WSPEEDIの改良 ~チェルノブイル事故への適用~

第2回「アジアにおけるメソスケール擾乱の多様性」研究集会
2005/01/21 京都大学防災研究所
広域原子力事故時の大気拡散予測
モデルMM5/GEARNの
チェルノブイリ事故シミュレーションに
よる検証
日本原子力研究所
環境科学研究部 大気環境研究グループ
寺田宏明 ・ 茅野政道
本研究の背景
■原子力発電所や再処理施設等での事故および核テロなどによる
放射性物質の大気放出の危険性
アジア域での原子力利用の発展、世界情勢の緊迫などにより増大
■事故直後・・・大気拡散モデルによる実時間汚染予測シミュレーションが有用
■緊急時後期の長期的な環境影響評価・・・地表沈着量が重要となる
沈着した放射性物質による外部被ばく
汚染食物の経口摂取による内部被ばく
従来の広域原子力事故対応モデル
質量保存風速場モデル
(WSYNOP)
問題点
+
粒子拡散モデル
(GEARN)
診断型モデル
■入力気象データより高解像度な気象場の予測が不可能
■大気境界層内での拡散、降雨沈着の詳細な考慮が不可能
目的
■非静力学気象モデルMM5と粒子拡散モデルGEARNによる広域原子力事故時の放射能
大気拡散予測モデルの開発
■チェルノブイリ事故時の137Csの大気中濃度および沈着量によるモデルの予測性能の検証
計算モデルの概要
入力気象データ
初期値・境界条件
標高
土地利用
海面温度
気象モデル(MM5)
■3次元非静力学モデル
■大気力学方程式に
基づく気象場の予測
■4次元同化
■ネスティング計算
風速、気温、湿度
降水量等
放出条件
核種組成データ
核種物理データ
粒子拡散モデル(GEARN)
■原研にて開発された3次元ランダム
風速、鉛直拡散係数
ウォーク法粒子拡散モデル
降水量、雲量
■放射性物質を模擬した多数の粒子
水蒸気、雲水、雲氷、
の位置をラグランジュ的に追跡して
雨、雪、あられの混合比
大気拡散計算を行う
大気中濃度、地表面沈着量
空気吸収線量率
外部および内部被曝線量
チェルノブイリ事故シミュレーションによる検証
ー1986年4月26日未明に旧ソ連ウクライナ共和国のチェルノブイリ原子力発電所にて爆発事故が発生
ー破壊された原子炉内から大量の放射性物質(セシウム137、ヨウ素131等 )が大気中に放出された
■計算条件
広域(ヨーロッパ全域)と狭域(チェルノブイリ周辺)でのネスティング計算
計算期間 : 1986年4月25日12UTC~5月11日 00UTC
水平格子数
水平格子間隔
鉛直格子
時間ステップ
MM5境界値入力間隔
GEARN気象場入力間隔
広域 (Domain1)
狭域 (Domain2)
200×200
172×172
30km
10km
MM5 :23層(トップ100hPa)
GEARN:20層(トップ7500m, 最下層幅100m)
MM5:90s / GEARN:120s
MM5:30s / GEARN:120s
6h
3h
3h
1h
MM5の物理オプション
積雲パラメタリゼーション:Grell
境界層:MRF-PBL
大気放射:Cloud radiation scheme
雲物理スキーム:Goddard
地表面温度:Five-layer soil model
4次元同化:grid nudging(広域のみ)
入力気象データ:ECMWF再解析データ (ERA-15)
1.125゚×1.125゚メッシュ, 6時間間隔(00, 06, 12, 18 UTC)
まとめ
■MM5を導入した広域原子力事故時の大気拡散予測モデルを開発し、
チェルノブイリ原子力事故への適用により予測性能の評価を行った。
■気象場および拡散計算のネスティングにより、放出点周辺の詳細な
沈着量分布を広域と同時に高精度に計算することが可能となった。
■氷相過程を考慮しない雲物理スキームは降水量を過小評価する傾向あり。
氷相を含むスキーム間での違いについては別ケースでの比較が必要。
■MM5のネスティング法(1-way/2-way)が沈着量予測に与える影響は大きく、
さらなる解析が必要。
■放出高度、放出量などの放出条件の検討も必要。