エビデンスレベルと推奨形成の実際 –臨床医、患者の視点に立って?名郷直樹 社団法人地域医療振興協会 地域医療研修センター 横須賀市立うわまち病院 市立伊東市民病院 東京北社会保険病院 自己紹介 • • • • • • 1986年 自治医大卒 同年 名古屋第二赤十字病院研修医 1988年 作手村国保診療所 1992年 自治医大地域医療学 1995年 作手村国保診療所 2003年 社団法人地域医療振興協会 横須賀市立うわまち病院臨床研修センター • 2004年 伊東市立伊東市民病院臨床研修センター • 2005年 東京北社会保険病院臨床研修センター • 専門領域 地域医療、家庭医療、医学教育 今日の内容 • • • • • エビデンスと患者をつなぐもの 明確なエビデンスとは? 内的妥当性と外的妥当性 大規模試験の落とし穴 それをねたに皆さんと一緒に考える エビデンスから治療まで • 明確なエビデンスがある – 臨床研究:ランダム化比較試験、そのメタ分析 • 治療を行うことが推奨される – ガイドライン • 目の前の患者に治療を行う – 個々の臨床医と患者の判断 EBMみたいなもの • こういうエビデンスがあるのだから、このよ うな医療を提供すべきだ • ガイドラインが推奨しているのだからそのと おりやるべきだ – これを料理本医療といいます – EBMの対極です – こういった間違いに陥らないように – 情報の使い方を学びましょう 推奨度を決めるもの • • • • • • • 治療効果についてのエビデンスレベル 治療効果の正味の大きさ コストや害 臨床医の能力 地域性 医療資源 保険制度 実際の医療を決めるもの • • • • • 患者の好み 臨床医の意見 現実の医療環境 エビデンス ガイドラインの推奨度 患者シナリオ • 50歳男性、健診で糖尿病を指摘され、外来を受診 • 身長162cm、体重65kg • HbA1c7.8%、空腹時血糖 142mg/dl • 父が心筋梗塞で50代で死亡 • 食事、運動療法を半年続けたが、HbA1c7%以上 • 主治医は経口血糖降下薬の投与を考慮 糖尿病ガイドライン • 経口糖尿降下薬の適応 – インスリン非依存状態で、十分な食事運動療法 を2-4ヶ月間行ってもよいコントロールが得られ ない場合、経口血糖降下薬の適応となる • グレードA (行うように強く勧められる) • レベル1 (十分な症例数のランダム化比較試験) 先の患者さんに • • • • ガイドラインに基づき経口血糖降下薬を処方 しかし患者は服用せず どうして薬をきちんと飲まないのですか 薬の効果はガイドラインで勧められるように はっきりしているのです • 合併症がおきても責任持ちませんよ! – これをガイドラインに基づく適正な医療と呼ぶ か? – 呼ぶわけないですね 明らかなエビデンス • 明らかとはどれほど明らかなのか • 明らかにしながら、エビデンスを示したい 糖尿病のエビデンス • 血糖コントロールの効果について、レベル1 の明確なエビデンスがあります • レベル1がどれほど明確なエビデンスか、隣 同士で話し合ってみましょう 血糖コントロールの効果 • HbA1cが1%下がると、糖尿病合併症はどれく らい減るでしょうか • 隣同士話し合ってみてください エビデンスを読むための基本事項 • • • • • PECO 相対危険 治療必要数 危険率 信頼区間 PECO(ペコ) • Patient:どんな患者に • Exposure:どのような治療をしたら • Comparison:どんな治療と比べ • Outcome:どんな効果があるか 血糖コントロールの効果 • HbA1cが1%下がると、糖尿病合併症はどれく らい減るでしょうか • UKPDS – United Kingdom Prospective Diabetes Study – II型糖尿病の最大のランダム化比較試験 結果を見ると • 大規模ランダム化比較試験の結果 • 全糖尿病合併症を • 統計学的にも有意に減少させた – 相対危険 0.88 (0.79-0.99) p=0.029 • 明確なエビデンス? 論文1:UKPDS33 • • • • • P: II型糖尿病患者で (3867人) E: 集中的な治療を行うのと(目標血糖108) C: 従来治療を行うのと比べて(270) O: 糖尿病合併症が減少するか 結果 集中: 4.09% 従来: 4.6% – RR 0.88 (0.79-0.99) p=0.029 – NNT 31 (-681-15) 10年間 – HbA1cは7.9から7.0へ減少 – 体重は集中治療で約3kg増加 明確なエビデンスをグラフで見る と 不明確なエビデンス? 明確なエビデンスとは? • 「明確」とはどんな意味なのか • 隣同士で話し合ってみましょう 再び 明確なエビデンスとは • 妥当性の高い研究方法で行われている – 大規模二重盲検ランダム化比較試験 • 統計学的に明確な差がある – 危険率が0.05未満 – 95%信頼区間が狭い • 正味の治療効果は? – 考慮されていない! – 合併症を減らす率が10%でも50%でもレベル1 内的妥当性と外的妥当性 • 内的妥当性 – 情報そのものの妥当性 – エビデンスレベル • 外的妥当性 – 患者への当てはまりの妥当性 – 推奨度 – 臨床現場での判断 明確なエビデンスとは? 三たび • 明確なエビデンスとは、 – 内的妥当性は高い – 外的妥当性は問わない • 大規模ランダム化比較試験 – 内的妥当性は高い • バイアスが少ない – 外的妥当性は低い • 正味の効果が小さい • 特殊な人が参加している しない) (くすり好き、副作用心配 レベル2のエビデンスを見てみる 明確でないエビデンス? Multifactorial Intervention • P: 微量アルブミン尿のあるII型糖尿病患者に(160人) • E: プロジェクトチームによる集学的治療 (食事、運動、ビタミン剤、降圧剤(ACEを含む) スタチン、フィブラート、アスピリン、 経口糖尿病薬 or インスリン or メトフォルミン) • C: 通常治療と比べて • O: 心血管疾患が減少するか • 結果 集学的: 24% 通常: 44% – RR – NNT 0.47 (0.24-0.73) p=0.008 4 (2-10) 7.8年間 UKPDS33と比べる UKPDS33 大規模臨床試験とは • 何例以上の臨床試験なら大規模だろうか? – UKPDSは両群で数千例以上 • レベル1 – Multifactorial Interventionの試験は両群で160例 • レベル2 – どちらが明確なエビデンスでしょうか 2つの臨床試験の違い • UKPDS33 – 集中: 4.09% 従来: 4.6% – RR 0.88 (0.79-0.99) p=0.029 – NNT 31 (-681-15) 10年間 • Multifactorial intervention – 結果 集学的: 24% 通常: 44% – RR 0.47 (0.24-0.73) p=0.008 – NNT 4 (2-10) 7.8年間 大規模臨床試験の定義 • 研究規模の決定 – アウトカムの発生頻度、治療効果 • 発生頻度が少ないほど、治療効果が小さいほど大規模 – αエラー、βエラー • 「アウトカムの発生が少ないため、治療効果 が小さいため、最小規模でやろうとしてもや むえず大規模になってしまう」のが大規模臨 床試験 大規模試験でのエビデンスがある • 大規模で検討しないとわからないくらい治療 効果が小さい • 治療効果が小さいので目の前の患者に治療を すれば良いかどうかははっきりしない • 大規模試験のエビデンスがある場合、実際に どうすれば良いか常に悩む • 小規模試験のエビデンスがあるという方が患 者には適用しやすい(治療効果が大きいか ら) 明確なエビデンスとは? • 内的妥当性が高い研究方法で • 統計学的な有意差を示しているが • 正味の治療効果が小さい – エビデンスのことを – 明確なエビデンスと呼ぶ • 小規模のエビデンスは – 正味の治療効果が大きく、外的妥当性が高い こんなエビデンスもあります ちょっと古いですが UKPDS34 その1 • P: 肥満II型糖尿病患者に • E: 集中的な治療を行うのと(目標血糖108) – 経口糖尿病薬、又はインスリン • C: 従来治療を行うのと比べて(270) • O: 糖尿病合併症が減少するか • 結果 集中: 4.01% 従来: 4.33% – RR 0.93 (0.77-1.12) p=0.46 – 体重は集中治療群で5-7kg増加 UKPDS34 その2 • • • • • P: 肥満II型糖尿病患者に E: メトフォルミンを投与して C: 投与しない場合と比べて O: 糖尿病合併症が減少するか 結果 メ: 2.98% 対照: 4.33% – RR – NNT 0.68 (0.53-0.87) p=0.0023 10 (6-28) 10年間 グラフで見ると 従来治療、集中治療 メトフォルミン UGDP研究 (II型糖尿病最初の大規模試験) • • • • • P: II型糖尿病患者 E: トルブタマイドを投与して C: プラセボと比べて O: 心血管死亡が減少するか 結果 ト:17.6% プ:6.0% – RR 2.93 p=0.005 – NNH 9人 (8年間) UGDP研究とガイドライン • ガイドラインには引用されず • 引用しない理由も明記されていない • 経口血糖降下薬はカリウムチャンネルブロッ カーで、冠動脈を収縮させるメカニズムが明 らかにされている エビデンスから治療まで • 明確なエビデンスがある – 臨床研究:ランダム化比較試験、そのメタ分析 • 治療を行うことが推奨される – ガイドライン • 目の前の患者に治療を行う – 個々の臨床医と患者の判断 患者シナリオ • 50歳男性、健診で糖尿病を指摘され、外来を受診 • 身長162cm、体重65kg • HbA1c7.8%、空腹時血糖 142mg/dl • 父が心筋梗塞で50代で死亡 • 食事、運動療法を半年続けたが、HbA1c7%以上 • ガイドラインに基づき経口血糖降下薬を処方 ロールプレイ • • • • 隣同士でじゃんけんです 勝った人が医師、負けた人が患者役です シナリオの続きをロールプレイしてましょう この患者さんに経口血糖降下薬の降下につい て説明してみてください 説明いろいろ • 運動、食事でうまくいかない場合は、ガイド ラインに基づいて薬をお出しします • このくすりで合併症が100%防げるわけでは ありませんが、HbA1cが1%下がれば、合 併所の危険を10%ほど下げることができます • くすりを追加してもたいした効果はありませ んが、飲まないのと比べると少しは効果があ るようです • 副作用とコストは? 推奨されるといっても • ガイドラインで推奨される治療は選択肢の一 つ • 治療を受けてもいいし、受けなくてもいい • 「ガイドラインにこう書いてあるのに、なぜ ちゃんと薬を飲まないのですか」、とは決し て言わないようにしたい • ガイドラインの推奨によって、治療を受けな いという選択肢に、治療を受けてもいいとい う選択肢が一つ追加される エビデンスから治療まで • 明確なエビデンスがある – 内的妥当性を検討 • 治療を行うことが推奨される – 一般的な外的妥当性の検討 • 目の前の患者に治療を行う – 個別の妥当性の検討 まとめ1 • 明確なエビデンスといっても内的妥当性のみを考慮 している • どんなレベルの高いエビデンスも内的妥当性は高い が、外的妥当性は不明 • 大規模であればあるほど外的妥当性は低い • 推奨度決定に当たって、一般的な外的妥当性を考慮 • 個々の医者と患者で個別の外的妥当性を考慮 • ガイドラインは情報を提供しますが、決めるのはあ なたです まとめ2 • 情報不足で怪しい医療にならないように • 情報を重視しすぎて、患者に厳しいだけの医者 にならないように • 最新のエビデンスを勉強し • エビデンスを押し付けることなく • 患者が無理なく行動を変えられるよう支援し • 個別の患者に合った医療を提供していく – ことができればいいですね これでおわりです • ここまでお付き合いありがとうございます • 何か質問があれば遠慮なくどうぞ • 興味があれば – EBM実践ワークブック – 続EBM実践ワークブック – 問題対応能力ポイント60 – EBMキーワード
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