時系列データの季節調整 経済データ解析 2011年度 (経済)データの種類 時系列データ – データを時間の順序に並べたもの – 将来の予測などに用いる ⇒ (例)2030年の山口県の人口は? – データの発生間隔により、年次データ、四半期データ、月次デー タなどがある ※ 四半期データ - 1年を1月~3月、4月~6月、7月~9月、10月~12月の4つに分 けたもので、それぞれを第Ⅰ四半期、第Ⅱ四半期、第Ⅲ四半期、第Ⅳ四半期とい う。 クロスセクションデータ – 1時点におけるデータ – 現状把握に用いる ⇒ (例)都道府県の人口格差はどの程度 か? – 都道府県別データ、世帯の収入階級別データ、企業の従業員規 模別データなどがある。 <時系列データとクロスセクションデータ> (例) 交通事故死亡者数の推移(中国地方5県) (データ出典: 警察庁「交通事故死者数について」) (単位:人) 年 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 鳥取県 61 79 61 51 45 39 34 30 37 42 島根県 72 73 74 47 69 46 42 42 33 31 岡山県 190 169 175 159 148 144 115 114 107 109 広島県 251 202 187 189 187 165 132 128 142 127 鳥取県の交通事故死亡者数の年次推移 → 時系列データ 2010年の県別交通事故死亡者数 → クロスセクションデータ 山口県 152 141 129 106 116 108 115 91 108 96 <分析目的と利用する時系列データ> 時系列データを用いた分析をおこなうとき、分析者はどの ような間隔のデータを用いるかを選ぶ必要がある。 (例1) 年次データ 実質GDP (10億円) (例2) 日次データ 実質GDPの推移 東証株価(日経225種平均・終値) (2009年9月-12月) 株価指数(円) 600,000 11000 550,000 10500 500,000 10000 450,000 9500 400,000 暦年 日本経済の長期的な変動をみるとき → 実質GDPの年次データなどの比 較的間隔の長いデータを用いる 12/29 12/22 12/15 12/8 12/1 11/24 11/17 2004 11/10 2001 11/3 1998 10/27 1995 10/20 1992 10/13 1989 10/6 1986 9/29 1983 9/22 1980 9/15 9/1 300,000 9/8 9000 350,000 日付 株価などの変動の激しいデータを分析 するとき → 日次データなどの比較 的間隔の短いデータを用いる ※ 最近では秒次データの分析なども試み られている 季節性を含むデータ 百貨店売上高の推移 売上高 (100億円) (商業販売年報より作成) 340 320 300 280 260 240 Ⅲ Ⅰ 20 00 Ⅲ 20 00 Ⅰ 19 99 Ⅲ 19 99 Ⅰ 19 98 Ⅲ 19 98 Ⅰ 19 97 Ⅲ 19 97 Ⅰ 19 96 Ⅲ 19 96 19 95 19 95 Ⅰ 220 年・四半期 課税移出数量 (kl) 450000 400000 350000 300000 250000 200000 150000 100000 50000 0 2006年01月 ビール国内課税移出数量 (ビール酒造組合調べ) 2007年01月 毎年同様の変動パターン ⇒ 季節性 四半期データや月次データなどに見られる 季節性を含むデータ ⇒ 前期と単純比較すると誤った結論を導く (例) 2000年第Ⅰ四半期と1999年第Ⅳ四半期の比較 2008年01月 <季節性を含むデータの簡単な分析> 前年同期比を用いる。前年同期比は、前年の同じ時期を 100としたとき、今期がどれぐらいの大きさとなるかをあら 今期のデータ わしたものである。 四半期データの場合 yt 100 yt 4 前年の同じ時期のデータ 百貨店売上高の推移 売上高(10 0億円) 340 320 300 280 260 240 19 96 Ⅰ 19 96 Ⅲ 19 97 Ⅰ 19 97 Ⅲ 19 98 Ⅰ 19 98 Ⅲ 19 99 Ⅰ 19 99 Ⅲ 20 00 Ⅰ 20 00 Ⅲ 20 01 Ⅰ 20 01 Ⅲ 220 年・ 四半期 (例) 2001年第Ⅰ四半期のデータであれば、2000年第Ⅰ四半期のデータと比較する。 月次データの場合 今月のデータ yt yt 12 100 前年の同じ月のデータ これは前年同月比ともいわれる。 課税移出数量 (kl) 450000 400000 350000 300000 250000 200000 150000 100000 50000 0 2006年01月 ビール国内課税移出数量 (ビール酒造組合調べ) 2007年01月 2008年01月 データ出典: ビール酒造組合『月別ビール課税移出数量(会員5社)』 (例) 2008年12月のデータであれば、2007年12月のデータと比較する。 <前年同期比の問題点> 1. 不規則変動の影響 ある期のデータが平年と異なった値をとったとき、前年同期比は影響をう ける。 (例)1997年の第Ⅰ四半期(第Ⅱ四半期も同様) 百貨店売上高の推移 売上高 (100億円) 百貨店売上高の推移(前年同期比) 前年同期比 (前年=100) (商業販売年報より作成) 110 340 109.7 320 105 年・四半期 1997年第Ⅰ四半期が平年より高い値をとったので • 1997年第Ⅰ四半期の前年同期比は通常より高めになる。 • 1998年第Ⅰ四半期は、反対に通常より低めになる。 この場合は、1997年第Ⅱ四半期も平年より低い値をとったので • 1997年第Ⅱ四半期の前年同期比は通常より低めになる。 • 1998年第Ⅱ四半期は、反対に通常より高めになる。 97.3 2000Ⅳ 96.3 2000Ⅲ 97.1 2000Ⅱ 98.4 2000Ⅰ 91.1 1998Ⅰ 1997Ⅳ 1997Ⅲ 1997Ⅱ 1997Ⅰ 1996Ⅳ 1996Ⅲ 1996Ⅱ Ⅲ Ⅰ 20 00 Ⅲ 20 00 Ⅰ 19 99 Ⅲ 19 99 Ⅰ 19 98 Ⅲ 19 98 Ⅰ 19 97 Ⅲ 19 97 Ⅰ 19 96 Ⅲ 19 96 Ⅰ 19 95 19 95 年・四半期 1996Ⅰ 90 220 1998Ⅱ 95.0 97.2 96.897.1 1999Ⅳ 240 96.2 95.3 95.7 1999Ⅲ 95 1999Ⅱ 260 101.6 100.0 98.5 1999Ⅰ 280 104.0 102.0 101.9 100.0 1998Ⅳ 100 1998Ⅲ 300 2. タイミングの問題 経済時系列データは景気変動などにより、循環的な変動をすることがある。 (詳しくは後述) 景気判断をおこなう場合などには、「どこが底か」を知りたいのであるが、 前年同期比にはタイミングのずれがある。 仮想データとその前年同月比 102 原系列 前年同月比 100 98 1月 4月 7月 10月 1月 4月 7月 10月 1月 4月 この仮想の月次データについて前年同月比を取ると、転換点から若 干の遅れが出るのがわかる。 そのため、データから季節性のみをとり除くための方法が必要となる。 ⇒ その方法は季節調整法といわれる方法で、古典的時系列分析の 応用例の1つである。 時系列データの成分 時系列データは次の4つ成分が組み合わさってできたもの と想定する。 1.トレンド(Trend) 経済成長などの長期的な変動 2.サイクル(Cycle) 景気循環などの周期的な変動 3.季節変動(Seasonal variation) 季節による変動 4.不規則変動(Irregular variation) 上の3つに含まれない変動 ただし、これらの成分は実際に観測できるものではなく、 あくまで仮定の話である。 1996Ⅰ 1997Ⅰ 1998Ⅰ 1999Ⅰ 1997Ⅰ 1998Ⅰ 1999Ⅰ 1991Ⅰ 1990Ⅰ 1989Ⅰ 1988Ⅰ 1995Ⅰ -1.5 1996Ⅰ -1 1994Ⅰ -0.5 1995Ⅰ 0 1993Ⅰ 0.5 1994Ⅰ 1 1992Ⅰ 1.5 1993Ⅰ 不規則変動 1992Ⅰ 1991Ⅰ 1990Ⅰ 1989Ⅰ 1987Ⅰ 1986Ⅰ 1985Ⅰ 1984Ⅰ 1983Ⅰ 1982Ⅰ 1981Ⅰ トレンド 1988Ⅰ 季節変動 1987Ⅰ 1986Ⅰ 1985Ⅰ 1984Ⅰ 1983Ⅰ 1982Ⅰ 1 0.8 0.6 0.4 0.2 0 -0.2 -0.4 -0.6 -0.8 -1 1980Ⅰ 16 14 12 10 8 6 4 2 0 1981Ⅰ 1999Ⅰ 1998Ⅰ 1997Ⅰ 1996Ⅰ 1995Ⅰ 1994Ⅰ 1993Ⅰ 1992Ⅰ 1991Ⅰ 1990Ⅰ 1989Ⅰ 1988Ⅰ 1987Ⅰ 1986Ⅰ 1985Ⅰ 1984Ⅰ 1983Ⅰ 1982Ⅰ 1981Ⅰ 1980Ⅰ 19 80 19 Ⅰ 81 19 Ⅰ 82 19 Ⅰ 83 19 Ⅰ 84 Ⅰ 19 85 19 Ⅰ 86 19 Ⅰ 87 19 Ⅰ 88 Ⅰ 19 89 19 Ⅰ 90 19 Ⅰ 91 19 Ⅰ 92 19 Ⅰ 93 19 Ⅰ 94 19 Ⅰ 95 19 Ⅰ 96 Ⅰ 19 97 19 Ⅰ 98 19 Ⅰ 99 Ⅰ 右のデータは時系列データ についての仮想例である。 この例は下のような4つの成 分を加えたものである。 1980Ⅰ 1999Ⅰ 1998Ⅰ 1997Ⅰ 1996Ⅰ 1995Ⅰ 1994Ⅰ 1993Ⅰ 1992Ⅰ 1991Ⅰ 1990Ⅰ 1989Ⅰ 1988Ⅰ 1987Ⅰ 1986Ⅰ 1985Ⅰ 1984Ⅰ 1983Ⅰ 1982Ⅰ 1981Ⅰ 1980Ⅰ 時系列データの仮想例 18 16 14 12 10 8 6 4 2 0 原系列 トレンド+サイクル トレンド+サイクル+季節変動 年・四半期 サイクル 0.6 0.4 0.2 0 -0.2 -0.4 -0.6 1998Ⅲ 1997Ⅰ トレンド+サイクル 14 12 10 8 6 4 2 0 1998Ⅲ 1997Ⅰ 1995Ⅲ 1994Ⅰ 1992Ⅲ 1991Ⅰ 1989Ⅲ 1988Ⅰ 1986Ⅲ 1985Ⅰ 1983Ⅲ トレンド 1982Ⅰ 1980Ⅲ 1979Ⅰ 1977Ⅲ -1.5 1995Ⅲ 0 1976Ⅰ -1 1994Ⅰ 2 1974Ⅲ 6 1992Ⅲ 8 1973Ⅰ 1 1971Ⅲ 12 1991Ⅰ 1970Ⅰ 1.5 1989Ⅲ 14 1988Ⅰ 10 1986Ⅲ 1998Ⅲ 1997Ⅰ 1995Ⅲ 1994Ⅰ 1992Ⅲ 1991Ⅰ 1989Ⅲ 1988Ⅰ 4 1985Ⅰ 1983Ⅲ 1982Ⅰ 1980Ⅲ 1979Ⅰ 1977Ⅲ 1976Ⅰ 1974Ⅲ 1973Ⅰ 1971Ⅲ 1970Ⅰ 1986Ⅲ 1985Ⅰ 1983Ⅲ 1982Ⅰ 1980Ⅲ 1979Ⅰ 1977Ⅲ 1976Ⅰ 1974Ⅲ 1973Ⅰ 1971Ⅲ 1970Ⅰ トレンドとサイクル 1990年までの日本の経済データの多くは、周期的な上昇下降をくり 返しながら、右上がりの傾向を示している。(実質GDPのグラフを参 照) これは、トレンドとサイクルが組み合わさったものと考えられる。 サイクル 0.5 0 -0.5 不規則変動 不規則変動は2種類のものを含んでいる。 1.比較的小さなランダムな変動 2.戦争、天災、制度の変更などによる突発的 な変動 (例) 百貨店売上高 1997年4月に消費税が3%から5%に引き上げられた。 → この年の第Ⅰ四半期に「駆け込み需要」、第Ⅱ四 半期に「買い控え」の傾向がみられる これは不規則変動の2番目の種類である。 時系列データの4つの成分は直接観測すること はできない どのように組み合わさっているかは分からない → モデルを仮定する (1) 加法モデル yt=Tt+Ct+St+It (2) 乗法モデル yt=Tt×Ct×St×It 季節調整法 原系列から季節変動Stをとり除くこと。加 法モデルを仮定した場合は yt-St 、乗法モデルを仮定し た場合には yt/St が季節調整値となる。季節調整値をも とめるには、 1.トレンドTCtをとり除く 2.不規則変動Itをとり除く 3.このようにしてもとめた季節変動Stを原系列ytからとり除く yt SIt TCt St It yt-St または yt/St トレンドの抽出 系列の大局的な変動をトレンドと考える。 (トレンドとサイクルを分離することは困難なので、この2つをあわせたも のを、以下ではトレンドとよぶ) トレンドを抽出する1つの方法として移動平均法を用 いる方法がある。 – 移動平均法はその期と前後k期の値の平均を、1期ずつ 移動しながら平均する手法であり、k=1のとするなら、3項 移動平均である。 – 移動平均には系列の大幅な上下変動を「ならす」効果が ある。 下の表のようなデータについて3項移動平均をと ると、変動の幅は小さくなる。 1990 126 1991 106 1992 101 1993 108 111 105 1994 103 104 107.33 1995 111 1996 101 105 106 1997 106 94 原系列と3項移動平均 130 120 110 100 90 80 70 原系列 3項移動平均 1990 1991 1992 1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999 1998 75 96 1999 107 移動平均をとることによって、変動の激しいデー タの大局的な動きを見ることができる。 たとえば、株価の変動などは移動平均をとること によって、今後のトレンドの予想をおこなう。 日経平均株価 出典: Yahooサイトより 四半期データの場合、移動平均としては4項移 動平均をとる。 ← すべての季節の影響を「ならす」ため 移動平均の項数が偶数の場合、どの期に対応 するデータか判断することが困難である。 → 中心化系列の利用 年・ 四半期 原系列 1996Ⅰ 1996Ⅱ 1996Ⅲ 1996Ⅳ 1997Ⅰ 1997Ⅱ 257 258 263 326 282 245 4項移動平均 中心化系列 276 282.25 279 279.125 280.625 1996年第Ⅲ四半期の中心化系列は前後同数 の期の影響を受けている。 不規則変動の除去 原系列からトレンドをとり除いたものは、季節変 動と不規則変動の和となる。(SItとあらわす) この系列SItから不規則変動を除去するための方 法として、この系列を各期ごとに集め、平均する ことが考えられる。 さらに、この平均値の合計が0になるように調整 したものが季節変動となる。 季節調整値 原系列から季節変動を除いた系列が季節 調整値(または季節調整済み系列)となる。 季節調整値を用いれば、前期との比較を おこなうことができる。 340 320 百貨店売上高 季節調整値 300 280 260 年・ 四半期 20 01 Ⅲ 20 01 Ⅰ 20 00 Ⅲ 20 00 Ⅰ 19 99 Ⅲ 19 99 Ⅰ 19 98 Ⅲ 19 98 Ⅰ 19 97 Ⅲ 19 97 Ⅰ 19 96 Ⅲ 240 220 19 96 Ⅰ 売上高(100億円) 百貨店売上高の推移
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