間の距離 I 距離が最短のパスの長さ C D AとEの間のパスの例 E パス1: (A,G), (G,B), (B,F) ,(F,E) ⇒長さ=4 パス2: (A,G), (G,F), (F,E) ⇒長さ=3 パス3: (A,B), (B,E) ⇒長さ=2 AとEの距離=2 (AとIの距離=3、CとHの距離=3) スモールワールド: クラスター係数 クラスター係数 2mi Ci ki (ki 1) mi :頂点 i に隣接する頂点 間の辺の個数 Ci = 1 ki :頂点 i の次数 頂点のまわりのモジュー ル性の指標 Ci ≒ 1 <-> クリークに 近い i mi の最大値は ki (ki 1) 2 i Ci = 0 スモールワールド 任意の2頂点間の距離(最短 経路)の平均値が小さく (O(log n)以下)、かつ、クラス ター係数の平均値が大きいグ ラフ 多くの現実のネットワークはス モールワールドとなる WWWの直径(各サイト間の リンク数の平均値)は? ⇒ 約19クリック(Albert al., Nature, 1999) H G A F B E I C D 直径≦3 スケールフリーネットワーク(1) 頂点の次数 P(k) 次数=5 その頂点につながっ ている辺の個数 次数分布 次数 k の頂点の頻 度 次数=2 スケールフリーネッ トワーク P(k) がべき乗則に 従う P( k ) k 次数=3 スケールフリーネットワーク (2) 次数=5 次数=2 頂 点 数 頂点数 ∝ (次数)-3 次数 次数=3 スケールフリーネットワーク (3) 次数 k の頂点の個数が k -γに比例(べき乗則) ランダムな場合(ポアソン分布: e-λλk/k!)と大差 Barabasi らが1999年頃に発見。以降、数多くの研 究 特徴: 有力な頂点(ハブ)に多くの頂点が連結 実際のネットワークにおける k –γ タンパク質相互作用: γ≒2.2 代謝ネットワーク: γ≒2.24 (生物種により異なる) 映画俳優の共演関係:γ≒2.3 WWW:γ≒2.1 送電網: γ≒4 ポアソン分布とべき乗分布 べき乗分布 (スケールフリーグラフ) P (k) log P (k) ポアソン分布 (ランダムグラフ) k log(k) タンパク質ネットワークの解析 タンパク質相互作用のネットワークもべき乗則に 従う(酵母の場合) 次数5以下の頂点(全体の93%) 頂点:タンパク質 辺:相互作用の有無 21%程度が必須(生存に必要) 次数16以上の頂点(全体の0.7%) 62%程度が必須 次数の高い頂点はハブと呼ばれ、重要な役割を果た すものが多い スケールフリーネットワーク構成法:優先的選択法 優先的選択法(優先的選択型成長モデル) 別名: Rich-get-richer モデル 構成法(ほぼ、k -3 のべき乗則従うネットワークを生成) m0 個の頂点から成るグラフを構成する 以下のステップを必要なだけ繰り返す [Barabasi & Albert 1999] 現在のグラフに新たな頂点 v を追加する v から既存の頂点に、deg(vi)/(Σj deg(vj)) に従う確率で、ランダムに辺を 張る(全部で m 本の辺を張る) 参考:ランダムグラフの構成法 N個の頂点を配置 以下の操作を辺の個数が指定の数になるまで繰り返す 任意の2頂点をランダムに選んでは辺を追加 (もしくは、一様な確率pで任意の2頂点間に辺を引く) ランダムネットワーク vs. スケールフリーネットワーク ランダムネットワーク スケールフリーネットワーク 2/6 2/6 4/14 3/10 3/10 2/6 2/14 4/14 2/10 2/10 2/14 2/14 優先的選択法の平均場近似による解析 ki(t): (時刻 ti)に追加された頂点 i の時刻 t における次数 時刻 t までに追加された辺の個数≒mt ki (t ) mk i (t ) 時刻 t において頂点 i の次数が増加する確率は t 2mt t ki (t ) m ti 0.5 この微分方程式を条件 ki(ti)=m のもとで解くと 時刻 tn にネットワークが完成したとすると、 次数 k の頂点の生成時刻は、ki(tn)=k を解いて、 ここで、k が1だけ増えると、ti がどれくらい減るかは、 2m 2t n 上の式を k で微分することにより、 k3 よって、時刻が 2tnm2k -3 だけ異なると k が1変わる よって、次数 k の頂点は 2tnm2k -3 のオーダーの個数存在 m 2t n ti 2 k ki (t) k+1 k m 2m 2t n ti k3 m 2t n ti 2 k tn t 階層型スケールフリーネットワーク 優先的選択法によるスケールフリーネットワーク クラスター係数の平均値( 実際の代謝ネットワーク 1 n C 1i n i )が小さい( O(n ( 3 / 4) )) クラスター係数の平均値が大きい 階層的な構造をしていると考えられる ⇒ クラスター係数が大きな階層的スケールフリー ネットワークの構成法 階層型ネットワークの構成法 再帰的、かつ、決定的(乱数を使わず)に構成 フラクタル的 L角形を使うと P(k ) k 1(ln(L1) / ln(L)) クラスター係数 は定数オーダー [Ravasz et al, Nature, 2002] 階層型ネットワークの解析 レベル i のハブの次数は n=1 i=1のハブ 2 2 2 23 2i 2i 1 2 2i n=2 i=2のハブ ステップ n におけるレベル i のハブの個数は n=3 (2 / 3)3n i 1 3n i i=2 n=4 ここで、k 2i とおくと、 3 i=1 n i 3 / 3 3 (k よって、γ n i n lnln 32 ) ln 3 ln 2 (実際には binningのため、 γ 1 lnln 32 ) L+Mモデル Barabasi のモデルの拡張 2より大きな任意の値にいくらでも近いγを持つネットワ ークを構成可能 (Barabasi モデルでは γ<2.58 ) ln(L M ) 1 ln(L) (L=2) (M=2) L+M モデルの解析 Degree of i - th levelnode is around Li T henumber of i - th levelnodes in n - th step is around ( L M ) n i By letting k L , i ( L M ) n i ( L M ) n /( L M ) i ( L M ) n (k T hus, we have γ ln (lnLLM ) ) ln ( L M ) ln ( L ) (Finally, by binning, γ 1 ln( L M ) ln ( L ) ) ln(L M ) 1 ln(L) Barabasiらの階層モデルの解釈 Barabasi らの階層スケールフリーモデル ⇒ L+Mモデルにおける M=1 の場合に相当 ln(L M ) ln(L 1) ln(3) 1 1 1 2.58 ln(L) ln(L) ln(2) L=3, M=1 まとめ グラフとネットワーク スモールワールド 2頂点間の平均距離が短いグラフ スケールフリーネットワーク 頂点と辺 次数分布がべき乗則に従うネットワーク スケールフリーネットワークの構成法 優先的選択型成長モデル 階層型モデル L+Mモデル
© Copyright 2024 ExpyDoc