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湿疹と皮膚炎
と
アトピー性皮膚炎
皮膚科 澄川靖之
1
湿疹って?
湿疹、皮膚炎とは

外的、内的刺激に対する表皮、真皮上層を場とし、
多少とも痒みないしひりひり感を伴う無菌性、可逆
性の炎症性の皮膚疾患

組織学的には、巣状に生じる表皮の細胞間浮腫、
細胞内浮腫から水疱形成にいたる基本的特徴を持
つ。

肉眼的には、湿疹三角に示されるように、紅斑、丘
疹、小水疱から苔癬化にいたる可変性を有する皮
疹から成り立つ皮膚疾患の総称
3
湿疹三角
膿疱
小水疱
びらん
慢性化
(湿疹)
丘疹
紅斑
(皮膚炎)
苔癬化
痂皮
落屑
治癒
4
なぜ湿疹・皮膚炎の病名は
分かりにくいのか?

湿疹、皮膚炎群の病名は



1.原因によってよばれているもの(刺激性皮膚
炎、アレルギー性接触皮膚炎など)
2.病態生理から呼ばれているもの(アトピー性皮
膚炎など)
3.形態学的特徴によっているもの(貨幣状湿疹
など)
など命名基準がまちまちだから
5
湿疹の分類

外因性







刺激性接触皮膚炎
アレルギー性接触皮膚炎
光アレルギー性接触皮膚炎
湿疹性多形日光疹
感染性皮膚炎
白癬疹
外傷後湿疹

内因性












アトピー性皮膚炎
うっ滞性皮膚炎
脂漏性皮膚炎
皮脂欠乏性湿疹
貨幣状湿疹
自家感作性皮膚炎
慢性鱗屑性表皮性皮膚炎
単純性粃糠疹
手湿疹
若年性足蹠皮膚症
全身性疾患に伴う代謝性湿
疹
湿疹性薬疹
6
刺激性接触皮膚炎


定義: 外来性の化学物質、ほこり、繊維などが皮膚に接触
して刺激することによって引き起こされる、非アレルギー性機
序の皮膚の炎症反応。
病因: 従来、皮膚の最表層にある角層は角質細胞、汗と皮
脂によるクリームの形成、水分保持を行うアミノ酸、脂質に
よってバリアを形成しているが、このバリアが破壊されること
により、高分子のタンパク質分子が容易に皮膚内に侵入し、
角質細胞を刺激する。角質細胞はケモカイン、サイトカインを
産生、放出し、炎症細胞が局所に呼び寄せられる。皮膚に
特異的に浸潤するT細胞はインターフェロンガンマを放出し、
角質細胞のFas発現を促進する。角質細胞はFas-Lの刺激を
受けアポトーシスに陥り、さらに炎症反応が増大する
7
疫学



最近の傾向として、生活環境の清潔度が注目され
るに従い、入浴、洗髪回数の増加、生活用品での界
面活性剤の増加に伴って、皮膚のバリア機能障害
により刺激性接触皮膚炎患者が増えている。
多い職種:美容師、パン屋、菓子職人、食品加工、
肉屋、機械工、自動車修理工
原因薬剤: 合成洗剤、消毒剤、酸アルカリ化学物
質
8
刺激性接触皮膚炎
Baseball pitcher's friction dermatitis.
Inui S et al.Contact Dermatitis. 2002
日ハムにも在籍した某プロ野球ピッチャーの1例。
レガースにより投球時にこすれて湿疹化。
慢性湿疹の為自家感作性皮膚炎を起こし、
春季キャンプから脱落・・・・・
慢性的な機械的刺激により生じる。
9
アレルギー性接触皮膚炎

定義: 皮膚に侵入した単純化学物質がT細
胞を感作し、再度同じ単純化学物質が接触し
た際、接触した部位にT細胞を介する遅延型
過敏反応が起こり、湿疹反応として表現され
るもの
10
点眼薬による
アレルギー性
接触皮膚炎
特に眼周囲はアレルギー性
接触皮膚炎が原因であることが多い
点眼薬、化粧品(アイシャドーなど)、
洗顔料、花粉
11
金属アレルギー

発症機序

金属がイオン化され経皮吸収されたのち、体内
のタンパクと結合、ハプテンとなり抗原性を発揮
する。
イオン化されにくい金属(金、チタン)は
アレルギーを起こしにくい。
金属アレルギーの人には純金製品をお勧めします。
12
金属アレルギー

ニッケル


コバルト


ネックレス、イヤリング、ピアスなどの装飾品
クロム、タングステン、チタンなどの硬度、耐熱度を増すた
め、合金、メッキ、酸化剤として使用されたり、コバルトが
呈する青色を利用してガラス、煉瓦、陶磁器、印刷材料な
どのにも用いられ、これらの取扱者に皮膚炎を生じる
クロム

鋼に硬度を増すための合金、メッキ剤、腐食防止剤として
用いられたり製革剤、染色過程における媒染剤や染料と
して使用される。セメント皮膚炎を生じる。セメント工場従
業員などにみられる
13
アレルギー性接触皮膚炎における
細胞動態
感作
チャレンジ (惹起)
14
パッチテスト
48時間、72時間後に判定を行う
15
光アレルギー性接触皮膚炎


定義: 光アレルギー性物質(ハプテン)が、直接に
皮膚と接触して、そこに作用波長の光線が照射され
ることにより生じる遅延型の光アレルギー反応
病因: 皮膚に吸収されている化学物質が紫外線
(UVA)により化学変化を起こし、アレルゲン、または
ハプテンとして働くことにより抗原性を発揮する。
16

頻度、疫学: 正確な頻度は不明。感作物質
であるサリチルアニリドおよび類似殺菌剤の
使用が1970年代に禁止されて以来、発生頻
度は激減したが、現在、非ステロイド性外用
剤であるケトプロフェン、スプロフェン、ピロキ
シカムによる発生が増加している。
湿布を貼ると最低4週間は遮光を要する。
3か月は薬剤が皮膚に残留するという報告もある。
安易に露光部に湿布は貼らない!!
17
接触性皮膚炎診断の手順
18
松永佳世子, Medicina 2010
発症部位からアレルゲンを推定する
19
松永佳世子, Medicina 2010
うっ滞性皮膚炎

定義: 下肢、特に下腿中央より下1/3内側の
静脈性循環障害によって起こる病的状態で、
静脈瘤あるいは静脈血流のうっ滞や毛細血
管の障害による真皮浮腫、炎症性変化をみ
るものである。
20
病因


下肢では静脈の静水圧が高く、立位作業者、静脈
弁機能不全者などでは、下腿部を中心に静脈の潅
流不全のため毛細血管内圧亢進が起こり、そのた
め毛細血管の破裂をきたし微小出血と炎症を起こ
す(紫斑を混じた湿疹病変の形成)。慢性化すると
フィブリンの沈着や線維化などにより、毛細血管か
らの酸素や栄養の拡散が障害され、組織は虚血状
態になりやすくなり、脂肪組織を含めた皮膚全層の
炎症が慢性に持続し、表面の発赤、色素沈着、真
皮の硬化、脂肪組織の線維化や萎縮などが生じ、
そう痒や圧痛、潰瘍形成をきたす。
臨床症状: まず浮腫、皮膚炎症状、硬結、潰瘍の
順に皮膚変化が起こる。
21
治療



安静を保ち、血行障害を改善させることが最
も重要
1.静脈瘤の治療: 原因が下腿静脈瘤であ
り、深部静脈の閉塞がないことが確認された
場合には、積極的に高位結紮術を併用した
静脈瘤硬化療法を行う
2.保存的治療: 下肢の挙上、弾性ストッキ
ング、弾性包帯の着用、ステロイド剤の外用
22
脂漏性皮膚炎


定義: 脂漏部位(顔、頭、胸骨部、肩甲骨部)と間
擦部に多発する。鱗屑を伴う紅斑を主体とする湿疹
病変
病因:


1.感染説(癜風菌:マラセチア)
2.皮脂分泌異常説(皮脂の質的変化、皮脂排出と発汗
の平衡失調など)




皮脂中のトリグリセリドが皮膚常在菌によって分解され、分解産
物である遊離脂肪酸が皮膚に刺激を加えることによる
3.ビタミン代謝異常説(ビタミンB群)
4.環境因子(ストレス、神経学的異常)
5.他疾患との合併(ビタミンB2 欠乏症、糖尿病、高血圧
症、肝機能異常、ヒト免疫不全ウイルス感染など)
23



臨床症状: 乳児期と成人期によって臨床症状に差
がみられる
1.乳児期: 生後1ヶ月頃より被髪頭部は亀裂のあ
る痂皮が、前額、眉毛部には黄白色の痂皮の付着
する紅色丘疹が集簇する
2.成人期: 前頭部に鱗屑、眉毛部、鼻翼~鼻唇
溝、口囲、腋窩、上胸部、乳房下部、上背部、外陰
部などに鱗屑を伴った紅斑を認める。
24
脂漏性皮膚炎
25
治療
乳児では頭部の鱗屑が多く、痂皮が厚いこと
が多いため、亜鉛華軟膏をリント布に延ばし
て貼付し、オリーブ油を塗布して痂皮を除去
する。成人では、ステロイド外用とともに抗真
菌剤外用の効果が見られる。
26
皮脂欠乏性皮膚炎


定義: 皮脂の減少に起因して皮膚が乾燥した状態
を乾皮症、さらに炎症が加わって湿疹を呈したもの
を皮脂欠乏性皮膚炎という。
病因: 加齢に伴う皮脂(主成分はトリグリセリド)、
角質細胞間脂質(セラミド、脂肪酸)、角質細胞中に
存在する天然保湿因子の減少による角質の生理的
変化が、皮膚バリア機能や鱗屑機構に影響を与え、
ドライスキンを現出すると考えられる。ドライスキン
により痒みの閾値が下がる。また、それに伴う掻破
による皮膚バリア破壊が、多彩なアレルギー、非ア
レルギー反応を介して皮膚炎症反応を助長すると
考えられている。
27


疫学: 夏季より冬季の発症が3倍で、男性の
発症が女性の2倍以上であり、40歳代以降に
多発するという報告がある。
臨床症状: 好発部位は両下肢伸側であるが、
腰背部、上肢、手背、足背などにも見られる。
初期症状は皮膚の乾燥、粗雑化、粃糠疹で
あるが、掻破を繰り返すうちに炎症が惹起さ
れ、病変は湿疹化する。
28
治療


1.ライフスタイル
・部屋の乾燥を予防する(加湿器など)
2.スキンケア
・入浴時に石鹸・ボディーソープを控える。
・ナイロンたわしでこすらないようにする。
・保湿剤を使用
3.薬物療法
・湿疹化している場合はステロイド外用剤を使用する。
・かゆみが強い場合は抗アレルギー薬を内服する。
29
貨幣状湿疹


定義: 四肢伸側、体幹、腰部などに、散布性
に生じる類円形(貨幣状)局面となる湿疹であ
る。
病因: 発生機序は不明であるが、多くの場
合、皮脂欠乏状態、皮疹部における総菌量
の増加、皮膚以外の病巣感染、アトピー素因、
何らかの接触アレルギーが関与している可
能性がある。
30

臨床症状: ごく初期の個疹は漿液性丘疹な
いしは水疱であり、これらが急速に融合して
貨幣大の皮疹を形成する。この時期の皮疹
は暗赤色、出血性で痂皮に覆われている。そ
の後、この湿潤性皮疹は乾燥化し、鱗屑が目
立つと同時に中央から軽快、辺縁へと拡大す
る。片側下腿に初発することが多く、次第に
対側下腿、上肢、体幹へと拡大する。
31
自家感作性皮膚炎




定義: 原発巣とされる皮膚の局所性の強い炎症と
関連して、しばらくしてから細かい急性湿疹性の変
化が全身性に散布される病態
病因: 病因としてはっきりしたことはわかっていな
いが、原発巣から生じた表皮などの自己抗原が散
布されたことによる自己免疫が考えられている。
原発巣: 接触皮膚炎、貨幣状湿疹の頻度が高い
次に、アトピー性皮膚炎、膿皮症、熱傷潰
瘍、うっ滞性皮膚炎、足白鮮など
32



臨床症状: 難治性の原発巣であるそう痒を
伴う湿潤性病変が先行し、通常2~数週間で
散布疹が出現する。撒布疹は粟粒大から米
粒大までの漿液性丘疹ないし滲出性紅斑で
あり、強いそう痒を伴う。
原因:湿疹部位で産生される過剰なサイトカ
インや、炎症により生じた自己抗原が散布さ
れることが原因ではないかと考えらている。
治療: ステロイド外用、内服
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アトピー性皮膚炎
接触皮膚炎とは異なる“奇妙な”皮膚炎
しかし現代においては疾患概念として定着している。
・増悪・寛解を繰り返す
・瘙痒のある
・湿疹を主病変とする疾患
・患者の多くはアトピー素因を持つ.
アトピー素因
①患者本人あるいは家族に気管支喘息、
アレルギー性鼻炎、アレルギー性
結膜炎あるいはアトピー性皮膚炎の
いずれかあるいはその複数の疾患を
持っている
②IgE抗体を産生しやすい体質がある
しかしアトピー素因を持たないアトピーも多数存在する。
アトピー性皮膚炎の本質は?
ダニアレルギー?
遺伝子病?
食物アレルギー?
かゆみの異常?
高IgE血症?
皮膚のバリア機能異常?
Th2 disease?
サイトカイン・ケモカインの異常?
未だに不明!!
アトピー性皮膚炎は、
時期によって異なる
部位
アレルゲン
乳児期
小児期
青年・成人期
頬部
耳介
腹部
肘窩
膝窩
足関節
前額部
頚部
躯幹
食物抗原
ダニ・ハウスダスト・スギ
子どもと大人は別の疾患として扱う必要が
あるのではないか?
アトピー性皮膚炎の成因
皮膚のバリアー機能異常
・抗菌ペプチドの低下
・セラミドの低下
・フィラグリンの異常
免疫機能異常
・高IgE血症
・細胞性免疫の低下
なぜなら保湿剤中心で大半はコントロール可能!!
アトピーはバリア機能低下でも炎症でもいずれから
スタートしても同じ病態に行きつく。
皮膚のバリアー機能の低下
外来抗原の侵入
表皮角化細胞の損傷
表皮内の細胞浸潤
皮膚における炎症の惹起
アトピー性皮膚炎の病態
・バリア機能異常
物理的バリア(角質・角層間脂質)
免疫学的バリア(抗菌ペプチド)
・高IgE血症
・食物アレルギー
・ダニアレルギー
・Th2 disease
・かゆみと掻破
バリアー異常とは?
皮膚のバリアーとは?
皮膚は角化細胞からなる表皮と膠原線維とそれをつくる
線維芽細胞、毛細血管を主とする真皮によって構成されている。
コレステロール
セラミド等を含む
わずか数mmの皮膚で外界と完全に遮断している。
皮膚のバリアーを構成する要因
物理的バリアー
角層間脂質(セラミドなど)
角層
免疫学的バリアー
抗菌ペプチド
炎症性サイトカイン
角層はレンガ塀と同じ構造を持つ
レンガ・・・フィラグリンにより凝集したケラチン塊
セメント・・・セラミド、コレステロール、遊離脂肪酸等の角質細胞間脂質
レンガ、セメントいずれかがもろい、足りないと塀は崩れる!!
セラミドとは?
スフィンゴ脂質の一種。皮膚の角層間に多く含まれる
セラミド量
40
30
20
10
0
健常人
AD正常部
AD皮疹部
Imokawa G JID 1991
アトピー性皮膚炎の患者では正常部においても
角層中のセラミド量が低下している。
バリア障害に関わる遺伝素因
アトピー性皮膚炎に尋常性魚鱗癬の合併が
見られることが知られていた。
 尋常性魚鱗癬の原因遺伝子フィラグリンが同
定された。

近年重症のアトピー性皮膚炎患者において
フィラグリン遺伝子の変異が見つかっている。
フィラグリンが短くなることでケラチン重合の弱化、
分解産物である天然保湿因子の減少
この発見によりバリア機能異常でアトピー
性皮膚炎が起こることが証明された。
抗菌ペプチド
・生体が作る抗菌物質。白血球はもちろん
皮膚角化細胞など上皮細胞が産生する。
・約20-30アミノ酸からなり陽イオン性である。
(細菌細胞膜は陰性)
・細菌内にとりこまれ抗菌作用を持つ。
耐性菌の報告はない。
抗菌ペプチドであるcathelicidinをKOしたマウスでは
A群溶連菌接種により潰瘍を形成する。
抗菌ペプチドは皮膚の
バリアを維持するのに
重要である。
Nizet V,Nature. 2001
アトピー性皮膚炎患者ではdefensin、
cathelithidinの量が減っている
Ong PY,N Engl J Med. 2002
皮膚の免疫学的バリア
皮膚には本来細菌に対する防御機構が備わっている。
→でなければ1日、2日で腐ってしまう。
洗うことにより細菌だけでなく抗菌物質も洗い流してしまう。
→これって本当にきれい?
もともときれいなのに洗うことで余計に
細菌が繁殖しやすい環境を作ってしまう。
高IgE血症
・アトピー性皮膚炎では総IgEが高値を示すことが多い。
(~数万IU:正常は170IU以下)
・ダニ、ハウスダストがほとんどの症例で高値を示す。
・スギ花粉、カビ類で高値を示す症例がしばしば見られる。
しかし重症度、症状とは相関しない!!
増悪因子の参考として使用
なぜIgEが産生されるのか?
B細胞の抗体産生は抗原提示により特異的抗体を産生する。
最初はIgM⇒IgG⇒IgE
経過とともに産生される抗体タイプが変わっていく。これをクラススイッチと呼ぶ
持続的に抗原暴露を受けることで最終的にIgEは行きつく。
なぜか?
IgGでは対応できない抗原、つまり
疥癬などの寄生虫に対する免疫だから
局所でかゆみを起こして引っ掻きだすために
生まれた防御システム
ダニアレルギー
アトピー性皮膚炎動物モデル:NC/Ngaマウス
幼少時は症状が出ないが青年期以降に全身に湿疹病変が
できるとともにダニに対するIgEが上昇する。
しかしダニのいないクリーンな環境下では無症状
ダニアレルギーが本質か??
人でもダニフリーの環境でアトピーが改善することが知られている。
成人型アトピー性皮膚炎とよく似ているため
アトピー性皮膚炎のモデルとして使用
食物アレルギー
小児アトピーで問題になる。→大人では考えなくてよい。




詳細な問診あるいは誘発テストで実際の
アレルゲン食品を同定する
(抗原特異 IgE検査や皮膚テストを参考に)
誘発テストで証明された食品は制限する
多くの場合2歳までに自然緩解する
卵、牛乳、小麦、大豆が多い
Th2 disease
アトピー性皮膚炎患者ではツベルクリン反応が減弱することを発見
アトピー性皮膚炎では細胞性免疫が落ちている。
CD4(+)細胞にはTh1、Th2、Th13、RegulatoryTcellがある。
古典的にはHelper TcellとしてTh1、Th2が知られている。
Th1・・・細胞性免疫を誘導
Th2・・・液性免疫を誘導
アトピー性皮膚炎ではTh2がTh1よりも優位である。
・細胞性免疫が落ちている→カポジ水痘様発疹症を起こしやすい
・液性免疫が優位である→IgEが高値になりやすい
かゆみと掻破
NGFの関与
アトピー性皮膚炎は遺伝性の病気か?
大半はNO!!
・昔(数10年前)に比べアトピー性皮膚炎が増えている。
→数10年前と現在で遺伝子が大幅に異なる可能性は低い。
遺伝性なら有病率に変化はないはず。
生活環境の変化によるところが大きい
生活の「近代化」とアトピー性皮膚炎の増加
・この30年、全世界でアトピー性皮膚炎は増加傾向
・先進国での増加を、発展途上国が追う形
↓
生活の近代化が、アトピー性皮膚炎の増加と関連
その理由は?
A. より清潔になったため、アレルギーを発症しやすくなっている
B. アレルゲンが増加している
(C. その他の理由)
58/87
衛生仮説(hygiene hypothesis)
1989年 Strachan(イギリス)により提唱
兄弟姉妹の数が多いほど(また下の子ほど)枯草熱とアトピー性皮膚炎の
有病率が低い
→ 「雑な環境で育てた方が、アレルギー性疾患にかかりにくいのではないか」
→ 「清潔な環境は、アレルギー性疾患を誘発するのではないか」
これを支持するデータ
・近代化に伴って、いずれのアレルギー性疾患も増加傾向にある
・先進国は発展途上国よりアレルギー性疾患の有病率が高い
・アレルギーの多くはIgEが関与しているが、IgEは寄生虫に対する免疫
機構を担っている
・腸内寄生虫の感染者が多い国ではアレルギー性疾患の有病率が低い
・乳幼児期におけるエンドトキシンの曝露量が多いほど、以後の花粉症や
ぜんそくの発症率が低い(2007ドイツ等)
59/87
衛生仮説への反論
2005年 エチオピアにて
都会の方が田舎より喘息の有病率が3倍高い一方、田舎の方が都会より
ヒョウヒダニのプリックテストの陽性率が3倍も高かった(12800人)
→ 少なくともヒョウヒダニに対する感作は、都会の方がされにくい
2006年 エクアドルにて
1年間寄生虫駆除薬を投与した群としない群で、1年後のアトピー性皮膚炎
の発症率に差はなかった(児童2300人)
→ 寄生虫の有無は、発症の要因ではなさそうだ
・アトピー性皮膚炎患者の大部分は、ヒョウヒダニ特異的なIgEを持っている
=ヒョウヒダニに強く暴露されたことがある
・締め切った住居ほど、ヒョウヒダニの数が多い
60/87
発展途上国で少ないのはなぜ?
仮説:生活習慣によりバリア機能が損なわれているのではないか?
目的:アトピー性皮膚炎と環境因子との関連について明らかにする
ために調査した。現在のチベットや江蘇省の生活水準がそれ
ぞれかつての日本の戦後(1950年頃)、高度成長期時代
(1970年頃)に似通っている点に着目し、チベット・江蘇省・
日本で調査を行ない、3者で比較検討を試みた。
方法:中国チベット自治区ラサ市68名、江蘇省宜興市67名、兵庫県
西宮市99名の小学1年生を対象に皮膚科検診を行い、その
際に経皮水分蒸散量(TEWL)、角質水分量(capacitance)を
測定した.またラサ市、宜興市、大阪府大阪市の中学1年生
を対象に入浴回数についてのアンケート調査を行った。
皮膚の物理的バリアー機能を評価する方法
経皮水分蒸散量(TEWL)
表皮から角層を通過して蒸散する水分量。角質バリアが
壊れると水蒸気を角質でブロックできないため高値となる。
角質水分量
角層内に閉じこめられている水分量。肌が乾燥してくると
水分量は低値を示す。
アトピー性皮膚炎患者ではTEWLが上昇している。
アトピー性皮膚炎では皮膚の
バリアー機能が低下している
Lee CH, Br J Dermatol. 2006
小学生の経皮水分蒸散量
TEWL
(l/m3/hr)
12
*
*
10
8
6
4
2
ANOVA,Tukey * p < .05
0
Lhasa
Yixing
チベット 中国
Nishinomiya
日本
Lhasa n=68, Yixing n=66, Nishinomiya
n=94
澄川靖之 他 アレルギー, 2007
小学生のアトピー性皮膚炎有症率
チベット 中国
アトピー性皮膚炎 0/69
有症率
(0%)
2/76
日本
4/94
(2.6%) (4.3%)
澄川靖之 他 アレルギー, 2007
中学1年生の入浴回数と石鹸使用回数
チベット
中国
日本
(n=175)
(n=129)
(n=143)
2.2/month
6.4/week
7.7/week
石鹸使用回数 2.1/month
5.6/week
7.3/week
入浴回数
澄川靖之 他 アレルギー, 2007
結 果
・アトピー性皮膚炎の有症率は、チベット0%、
中国2.63%、日本4.26%であった。
・TEWLは日本が中国・チベットに比し有意に
高かった。
・入浴回数はチベットで月2.2回と日本・中国
に比べ少なかった.
チベット・日本の比較から推測される因子
①ダニがほとんど成育できない。
→ダニアレルギーがアトピー性皮膚炎の本態?
②工場がほとんどなく、車も少ない。
→化学物質、煤煙による免疫の撹乱が影響?
③入浴回数、石鹸の使用頻度が少ない。
→皮膚のバリアー機能障害が原因?
④食事が伝統食である。
→幼少時に食物アレルギーを起こさないことが重要?
今後の調査で興味深い点
・本調査の後チベットと中国中心部は鉄道で結ばれ、物流が大幅に変化し、
中国においても経済発展が著しい。
もし日本と同等まで有症率が増えるようであれば遺伝的バックグラウンド
よりも環境因子が発症に重要であるということになるのではないか?
・チベットでは湿度が非常に低いためダニが生育できない
チベットでアトピー性皮膚炎が多数見られるようであれば、
ダニは発症にあまり関係がないのではないか?
結 論
TEWLの増加に従いアトピー有症率が増加する
傾向が見られた。生活習慣・環境の変化により
アトピー性皮膚炎の有症率や皮膚のバリア機能
がどう影響を受けるか今後も調査を行っていく必
要があると考えられた。
これまでをまとめると
掻破行動
皮膚のバリア機能低下
そう痒の増加
・セラミド減少
・フィラグリン遺伝子異常
・抗菌ペプチド減少
・洗浄等物理的破壊
透過性亢進
・神経終末の表皮内侵入
・神経伝達物質
(サブスタンスP)の増加
・ヒスタミン遊離の増加
炎症細胞浸潤
による表皮破壊
NGFの放出
肥満細胞の活性化
IgEへのクラススイッチ
抗原暴露量の増加
・角層を透過する抗原量の増加
・ダニ抗原の増加(気密性増加)
炎症の誘発
・IgEの増加
・Th2へのシフト
・サイトカイン・ケモカイン産生
したがって
皮膚のバリア機能低下
抗原暴露量の増加
そう痒の増加
炎症の誘発
この4要素を取り除けばアトピーは治る!!
対策 その1
皮膚のバリア機能低下
・保湿剤の使用
・洗浄力の弱い石鹸を使用、
または石鹸類の使用を中止
・ナイロンタワシの禁止
とにかく洗わないようにして保湿剤を塗る!!
対策 その2
抗原暴露量の増加
・室内のダニ抗原量を減らす。
防ダニグッズ使用や部屋を除湿する。
湿度60%で活動性低下、50%で死滅する。
ダニ抗原は糞に含まれるので活動性が低下
するだけでも抗原量を減らすことができる。
・スギ花粉に対してはメガネ・マスク着用
対策 その3
そう痒の増加
・抗ヒスタミン薬、抗アレルギー薬の内服
かゆみを軽減させて掻破を減少させる
・掻破を予防する
嗜癖的掻破行動の予防・・・蚊に刺されたところをかくと気持ちいい!!
・かゆみ日誌などで自覚を促す。
・精神安定剤・抗うつ剤やカウンセリングによる
心身医学的アプローチによる治療
掻破予防グッズの使用・・・乳児期のミトン手袋
対策 その4
炎症の誘発
抗炎症薬の使用!!
・ステロイド外用薬外用
・タクロリムス(FK506)軟膏外用
・シクロスポリン内服
(・ステロイド内服)
ステロイド外用薬
クラス
主な製品
Ⅰ
Ⅱ
ストロンゲスト
ベリーストロング
デルモベート,ダイアコート
フルメタ,アンテベート
マイザー,トプシム
Ⅲ
ストロング
Ⅳ
マイルド
Ⅴ
ウイーク
リンデロン,プロパデルム
メサデルム,エクラー
ロコイド,アルメタ
リドメックス,キンダベート
コルテス
ステロイド外用剤の全身的副作用
ストロンゲスト
10g/日
ベタメタゾン(0.5mg) 1~2錠
健常人の副腎が1日に分泌
するグルココルチコイド
適切に使用すれば問題を生じない!!
1か月で50g程度のステロイド外用でも
全身に影響をおよぼすことはほぼない。
ステロイド外用剤の局所的副作用
 皮膚萎縮
 多毛
 毛細血管拡張
 痤瘡
 ステロイド紫斑
 酒さ様皮膚炎
 ステロイド潮紅
 口囲皮膚炎
 皮膚萎縮線条
 乾皮症
 感染症
脱ステロイド療法
ステロイドの使用によりアトピー性皮膚炎が悪くなっているという考え方
・ステロイドは悪の薬でやめれば治る!?
・ステロイド依存症になってやめられなくなっている
→麻薬と同じだ!!
背景:ステロイドの不適切使用(多量に使用、感染症等)により
悪化した患者も少なからずいる現実がある。
近年アトピー性皮膚炎のガイドラインが出されることでステロイド外用薬使用の
適正化が図られ、免疫抑制剤が使用できるようになることで下火に
副作用がでれば中止・減量は当たり前!!治療法ではない!!
ステロイド外用薬は劇薬である。
使用に対しては、患者に
どこに、どれだけ、いつまで
外用するかはっきり指導する必要がある
どこに
どれだけ
いつまで
炎症のある部位=かゆみのある部位
外用量の目安:1 finger tip unit(1FTU)で手のひら2枚分
炎症がなくなるまで=かゆみがなくなるまで
ステロイド外用薬を保湿剤代わりに使用するのはやめるべきである。
適切な外用量とは?
1FTU(1finger tip unit)≒0.5g
手のひら2枚分に伸ばして塗る
掌1枚≒体表面積の1%なので、5gチューブ1本で20%の面積が塗布できる。
従って20%程度皮疹であれば2週間で14本必要!
60%であれば1週間分でも21本必要
⇒現実的には入院による治療を
タクロリムス軟膏
 免疫抑制剤の外用薬
 strongクラスのステロイドと同等の
抗炎症作用
副作用:皮膚刺激感・皮膚感染症
ステロイド外用薬の副作用である
皮膚萎縮、毛細血管拡張がない!!
この薬の出現によりいわゆる“赤ら顔”が大幅に減少した
シクロスポリン内服薬
 免疫抑制剤の内服薬
 外用では効きにくい痒疹結節やそう痒
に著明な効果
副作用:皮膚感染症、腎障害、血圧上昇
最大の欠点は費用が高いこと!!(月1万数千円の自己負担)
この薬の出現により重症アトピーが大幅に減少した
Itch-Scratch Cycle
Itch:かゆい
Scratch:掻く
かゆいから掻く、掻くからかゆい。
この悪循環を止めることが必要
アトピー性皮膚炎にたいする治療
バリア破たんに対して
・石鹸、タオル、ナイロンたわしを使用しない
→とにかく洗わない!!
洗うことで抗菌ペプチドも洗い流してしまう。
・保湿剤の使用
炎症に対して
ステロイド、タクロリムス外用、
シクロスポリン等内服
まとめ
湿疹・皮膚炎は病因や性状でいろいろ呼び名がある。
刺激皮膚炎・・・機械的・化学的な刺激による炎症
刺激皮膚炎、日光皮膚炎、肛囲皮膚炎など
接触皮膚炎・・・抗原提示細胞に認識される抗原により引き起こされる炎症
接触皮膚炎、光接触皮膚炎、金属アレルギー(遅延型)など
皮脂欠乏性皮膚炎・・・皮脂の欠乏によるバリア機能低下が原因となる炎症
皮脂欠乏性皮膚炎、貨幣状湿疹、アトピー性皮膚炎など
脂漏性皮膚炎・・・カビに対するアレルギーで起こる炎症
うっ帯性皮膚炎・・・鬱滞による血管破たんによる炎症
上記に併発して
自家感作性皮膚炎・・・全身に撒布疹が誘発され起こる炎症
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